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《trip2ー①》

大阪のおっさんが、

今日も健気に生きてます。


御読みいただけたら幸いです。




「よいせぇっ!!」


 俺は気合いを入れて、荷物を持ち上げた。

 荷運びのコツは腰で挙げる事や。

 上半身の力で持ち上げようとすると、予想外に力が入らず、いわゆる『へっぴり腰』になってまう。

 無理に持ち上げても疲れるだけやし、思わぬ怪我をするもんや。

 そやからこんな袋もんは、腰から下の筋肉で持ち上げて、その勢いを利用して一気に肩に担いでまう。

 そこからも頭は使わなあかん。

 荷物の重心を考え、単にその真下に入るんやなしに、その長さによって微妙に位置をずらさなあかん。

 結構、頭と経験が必要なもんやねんで。


 商家の裏の倉庫に、小麦が入った袋を丁寧に下ろすと、直ぐ様表の通りの馬車まで荷物を取りに戻る。

 この馬車の他にも、荷物を積んだ馬車は3台あるので、てきぱきこなさなあかん。

 さっさとせんと、今日の日銭が消えてまう。


「旦那ぁ、無理しちゃいかんぜ。」


 次の荷物を担いだ俺に、そう声をかけてきた男は、朗らかに笑みを浮かべていた。


『トマス。30歳。事情通。』


 ……なんかあっさりした情報やなぁ。

 まぁ、『知識』はんの出し惜しみしてるような情報はともかく、トマスさんは俺の指導係みたいなもんや。

 この世界の初仕事がどんなもんかと期待しとったが、『荒事になりそうもない肉体労働以外の仕事』等という都合のええ仕事を、流石のガルストンさんもそない簡単に準備でける筈もなく、申し訳なさそうにこの力仕事を紹介されたんやが、如何せん『記憶喪失設定』の俺を野放しにするんは忍びなかったんか、案内人の名目でトマスさんを紹介してくれた。

 それで何かと気遣ってくれんのやが……

 なんやねん、『旦那』って。


「仕方ないだろ。まさか『おっさん』呼ばわりする訳にもいかんし。」


 まぁ、確かに。

 変に敬われても嫌やし、この前の『無刃殿』なんて御免被りたいわ。

 これぐらいの距離感の方がええんかもね。


「もうすぐ昼休みだ。程々に一息付きなよ。」

「もうそんな時間かいな。まぁ、もう一往復してくるわ。」

「おぉ、以外と元気だねぇ。」

「若いのに負けとれんし、ねっ!」


 そう答えて、次の小麦袋を肩に担いだ。

 やはり神さんモドキが調整してくれたお陰か、昔よりも体力がある気がする。

 それに、心地ええ疲れは有るが、それ以上の疲労はあらへん。

 これで、この体が肉体労働に耐えれる事がわかった。

 いやぁ、健康って素晴らしい。


 そうこうしとる間に、昼休憩の時間となった。


「旦那ぁ。飯に行こうぜ。」

「おぅ。」


 トマスさんの声にそう答えて振り向いた途端、何かが肩にぶつかった。

 それは直ぐに、他の労働者やと気付けた。


「おぅ、すまんな。」


 俺はそう言って軽く会釈したが、相手は俺を一睨みすると無言で立ち去りおった。

 なんや、愛想悪いなぁ。


『ゲルス。32歳。…………………………。』


 思わず俺は、『知識』からの意外な情報に足を止めた。

 まじかい?


「ん?どうかしたかい、旦那ぁ?」

「あぁ。うん、なんでもあらへん。」


 そう返答を返しながらも、ゲルスの後ろ姿を目で追いつつ、『事情通』であるトマスさんに問い掛けた。


「なぁ。今の男、知っとる?」

「ん?あぁ、さっきの男かい?さぁ。他の所の紹介だと思うが。あの男がどうかしたかい?」

「いや、なんもあらへん。」


 そう言って、一つため息を吐いた。

 どうやら俺は、安寧とは過ごせんらしい。


 その後、午後からの仕事もそつなくこなし、無事に日銭を稼ぐ事がでけた俺は、慰労の意味も込めてトマスさんを呑みに誘った。

 無論、俺の奢りで。


「良いのかい、旦那ぁ。今日の稼ぎが飛んじまうぜ?」

「ええがな。明日また頑張って稼げばええし。トマスさんにゃ、今日1日世話になっとうしね。」

「そりゃありがたいが。けどよ旦那ぁ。いい加減その『さん付け』、勘弁して欲しいんだが。」

「世話になった人に対して、最低限の礼儀は大事やろが?」

「いや、旦那程の人に『さん付け』されると、○の○がむず痒いんだが。」


 眉根を寄せ、品の悪いスラングを吐くトマスに対し、俺は微かに好感を抱いた。

 これも彼の持ち味かも知れん。


「わかった。ほな、呼び捨てでええか?」

「そうして欲しいな。その方が気楽だし、遠慮なくゴチになれるしねぇ。それで、どこに呑みに行く?」

「それやけど、個人的な義理もあるし、俺の泊まっとる宿のとこでええか?」

「おぉ、『夜霧亭』かい?あそこは料理も旨いし、女将のルミルは美人だし、文句のつけようがないね。婆さんがおっかないのが欠点だが。」


 そう笑うトマスに、俺は少し罪悪感を覚える。

 こんな俺に普通に接してくれるトマスを、俺は厄介事に巻き込もうとしとる。

 所詮俺も悪党なんやなぁと思いながら、『夕霧亭』の扉を目指した。


 肉体労働の後に、せっかく一日の終りの祝杯を上げるんやったら、汗を流してから呑みたいと思うんは万人の業であり、俺もトマスを誘って銭湯に向かい、汗と汚れを洗い流した。

 肉体労働後の風呂は、どこの世界でも格別や。

 贅沢言うたら、日本式の湯船に浸かりたかったんやが。

 まぁテルマエロマってる蒸し風呂もええもんや。 

 ゆっくりと風呂を堪能した後、部屋に戻って着替えを済ませてから、トマスの待つ階下に降りていった。


「おう、旦那ぁ。先に頂いてるぜぃ。」


 そう言ってジョッキを掲げるトマスに、片手を上げて答えながら、通りすがりのミアにエールを注文する。


 「はーい、エール一丁ぉ!」


 元気なミアの声に反比例するかの様に、ハルア婆さんの氷点下の声が降ってくる。


「はんっ!折角の稼ぎを呑み潰すつもりかい。」

「初稼ぎやからこそ、ここで使いたいねん。勘弁したってぇや。」


 ハルア婆さんの、多分こっちを心配しとる御小言に対し、こっちの気持ちを素直に答えとく。

 少しツンデレの要素が有ると思われるハルア婆さんは、少しリアクションに困った様にしてから、『サービスしないよ。』と捨て台詞を履いて、大皿に山盛りに盛られたソーセージを置いて行った。


「まったく、旦那は人たらしだねぇ。」

「ん?なんがぁ?」

「……まぁいいや。とにかく乾杯しよう。」


 そう言って立ち上がるトマスに、俺も続く様に立ち上がり、大きな音を立ててジョッキをぶつけた。


「今日はお世話になりました!乾杯っ!」

「あぁ、旦那ぁ。ありがとう。乾杯っ!」

「…………乾杯。」


 高らかに鳴る木製のジョッキの音に幸せを感じて、エールを一気に呷った。


「お代わりっ!」

「早っ!!」


 労働の後の、しかも風呂上がりの至福の一杯を呑みきった俺に、トマスが驚きの声をあげた。

 そやかて、労働後に一っ風呂浴びたら、少々温いエールやかて一気に呷れるってもんやろ。

 人生において、この一杯のために働いとると言っても過言やない。

 それをめいっぱい力説してみたが、トマスはゲラゲラと笑っとる。

 

「旦那って面白いなぁ。」

「そぉかぁ?普通やろ?」


 笑いが止まらないトマスに、二杯目のエールをミアから受けとると、軽く半分ほど呑んだ。

 それから、山の一角からソーセージをフォークで刺すと、それを喰らいながら残りのエールを呑み干す。


「お代わりっ!」

「早っ!!って2回目っ!!」


 なかなかおもろい突っ込みするやん。

 ゲラゲラ笑っとるトマスが、ゼイゼイと息を整えながら、涙を拭っている。


「本当に旦那は旨そうに、楽しそうに呑むね。」

「あぁ。折角の酒やしね。」


 そうトマスに答えると、呆れたようなミアからジョッキを受けとる。


「けど考えてみると、これも刷り込みかも知れんな。」

「ん?どう言う事?」


 少し怪訝な顔をするトマスに、軽くジョッキを啜りながら答える。


「確かに呑む事は好きやで。そやけど、その呑み方とか楽しみ方は、俺に酒を教えてくれた人らの模倣かも知れんって事や。」


 酒の呑み方ってのは人其々や。

 多様性と言うたら大袈裟やけど、愚痴を言いたい酒もあれば、やけ酒をしたい人も居るやろ。

 俺もそんな呑み方をする時もあるけど、基本的には明るく、仕事の話なんがしたぁないと高らかに宣言する様な呑み方や。

 そやけど、それは俺に呑み方を教えてくれた、まぁ所謂悪い遊びの諸先輩方がやっていた事な気がする。

 俺は、ただそれを真似しとるだけなんかも知れん。

 格好ええと、又はそれが当たり前やと思て。


「なるほどねぇ……人に歴史ありってやつか。」

「まぁ、記憶ないねんけどね。」


 そう締め括りながら、食事を続ける。


「なぁ。それって、マジなん?」

「そやで。せやから、俺が話す与太話は聞き流しとく位でええで。」

「なんか納得できんなぁ……」


 不満顔のトマスを受け流し、次の酒の注文を促す。


「なら、お代わり貰おうかな。」

「ほなら、俺も貰おうか。」

「……お代わり。」

「はーい!お代わり3つ!」


 ミアの元気な声が店内に響く。

 次の酒を待つ間、チマチマとオムレツをつついていると、トマスが問い掛けてくる。


「なぁ。そろそろ触れた方がいいんじゃね?」

「せやなぁ……」


 悩んどるうちに、次の酒が来たから受けとり、呑もうとした所で突っ込んだ。


「ってか、なにしてんねんっ!」

「……ん?」


 メルリヤが、心底不思議そうに首を傾げる。


「せやから、なんでここに居んねん」

「んー……たまたま?」


 パスタを口一杯に頬張りながら、当たり前の様にメルリヤが答える。

 かなり小動物っぽいな。


「なんで、ここで喰っとるかを聞いとんやが?」

「……問題?」

「いや、ええねんけどさぁ。てか、呑んで大丈夫なんかいな。」

「問題ない。」


 聞けば、呑んどるんはワインを水で薄めたモンらしい。


「旨いんかいな?」

「……呑める。」

「それでええねなら、まぁええねんけど。」


 なんか可哀想やなぁ。

 勝手にタカりに来とるんやから、気にしたる必要はないんやろうけど、折角やから旨い酒を呑ましたりたいなぁ。


 そやけどこの状況やったら、こいつを巻き込んでも心は痛まんか。

 何気にこん中で一番強いし。


「……なぁ、えらいこっちゃ。」

「ん?どうしたんだ、旦那ぁ?」


 トマスが不思議そうな顔をしている。

 メルリヤはソーセージを咥えてキョトンとしている。


 さて、茶番を始めるとすっか。


「すまん。財布を落としたみたいや。」




《See you next trip》

いかがでしたでしょうか?


おっさんは酒が好きです。

しかし体に気を付けねばならなくなりました。

無条件で健康な体が欲しいですね。


感想等を頂けたら望外の喜びですが、

当方とうふのメンタルですので、

御手柔らかにお願い申し上げます。

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