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第020話 嫌なことの後には良いことがある…………それが人生


 俺はレベルが4になった後も探索を続け、スケルトンを狩っていった。


 マジックワンドによる魔法をやめ、剣で戦っているのだが、苦労はない。

 骨を斬るのは剣が傷むんじゃないかとも思ったが、杞憂だった。


 さすがは100万円もするショートソードである。

 切れ味も悪くないし、刃こぼれもない。


 俺は順調にスケルトンを狩っていく。


 なお、このクーナー遺跡は昼間はスケルトンしか出ない。

 ただ、夜になると、ゾンビやらゴーストなりが出るらしい。


 なので、夜にここに来る冒険者は少ない。

 だって、怖いもん。

 俺もやだ。


 昼間はスケルトンのみだから対策もしやすいが、夜になるとお化け屋敷に変わる。

 誰が好き好んで行くものか。


 おそらく、平日の昼間なのに他の冒険者を見るのはそういう理由もあってのことだろう。


 俺は廃墟の建物の間の道を進んでいく。

 そして、なんとなく十字路を曲がった。

 すると、道の先にある広場で他の冒険者達がスケルトンと戦っているのが見える。


 その冒険者達は男2人、女2人で4人パーティーだ。

 だが、スケルトンが5体もいる……


 5体って……

 ついてないヤツらだなー。


 俺は憐れみながらも、その戦闘を観察しているが、正直、危ない気がする。

 スケルトンごときにとも思うが、スケルトンだって、剣を持っている。

 しかも、冒険者の4人は若いし、装備も初心者そのものである。

 かろうじて、武器と軽そうな胸当てをしている程度だ。


 あれは学生かな?

 大学…………いや、高校生だろう。

 でも、保護者がいねーんだけど……


 18歳以下は必ずDランク以上の引率者がいないといけないはずだ。

 死んだか、逃げたか、幼く見えるが18歳以上か、だな。


 しかし、どうしよう?

 あいつらは目に見えてピンチだ。

 助けた方がいい。

 でも、俺がよく読むネットの攻略サイトにある序盤の手引きでは冒険者は自己責任だからピンチになっている冒険者がいても助けない方がいいと書いてあった。


 無視が妥当か?

 でも、さすがに子供だし……


 俺が悩んでいると、4人の中の女子1人がこけた。

 ターンをしようとして、足がもつれたのだ。


 チッ!


 俺はマジックワンドをカバンに入れ、代わりにショートソードを取り出すと、駆けた。


「どきなさい!」


 俺は駆けながら4人に指示すると、2人の男子がスケルトンから距離を取った。

 だが、女子1人はこけたままだし、もう1人の女子はこけている女子を起こそうとしている。

 そして、そんな女子2人に向かってスケルトンが剣を振り上げた。


「遅い!」


 俺はスケルトンが剣を振り下ろす前に右足を踏み込み、スケルトンの頭を突く。

 頭を突かれたスケルトンはそのまま頭が砕け、煙となって消えた。


 俺はそのまま、周囲にいる残り4体に向かって剣を払う。

 すると、2体のスケルトンの胴体が上下に分かれ、砕けた。


 俺はさらにノロノロとしているスケルトンの1体の首を刎ね、最後の1体も肩から斜めに一刀両断してやった。


 スケルトンはあっという間にすべて消え、5本の剣だけを残した。


 俺、強すぎ!

 まあ、スケルトンが雑魚いのと100万円のショートソードのおかげもある。


 俺はショートソードをカバンにしまうと、ポカンとしている4人を無視し、しゃがみ込むと、こけている女子の足を見る。


 もちろん、よこしまな気持ちじゃない。

 こけている女子の足が変な方向に曲がっているからである。


 これは折れてるわ。


 ひねっただけで折れるのは変だと思うが、フロンティアではこういうこともあるらしい。

 要は魔力の恩恵を受け、身体能力が上がったことの弊害で力の加減をミスるのだ。


「ポーションは持ってる?」


 俺はそばに立ったままの女子を見上げ、聞く。


「い、いえ、持ってません」

「学生さん? 引率者は?」

「あ、その、いるんですけど、トイレに行っています」


 トイレ待ちのところを襲われたのか?

 ホント、運のないヤツらだわ。


「引率者は身内? 雇った?」

「雇いました」


 じゃあ、ポーションを持ってても分けてくれんな。

 50万もするポーションを使うわけがない。


 このこけている女子は今はまだアドレナリンや混乱やらで静かだが、すぐに騒ぎ出す。

 だって、折れてるもん。

 めっちゃ痛い。


 仕方がない…………

 まあ、いっぱいあるし、大金を手に入れたおすそ分けだ。


 俺はカバンから回復ポーションを取り出すと、こけている女子の足に直接かける。


「冷たっ! って、え!?」


 女子は回復ポーションをいきなりかけられたことでびっくりしたが、自分の足を見て、さらにびっくりしたようだ。

 そりゃそうだ。

 曲がってるもん。


 だが、変な方向に曲がっていた足はポーションをかけると、すぐに元の形に戻った。


「痛みは?」

「え? え?」

「いーたーみーは?」

「あ、痛くないです」


 じゃあいいや。

 さすがは俺が作ったポーションだ。

 質がいい。(当社比であり、個人の感想です)


 俺はスッと立ち上がると、落ちている剣を拾い始める。


「お、おい、待てよ! それは俺らのだろ!」


 避けていた男2人の内、1人の男が声を荒らげた。


 この子は何を言ってるのだろう?


「私が倒したのよ?」

「頼んでない。これはハイエナだ」


 ハイエナとはネトゲ用語だ。

 要はこいつらが頑張ってダメージを与え、弱らせたところを俺がトドメを刺したと言いたいんだろう。


 このガキ、マジで言ってる?

 この子が死んだら次はお前らだったぞ?


 あー……攻略サイトの序盤の手引きで言ってたことはこれかー。

 助けても感謝されるとは限らない。

 むしろ、こうやっていちゃもんをつけられるんだ。

 確かにめんどくさいし、不快だ。


 でも、俺は大人だから!


「そう…………じゃあいいわ」


 俺は剣を拾うのをやめた。

 別にそこまで欲しいわけじゃない。

 5000円のスケルトンの剣なんか2500万円を儲けた俺の前では小銭だ。

 これは勉強代だろう。


「あ、あの……」


 足を治してあげた女子が立ち上がろうとする。


「もう少し、休んでいなさい。そのうち引率者も戻ってくるでしょう」


 しかし、戻ってくるのが遅い気がする。

 うんこだな。


 俺はこれ以上、ここにいても不快なだけなのでこの場を去ることにした。


「礼は言わないからな。俺らだけでやれたのに経験値を取られたわ」


 俺が歩いていると、後ろから非常に不快な捨て台詞が聞こえてきた。


 ……………………。


「そう……ごめんなさいね」


 俺、大人!

 ちょー大人!


 俺はちょっと歩くスピードを速め、この場を去る。


「あー……」


 来た道を引き返していると、腹を押さえる同い年くらいの男とすれ違った。

 やっぱりうんこだったようだ。


 俺は大人。

 26歳の大人。

 心が広いのだ。


 ニコニコ…………




 ◆◇◆




「ってことがあったんだよ、カエデちゃん! まーじで死ねと思ったわ!」


 俺は高級で有名な焼肉屋でビールを一気飲みし、正面にいるカエデちゃんに愚痴る。


「あー、嫌なのに当たりましたねー。そらきつい」


 カエデちゃんがネギタン塩を焼きながら同意してくれる。


「命を助け、50万もするポーションを使ってやったのに、なんであそこまで言われにゃならんのだ!」

「わかります、わかります、ホント、そういうのがいるんですよ。あ、先輩、おかわり飲みます?」

「飲む飲む。カエデちゃんはいい子だなー。あのクソガキとウンコ野郎と同じ人類とは思えない」

「先輩、食事中です」

「あ、ごめん」


 ウンコ野郎はないね。


「でも、本当にそんなんばっかですよ。だから余計な手出しはしない方がいいって思われてるんです」

「身をもって知ったわ。俺はただ『ふっ、名乗る者ではないさ』って言いたかっただけなのに!」

「しょうもな…………先輩、ネギタン塩が焼けましたよ。どうぞ、どうぞ」


 俺は一瞬、呆れ切った顔をし、すぐに可愛らしい笑顔になったカエデちゃんに勧められるがまま、ネギタン塩を取って、食べる。


「美味いなー。焼肉に来るの、マジで久しぶりだわ」

「私もです。美味しいですね」


 俺はあの後、すぐに帰還し、カエデちゃんをご飯に誘った。

 すると、カエデちゃんは明日が休みだったので前に言っていた焼肉に行くことにしたのだ。

 もちろん、俺は男に戻っている。


「でも、クーナー遺跡は楽しかったでしょ?」

「まあね」


 実際、あいつらのことを除けば楽しかった。


「あそこは適度に弱いスケルトンしか出ないので人気なんですよ。ドロップ品の剣もまあ、そこそこしますし」


 スケルトンがドロップした剣は1本5000円で売れた。

 確かにそこそこ儲かる。


「ネットで初心者を卒業したらあそこって書いてあったけど、マジだね。確かに良い所だわ」


 スケルトンは動きが速くないし、ウルフみたいな奇襲もない。

 ちゃんと対策をすれば、まずピンチにはならない。

 まあ、なってたヤツらもいたけどね。

 ばーか。


「ホント、良い所ですよ。ダメなところを挙げるとすると、人気がゆえに人が多いことです。そして、人が多いと質の悪い冒険者も増えます。ね?」

「ホントだわ。すれ違うたびにジロジロ見てくるしよ」

「いや、あんな格好をした人がソロでいれば誰だって見ますよ」


 まあね。

 多分、俺も見ると思う。


「あー、うぜ」

「荒れてますねー。ほら、飲んで、飲んで。食べて、食べて」

「だなー。あ、カエデちゃん、そのカルビ…………何でもない」


 4枚目だよって言おうとして、途中でやめた。


「先輩、その数を数える癖をやめてください。お金持ちなんでしょ」


 ほら、言われた。


「そうなんだけどねー」

「頼めばいいじゃないですか」

「まあねー。じゃあ、カエデちゃん、このミスジって頼んでみる? よくわからないけど、高いし」


 金はある!


「庶民が金を持ったらこうなるって典型ですねー」

「じゃあ、ハラミにするか」


 ハラミも安くはないけど。


「頼みましょう。私も庶民です。ついでに特選カルビもいっときましょう。あ、おかわり飲みます?」

「飲むー」


 俺達は食べて飲んで楽しんだ。

 そして、カラオケに行ってストレスを発散した。


 若いね!


お読みいただきありがとうございます。

皆様の応援のおかげで今日もローファンタジー部門で日間1位でした。


そういうわけで本日もお祝いということで17時頃にもう1話投稿します。

引き続きよろしくお願いいたします。

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まあチートスキル持ちだろうが主人公が色々ズレてるキャラだろうが、冒険者の日常ってこんなもんよって回なのかな。 この先大金稼ごうが、予定狂って有名冒険者になろうが、他人との付き合いが面倒臭いとか気分悪…
スケルトン5体に襲われていて押されていて一人やばかったとはいえ、頼んでもいないのに乱入して全滅させたのはまずかったですね。 主人公が馬鹿だからそうなったんでしょうけど2体位さっとたおしてあとは任せた…
[一言] 読者さまがおりゅ、、、
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