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モヌ  作者: レッド・ジン
第1章 手放す
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第1話 秘密結社

 ――オニタイジ・システム完遂より、二ヶ月半前。


麻田(あさだ)優雅(ゆうが)さん、今日からあなたを、イェムモガのメンバーに迎え入れます。これは極秘任務です」

「イェム……モガ……? それはいったい……? 秘密結社か何かですか?」

「はい、秘密結社というやつです」


 麻田優雅の問いに、彼の上司――東條(とうじょう)ゆりは笑って返した。秘密結社という表現を認めるのが、どうやら照れ臭いようである。


 優雅はゆりに導かれて、この建物の、最重要レベルの機密を扱う人間しか入れないエリアへと向かった。ゆりはエレベーターの前で、パスワードの入力と指紋認証を行い、これの扉を開放する。エレベーターに乗って、地下へと進み行く二人。


「この極秘任務は、公安調査官としての仕事とは別です。麻田さんも、オニタイジ・システムについては知っていますよね」

「はい、ハナズオウから聞いています。ネメシスが、竜から与えられた使命である超ヒト体細胞の回収を、円滑に進めるために考案した仕組みのことですよね」

「そうです。イェムモガは、そのオニタイジ・システムの、補完を行う組織なんです」


「地下五階です」というアナウンスとともに、エレベーターの扉が開かれる。優雅の目の前に見えたのは、正面に十数メートルほど続く仄暗い廊下。


「補完? オニタイジ・システムを支援しているんですか?」


 優雅の問いに、再びゆりは微笑む。しかし、先ほどの照れ笑いとは違い今回は、これから何らかのいたずらをすることを、予告するような笑みだ。


「さあ、着きましたよ」とゆりに促された優雅は、彼女に続いてエレベーターから降りる。


「では、私はこれで。あとはこの任務のリーダーに引き継ぎます」

「えっ?」


 ゆりはエレベーターの中に戻った。扉を閉め、お辞儀をする彼女の乗ったエレベーターは、上の階へと消えていく。ため息をつく優雅。


「まったく、東條課長は人使いが荒い……。緊張するなあ……」


 優雅は廊下を進んで、正面のドアをノックする。


「失礼いたします」

「どうぞ」


 返ってきた男性の声を聞き、優雅はドアを開けて入室する。その部屋は廊下とはうってかわって、照明に眩しく照らされていた。先のエレベーターよりも明るい。少しだけ、目が慣れるための時間が必要になる。

 そして優雅の目は、部屋の中央に立つ異形の存在の姿を捉えることができた。


「鬼……!?」

「いいえ、鬼に似て非なるものです」


 ワインレッドのクロークを羽織った、異形の石膏像のような何者か。目が四つある。


「私は、今回の極秘任務のリーダーを務める、イェムモガ長官のアイザック・モーズリーです。少し先の未来からやってきました。そして、鬼に似て非なるもの――モヌの一人です。よろしくお願いします」


 あまりの情報量の多さに、声が出ない優雅。アイザックから差し出されていた名刺に気づくと、「頂戴します」と言ってそれを受け取る。名刺には、「Isaac Maudslay」と、英語表記の彼の名前も記載されていた。


「公安調査庁調査第一部第一課所属の、麻田優雅です。よろしくお願いします」


 優雅は自らの名刺を取り出して、アイザックに差し出す。アイザックは優雅と同じように、「頂戴します」と名刺を受け取った。


「半ば強引だったかと思いますが、イェムモガに来てくださりありがとうございます」

「あっ、いえ……」


 東條課長の強引さは、今さらどうでもよい。とにかく今優雅が気になるのは、彼が未来人を名乗ったことだ。それから――。


「ええと、その……モヌとはいったい何でしょうか? 未来には、モヌという人がたくさんいらっしゃる、ということですか?」

「ああ、すみません。一度にいろいろしゃべりすぎちゃいましたね。私が未来から来たというのは、モヌとは特に関係ありません。ただ単に、私が時間旅行を楽しんでいるだけです」


 穏やかな口調のアイザックは、モヌの詳細を続けて話す。


「モヌとは、怪獣と人間から造られた超ヒト体細胞モヌ型を、その身に移植した人間のことです。言うなれば、鬼を模倣した存在ですね。イェムモガは鬼と並ぶ戦力をもつべく、鬼が現れた四年前から、モヌの力の運用を始めました。そこで、麻田さん。あなたに任務を与えます」


 優雅は、「はい」と返事をして、任務の内容を聞く。


「麻田さんの任務は、流出したモヌの力を手にした者の、観察です」

「流出……!? 鬼に似た力なら、モヌの力はかなり危険ですよね?」

「ええ、最悪の場合、国家の危機――いえ、世界の危機にも関わります。それどころか、流出させた人間も、流出の原因もわかっておりません。私の不徳の致すところです。モヌの管理者の力も、現在行方がわからず、モヌの力の無効化もできない状況です」


 大変なことになっている。モヌの管理者の力とは、すべてのモヌに影響を与えることができる力なのだろう。それさえも何者かに掌握されているのだとしたら、イェムモガのモヌの力だけが無効化される可能性も、十分考えられる。

 ともあれ、この状況をどうにかするのが優雅の任務だろう。彼は任務内容の詳細を、アイザックに尋ねる。


「私の任務は、観察ですか?」

「はい、観察対象者は、後日私から通達します。麻田さんは、観察対象者たちと直接接触し、対象者がモヌの力を悪用しないように観察してください。また同時に、対象者を通じて、モヌの管理者の行方も探っていただくことになります」

「……モヌでも鬼でもない私が、モヌと直接接触するのは、危険ではありませんか? 私も、モヌになる必要があるということでしょうか?」

「いえ、その必要はありません。流出事件を受けて、モヌの増員はストップしています。麻田さんには、すでにモヌであるイェムモガの者と、バディを組んでいただきます」


 優雅はアイザックに案内され、部屋の左にある応接室へ向かう。


「我々イェムモガは、日本の公安調査庁と、イギリスのMI6の二つを拠点としており、また、怪獣との協力の下で活動しています。今回麻田さんとバディを組んでいただくのは、イェムモガならびにMI6所属のモヌ――オリヴィア・ルーシー・ウィンターズさんです」


 そこに居たのは、真っ黒なロングコートに身を包んだ長身の女性。胸にかかる長さの栗色の髪が、額を出したウェービーヘアにセットされている。


「久しぶり、優雅。これからよろしく」

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