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モヌ  作者: レッド・ジン
第2章 自制する
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第11話 完遂と補完

 依月の身柄は警察に引き渡され、夏乃の身柄はイェムモガに拘束された。


 優雅とルーシーはイェムモガ長官室で、アイザックから話を受ける。


「紫藤夏乃の証言によると、初瀬さんは、モヌの管理者の力で、モヌの力を封じられた。彼には新たに、鬼の力が与えられた。しかし、モヌの力は眠っているだけで、彼の中に残存したままだったために、力の競合、そして暴走が起こってしまった――。それが、今回の事件が起こった理由です」


 アイザックは、「初瀬さんの観察は、これをもって終了とします。お疲れ様でした」と続け、二人に頭を下げた。


「こんな終わり方……」


 そう呟くルーシー。優雅とルーシーの二人は、長官室を退室する。



    ◇



 次の日の昼。外はあいにくの雨で、ルーシーは一人、イェムモガの宿舎のソファに寝転がっていた。


――それにしても、紫藤夏乃が身柄の拘束に積極的だったのは、なぜなんだ……?


 ルーシーは、夏乃を使い捨ての駒として使う、何者かの存在を思い出す。夏乃がいいかげんなことを言っている可能性もあるだろう。しかし、もしそんな人物が実在するのなら、彼女の拘束はその人物にとって、都合の良い状況のはずだ。何者か――ともすれば、一連の事件の黒幕。死刑囚だった彼女を引き抜いていたことから、相当な権力の持ち主であることがうかがえる。


「もしかして、イェムモガの上層部の誰かが……? 私の知る限りで、そんな人間――」


 その時、ルーシーのスマートフォンが着信音を鳴らした。目の前にあるローテーブルの上を、振動によって這っている。彼女は手を伸ばしてスマートフォンを掴み、「優雅」と画面に表示されているのを見ると、仰向けに寝転がった姿勢のまま電話に出た。


「どうした? 優雅」

「ルーシー、今テレビは見てる?」

「いや、見てないけど……」

「今すぐ点けて」


 ルーシーは上体を起こして、優雅に言われたとおりにテレビを点ける。テレビ画面には、ニュースが映し出された。


「何が起きてるんだ……!?」

「きっとあれが、イフと、ヴィクター・ジン」


 花蘇芳市の隣町――科戸市にある、科戸刑務所。そこに、二体の光る巨大生物が出現したと報道されている。ハナズオウから情報を得ていたルーシーたちには、その二体の正体がわかった。怪獣の家族たる神獣のイフと、ネメシスの名を名乗る魔神のヴィクター・ジンである。



    ◇



 優雅とルーシーは合流。怪獣の森へ行くために、合同庁舎の地下九階まで下りた。


「ウィンターズさんと、麻田さん。どうされたんですか?」


 廊下には、アイザックとアデレード、そして健一が居た。優雅はアイザックに返す。


「ニュースで見ました。あれはイフと、ヴィクター・ジンですよね? 何が行われていたんですか?」

「オニタイジ・システム完遂の儀式です。今後、鬼の出現頻度は大幅に減るでしょう」

「完遂、したんですね……」


 ハナズオウから話は聞いていた。鬼を竜に献上することで、未来人を救うために実行されたオニタイジ・システムは、完遂すると。これが未来人のためとはいえ、優雅は、胸が締めつけられる思いだった。


「アイザック、今しがたしていた話を、二人にも話してみないか?」と言うアデレード。


「そうですね。お二人にも話しましょう。明日(あす)、怪獣が行う作戦を」


 アイザックは、怪獣の森のドアに目をやり、こう続ける。


明日(あす)、イフを殺します」


 突拍子もない彼の言葉に、優雅とルーシーは驚いた。ルーシーは戸惑いながらも、彼に訊く。


「イフを、殺す……? どういうことですか?」


 アイザックは二人に視線を戻した。


「MI6にいる怪獣が、竜から命令を受け取ったんです。それが、イフの暗殺。イフを殺す理由は、魔神に死の可能性を与えるため、ということだそうです」

「イフは怪獣たちの、家族じゃないんですか? 桜庭さん! ハリスさん!」


 そう問いかける優雅に、健一とアデレードは答える。


「私たちは、竜の世界を保つために動いています。つまりはオニタイジ・システムの補完ですよ。そのためなら、敬愛するイフの暗殺も受け入れる――。それが竜の駒たる、私たちの役目でしょう。怪獣たちの用心棒は、我々ゾノフェが引き継ぎます」

「オニタイジ・システムの補完は、これからも続けていく。けれど私は、今より少しばかり、自由でありたいと思ってしまうね……。本当は私たちだって、イフと別れたくなんかない」



    ◇



 怪獣の森に戻った、健一とアデレード。木々に囲まれた場所に、プレハブ小屋が設けられている。健一の部屋だ。中は書斎のようになっている一方で、角にはカプセルトイの自動販売機が置かれていた。


「カプセルトイ……。ドロテアと一体化していた人間が、日記帳に書いていたな」

「今回はこれをルーレットとして使い、七月に控える作戦の準備をしてみます」

「なるほど。魔神に試練を与える、私たちの基本任務。その作戦で狙う、魔神の選定か」

「はい。このカプセルトイは、全四種のフィギュア。それぞれに、クリスタル・ジン、キアラ、ドロテア、ステラを割り当てました。では、回してみます」


 健一は自動販売機にメダルを入れ、レバーを回す。中から出てきたカプセルを取り出し、彼は中身を確かめた。


「このフィギュアは、ドロテアですね」

「奇しくも、カプセルトイにゆかりのある魔神が当たったな」

「保管している日記帳を読み返してみます。何か、ヒントが得られるかもしれません」


 健一は机の引き出しを開ける。そこには、血で汚れた手帳が入っていた。公安調査官の身分を示すものである。手帳に載っているのは、健一の名前や顔写真。彼はそれを見て呟く。


「見守っていてください、桜庭さん」



 翌日の夜、イフの暗殺は実行された。

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