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一匹狼は月を識る  作者: 小春凪 水花
第0幕「君は誰?」
4/10

EP0-3「覚悟と脱走」

空白や改行が多めで少し長い話となっております。

部屋の隅から押し殺した悲鳴が聞こえる

すぐ隣から乾いた笑いが聞こえる

音にならない声が聞こえる

どこから?

あたまがまわらない

視界がグラグラと揺れて、踏み締めている筈の床がとってもちっぽけで頼りないものに思えた。

ゆらゆら揺れて、ぺたんと尻餅を付けば服に染み込むのは赤黒い液体。

彼女を構成する一部。

初めての友人、それしかないもの、かけがえのないもの、たからもの。

全部、消えてしまった。


「はははは、『人生の特性を決定するのは、日常の小さな事柄であって、偉大な行動ではない。』だったか?その通りだな!今まで何にも興味を示さなかったお前がたった一人の女でこうも変わるとは!情でも抱いたか!?様子がおかしいと思って急いできてみりゃ面白え事になってるな!これでようやくお前も終わりだよ!!ずっと興味があったんだよな、ここで育ってきたお前がどんな終わりを迎えるのかをさ!!

...ま、そういう訳だからまずこいつの死体を解体(バラす)しねえとな。数時間の余命を楽しんでおけよ。」


な、にが

おわり?死...え?



あ...

確かに全て聞こえている。理解できている。

でも頭でそれを処理事ができなくて、ただ怯えた目で見つめるだけになってしまっていた。

怖がっている?恐れている?これは恐怖?

ただ目の前に現れた終着点がただとてつもなく薄暗いモノに見えて、もう動けない。

前までの前までの威勢はどうした?とばかりにこちらを薄く見つめる男の顔が、どうにも恐ろしくて歯が噛み合わずガチガチと鳴り瞳からは冷たい涙が流れる。

いやだ、死にたくない。

そんな声に出ない、しかし心の内を占め続ける感情は口よりも動きに出る。

立てない足に代わりに腕をはいはいの体で動かし、尻もちの体制のまま逃げ続け壁にぶつかる。

それでも男はこちらを観察するのはやめない。


壁を叩く


何も起こらない


壁を爪を立てる


力を入れすぎるあまり血が滲む


壁に縋り付き泣き喚く


ため息が聞こえる。


「...つまらねえな。案外、こんなもんか。」


そこから読み取れるのは落胆の感情だ。

きっとこの実験体462番は特別で、もっと特別な死に様を期待していたんだろう。死に様は笑顔で?この施設に抗って?それとも老衰か廃棄処分が降るその日まで無感情な人形のような態度を貫けるとでも?きっと特別を期待していたし、きっとそうなるとも462番ですら思っていた。

でも、ここにいるのはただの人間だ。

少し表現が苦手で死に怯えて情けなく部屋の隅で震える人間。

急に、ちっぽけな存在だな...なんて、考えた。

男もそうだったのだろう。

興味をなくしたかのように、彼女の死体を運ぶ為に応援を呼び、こちらを見向く事はもうなかった。

残された少女はただ一人、啜り泣く。



■■■



...今、何分経ったんだろう。

......あと、どれくらいで死ぬんだろう。

.........なんでこんなところに居るんだろう。

............そうだ、きっと物心ついた時からここで育ったからなんだろう。

...............でも今同じ空間に居る人たちは外にいたんだろう。彼女もそうだった筈だ。

..................外ってなんだろう

.....................世界って、本当にこの空間なの?

........................まだ、手料理、食べてない

...........................生きていたい!

..............................こんな所で死にたくない!!

.................................だってまだ何もしてないんだ!!!ただ生きて喜ぶ事も!!!!悲しむ事も!!!!!美味しいモノだって食べたい、もっと世界を好きになりたい、もっと彼女の事を知りたかった!

そして何より、まだ462番の事も何も知らないじゃないか!!

ただ施設で生まれて死ぬなんて小さな物語じゃない、どんなに惨めでも良い、ただ生きる、どんな手を使ってでも...

そうだろう、私。

そうだろう、俺。

そうだろう、僕!

僕は、僕はまだ死ねないんだっ!!

そう、死にたくないから策を練ろう。大丈夫、まだ時間はある。多くを巻き込めれば、奴等が油断しているなら、僕が普通じゃないなら、僕にその覚悟があるならやれる、やってやるさ、自由になる為に僕は生まれてきたんだから。

さあ、覚悟を決めろ、462番。...やるんだ。



■■■



僕が覚悟を決めてほどなく、奴は現れた。

第一関門、突破

最初に首元のチョーカーを通じて気絶させられていたら終わりだった、でも、賭けは僕の勝ちだね。

だって君達は反応だって楽しんでるんだ、折角僕の鉄仮面を剥がしたのになんの反応もないまま殺すなんて味気ない、そうだろう?

今だって、とっても油断して、ほら近付いてきた。


「よう、調子はどうだい?覚悟はもうついたのか?さっきまで泣き喚いてたのが演技だと思うほど静かだな〜?もう疲れたか?」


もう、耳に入ってくる嘲笑を含んだ声すら耳に入ってこない。

ゆっくりと腰から拳銃を抜き突き付ける君は一体どんな気持ちなんだろう、僕はわからない。

知りたい。だから生きる。学ぶ為に。


「おいおい、だんまりか?反応がないと面白くないんだよなぁ...せめてお喋りくらいしようぜ?お前の事ちょっとでも覚えておきたいんだよ。」

「...ない」

「は?なんて?」


聞こえてないんだろうな、...じゃあどうする?少しでも耳を澄まし近付いてくる。

から!そこを絞め落とす!!!


「僕から話す事なんて、ないと言ったんだっ!!」

「なっ、おまえまさか!!」


案の定油断していた彼は伸ばした腕と首に腕を巻きつけられた。

この枯れ枝のような細い腕でも、人体の構造上殺せない事はないんだ!!!

締める、ただキツく、呼吸器官を塞ぎ脳へ酸素が行き渡らないように、早く、早く落ちろ!!

同じ部屋にいた奴等が俄かに騒ぎ出した!もう時間がない、他の研究者に異変を察知された時点で詰みなんだ!はやくしてくれ!!!


「...か、はッ、く、ぐ........あm、お、あ、え...」

「こっちも必死なんだよ、死ぬ気でやってるんだ、お互い命を賭けてるんだよ!!!早く死ね!そうでなくとも気絶しろ!!」

「..........殺す」


そう言い残し、目の向きがおかしな方向へと曲がる。

...手強かった。最後の最後まで暴れられたし、抜けられるかと思った。

まだ何も始まってないというのに、笑いが込み上げてくる。

初めて勝ったんだ、僕は。この人生に。

まだだろう、僕はこんな所で死ぬ訳にはいかない。

ゆっくりと彼の手から拳銃を奪い取り頭にしっかりと打ち込む。

乾いた音と共に床に新しい染みが出来る。もう僕には関係ない事だ。


「...知人、友人、恋人、家族...それを最もお前が苦しむ方法で殺してやる、ね。」


最後の最後、唇の動きでしか読み取れなかったが確かにそう言っていた。

望む所さ。

だからまずは目先の戦いに勝たないとな。

そうして首元にまだ煙を上げる自動拳銃を向ける。...大丈夫、しっかり狙え...そして破壊しろ!!!

...ゴトン、と重い音が響き微かに赤が飛び散る。



成功だ。

これで、遠隔で気絶させられる可能性も無くなった。

あとは、哀れな肉人形達を巻き込んで施設を混乱に陥れる。

他の奴等が幾ら逃げ出すのに失敗しようと、斃れようと知るものか。

愚かな肉共は電流で即座に鎮圧させられるだろう、それで良い。実験体達が全員倒れるまではタイムラグがある、研究者も一度大人数を鎮圧させれば気も緩むだろう。

だから、さあ、一歩を踏み出そう。あと背中に背負わなければならないのは勇気だけなんだから!



■■■



踏み出し、走る、駆ける、撃つ。

扉のロックを撃ち、飛び出してくる白衣の人間を撃ち抜き、逃げ続ける。

もう何人の悲鳴が聞こえてきたかわからない。

今、僕はどこを走っているんだ?逃げ出す為の通路が見つからない、外はどこなんだろう、逃げられないのかな...

弱気が体を支配し、萎える膝を奮い立たせ走り続ける。

大半の肉盾はもう鎮圧された、残っている数はかなり少ない!もう時間がないっていうのに...!!

そうして駆け回り、見つけた、見つけてしまった。

彼女を。

...綺麗だった、目を奪われた。そう言えば顔をしっかり見ていなかったよね、涙で滲んだ視界じゃ、怒りで震える視界じゃあ君のことなんて見えないのに。

...そしてそんな所で足を止めたら、そりゃあ見逃してくれるはずないじゃないか。

轟音と共に滴る赤、足の力が抜ける、熱い熱い熱い熱いあつい!!!!!いた、いたやだ、足撃たれて!!!い、いだいっ、いたいよ!やだ!!

でもここで諦められない、諦められないんだ!!まだ動きを止めるな!!


「あああああああああああああ!!!!!!!」

半狂乱になりながらヤケクソで撃ち続ける、追ってきたのは...2人、撃つ、倒れる。

肩を撃たれる、こちらも撃つ、相手が倒れる。それでも撃つ、撃つ、撃つ、撃ち続ける。

...弾が切れてから、数秒の後ようやく僕は正気を取り戻した。

あ、ああ。どう、しよう...

武器はもう無い、脱出口はどこにもない、肩も足ももうまともに動かせない。

これが、絶望...

頬を濡らして、ただ嗚咽を漏らす。なんで、どうしてこんな目に...だって、僕は...ああ、寒い。

眠い...体の節々が暑くて、痛いのに、だから、もうどうしようも....



さむい?

いや、違う、冷たいだ

何が?

顔が、...風、が...

視線を動かした先には人が通れそうな通気口があった。

そうだ、密閉空間な訳ないじゃないか。人間は酸素がないと生きれないのに。

...こんな所に、あったんだね。

ねえ、一緒に行こうよ、僕達はもう自由なんだからさ。

ほら、お嬢様、僕の手を掴んで?

疲れたの?仕方ないなぁ...僕が背負っていってあげる。大丈夫、もう怖くないよ。

貸し1だからね。手料理しっかり作ってよね。

ごめんね、このダクトはちょっと二人で進むには狭いよね、あともう少しだから、待っててね。

えへへ、僕、これからの事が楽しみなんだ、君の友達も紹介してね。好きなお菓子も教えて。一緒に食べて、笑って泣こう、君の...全部が知りたいな。

ああ、光だ。...外だ。
































まっしろい、そとだね

これ、ゆき...っていうんだっけ。

つめたくて、きれいってきいたんだ。

ほんとうに、ほんとうに

...なんて残酷で、綺麗なんだ。

体が冷えていく。

それでも進む、逃げる為に。

あの施設から離れる為に、生きる為に。

足を引きずり、もう動かない腕を必死に振り、逃げて、逃げて、先は見えなくて...

足が、滑って...

白い地面に、人が転がり、跡が残った。

彼女が僕の背中から離れていく。

...ああ、やだなあ、離れたくないなあ。...もう、どうでもいいや。

少し疲れたから、一眠りしたらまた歩こうかな。...ごめん、ごめんね。料理、食べられなかったね。

転げこむように、雪の中に倒れ込んで彼女の元まで這って進む。

ずりずりと肌や病衣に纏わり付く雪はとても不快で言い表しようもない無駄な物に感じられた。

もう力は入らないが、最後の力を振り絞り彼女の元まで進んだ。


ああ、握った手は冷たいけれど、それでも好きだから、一緒に居たかったから。

幾ら寒くても、体が冷え込んでいても

それでも君にもらったこの暖かさは、永遠に僕の心の中に

ずっと、ある...か、らさ。

もう、ねむ  い、ね


『いずれ腐り果て、養分にされ、何も残らない。でも確かに彼女が作った緋の軌跡はそこに在あるんだ。』

繋いだ手も、永遠に。

もう離さないからね。

次回EP0-4にて第0章は完結となります。

今の今まで一人称を意図的に抜いていたので読み難い部分もあったでしょう、本当に申し訳ございません!

それでも462番の今後を見たい方は是非ブックマークやリアクション...感想やレビューを頂けると作者が泣いて喜びます。

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