第041話 タクシーって怖いね
「よし! 話はまとまったわ!」
ナナポンはダークサイドに落ちたのだ。
元々、ダークっぽかったけど。
「話がきれいにまとまって良かった。それにしても、お前ら、仲良くなったな。ナナポン、いつも小声でオドオドしてたのに」
そういや、昨日はオドオドしてたのに今日はしてない。
声の大きさも普通だったし、大声でツッコんでいた。
さっき、サツキさんと2人でいた時は縮こまってたけど。
「ナナカちゃんの男性恐怖症みたいなのが治ったんですかね?」
カエデちゃんがサツキさんを見る。
「さあ? というか、エレノアは大丈夫なのに、私にオドオドするのはなんでだ?」
「エレノアさんはかっこいいから…………ギルマスは…………」
ナナポンがそっと目を逸らした。
「かっこいい!? このバカが?」
「バカって言うな」
バカじゃない。
俺はバカじゃない。
「テレビで見てた時もそうでしたけど、今日も剣を振ってたのがかっこよかったです」
ふっ、剣術レベル5だもん。
あれ?
「昨日も沖田君を見てるわよね?」
あっちの方がかっこいいと思う。
刀だったし。
「沖田さんは人斬りっぽいから嫌です。怖いです」
おい!
「誰が人斬りだ!」
「あと、さっき肩を触ってきたから嫌です。セクハラです」
…………………………。
「100万払ったじゃん」
「先輩、それはないです」
ああ……カエデちゃんが冷たい。
「エレノアさんならいいですけど、昨日の沖田さんは嫌です」
どっちも俺ですけど?
「ちょっと待て。私は? 現役時代はよくかっこいいって言われたぞ!」
自分で言うかね?
この人、こういう残念なところがあるんだよなー。
「いや、脅してきた人は…………」
そりゃそうだ。
「サツキさん、あなたには優雅さとミステリアスさがないのよ。そう、私のように」
俺は足を組み、自分の長い髪を手で払った。
「黙れ、女装野郎」
…………それは言ったらダメだよぅ。
「先輩の趣味やギルマスのかっこ悪さは置いておくとして、ナナカちゃんはこれから先輩とやれそうってことでいい?」
趣味じゃねーってば。
「エレノアさんなら大丈夫です」
「まあ、フロンティアの人がいないエリアなら大丈夫でしょう。ギルマス、それでいいですか?」
カエデちゃんがサツキさんに確認する。
「いいだろう。さっさとレベルを上げてAランクになれ」
「Aランクか……なれますか?」
ナナポンがサツキさんをじっと見た。
「なれる。お前はウチでは有望だったし、レアスキルもある。元Aランクの私を信じろ」
そういや、この人、Aランクだったな。
「わかりました。頑張ります!」
ナナポンがやる気を見せている。
「話は終わりかな? じゃあ、私は帰るわ。カエデちゃん、タクシーを呼んでくれる?」
「わかりました」
カエデちゃんがスマホを取り出し、操作しだした。
「あ、じゃあ、私も今日は帰ります」
ナナポンがそう言って、立ち上がる。
「タクシーだし、送っていこうか?」
「あー、でしたら中野駅まで送ってくれません?」
「いいわよ」
中野ならそんなに遠くない。
俺とナナポンはタクシーが来るまでの間に今後の冒険について話し合った。
そして、カエデちゃんからタクシーが来たことを聞くと、サツキさんの許可をもらい、裏口から出た。
裏口から出ると、駐車場の前に1台のタクシーが止まっているのが見える。
俺とナナポンは警備員に会釈をすると、歩いてタクシーまで向かった。
俺達がタクシーに近づくと、後部座席のドアが自動で開く。
俺が先に乗り込もうとして、タクシーのシートに片足を乗せ、身体の半分と顔をタクシーの中に入れると、タクシーの後部座席に人が乗っているのが見えた。
その人は金髪の女の人であり、日本人ではなかった。
俺はその女の人の手に持っている黒い塊を見て、顔をしかめる。
どういうことだ?
さっきまで後部座席には誰も乗っていなかった。
この女、俺が乗ろうとしたら急に現れたぞ。
「ナナカさん、悪いけど、人と会う約束してたのを忘れてたわ。ごめんだけど、やっぱり電車で帰って」
俺はそのままの体勢でナナポンに謝った。
「え? え?」
ナナポンは状況を理解できておらず、混乱している。
多分、ナナポンは透視でタクシーの中の状況が見えているのだろう。
「また縁があったら会いましょう。その時はお詫びにランチをごちそうするわ。じゃあね」
俺はそう言って、タクシーに乗り込んだ。
すると、タクシーの自動ドアが閉まり、タクシーはすぐに発進した。
それでもまだ金髪の外人は俺に黒い塊……拳銃を向けたままだ。
「目的地を告げていないのに走るのはどうかと思うわ」
「ちょっとドライブに付き合ってくれよ」
タクシーの運ちゃんがそう答えた。
「ドライブねー。お客さんがすでに乗っているみたいだけど?」
俺はいまだに銃を向けている女をチラッと横目で見る。
「相乗りいいかしら?」
女がにやりと笑いながら聞いてきた。
「まあ、いいけど」
「あなた、随分余裕ね? さっきの子が助けを呼ぶと思っているの?」
「さっきの子? ああ、あの子ね。あの子は同じギルドの女性冒険者だからついでにタクシーで送ろうと思っただけ。その程度の関係だから助けはないわね。そんなものは必要ないし」
ナナポンとは無関係ですよー。
「へー、そうなんだ。助けは必要ないの?」
「ないわねー」
「これが見えない?」
これとは拳銃のことだろう。
「ふふっ。面白いわね。どうしようかなー? うーん、聞く?」
「命乞いでもするのかしら? 聞くわ」
金髪女が笑いながら頷く。
「まず、あなたの頭を掴み、捻る。そして、剣を出して、運転席のシートの後ろから突き刺せば、あなた達は終わり」
ただし、運転手が死ぬので俺も事故る。
「私が引き金を引く方が早い」
「ふふっ、弾が入ってないのに?」
その拳銃に弾が入っていないのは最初からわかっている。
俺のカラコンは鑑定コンタクトなのだ。
それに何より、こいつらには殺気がない。
「何故わかる?」
「私が誰か知ってて、こんなことをしたんじゃないの?」
「黄金の魔女…………」
「ふふっ、わかってるじゃない」
わかった?
だったらさっさと銃を下ろせ。
弾が入ってないとわかってても怖いんだよ。