第062話 ルームシェア
本作は書籍化することになりました。
皆様の日々の応援のおかげです。
詳細は追々となりますが、これからもよろしくお願いいたします。
俺はカエデちゃんとの同棲を始めた。
正式にはルームシェアらしいが、俺的には同棲である。
そんな俺達は引っ越しそばを自分達で食べ、テレビの前のソファーでゆっくりしていた。
「ソファーってすごいなー」
さっきまで住んでいた家は当然だが、実家にもソファーはなかった。
「ですねー。それでナナカちゃんは無事なんです?」
カエデちゃんが聞いてくる。
先ほど、ナナポン誘拐事件のさわりを説明したのだ。
「無事だね。ケガもなかった。クレアが守ってくれたし、所詮は雑魚よ。俺の剣の錆にしてやった」
殺したのはハリーだけどね。
まさか回復ポーションをくすねるためにトドメを刺すとは思わんかった。
俺の心遣いが台無しだ。
「うーん、さりげにとんでもないことを言っているような気もしますが、ナナカちゃんが無事なら良かったです。今後も刺客が来ますかね?」
「さあ? 来るなら外国からだろうしねー。ギルドやハリーとクレアがどこまでやるかだろうな。まあ、問題ないよ。襲われるならフロンティア内だろうし」
ハリーとクレアはいまいち信用できんが、一応は元軍人のAランクだし、やる時はやってくれるだろう。
「気を付けてくださいね」
「わかってるよ。カエデちゃんに俺の剣の腕を見せてあげたかったわ」
「見たくないです。ナナカちゃんが不必要に首を刎ねる人って愚痴ってましたし」
いや、さすがに首は刎ねないよ……
マズいな……
このままだと首狩り族か人斬り認定されそうだ。
そんなキャラ付けはいらない。
「武器を変えようかな……槍とか」
「使えるんです?」
「使ったことはないけど、練習すればそのうち……」
槍術でも生えてくるかも……
「いや、普通に剣を使ってくださいよ。せっかく剣術のレベルが5もあるし、危ないですよ」
「いやー、それがさー、見てよ」
俺は持ってきたエレノアさんのカバンからエレノアさんのステータスカードを出し、カエデちゃんに渡す。
「まだレベルは6ですねー。そろそろ7になると思います…………んん!?」
カエデちゃんがステータスカードを凝視する。
そして、そーっと俺を見てきた。
「エレノアさんってすごいよね。剣術のレベルが6だって!」
魔女要素がどんどん消えていく。
「あのー、剣術レベル6って、聞いたことないんですけど……」
「隠しているだけでしょ。Aランクは普通にあるよ」
ハリーは3でクレアは2しかなかったけどね。
「こんなに簡単に上がらないと思うんですけど……」
「上がったというより、戻ったんじゃない? ブランクあるし。結構、ハイドスケルトンを狩ったしね」
なんとなくだが、動きが良くなった気がする。
エレノアさんの身体に慣れただけかと思っていたが、剣術のレベルが上がったんだな。
「はえー……先輩って本当にすごいんですねー。私、剣術のスキルなんてなかったですよ」
「そういや、カエデちゃんも冒険者だったね。ジョブは何だったの?」
「私はローグです。モンスターを見つけたり、エリアを案内したりする職業ですね」
下っ端ぽいな。
「色々あるんだね」
「先輩達はまだ初級のところですから問題ないでしょうが、中級の場所に行くと、そういう人が必要なんですよ。まあ、ナナカちゃんがやってくれるとは思います」
俺も調べてはいるが、やっぱりパーティーを組むのが主流だ。
クーナー遺跡でもたまに素人臭いソロがいるだけで、ほとんどの人がパーティーを組んでいた。
「まあ、ナナポンが俺を嫌がる以上、エレノアさんで行くしかないし、パーティーはいいや。2人で頑張る」
沖田君が最初の頃より嫌われている気がするのが気になるけどな。
エレノアさんとは普通に話すし、仲良くなっていっているのだが、エレノアさんとナナポンが仲良くなっていくにつれて、沖田君が嫌われていく。
神様、一体、これは何でしょう?
「気にかけてあげてくださいね。あの子はまだ19歳ですから」
「ホント、若いわー。俺が19歳の時なんて毎晩、徹夜でマージャンしてたわ」
「私も遊んでましたね。まあ、ナナカちゃんは私達以上に遊んでるんでしょうけど」
透視でカンニングしてるからテストがないようなもんだしなー。
すげーわ。
「透視いいなー……」
「透視あったら何に使います?」
カエデちゃんが夢のある話をしてきた。
「テストはもうないしねー……うーん」
じー……
「あ、もういいです。私を見てきた時点で察しました」
男子はそんなもんだよ。
TSポーションと透明化ポーションの使い道も最初は更衣室に忍び込むことが浮かんだし。
「じゃあ、カエデちゃんは何に使うの?」
「くじとかですかね?」
金か……
まあ、そんなもんだろう。
「まあ、何にせよ、小物のナナポンが持ってて良かったわ。あいつじゃあ、ロクに悪用もできんだろ」
「カンニングは相当、悪いですけどね。でも、先輩を守る目になってくれますし、才能もありそうなんで黙認ですって」
才能ねー……
トロそうだったけど、度胸はあるかも。
「まあ、弟子だから鍛えてあげるか」
「あ、ホントに弟子にしたんです?」
「あいつ、捕まった時にエレノアさんの弟子ってゲロった。だから俺が捕まった時にも弟子には手を出さないでーって巻き込むことが決定した」
普通、関係ないですって言うだろ。
何を早々にゲロってんだよ。
あ、だからケガがまったくなかったんだ。
「まあ、仲良くしてくださいね。冒険では信頼関係は大事です」
確かに大事だろう。
命を預けるわけだしね。
「大丈夫だよ」
でも、カエデちゃんと冒険したかったわ。
「これからどうするんです? オークションとか冒険とか」
これからかー……
「オークションは少し休む。まずはクレアとの契約を優先するわ」
少し休み、個人契約を済ませてしまおう。
それまでにレベルが上がって新しいレシピが増えるかもしれないし。
「レベル2の回復ポーションですっけ?」
「そうそう。それと1000キロのアイテム袋を10億で個人的に売ることになってる」
「10億ですかー……ホント、すごいです。でも、なんでです?」
「ナナポン救出の報酬だな。12億のところを10億にしてやった。まあ、手数料とかを考えると、安いもんだ」
今回の1000キロのアイテム袋は12億で売れた。
この内、10パーセントがギルドで10パーセントがナナポンの取り分になる。
つまり…………9億6000万円が俺の取り分になるのだ。
それを考えれば、10億で十分。
「今回のオークションで1000キロのアイテム袋の相場が出来たようなもんですしね。もしかしたら個人的に売ってほしいって依頼が来るかもです」
「そん時はそん時に考えよう」
少なくとも、おっぱいこと三枝さんからアイテム袋を売ってほしいということを聞いている。
容量は聞いていないが、他にもAランクとかからそういう依頼が来るだろう。
「わかりました。冒険は? またナナカちゃんとダイアナ鉱山ですか?」
「そうだね。もうちょっとあそこでやる。でも、それとは別に沖田君でソロをやろうかと思っている」
「あー、全然、行ってませんしね。確かに行った方が良さそうです」
さすがにまったく冒険に行かないのは怪しい。
適度に行ったほうが良いだろう。
「だよね。あと、このままだといつまでもナナポンよりレベルが低いことになる。それは良くない。弟子の方がレベルが高いっていうのは許されない」
「…………先輩って、本当にそういうところがありますよね」
小っちゃいって言うな!
「お前がAランクになれって言ったんだろ。早くDランクにしろよ」
「Dランクねー……何か実績を作ってくださいよ」
「外国の誰かさんを斬ったぞ」
「それ、ヤバい実績でしょ。人斬りミッションです」
やっぱり人斬りと思われている。
多分、名前のせいだな。
「どんなミッションをこなしたらDランクにしてくれるん?」
「じゃあ、スケルトンを100体、倒してください。それでDランクにしましょう」
「なんか本当にゲームのミッションみたいだな」
「まあ、実際、そんな感じです。ちなみに先輩は本日のデイリーミッションをクリアしていません」
デイリーミッション?
ああ、本日のノルマか……
「カエデちゃんは今日もかわいいね」
「クリアでーす。報酬は冷蔵庫にあるビールです」
しょうもな……
「カエデちゃんのデイリーミッションは?」
「先輩が好きだろうと思って、いい感じのスカートをはいてるじゃないですか」
確かに今日はちょっと短いスカートだ。
膝上くらいだけど。
「いつもロングだもんね」
「先輩が喜ぶだろうと思って」
「ふーん、本日のデイリーミッションクリアだわー。報酬はビールです」
「飲みますか」
「だねー」
俺達はしょうもないデイリーミッションをクリアしたので昼間から飲むことにした。
夜になると、カエデちゃんが事前に買っておいた夕食を食べ、各自でお風呂に入った。
そして、良い時間になると、自室に戻り、荷物を広げる。
俺の部屋はまだベッドと作業用の机がある程度だ。
アイテム袋から色々と取り出し、設置していく。
俺がそういう作業をしていると、時刻は11時を過ぎた。
「よし! 本当のデイリーミッションをしよう!」
俺は枕を持って部屋を出ると、すぐ近くのカエデちゃんの部屋の前に立つ。
そして、ドアノブを握り、引いた。
――ガン!
開かなかった……
「鍵かー……」
これがルームシェアね……