第044話 仁王立ちしているカエデちゃんもかわいい
俺は品川で役に立たないタクシーから降りると、すぐに人がいない路地裏に行き、透明化ポーションを飲む。
そして、ちょっと寒いが、その場で服を脱ぎ、TSポーションを飲んで男に戻った。
俺は次にカバンから男物の服とコートを取り出すと、服を着て、コートを羽織った。
念のため、コートでエレノア用の白いカバンを隠すのだ。
俺はすべての切り替えを終えると、周囲に人がいないことを確認し、再び、透明化ポーションを飲んで透明化を解いた。
そして、裏路地から出ると、本物のタクシーを捕まえ、乗り込む。
俺はタクシーに乗ると、運転手に自宅まで頼み、一息ついた。
うーん、変なヤツらだったなー。
何がしたかったのかまったくわからん。
しかし、アメリカのAランクであったことは確かだ。
ネットにも載っていたし、あのスキル量とレベルはヤバかった。
それにユニークスキル……
俺達がレアスキルと呼んでいる星マークが入ったスキルを所持していた。
これはアメリカだろうが、日本だろうが、高ランカーは高確率で持っていると思った方がいいだろう。
俺はそこまで考えると、カバンからスマホを取り出した。
スマホを見ると、着信履歴が50件ほどあった。
もちろん、カエデちゃんとサツキさんである。
なお、カエデちゃんが49件でサツキさんが1件だ。
うーん、ナナポンが報告したのか……
あいつから見たら銃を持った外国人にさらわれるエレノアさんだもんなー。
まあ、その通りなんだけどさ。
俺はタクシーの中では電話できないと思い、メッセージアプリを開く。
『先輩、今どこですか!? すぐに連絡をください!』
メッセージを読むと、カエデちゃんが心配しているのがわかった。
俺はすぐにメッセージアプリに書き込み始める。
『大丈夫だよー。今、タクシーの中だから電話はできない。家に帰ったら電話するわー』
俺はそう書いて送信し、スマホをカバンにしまおうとすると、すぐにスマホがピンコーンと鳴った。
早っ!
『今、先輩の家の前です』
メリーさんかな?
10月とはいえ、寒いだろうに……
合鍵を渡しておけばよかった。
「運転手さん、彼女が家の前で待ってるんで、法定速度なんか無視してください」
俺は身を乗り出すと、運転手さんにお願いした。
「ダメです」
知ってた。
俺は背もたれに背中を預けると、再び、メッセージアプリに書き込み始める。
『すぐ戻るから待ってて』
『5分で戻ってこい』
無理言うな……
あの筋肉バカに品川まで連れてこられたんだよ。
俺はしゃーないと思い、タクシーがアパートに到着するまで待つことにした。
しばらくタクシーに揺られていると、アパート前に到着したので運転手に料金を払い、タクシーから降りる。
すると、俺の部屋の玄関前で立っていたカエデちゃんがすぐに小走りでやってきた。
俺は冗談で両腕を広げて、抱きつき待ちをしたのだが、予想に反して、カエデちゃんが本当に抱きついてきた。
「何してんですか、あなたは…………」
カエデちゃんが俺の胸の中でつぶやく。
「ごめん、ごめん」
俺は左手をカエデちゃんの腰に回し、右手を後頭部に持っていった。
「何があったんですか?」
「うーん、まあ、家で話そう。寒かったでしょ。お風呂に入る?」
「先輩の家の風呂は嫌です」
そんなに汚くないと思うけどなー。
「まあ、いいや。おいで」
俺はカエデちゃんを離し、手を掴むと、そのまま家に連れ込む。
ご近所さんの目が気になるからね。
カエデちゃんは手を引かれながら家に上がり込むと、キッチンを抜け、部屋まで大人しくついてきた。
しかし、部屋に来ると、俺の手を離し、仁王立ちで俺を見上げてくる。
「で? 何があったんです?」
「まあまあ、座りなって」
俺は仁王立ちしているカエデちゃんの両肩を押さえ、無理やり座らせる。
カエデちゃんは不満そうな顔をするも、文句も言わずに座った。
「で?」
急かすなー……
「ナナポンは何て?」
「エレノアさんとタクシーに乗ろうとしたらタクシーに女性が乗っていることに気付いたそうです。それで不審に思っていたらエレノアさんがタクシーに乗り込み、女性がエレノアさんに銃を突きつけたって言ってましたね。それでエレノアさんを誘拐したって……」
ほぼ合ってんな。
それにしても、やっぱりナナポンはクレアに気付いていたんだな。
スキルの透視だろう。
「まあ、それ。アメリカのエージェントだと。Aランクの冒険者らしいぞ。クレア・ウォーカーとハリー・ベーカーだってさ。知ってる?」
「知ってます。超有名人ですね。オークションのために日本に来ているとは聞いていましたが、目的はエレノアさんですか…………」
超有名らしい。
だから2人共、エレノアさんが知らないって言ったらへこんだのか……
悪いことをしちゃったな。
今度から他の冒険者も調べておこう。
「エレノアさんって他国から狙われてるらしいよ。護衛に来たんだって」
「護衛? 銃を突きつけてたって聞きましたけど?」
「アメリカンジョークじゃない? 弾は入ってなかったし」
「すごくつまんないジョークですね」
まあね。
「よくわかんないけど、話でも聞いてみようかなーと思って乗った」
「危ないですよ! すぐに逃げてください!」
カエデちゃんが怒った。
「大丈夫だよー。どんなスキルを持とうが、あの距離なら俺の方が強い。瞬殺してやる」
「いや、この2人って元軍人ですよ?」
「関係あるか。車内では魔法はないし、俺の掌底かナイフの方が早い」
護身用にサバイバルナイフを買ったのだ。
かっこいいやつ。
「あのー、先輩ってガチの人斬りさんです? ナナカちゃんがあの人、スケルトン相手に無駄に首を刎ねるから怖いって言ってましたよ」
まあ、普通に斬った方が楽だし、早い。
「いや、剣技を自慢しようと思っただけなんだけどな…………」
「エレノアさんは格好がファンタジーっぽいからまだいいけど、沖田さんは引くって言ってました」
ジャージがマズかったか……
「まあ、いいや。今度からは気を付けよう」
「あのー、それで何を話されたんですか?」
「うーん、色々聞かれたねー。翻訳ポーションとか素性とか……」
くだらない話が多かったな。
俺の髪の色なんてどうでもいいだろ。
「その人達って信用できるんですか?」
「うーん、保留。あんまり交渉事が得意そうには見えなかったし、ステータスカードも見せてもらったからある程度は信用してもいいんじゃないかな?」
「み、見たんですか!? 外国のAランクですよ!? 下手をすると、国家機密です」
カエデちゃんが驚く。
「あいつら、ちょっと脅したらすぐに見せたぞ。でも、すごかったわ。2人共、レベルが50を超えてた」
「50!? そんな人を脅さないでくださいよ!」
「何をしたらあんなに上がるのかねー? それにスキルも多かった。あ、あいつらレアスキル持ちだったぞ。ユニークスキルって呼んでたけど」
俺もスキルを増やそ。
確か、フロンティアで筋トレをすると、攻撃力上昇がつくんだっけ?
「やっぱり持ってるんですね……それにしても、ユニークスキル……ということは被る人がいないってことですか……」
この場合、ユニークスキルは唯一のスキルという意味でいいだろう。
ゲームなんかではそういう意味で使う。
「少なくとも、そういう名前にしたってことはそうなんだろう。つまり、俺の錬金術もナナポンの透視も持っているヤツがいないって考えていい」
俺の錬金術はもちろんだが、ナナポンの透視がナナポンだけっていうのは良い。
エレノアの正体を知るすべが減るし、カエデちゃんを覗こうとするバカもいないからだ。
「そうなりますか……その2人はどんなスキルでした?」
「ハリーが鋼糸でクレアが認識阻害だ。鋼糸は見てないが、アニメとかでよく見るやつだと思う。だから戦闘用だろうね。認識阻害は見た。姿も気配も消せる能力だった。厄介だけど、ナナポンの話を聞く限り、ナナポンの透視で対処できる」
「……あの、その人、ここにいませんよね?」
知らん。
「いたら殺してやる」
カエデちゃんと2人きりなんだぞ!
邪魔すんな!
「ナナカちゃんを呼びます?」
「いや、たとえ、つけてたとしても、俺は透明になってるし、撒いているはずだ」
「ですか……でも、怖いですね」
確かに……
フロンティアにはナナポンを連れていけばいいが、それ以外が怖い。
「よし! 聞いてみるか!」
「誰に?」
「ハリー。カエデちゃん、ちょっと待ってて」
俺はカバンを持つと、立ち上がり、部屋を出た。
そして、洗面所に行くと、服を脱ぎ、TSポーションを飲む。
すると、鏡に映る俺が沖田君からエレノアさんに変わった。
俺はすぐに黒ローブを着込み、部屋に戻る。
「お待たせ! ふっ」
俺は長い髪を払い、かっこつけた。
「先輩、以前から思ってましたが、絶対にミステリアスの意味をはき違えてます」
うっさい。
「さて、ハリーに聞いてみるかね……」
俺はカエデちゃんの横に座ると、スマホを取り出す。
「連絡先を聞いたんですね」
「一応、護衛らしいし、何かあったら連絡しろってさ。あ、カエデちゃんは声を出すなよ」
巻き込みたくない。
「わかってますよ。脇腹をつついてもいいですか?」
「ダメ」
そういうのは沖田君にやってあげてよ。
押し倒すから。




