第一話日常的
てきたう
どんよりと重い空気、そして薄暗い空、今日はあまり気分のいい日とは言えない日だった。
「おーい、シュウト!…眠そうだなお前。どうしたんだよ?」
「んが?ヒカルか?…今日はやっぱりあれだわ、気圧が…」
梅雨の季節はずっと調子が悪い。母が言うには気圧のせいらしい。
「じゃ今日は雨降りそうだな~。予めカーテン閉めとくか?」
「いや僕猫でも燕でもないんだからそんな信用すんなよ。」
そんなやり取りをしていた六月某日、昼休みのことだった。
「ピーンポーンパーンポーン
降水が確認されました。生徒の皆さんは速やかにカーテンを閉めてください。」
耳に慣れた放送が入った。
「やっぱシュウトの予想は当たってんじゃねえか。ほんとは猫かなんかの生まれ変わりか?」
「流石にそんな気がしてきた。」
そんな会話をしながらも、慣れた手つきでカーテンを閉め、ロックをかける。一年生の頃は先生の手伝いでやっとこさできたことが、五年生となればもう眠りながらでも出来る。
「ヒカル君!ごめんこっち手伝って!」
「おう、まかしとけ!」
このカーテンは一枚ウン㎏ある板が8枚つながっていて、重い。しかもこの教室のレールには引っ掛かりがあって急に止まる事がある。非力なカズに一人でやらせるのは酷だ。
「ん?今日はやけに頑固だな…シュウト!ちょっと加勢してくれ!」
「やったるぜ。」
と意気込んだはいいものの、本当に閉まらなかった。完全閉鎖の時間まであと十秒を切った。
「やばいやばい、あと十秒じゃねえか!もう廊下に立たされるのはごめんだぞ!誰か手伝ってくれよ!」
「今行くぞ!」(クラスメイト)
「ふええぇ…巻き込んでごめんんん…」
「カズは泣く暇あったらもっと引っ張れ!」
「こりゃダメだ」
「シュウトは何諦めてんだよ!」
どたどたと足音が近づいてきて、ガラガラっと勢い良く扉が引き開けられる。
「お前ら大丈夫か!?」
「あっ先公!遅ぇぞ!」
「ヒカルは何回言うたらわかんねん!先公やなくてコウ先生や!ってんな場合やない!」
先公が力任せにカーテンを引っ張ると、いとも簡単にぱたんと閉まった。先公は汗を拭きながら
「危なかったわ~もうすこしで…もう少しで、生徒を廊下に立たさなあかんかと思たわ…」
「ほんとだよ全く…間に合ってなかったら末代まで非モテの呪いをかけてやるところだわ」
「いやもとからモテてへんし今が末代やろ~っておい!」
事件も解決して柔らかな雰囲気が教室に広がる中、僕はというと、さっき見た光景が忘れられなかった。普段は教室の中から雨の校庭を眺めることは許されない。だがそんなことではない。完全閉鎖時間を一秒に迫ったあの時、窓を閉めようとした先公の眼鏡には、
非現実的な生き物が映って見えた。
ここできる