??「バカでクズでどうしようもない変態師匠だなぁ」
「あー、良いお湯でしたね。温泉というのは良いものです」
ホクホク顔で浴衣を着たリディアちゃんがリビングに戻ってきた。
「良かったわね。なんで浴衣?」
ソファーに座り、ミーアから牛乳をもらっているリディアちゃんに聞く。
「ヨシノ様から温泉の素をもらったんです。なんでもその魔法の粉を入れると、家のお湯も温泉になるとか」
うーん、判断に迷うなー。
今度、本当の温泉に連れていってあげようか……
でも、アルクは絶対に拒否するだろうな。
「浴衣は買ったの?」
「ミーアが買ってきてくれました。あ、師匠とカエデ様の分もありますよ」
はたしてミーアはどっちのサイズを買ったんだろうか?
「ありがとー」
カエデちゃんが笑顔で礼を言う。
「ありがと……まあ、カエデちゃんの浴衣姿が見られるから良しとするか」
「日本一周旅行の時に散々、見たじゃないですか」
新婚旅行で全国を回った際、ホテルにも泊まったけど、半分くらいは温泉旅館に泊まっていたのだ。
「見たけど、いつ見ても良いもんなの。可愛いもん」
カエデちゃんを抱きしめる。
「はいはい……」
カエデちゃんは無表情でスマホを弄り始めた。
「なんか最近、冷たくない?」
リディアちゃんとミーアに聞く。
「スキンシップが過剰だからでは? ほぼ毎日、そうしておられます」
「エレノア様だからでは?」
うーん、レア感を出した方がいいか。
「おたくらは? アルクって奥手じゃない? あれ? そういえば、アルクは?」
「ウチはそちらと違って終わってません。アルクはお風呂ですね」
ウチだって終わってないわ。
カエデちゃんは今、サツキさんの影響でソシャゲにハマっているだけなんだ。
「あいつは風呂か……ちょうどいいわね。今後のことを話しましょう」
俺がエレノアさんになっているのはこの話をするためなのだ。
何故なら最高顧問だから!
「はい。陛下は何と?」
実は今日、陛下に呼び出されたのだ。
もちろん、フロンティア王ね。
「陛下はもうアルクが王になっても問題ないと判断されたわ。いつ代替わりしてもいいってさ。それでその時期やらなんやらをこっちで話し合えって」
「ついにですか……」
ついにあなたの天下ね。
「あの、その話し合いにアルク様がおられないのですが……」
ミーアが今さらなことを言ってくる。
「あいつは色々と忙しいからこっちで決められることはこっちで決めようという優しさよ」
「ハ、ハァ……?」
「最高顧問補佐官、ここは大事なところなの。アルクはけっしてバカではないけど、一人で何かができる子じゃないの」
基本的に精神弱者なのだ。
だからこそ、精神がダイヤモンドでできている我々が必要なのだ。
ダイヤモンドの魔女と呼んでくれ。
「それはわかります」
「そのために私達がちゃんと補佐するわけ。わかったらビール持ってきてちょうだい」
「私、カシスー」
「あ、ミーア、アイス」
カエデちゃんとリディアちゃんも便乗する。
「……かしこまりました」
ミーアは困った顔を浮かべながらもキッチンの方に向かった。
「代替わりしたらこっちの世界との関係性はどうするの?」
話を続ける。
「私は交流を深めるべきと思っています。少なくとも、物の輸出入をある程度、解禁することについてはアルクも同意しています」
そこはね。
いつまでも援助を頼り、土地を切り渡すよりもそっちの方が良いだろう。
結構、あっちの世界に行くことも多いが、食料品を始め、こっちの世界でも売れそうな物はたくさんあるのだ。
「どうぞ」
ミーアがビールと酎ハイとアイスを持って戻ってきたのでビールを飲む。
やはりビールを飲むと、頭が冴える気がする。
「やはりそういう交流の窓口が必要になってくるわね」
「誰を外交官にするかという問題がありますからね。私やアルクが直接交渉するのは避けた方が良いです」
その通り。
「やはり交渉事に強いこの黄金の魔女の出番か」
「良いと思います!」
「先輩のどこが交渉に強いんですか……」
カエデちゃんはゲームをしてなさい。
「知名度もある。人の言うことをまったく聞かない。何を考えているかわからない。実に交渉のプロフェッショナルだと思います」
そうだろう、そうだろう。
若干、褒めてない気がするがな。
「無敵の人……あー、アルクちゃんがいないから誰もツッコむ人がいない。人の言うことをまったく聞かず、何を考えているかわからない2人が物事を進めるから明後日の方向に行っている」
カエデちゃん、ミーアが上手く笑えなくなっているよ?
「問題ないわ。この最高顧問がちゃんと高値を付けてあげる」
「お願いします。そういうわけで具体的なスケジュールと交渉の進め方を詰めていきましょう」
リディアちゃんがタブレットを取り出し、色々と書いていく。
この子もこっちの世界に染まったもんだ。
「――いやー、良いお湯だったねー。お風呂が温泉に変わるなんてすごいね。僕、登別に行きたくなったよー」
ご機嫌なアルクが風呂から戻ってきた。
アルクも浴衣姿であり、非常に可愛らしい。
問題は今のこいつがどっちかわからないということ。
多分、ついている方だと思うが……
「アルク、冷蔵庫にアイスがありますよ」
リディアちゃんがそう言い、タブレットをソファーの後ろに隠した。
「うん……え? 何を隠したの?」
「隠してません。さあ、アイスを取りに行きなさい」
「えー……絶対にロクなことじゃないでしょ」
「妻を疑うんですか!? ひどい……」
ひどいのは君だよ。
「アルク、温泉が良かったでしょ? だから今度、温泉にでも行かないかってことで話し合ってたの」
素晴らしいフォロー。
やはり天才とは俺のことを言うのだ。
「それは良いことだと思うけど、じゃあ、なんで隠すの?」
うん……
「ダブル不倫旅行だから?」
「君の頭はいつも沸いてるね。生命の水を返すから一回死んでみなよ。治るかもよ?」
いや、治らない。
「信じられないのはわかるわ。でも、ごめん。私、リディアちゃんのことを愛し……」
いや、ガキだな……
初めて会った時からまったく変わってないガキだ……
浴衣を着た中学生にしか見えない。
「アルクもだけど、リディアちゃん、全然、成長しないわね」
全然、惹かれない。
ヨシノさんを見習ってほしいものだ。
「失礼な! 縦にも横にも3センチ大きくなっています!」
そう言われたのでリディアちゃんをじっくり見たが、まったくわからなかった。
そして、アルクの方もじっくり見たのだが、こちらも同様だった。
「誤差よ。中学生カップルじゃない」
「君、クビね。遥か遠くの地の領地貴族に栄転してあげる。そこで魔物でも狩ってなよ」
お前に人事権はねーよ。
「私がそこで国を興し、あんたらの国を滅ぼしてあげようか?」
「大丈夫。もし、国を興しても1年も持たずに滅びるから。だって、ついてくる人がナナカしかないでしょ」
うーん……あいつしかついてこなさそうだ。
ヨシノさんは絶対にないし、下手をすると、カエデちゃんもついてこなさそう。
やっぱりバカでクズでどうしようもない変態だが、俺の真の舎弟……いや、仲間はナナポンしかいないようだ。
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