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一匹狼は月を識る  作者: 小春凪 水花
第一章「君と僕」
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EP5「真価と進化」

扉から出た先は少し広めの庭だった。

頬を撫でる風が少し心地良い。天気も良く、ここで横になって暖かい雑草の布団に包まれるのも悪くはないけど、まあお互いにそんな空気感でない事だけは確かだ。

木剣、そう、真剣じゃないから殺傷能力は無いはず、無いはずなのに相対するテイルさんに圧倒的な存在感があるように思えてしまう。

...気を抜いていたら本当に殺されてしまいそうな。そう、研究所で命懸けの鬼ごっこをした時のようなヒリつきがある。それが何とも心地良くて...

ああ、駄目だ、口角が上がってしまう。


「おいおい、余裕そうだな。まるで獣みたいに獰猛な顔だ。」


鼻で笑って返す。

冗談半分、煽り半分だろう。生憎その程度で心を乱す程、僕は感情的でもないし。

そうして冷静に動きを確認できれば気付く事も多いね。

妙な動きだ、前に数ミリ動いたかと思えば後ろに下がったり...なるほど、誘っているのかな。

わざと隙を見せて攻撃してこいって事だろう。良いね、乗ってあげよう。

相手は武器持ちとは言え、人間だ。2人で攻めればどちらかの攻撃は受けざるを得ないだろうし。

...いやちょっと待て!狡いな!?こっちは戦闘の経験なんか殆どない2人、片方は非力な女の子なのに!

そんな考えを察したのかニヤニヤしながらテイルさんが告げてくる。


「まあ、試験だしな。それに冒険者の殆どは武器なんか買う金がないから最初は徒手空拳だぞ?ま、これも勉強だと思って諦めてくれ。それに、子供に負ける訳にはいかないからな。」

「「それが本音だろう(でしょ)!?」」


し、しまったなあ...思わず声が被ってしまった。

2人で面子を保つ為に躍起になっている大人を笑いながら作戦を決める。


「僕が攻めれば確実にこっちを警戒してくれる筈、どれだけ弱くても良いから殴り続けてね。」

「理解してはいるけど酷いよ!弱いって!」

「はいはい、悪かったよ。じゃあ、GOね!」

「えっ!?なんて!?」


地面を蹴り僕だけ突っ込む。

風を切りながら堂々と真正面に!

爪を立てながら左手で斜めに切り上げた攻撃を、テイルさんは難なく木剣で受け止める。

これは想定通り、そのまま爪を引っ掛け回転するように後ろに回り空いた右手で首元目掛けて突きを放つ。

はい、終わり。

テイルさん、悪いね。身体能力からして違うんだよ。急に視界から消えてパニックだろうねぇ。ざーんねん!



...残念な筈なんだけどなぁ...なんでこっち向いてるの?



視界が回る。



■■■



激痛と共に目が覚める。


「いッ...」


背中を強く打ち付けたようだ。

右手首も赤くなっており、多分掴まれて投げ飛ばされたのだろうと理解することができた。

ここで問題なのが、何故?だ。

どうやって、かは投げ飛ばされたで片付く。だがあの状況での反応が早すぎる。

僕より身体能力が高かったなら、あの森で窮地に陥る事などない筈。

最初の斬り上げだってそうだ。僕の左手に即座に反応はしていたんだ、だけれど受け止めた時の力も速度のそこまで早くなかった。

常に使えないなら、アレは時間制限があるか回数制限があるんだろう。

ならそれが使えなくなるまで攻め続けるのみ!


「頑丈だな。一応、気絶するつもりで投げ飛ばしたんだが...まあ獣人相手だからな、耐久力もあるのは羨ましい限りだよ。」

「はいはい、そりゃどーも。僕も驚いたよ、、あーんなに強いなら僕の助けなんかいらなかったんじゃないの?」

「まあ、あの時は魔力が切れて武器も無くなってたからな。」

「え?魔力?」

「え?」


あれが、そうなのかな...?あ、あれぇ...

惚けた様子の僕にセレナが恐る恐ると言った様子で話しかけてくる。

あの邪神が言ってた魔力って、具体的に何に使われるか聞いてないから知らないんだよ!!


「シルフちゃん...もしかしてそれも覚えてない?」

「ま、まあ...」

「えーとね、魔力って言うのは、人なら誰でも持っていて全身を巡っていたり、あたりにふわふわ漂っているんだよ。体に穴を空ける感覚...なのかな?体から魔力を出して体に纏わせる事で身体能力を上げたり、形を変える事で物を作ったり、投げたりできるの!」

「へぇ〜...じゃあアレが身体能力を強化したって事なのね。効果時間とか、回数制限は?」

「うーん、体に纏わせるのはこまめに纏って戻ってを繰り返したら少なくなるし...魔力の量も人によって違うから...」

「了解、じゃあ僕を超える速度と力でリーチの劣る相手を倒せって事だね。」


露骨に顔を顰めさせるセレナ。

僕も顰めたいよ。言ってて無理だと思ったもの。

それに、ここでは不利になるから黙ってるけど...もう右手は使えないだろう。

まだ動ける、背中の痛みはそれ程じゃない。右手は折れてはないけど無理に動かすと激痛が走る。

うーん、状況はかなり悪いよね。



『良いんじゃない?程々に力は見せたしさ、僕は頑張ったでしょう?まあ、セレナは確かに何もしていないしできていないから不合格かもね。でもそれも仕方ない事じゃない?それにさ、なんでムキになってんの?君は良かったんでしょ?不合格で』

...そうだね。

『こうさーん!腕痛いしね。それで良いでしょ?ほら、程々に生きようよ。欲張ると碌な事にならないよ〜?前だって、それで初めての友人かもしれない人が殺された!君のせいだよね。』

『ほら、言えよ。もうやめます、これで良いって。』

『ね?』『ね?』『ね?』『ね?』『ね?』『ね?』『ね?』『ね?』『ね?』『ね?』『ね?』『ね?』『ね?』『ね?』『ね?』『ね?』『ね?』『ね?』『ね?』『ね?』『ね?』『ね?』『ね?』『ね?』『ね?』『ね?』『ね?』

...そうだね、仕方ない。諦めるしか...ないね。別にこんな所でやる気出しても何にもならないし。


ならないけどさぁ!こんな所で逃げてどこに行っても逃げるつもり?僕ってそんな殊勝な人間じゃないよね!ああ、やってやるとも。ははっ。吹っ切れたよ。

僕は負けるのが嫌いだ!そして結構感情的で、やると決めた事は本気でやり切る人間だとも!!

勝ってやる。もう誰かに命令されるのも見下されるのもお断りさ!!

...今の、僕の声なのかな?発破かけにきたのか、弱音か。それは今からわかるさ。


「作戦決まり、僕がなんとかする。なーんて言えないからさ、ちょっと協力してよ。」

「作戦タイムか?」

「そうそう、時間取らせて悪いね〜。」

「構わねえぜ、ガキ共掛かってこいよ。」


時間は取れた。ああ、そんなに心配そうに見られると照れちゃうね。

あ、ちょっと待って、冗談だって、痛い痛い!ポカポカしないで!

大丈夫、...を狙って。コンビーネーションも知力も、採点基準の一因だと思わない?

これさえ守ってくれれば、この勝負は僕達の勝ちだ。


「...急に雰囲気変わったみたいだよ?どうしたの?」

「実はさっき諦めかけてたんだ。」

「えっ!ちょっと、私は!」

「まあ、聞いてよ。そこで気付いたんだよね。僕かなりしょうもない事にムキになるタイプかも。多分おやつの取り合いで手が出る。」

「こ、子供...」

「ま、そういう訳だから安心してよ。勝ちに行こう!僕について来なよ!」


手を下げたままの構えを取る。

右手が使えない事はバレているかもしれないな、でも確信はできない筈だ。

一度、深呼吸をする。

澄んだ空気だ、まるで自分が自然と一体化したような気もする。

ああ。溶けてしまいそうな程今気分が良い...周りの雑音も全てシャットアウトしろ。

ただ目の前の敵をお前は見続けるんだ。

意識を、ただ鋭く尖らせ続けろ...

深く、より鋭い、殺意を...



■■■



なんだ?一度吹き飛ばしてからシルフの嬢ちゃんの気配が変わった。

それに寒気もする。ビビってるのか?この俺が...

いや、待て!あの嬢ちゃんの身体から魔力が溢れ出してきた...!?

量も身体に纏っている事も驚くべき事だ、さっきまで知らなかったんだろう!?その筈だ!

...不味いな、普通は魔力が切れても気絶するだけだ。()()は。

ありゃあどう見ても暴走して垂れ流してやがる...気絶だけじゃあすまねえかもしれねえ。

後遺症が残るか、それとも血から爪、目やらを代償に動き続けるかもしれねえ。

あの嬢ちゃん達には未来がある。こんな所でそれを潰す訳にはいかねえ。試験中断だ、素早く鎮圧するか...


その瞬間、ソレはゆらりと倒れ、いや...倒れ込むように前のめりになって加速したのが見えた。

ゴンッ!っと、明らかに人間の手と木剣が当たった程度じゃ鳴らないような鈍い音が鳴る。

あ、あっぶねえ...かろうじて身体強化が間に合った。間に合わなかったらあの鋭い爪で目を潰されていただろう...やはり、こいつ正気を今失ってやがる!魔力も垂れ流しで限界を超えているからだろう、僅かに突き出した左手の小指が変な方向に折れ曲がってやがる...馬鹿じゃねえのかコイツ!?

そこに追い打ちをかけるように木片がパラパラと落ちるのが視界の端に見えた。

やっべえ!脆すぎだろ!これ無くなった時の嬢ちゃんの相手はどうやってすれば良いんだよ!

クソ、一旦受け流すしか...悪いな、シルフの嬢ちゃんちょっと眠ってくれ!

木剣で受け止めていた貫手を逸らし、そのまま片手で腹を殴りつけて...受け止められる!?

ウッソだろ!?右手はもう使えない筈じゃ、いや、痛覚が麻痺してやがんのか。

クソッ、このままじゃあ2人とも死んじまう!

鋭い左突きを躱せず、頬に切り傷ができるがあ、そんな事じゃあ満足しねえよな。

繰り返し放たれる爪撃を木剣で受け止め、何度も弾くが力負けして上から押さえつけられる形になる。右手は未だ握られたままだ...。何がしたい?本能のまま攻撃を仕掛けているんじゃないのか?

いや、暴走なんか、してねぇ...俺のこの体勢は...


「セレナっ!」


いやまだだ、まだ先輩として意地張らせてもらうぜ!



■■■



来た!シルフちゃんから作戦通り!

さっき言われた通り...本当に止めてくれた!

私に伝えられた作戦は二つ。後方で待機して、シルフちゃんが動きを止める事を信じる事。

止まったらテイルさんの剣を奪う事!出来なくても、シルフちゃんと互角の間は私に構っている暇なんかないから、無視するしかないでしょ!



ここで、3者に誤算があった。

まず、初めての身体強化の魔法により魔力がどの程度で切れるかわからない状態で、更に魔力を垂れ流していたのでシルフがもう息切れを起こしていた事。これがシルフの誤算。

次に、テイルがシルフを信用しすぎていた事。彼女ならまだ動けると思って剣を振り払って彼女の態勢を崩し攻撃を放った。魔力で強化した状態でだ。予想よりもシルフが弱っていた事が彼の誤算。

最後に、このままではシルフが大怪我を負ってしまう事を理解できてしまう程度にはセレナには魔力への理解と、それをどうにか出来る”力”がった事。そしてその力は、そんな緊急の心が乱れた状態で扱える程優しいものではなかった事。それがセレナの誤算。



木剣にシルフちゃんの腕が打ち払われ、無防備な体勢になった彼女が目に映る。

テイルさんは身体で魔力を強化している。

シルフちゃんはもう限界で動けない。息切れで防御も出来ない。

...当たりどころが悪かったら、死んでしまう。

...それは、それは2人にとって、わるいこと。


「だめっ!!!!!!!!!!!!!!」


直後、彼女の手からライターを点けた程度のほんの少しだけの火が射出され、今まさに振りかぶられようとしていた剣とシルフの間で弾けた。

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