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モヌ  作者: レッド・ジン
最終章 使う
13/16

第12話 委員会

 イフの暗殺から一ヶ月後。イフやヴィクター・ジン、怪獣といった存在が公になったことに伴い、日本には、超自然現象調査管理委員会なる機関が設置された。本機関は、イェムモガの公開可能な一部分であるといえる。


 優雅はゆりと共に、委員会の委員に抜擢された。委員会の総数は七名。委員はすべて、花蘇芳市の調査に関わった公安調査官で構成されている。なお、委員長は――。


小田野(おだの)啓修(けいしゅう)警備局長……。委員長だけ、警察庁の方なんですね」


 委員会の集会のため、会議室へと向かう道すがら――怪獣の森前の廊下にて、優雅はゆりに話しかけた。


「小田野委員長は、イェムモガの幹部です。あらゆる機密を網羅しているんですよ」

「そうなんですね」


 半袖のジャケットをまとった、涼しげな姿のルーシー。二人と共に歩く彼女は、「東條課長、一つ伝えたいことがあります」と切り出し、足を止める。


「私は、紫藤夏乃の上にいる人間が、イェムモガの上層部の誰かだと考えています。もしかしたら、委員会の中にもいるかもしれない。私はもう、イェムモガを信じきることはできません」

「あなたはモヌ。イェムモガを抜けることはできませんよ」

「……わかっています」


 優雅もイェムモガには、不信感を抱いていた。オニタイジ・システムの補完をするにあたって、もっとよい方法はないのかと、思うばかりであった。しかし、彼はこう選択する。


「ルーシー、僕もイェムモガに残るよ。オニタイジ・システムの補完が関係していたかどうかはともかく、僕たちには、初瀬さんを助けられなかった責任がある。その責任を果たそう」



    ◇



 委員会の設置から十一日後。自由の魔神・ジーヴァが、人間の姿でイェムモガを訪問してきていた。ゆりは応接室で、ジーヴァを迎える。


 さらに、桐谷真由巡査部長が、ゆりに呼ばれて同席していた。


「はじめまして。イェムモガのメンバーに任命されました、桐谷真由です」

「彼女は鬼と戦ってくれていた、超人事件対策係の一人です。彼女には、オニタイジ・システムが実行された理由と、私の正体を話しました」

「私は始まりの三柱の代表――自由の魔神・ジーヴァと申します。よろしくお願いします、桐谷さん」


 ジーヴァと握手を交わす真由。ジーヴァは、北欧系の中年女性の姿をしており、雰囲気はまさしく人間のそれであった。真由が最近知り合った小説家の魔神と同じで、一体化した人間との自我の境界を喪失した魔神――ということなのだろうか。


「そちらの進捗はどうですか?」


 ゆりの質問にジーヴァは、「こちらは変わりなく、順調に進んでおります」と、やわらかい笑顔で回答する。



    ◇



 同日昼過ぎ。優雅とルーシーは、イェムモガ長官室に呼ばれた。


「お二人に、新たな観察対象者を通達します。対象者は、江端(えばた)(りょう)さん三十四歳。取り調べで紫藤夏乃が証言しました。流出したモヌの力は、彼が所持しているもので最後です。ウィンターズさんと麻田さんは、彼を見つけ次第、拘束してください」

「承知しました」


 依月の力の暴走を止められなかった反省だろう。アイザックからの指示には、対象者の拘束が含まれている。今までより荒々しいやり方だ。


「再び観察任務を引き受けてくださったお二人には、本当に頭が上がりません。ありがとうございます」



    ◇



 優雅とルーシーは、遼の別荘を訪ねた。別荘は緑に囲まれており、目の前には湖が広がっている。彼はどうやら、金持ちのようだ。


 玄関の前に立ち、優雅はまずインターホンを鳴らす。


「鍵は開いています。どうぞ、中へ」


 ドアの奥から、遼と思しき声が聞こえた。優雅たちは、「お邪魔します」と言い、ドアを開けて別荘に上がる。


 しかし、声の主が見当たらない。


「リビングにお越しください」


 左の部屋から声がした。「わかりました」と返事をする優雅。二人は靴を脱いで、廊下を数歩進む。優雅は、リビングに繋がるドアを開放した。


「動くな。少しでも動いたら、こいつを殺す」

「羽立さん……!?」

「美沙!」


 リビングで二人が目の当たりにしたのは、吶喊態の遼によって人質にされている、美沙の姿であった。優雅、ルーシー、そして美沙は、遼の別荘に閉じ込められる。

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