何の?
平日の昼間。
カエデちゃんも仕事でいないので何かの書類仕事をしているチビ2人を眺めていると、電話が鳴ったので出たのだが……
「ハァ? またキュアポーションが欲しい? あんた、何言ってんの?」
電話の向こうからほざいたことを言うバカがいる。
『いや、プレジデントがどうしても欲しいって。なんか孫の発表会があるんだけど、体調が悪いんだって』
知るか。
「どうでもよくない?」
『孫が可愛くて仕方がないみたいよ』
まあ、それはわからないでもない。
俺は子供が好きだし、お爺ちゃん、お婆ちゃんが孫が好きなのも理解している。
しかし、そのためにキュアポーションって。
「いくらかかると思ってんの?」
『その辺を交渉してこいって言われた』
「マスクしていけ」
『最近はそういうのにうるさいんだってさ』
知らねー。
「埒が明かないわ。あんた、今どこよ?」
『家』
例のマンションね。
「ちょっと待ってなさい」
そう言って、電話を切った。
「いかがなされましたか?」
ミーアがキッチンから顔を出して、聞いてくる。
「孫の発表会のためにキュアポーションが欲しいんだって。アメリカ人ってバカしかいないのかしら?」
クレアとハリー、さらにはシャワーを浴びながらタバコを吸うというバカ。
「向こうも君を見て、日本人ってバカしかいないんじゃないかって思ってんじゃない?」
アルクが仕事中のくせにわざわざ手を止めてまで余計なガヤを入れてくる。
「私はフロンティア人って思われているから大丈夫よ」
「やめてよ……」
知るか。
「アルク、例のマンションまで運んでちょうだい」
「わかった。リディア、ごめん。ちょっと待っててね」
アルクが一緒に仕事をしているリディアちゃんに謝る。
「いえ、そちらも大事なことです。師匠、今後のオーシャン王国のことを考えると、アメリカとのパイプは大事です。上手い具合に恩を売っておいてください」
「僕は1人でも戦うからな! 国名は変えない!」
無視無視。
「アメリカとのパイプが大事なの?」
「エリアを売ったことを抜きにしても現状では一番取引があるのがそこの国ですからね。今後のことを考えてもまずそこかこの日本になると思います」
ふむふむ。
「わかった。じゃあ、そんな感じでいく。アルク、行くわよ」
「君、その格好で行くの?」
俺の服装はだるだるのTシャツにハーフパンツだ。
さっきまで沖田君だったから仕方がない。
電話に出るため、急遽、TSポーションを飲んだのだ。
「あいつらに会うのに格好なんてどうでもいいわ」
どこぞのマンションだし。
「それもそうだね。じゃあ、飛ぶよ」
アルクの転移でいつものマンションの一室に飛ぶ。
すると、けだるそうなクレアが頬杖をつきながらテーブルについていた。
「不機嫌ね……ん?」
何だ、この匂い?
ちょっと臭いような……
「すごい匂いだね。というか、ラーメン屋の匂いだ」
俺とアルクが顔を見合わせて、首を傾げていると、クレアが無言でキッチンの方を指差す。
まさかと思い、キッチンを覗くと、寸胴鍋の前に立つハリーがいた。
「ハリー?」
「よう、エレノア。今日は一段と生活感があるというか、彼氏の家にお泊まりした彼女みたいだな」
男物の部屋着を着てるからな。
「私のことはどうでもいいわ。あんた、何してんの?」
「ラーメンを作っている」
ラーメンバカ……
この男、ついに自分で作りだしたぞ。
「店でも開く気?」
「それもありだな」
マジかよ……
でも、ちょっと流行りそうだなって思っている自分もいる。
こいつ、知名度も高いし、人気もあるし。
「……その時は奢んなさいね」
最低でも味玉をサービスしろ。
「貸し切りにしてやるよ」
どうも。
「ねえねえ、ラーメンってどうやって作るの?」
アルクは興味を持ったようだ。
こいつもラーメンが好きだしな。
「まずは出汁を取っているんだよ。出汁が大事だからな」
「へー」
アルクはもうダメかもな。
そのうち、オーシャン王国にラーメン屋ができるかもしれん。
「見学でもさせてもらいなさい。ハリー、近隣住民に迷惑をかけないようにね」
「わかってるよ。しかし、日本の家のキッチンは狭いわ」
おめーらがでかいんだよ。
俺はリビングの方に戻ると、クレアの対面に座る。
「あいつの仕事は何?」
「あいつのラーメンブログでも見る?」
そんなことまで……
「結構。ラーメンバカは放っておいて本題よ。たかが孫の発表会のためにキュアポーションはアホすぎるでしょ」
「プレジデントも高齢だからねー」
クレアは興味なさそうにタバコを吸い出した。
「キュアポーションは表に出さないって言ったわよね?」
「そうね。実際、表には出てないでしょ。でも、裏の人間は皆、知ってるわ。というか争奪戦よ。まあ、あんたが消えたからターゲットが私になっているんだけどね。おかげで、こんな臭い家から出られない」
ガンも治るポーションだからな。
高齢の権力者は是が非でも手に入れたいだろう。
でも、エレノアはもう表舞台には出てこない。
だから窓口のクレアが狙われるわけだ。
「あんた、大丈夫なの?」
「問題ないわよ。私はそっちの揉め事が本業なのよ? 今引きこもっているのはウチの会社にいる不穏分子をあぶり出すため」
ダーティーだ。
俺が家でゴロゴロしている間にこっちはこっちでドラマがあるんだな。
「大変ね」
「それ以上に見合うものがあるからいいの。そんでもって今回の大統領命は非常にどうでもいい」
本当に興味なさそうにタバコをふかす。
「キュアポーションはレベル1でもいいわけ?」
「いいんじゃない? そこまで大事ってわけじゃないでしょうからね。でも、将来はわかんないわよ」
ふむふむ……
「大統領って高齢なんだっけ?」
「そうね」
これだな。
「大病になって命が危なくなったらいつでも言いなさいね。助けてあげるから」
「あら、優しい。私なら高く売るわね。お金じゃない意味で」
わかっている。
リディアちゃんが言っているのはそういう意味なのだ。
「大統領はまだやるわけ?」
「来年選挙があるけど、安心なさい。対立候補も爺さんよ」
「ふふっ、国家と自分の命のどちらを取るかしら?」
「自分が国家でしょ」
わかりやすい。
「世界を支配する日も近いか。やはり私が世界を……いや、めんどくさそうだからやめよ」
闇の女王に任せよう。
俺はカエデちゃんと遊ぶ。
「あんたって本当に自分のことしか頭にないのね」
「あんたもそうでしょ」
お金大好きおばさんのくせに。
「まあね。それで? キュアポーションはどうするの?」
「渡しておいて。ちょうどたまたまレベル1をドロップしたから」
そう言って、テーブルの上にキュアポーションを置く。
「スライムでいい?」
「いいわよ。アルクー」
キッチンの方に声をかける。
すると、カップラーメンを持ったアルクが戻ってきた。
「おみやげもらったー」
「良かったわね」
夫婦仲が悪くなってクーデターされたらハリーのラーメン屋で雇ってもらいな。
「話が終わったから帰るわ」
「はいはい。じゃあね」
「また来いよー」
「バーイ」
俺達は転移で元いたソファーに戻る。
「ただいま」
「おかえりなさい。どうでした?」
リディアちゃんが顔を上げて聞いてくる。
「キュアポーションの営業をしておいた」
「ありがとうございます。時にアルク、なんか臭うけど……」
「え? そう?」
指摘されたアルクが自分の服を匂う。
「ラーメンの匂いでしょ」
「あー、あれか」
アルクが納得すると、すぐにキッチンからメイドがやってきた。
「アルク様、お風呂に入りましょう。服は洗濯いたします」
「そんなに臭う?」
「奥様から指摘されたらすぐに動きましょう。そういうことです」
あ、そうなんだ。
「わかった」
アルクが頷いて立ち上がる。
「やーい、やーい。臭いぞー」
「ガキか……君も同じところにいたでしょ」
「私はリビングにいた」
キッチンにいたお前とは違う。
「最高顧問、少々、お待ちを」
ミーアがこちらにやってきて匂いを嗅ぐ。
「え? 匂う?」
「タバコの匂いが……」
クレアが吸ってたな……
「大人な匂いじゃない?」
「少なくとも、カエデ様は嫌がると思います」
それはダメだ。
「風呂に入るか。アルク、一緒に入る?」
「………………」
アルクは無言で中指を立てると、そのままお風呂の方に行ってしまった。
「失礼なガキだな。成長具合を確認してやろうと思ったのに」
というか、それ、どこで教わった?
ガラの悪いアメリカ人2人のような気がするが。
「最高顧問はアルク様の後でお入りください」
「はいはい」
「それと先程の発言はあまり人前ではしないでくださいね」
んー?
「引いた?」
「ちょっとだけ……」
ふーん……
「本当は?」
「かなり」
あっそ。
明日、本作の4巻が発売となります。
電子特典のSSも付きますし、是非とも読んで頂けると幸いです。(↓にリンク)
また、これが今年最後の更新となります。
今年は書籍だけでなく、コミックも発売され、非常に嬉しかったです。
これも皆様の応援のおかげであり、大変ありがたい限りです。
本編は完結しておりますが、これからもおまけを書いていきますので引き続きよろしくお願いいたします。
良いお年を(@^^)/~~~




