第059話 A(アホ)クラス
昨日、今日の投稿予定時間を間違えました。
ハイドスケルトンかと思って斬ったら人でした。
間違えちゃった。
てへっ。
「き、貴様ーッ!」
男が怒っている。
「んー? もしかして、お仲間さんだった?」
倒れている男は他の男と同じくサングラスに黒スーツだ。
「こいつを殺すぞ!」
ナナポンを拘束している男がナナポンの首をかき切るためにナイフを立てた。
「いや、そう言われても、私は悪くなくない? ハイドスケルトンが出るようなところで透明にならないでよ。誰だってモンスターだと思うわ」
仕方がないねー。
「クソッ! 何でわかった!?」
「この人、ヘタクソね。音を出さないようにすり足をするのはいいけど、こんな外でやるのはアホよ。地面の砂が不自然に動いているもん。きっとドシロウトね」
せめて、俺の後ろに回れや。
「チッ! だからあれほどスキルに頼りすぎるなって言ったのに!」
それは確かにそうだ。
俺も気を付けよう。
2つしか持ってねーけど。
「まあまあ。それで? 何の話だっけ?」
「チッ! 剣を地面に置け。そのアイテム袋もだ」
「どうしようかなー?」
俺は器用に剣をくるくると回す。
「弟子を殺すぞ」
「それは怖い。私の大切な弟子なの。おねがい、弟子にだけは手を出さないで」
俺はかつて、ナナポンに鬼呼ばわりされたセリフを言う。
「だったら剣とアイテム袋を置け」
「仕方がないかー……」
俺は剣を地面に置くと、肩にかけているカバンも置く。
「5歩下がれ」
「5歩でいいの? 誤差よ?」
一気に飛んで剣を取れる。
「バケモノめ! 10歩下がれ」
俺は言われた通り、前を向いたまま、後ろに10歩下がる。
「これでいい? 魔法とかあるかもよ?」
ないけどね。
「…………両手を後頭部に置け」
俺は言われた通り、両手を後頭部に持っていった。
「これでいい? 弟子を放してよ」
「ダメだ。貴様は何をするかわからん」
「そんなわるーい魔女にこんなことをして無事に済むと思っているのがすごいわ」
食べちゃうぞ!
「黙れ!」
「怖いわー」
「クソッ! アイテム袋の出所を言え!」
こだわるなー。
「買えばいいのに」
「お前を本国に連れて帰れば、タダで手に入る」
誘拐する気なのか……
「実はなーにも知らないって言ったらどうするの?」
「それはない。貴様は絶対に何かある。ほら、言え! 本当に弟子を殺すぞ!」
「やめて」
ナナポンがかわいそう。
「10秒待ってやる」
「10秒もいらないわねー」
「だったら言え!」
「言わなーい」
というか、もう言ってるというね。
「は? ふ、ふざけるな! おい、その女を殺せ!」
「誰が殺すの?」
俺は笑いながらナナポンの方を見る。
「は?」
男は俺の視線に釣られて、後ろにいるナナポンの方を見た。
「――なっ!?」
男はナナポンを見て驚愕する。
何故なら、ナナポンを拘束していた男は倒れ、代わりに金髪の女がナナポンを支えていたからだ。
「私は殺さないわね。魔女の報復が怖いし。あとアイテム袋が欲しいし」
ナナポンを救ったのはクレアである。
クレアはユニークスキルである認識阻害で密かに男達の背後に回っていたのだ。
「ク、クレア・ウォーカー!? やはりアメリカと繋がっていたか!! クソ! もはやこれまで!」
男はそう言うと、ナイフを出し、俺に向かって走ってきた。
「魔女め! こちらの手に落ちないなら死んでしまえ!」
男がナイフを向けて走ってきているが、俺は両手を後頭部に置いたまま、待つ。
「やめた方がいいわよー」
「黙れ! 死ね!」
男が俺が置いた剣やアイテム袋を跨ぐと、俺は両手を後頭部から離した。
そして、右手をローブのフードに突っ込む。
「あとで回復ポーションをあげるからね。寝てなさい」
「死ね! 魔女ー!」
男が俺の間合いに入った。
俺はフードの中から刀を取り出し、男の肩に向けて振り下ろす。
「な!? クソ!」
男は俺が出した刀にびっくりし、俺の振った刀をナイフで受けようとする。
「ばーか!」
俺が振り下ろした刀は男のナイフをバターのように斬り、そのまま肩に向けて斬り下ろした。
「――ガハッ!」
男はこけるようにその場に崩れ落ちる。
「そんなもんで受けられるわけないのにねー。どう思う? ハリー?」
俺は誰もいない右隣を見る。
「チッ! やっぱり気付いていやがったか」
誰もいない私の右隣からハリーが現れた。
「そりゃね。でも、ありがとう。一応、守ってくれたのよね?」
「一応な。まったく出番がなくて悲しいぜ」
「でも、悪い子ねー。クレアの認識阻害が他人にも使えることを言わなかった……ふふ」
俺は笑いながら刀についた血を見る。
「怖いぞ……まあ、聞かれなかったからな……っていうか、言わねーよ」
まあ、そうだろう。
「拭くものない? 私の高い刀が汚れちゃう」
50万円もしたのに。
「ねーよ。ポーションで洗え」
「そうするか……」
俺はフードからレベル1ポーションを取り出し、刀にかけた。
すると、刀についた血があっさりと洗い流される。
これは俺の実験でわかっていることである。
ポーションで洗濯や洗い物をすると、すごく汚れが落ちる。
「もったいねー」
「あなたが言ったことでしょ」
俺はそう言って、刀をフードにしまう。
「それ、どうなってんだ? 仕込み刀か何かか?」
「ふふっ、内緒。魔女の魔法とでも思っておいて」
正解はフードをアイテム袋にしてあるだけ。
かっこいい仕込み刀が出来たと喜んでいたが、代わりにフードを被れなくなった。
まあ、使い道があったので良しとしよう。
俺は剣とアイテム袋を置いた場所まで歩くと、剣をカバンに入れ、カバンを肩にかける。
「こいつらは生きてるか?」
ハリーが聞いてくる。
「生きてるわよ。急所は外したもの」
殺すなら首を刎ねるか、胴体を真っ二つにする。
「でも、虫の息だな」
まあ、出血量も多いし、放っておけば死ぬ。
「これをあげるわ」
俺はカバンからレベル2の回復ポーションを2つ取り出し、ハリーに渡す。
「これは? レベル2か……」
まあ、ハリークラスなら知っているだろう。
「2つで800万ね。死んじゃうかもだし、使ってあげたら?」
俺はハリーにそう言い残すと、いまだに猿轡と縄で拘束されているナナポンのもとに行く。
なお、クレアはナナポンの後ろに回って何かゴソゴソしていた。
「何してるの?」
俺は2人のもとに行くと、クレアに声をかける。
「こいつら、本当にドシロウトよ。ひどい結び方をしてる。小娘を拘束するのにこんなには必要ないっての!」
どうやらクレアはナナポンの縄を解こうとしているらしい。
だが、悪戦苦闘している。
「どきなさい。私が簡単に解いてあげるわ」
俺はそう言って、アイテム袋から剣を取り出した。
すると、ナナポンが涙目で必死に首を振る。
「よしなさいよ。めちゃくちゃ怖いっての」
クレアがそう言うと、ナナポンが何度も首を縦に振った。
「ナイフとか持ってないの?」
「銃ならある」
「ダメね」
もっとないわ。
そもそもフロンティアでは使えない。
「よし! こんな感じ!」
俺が剣をカバンにしまっていると、クレアが縄を解くのに成功したようだ。
縄が解け、自由になったナナポンはすぐに口から猿轡の布を取り、俺に抱きついてきた。
「エレノアさーん、ごめんなさい……助けてくれてありがとうございます」
ナナポンが泣きながら謝罪と感謝の言葉を言ってくる。
「助けたのは私じゃない? そいつはニヤニヤしながら敵を斬ってただけじゃん」
ニヤニヤはしてない。
それ、ガチでヤバいヤツだろ。
「怪我はない?」
俺はナナポンの頭を撫でながら聞く。
「ぐずっ…………はい、大丈夫です」
「まあ、詳しい話は後で聞くわ。ここには部外者がいるし」
俺はクレアをじーっと見る。
「部外者って……私が一番貢献したのにひどいわね」
まあ、そうだ。
ナナポンを助けたのはクレア。
でも、ナナポンの透視のことがあるからここでは話せないのだ。
「そういえば、そいつは?」
俺は倒れている男を見る。
ナナポンを拘束していた男だ。
「殺したわよ。下手に生かせるような状況じゃなかったしね」
「音もなく倒した時はびっくりしたわ」
マジでビビった。
音もなく、流れるように倒すんだもん。
タクシーでケンカしなくて良かったわ。
「何を今さら……私のスキルを見たでしょ。暗殺術があるの」
そういや、あったね。
しかも、レベル4。
この女、怖いわ。
「お! そっちの嬢ちゃんも無事みたいだな!」
ハリーもこっちにやってきた。
…………俺があげた回復ポーションを持って。
「あなた、あっちの2人は?」
俺は向こうでいまだに倒れている2人を見ながら聞く。
「ん? トドメを刺した」
ハリーがあっけらかんと言った。
「私はどうでもいいけど、情報とかを仕入れるために生かしておかなくてもいいの?」
尋問とか色々あると思うんだけど……
「1人いればいいだろ。回復ポーションがもったいない」
「1人?」
俺はすぐそばで死んでいるその1人を見下ろす。
「あれ? 死んでね? おい、クレア!」
「なんで私が責められるのよ!」
こいつら、マジでひどいな……
アメリカのエージェント教育はどうなってんねん。




