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青髪の君の花嫁探し  作者: ゴスマ
第4章 若返りの血
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第1話 侯爵の城

その山を越えると一面が平野だった。


広大な農村の風景が眼下に広がっている。


「見えたぞ、あれがハルシオ侯爵城だ。」


ルナーダが指差す先は緩やかな丘陵地帯とその上に立つ木造の高い砦。


「城?」


「言うなファーマ、この辺りは石材に乏しく、東方から来る木材の方が盛んなんだ。」


「知ってるわ。この辺り昔から変わって居ない...そして私のボアポンテ一発で燃え落ちる建築物など城とは認定し難い。」


「あー、ファーマさんお城には煩いタイプですか?城ガールってっ、イタ!」


コロンと小さな霰粒が地面に転がった。


ファーマは悪戯顔で銃を象った指先にふっと息を吹きかける。


サエが赤くなった額を摩っていると、ルナーダが後ろからポンと肩を叩いた。


「良かったな、本気で撃たれていたらあの距離だ...今頃脳みそがにゅるにゅる飛び出ていたかもしれん。」


「なっ怖い事言わないで、そんな訳無いじゃ無い。」


「嘘じゃない、そうやって侮った挙句に白目を剥いて死んでいった奴らの話を小さいころから沢山聞いて来たからな。」


「サエちゃん、怖くなった?仕事を降りてもいいのよ?無理強いはしない。」


青ざめた顔のサエにファーマが優しく問うと、気丈な娘は首を横に振った。


「私、お金が必要なんです。」


「金の為に命を捨てるのか?はっばかばかしい。」


ルナーダの突き放した言い方にムッとした表情のサエだったが暫く黙り込んだ後に重い口を開いた。


「あのねっ、ウイン村の子供、みんな達孤児院に行くって言ってたでしょ?実は私も王都の孤児院の出なの。それで卒院してからは孤児院に仕送りをしないといけないの...」


「ばかなっ!王国の孤児院はちゃんと補助金を貰っている筈だ!」


サエには何故ルナーダが激高するのか理解できなかった。


「でも...いつも院長さんはお金が足らない足らないって、私達大人になるまで新しい服なんか着たことなかったし、院長さんも一緒にいつもお腹を空かせていたわ。卒院した人の仕送りがあった日だけお腹いっぱい食べれるの、だから私が頑張ってお金を稼いであげなくちゃいけないの。」


健気なサエの横顔にルナーダもつい表情が和らいだ。


「じゃあ、とっとと依頼を済ませて金を持って帰らねーとだな?まずは領主を訪ねるぞ。」


「ちょっと待って、私達みたいのが行ったって相手になんかしてくれる筈ないって!」


「ぐふふ、果たしてそうかな?」


気味の悪い笑いで誤魔化すルナーダについて行くと、城門で警備兵に止められた。


案の定とサラが思っていると、ルナーダは懐から何やら巻紙を取り出しそれを渡す。


それを読んだ瞬間、兵士がピンと直立不動になると高らかに言った。


「失礼しました!大魔導士ファーマ様とお付きの方を当城は歓迎いたします!」


ファーマを先頭に案内された城の通路を歩いていると、サエがルナーダに囁いた。


「ねえねえ、大魔導士ってどういうこと?」


「お前本当に王国育ちか?大魔導士はこの国最高の魔女にして、戦争時に最強の戦力でもある」


「その位は知っているけど?」


「おう、その本人が今お前の目の前を歩いているぞ?」


「えええーーー!それって、本当の話だったのー?!」


「お付きの方、静かに!」


大声を上げたサエは城の者に窘められ下を向いてしまった。


しかし、まだ驚きを隠しきれない。


ファーマの魔法の事は今まで見た事も無い凄い魔法だと感嘆していたし、人さらいもそんな事を言ってはいたが、まさか本当に物語に出て来るあの方だったとは..


「でも、あれ? ファーマンさん王様を守らなくても良いの?」


「良いところに気が付いたなサエ。この冒険は詳しくは言えないが結果的に王を守る事に繋がる重要な任務なのだ。」


説明されたサエは腑に落ち無い様だ。


「だったらファーマさんだけでちゃちゃっ飛んで行ってくれば早いんじゃない?そもそもルナーダ君、偉そうにしているけど不要だよね?」


「うっ...煩い!本当はそうする心算だったが、お前が金を受け取らないから、いや、とにかく俺達は北の洞窟へ向かい用事を済ませて帰って来る、その間おおれは視察する事にしたんだ、だから俺も必須なの!以上、説明終わり!」


プリプリ怒ったルナーダは案内の後をついてく。


城の中は幾重にも漆喰の白壁で囲まれ、まるで迷路の様であった。


案内されるがままに曲がりくねった城内を抜け、とうとう天守閣の入り口に辿り着く。


近くで見ると四重の城は大きく、見上げる様である。


「凄いお城だねえ~」


サエが感嘆すると、ファーマが振り向かずに言った。


「でも私の手に掛かれば10分もしないうちに燃え落ちちゃう...」


どうやら其処だけは譲れないらしい。


天守閣内は天井が低く、一面がひんやりとした空気で満たされていた。                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        


板拭きの廊下は細い。行く先々に部屋が有ったが中には格子扉ががっちり嵌められ出入り口の無い牢屋の様な不思議な部屋もある。


「なにこれ?お仕置き部屋かしら」


「孤児院にはそんな物迄あるのか? 一度本気で査察を受けた方がいいな。

所でこの手の部屋は隠し扉があって中から槍などで侵入者を撃退する為の部屋だ、

覚えて於け。」


成るほど敵の侵入に対し工夫して作られている様だ。


細くて急な階段は良く磨かれていてよく滑る。


恐る恐る階段を上り、またグルグルと周回しながら天守閣内部を歩く。


きょろきょろ辺りを見回しながら歩いていたサエは突然、低い天井を支える大柱に頭をぶつけてのたうちまわる。


「おい、いろいろ見て居られない姿だからじたばたするな。」


「だって、痛かったんだもん、もう~邪魔な柱!」


 額を抑えながら足をじたばたさせるサエは、惜しみも無くアンダーコートを暴露する。


「その柱もな敵が動きにくくするために態と出っ張っているんだから気を付けて歩け。」


そう言って差し出された小さな手をサエは少し早くなった鼓動を感じながら握り返す。


「お二人とも、いちゃいちゃは止めてしゃんとしてくださいな、着きましたよ侯爵の執務室です。」


侯爵は小ぶとりで白髪の老人だった。

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