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第013話 説明


 俺は家の最寄の駅で人を待っている。

 相手はもちろん、カエデちゃんだ。

 他にいねーし。


 エレノアが俺であることがカエデちゃんにバレた。

 その追及がこれからある。


 カエデちゃんはすぐに俺の家に来ようとしたが、俺はそれを止めた。

 単純に家を片付けたいからである。


 ポーションはすべてカバンの中だが、他にも隠さないといけない本とかDVDがあるのだ。

 俺は急いで家に戻ると、見せたらダメなものをカバンにしまい、掃除機をかけるなどの掃除を行った。


 それらの作業を終え、待ち合わせの駅で待っているのだ。


 俺が駅で待っていると、俺を見つけたカエデちゃんがニコニコと笑い、手を振りながらやってきた。

 服は当然、ギルドの制服から私服に着替えている。

 今日もかわいらしい格好である。


「お待たせしました」

「うんにゃ。たいして待ってない」


 本当に待ってない。

 5分くらいかな?


「先輩……なんでジャージなんです?」


 俺はジャージにサンダルだ。

 カエデちゃんと会う格好ではない。

 ましてや、家に女の子を呼ぶにはまったくふさわしくない。


「理由があんの。それにしても本当に俺の家でいいのか?」


 ドキドキ。


「外では話せない内容でしょうから」


 まあ、そうなるね。


「じゃあ、おいで。こっち」

「はい。お邪魔します」


 俺はカエデちゃんを連れて、駅を出ると、歩いて自宅に向かう。

 しばらく歩くと、ぼろい古アパートが見えてきた。


「あれ」


 俺は自分のアパートを指差す。


「趣がありますね」


 カエデちゃんは言葉を選ぶのが上手だなー。


「引っ越しを考え中」

「でしょうね」


 俺とカエデちゃんはそのまま歩く。

 俺は自分の部屋に入ろうとしたが、お隣さんが自分の部屋の玄関でタバコを吸っているのが見えた。


「こんにちはー」


 俺はお隣さんに挨拶をする。


「おう! お前、最近、昼間から見る、な…………」


 お隣さんは俺の後ろにいるカエデちゃんを見て固まった。


「彼女!」


 俺はテンション高く、カエデちゃんを指差す。


「違いますねー」


 即、否定された。


「お前、この前の女は?」


 この前?


「誰っすか?」

「いや、長い黒髪の女。お前のそのジャージを着てた」


 あ、そういえば、髪を染める前にこの人に会ってるわ。


「いや、別の女の子の前でそういうことを言わないで下さいよ」


 空気、読まんかい。

 カエデちゃんがすごい白い目で見てんじゃん。


「いや、すまん」

「気を付けてくださいよー。ほら、カエデちゃん」


 俺は玄関の扉を開けると、カエデちゃんを押し込む。

 そして、俺も部屋に入ると、扉を閉めた。


「いらっしゃーい」

「……お邪魔します」


 カエデちゃんの声が冷たい。


「どうしたの?」

「先輩、彼女いたんですか?」


 すげー、こえー。


「いない、いない。この家に女子を…………というか、人を呼んだのは初めて」


 悲しいな、おい。


「じゃあ、さっきの人が言ってた人は?」

「その辺も含めて説明するわ。まあ、上がってよ」


 俺はカエデちゃんの肩を掴み、急かす。

 カエデちゃんは無言で靴を脱ぐと、部屋に上がった。

 そして、キッチンを抜け、部屋に入る。


「まあ、想像通りの部屋です」


 カエデちゃんが部屋を見渡しながらつぶやいた。


「ね? カエデちゃんをお持ち帰りできないでしょ?」

「ちょっと嫌ですねー」


 だろうね。


「まあ、座ってよ。座布団もないけど」


 カエデちゃんは俺に言われて、女の子座りで座った。

 それを見た俺もカエデちゃんの近くに座る。


「何か飲む?」

「何があるんです?」

「コーヒー、ビール、酎ハイ、水道水、回復ポーション!」

「ビールください」


 あれ?

 滑った?

 しかも、ビールなんだ……


 俺はキッチンに行くと、缶ビールを2つ取り出し、部屋に戻った。

 そして、カエデちゃんにビールを渡しながら座る。


「かんぱーい!」

「かんぱーい」


 俺とカエデちゃんはビールを開け、飲みだした。


「で? 説明してください」


 ビールを一口飲んだカエデちゃんが説明を求めてきた。


「どこからどこまで話そうか…………」

「全部です」


 全部かー……


「えーっとね、まずなんだけど、俺が初めてフロンティアに行った時にさ、最初からスキルがあったんだよね」

「知ってます。レベル5もある剣術でしょ?」

「それなんだけどさー、もう1つあったんだわ」

「え? 何度も確認しましたけど、1つでしたよ?」


 やっぱりカエデちゃんには見えていない。


「それが不思議。確かにあるのにカエデちゃんには見えていない。多分、他の人もだと思う」

「そんなことが……あー、だから先輩がしつこく確認してきたんですね」


 しつこくはない。


「気になっただけ」

「言えばいいのに」

「あたおか認定されたくないし」

「大丈夫…………いえ、それで何のスキルです?」


 おい!

 お前、すでにあたおか認定してるだろ!


「錬金術」

「あたおか?」

「マジ」

「…………回復ポーション…………え? 作ったの!?」


 理解がはやーい!


「そうそう。薬草と純水で作れる。もっと言えば、純水も作れる」

「は? 何ですか、そのスキル? ヤバすぎでしょ」

「ヤバいでしょ。しかも、他人からは見えない」

「…………そりゃあ、金儲けを考えますね」


 でしょ! でしょ!

 カエデちゃんならそう言うと思ったよー。


「実際、儲かった。見たまえ、この札束を」


 俺はカバンから200万円を取り出し、見せびらかす。


「うん、それを渡したのは私ですんで知ってます」


 そういや、そうだわ。


「だよねー」

「先輩、ちょっと作ってみてくださいよ」


 見せた方が早いか。


 俺はカバンからペットボトルの水と薬草を取り出した。


「まず、この水を純水に変えます」


 俺はペットボトルを持ち、見せつける。

 そして、じーっと見つめる。


「あ、ちょっと光った!」

「でしょ!」

「ちょっと見せて下さい」


 カエデちゃんは俺の手からペットボトルを取り、じーっと見つめる。


「いや、水が純水に変わってもわかんないでしょ」

「わかりますよ。確かに純水ですねー」

「ん? わかるん? 見分け方があんの?」


 俺にはわからん。


「先輩にだけは教えてあげます。これは言ってはいけないことなんですが、私は鑑定のスキルを持っているんです」


 へー、すごい。


「そうなんだ、すごいね。だったらいちいち奥に行かないでその場で鑑定してよ」


 毎回、奥に引っ込んでんじゃん。


「誰が何のスキルを持っているかは言ってはいけないんです。ましてや、鑑定は貴重なスキルなんで特に厳禁です」

「持っている人が少ないの?」

「ですね。でも、ギルドには絶対に鑑定のスキルを持っている人が必要です。だから今のギルマスが私を誘ってくれたんですよ」


 鑑定が貴重だからか……


「なるほどね。お前、それで食っていけるじゃん。ブラックなら辞めれば?」

「今のギルマスには恩義があるんです。拾ってくれましたし、パーティーリーダーでしたからね」


 いい上司ですな。

 あ、俺の元クソ上司を思い出した。

 いかん、いかん。


「じゃあさ、これが何かわかる?」


 俺はカバンから丸薬を取り出す。


「んー? 薬ですか? …………眠り薬? さいてー」


 カエデちゃんが腰を浮かし、少し俺から距離を取った。


「飲んだら一瞬で眠れるよ。しかも、6時間は起きない」

「さいてー…………これも作ったんです?」

「そうそう。俺のスキルはレベルが上がればレシピが増えていくんだよ。今は…………6種類かな?」

「この眠り薬、回復ポーション、純水…………あとは」


 カエデちゃんが俺のカバンを見る。


「これか……」

「え? わかるの?」


 これがアイテム袋ってわかったの!?


「先輩、さっきこのカバンから回復ポーションを10個出しましたよね? このサイズのカバンに10個も入りません」


 あー……そういえば、5個しか入んないわ。

 だから10個作ったのに5個しか売らなかったんだ。


「ミス、ミス。まあ、たまにはね」


 誰だってミスはするよ!


「他にもめっちゃミスしてますけどね」

「そうなの?」

「聞きます?」

「ううん。いいや」


 どうせ、ステータスカードだろう。

 俺もスキルやレベルがまったく同じはマズいんじゃないかと気付いたし。


「このアイテム袋の材料は何です?」

「入れ物と輪ゴム」

「は? 輪ゴム?」


 カエデちゃんが呆ける。


「そ、輪ゴム」

「じゃ、じゃあ、私のこのカバンでやってみてくださいよ!」


 カエデちゃんが肩から昨日もかけていた茶色いポシェットを外して渡してきた。


「いいけど、サイズは? 輪ゴムの量で決まるんだけど? 1つ1キロ」

「…………じゃあ、100キロで」


 俺はカバンの中から輪ゴムを出すと、カエデちゃんのポシェットを開け、中身を取り出す。

 ポシェットの中には財布やスマホ、小袋、飴などが入っていた。


 俺は空になったポシェットに輪ゴムを100個入れ、じーっと見る。

 すると、カエデちゃんのポシェットがちょっと光って、すぐに収まった。


「はい。できた」


 俺はカエデちゃんにポシェットを返す。

 カエデちゃんはポシェットを両手で受け取り、ずーっと、それを見ていた。


「カエデちゃん?」


 どったの?


「ホントにアイテム袋になってる…………輪ゴムでアイテム袋」


 スキルで鑑定したようだ。


「でしょ?」


 俺が聞くと、カエデちゃんが口元を引きつらせながら顔をゆっくりと上げる。


「…………1000万です」

「ん?」


 何が?


「アイテム袋はおおよそですが、キロ単位10万円で取引されます。100キロは1000万円になります」


 ……………………。


 俺は自分の白いカバンを手に取った。


「これ、1億…………」


 輪ゴムを1000個入れた。

 だから容量が1000キロある。


「……………………」

「……………………」


 俺とカエデちゃんは無言で顔を合わせた。


「カニを食べに行きましょうか……」


 カエデちゃんが口を開く。


「うん……世界一周旅行も行く?」

「それは老後で…………」

「おかわりいる?」


 俺はビールを指差した。


「はい…………」


 俺は立ち上がり、冷蔵庫まで行くと、おかわりのビールを取り出し、戻る。

 そして、カエデちゃんの隣に座り、缶ビールを渡した。


「飲もー」

「飲むー」


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