表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/66

《Trip1ー⑤》

拙い文章ですが、御読みいただけたら幸いです。




「おぉ、貴殿が噂の『無刃』殿ですかぁ。お噂はかねがねお伺いしてしております。ようこそお越しくださいました。」


 メルリヤに連れてこられたガルストン商会で、肉体労働者の一郡からは離れて奥の部屋に案内され、メリルヤと共に通された部屋には、俺の大商会の会頭のイメージからは、ちと掛け離れたやや痩せすぎのインテリ風な男性が出迎えてくれ、ちょっと高そうなソファーを進めてくれた。

 商売人独特の空気を湛えながらも、ある種の剣呑さを湛えながら向かえに座った男からは、気品と気迫が感じられた。

 それにしても、『無刃』って…………


「あぁ、ゴーランド殿がそう申されておりましたので……伺いましたる所、記憶をなくされてるとの事でしたので、いずれ何らかの形で決まるまでは仮名で御呼びしたいと思いますが、いかが?」

「まぁ、好きに呼んでもうてええねんけど。」


 何度も言うようやが、名前は現世に置いてきたつもりや。

 せやから、俺を呼ぶ固有名詞なんぞ好きに呼んでくれたらええと思とる。

 まぁ、出来たらこっ恥ずかしい呼び名は勘弁してもらいたいんやが。


「それで、この紹介状を見る限り、『無刃』殿は仕事を紹介してもらいたいとの事ですが……」

「せや。仕事が欲しいねん。」


 何の因果か、新しくこの世界で生きていく事になってもうた。

 そしたら生きてく日々の糧を得なならん。

 そうなら、どこの世界でも通じる真理がある。


 『働かざる者、食うべからず。』や。


 この世界において、回りを見渡しても俺を養ってくれるもんが居らんのやったら、己自信で日銭を稼がなならん。

 まぁ、養ってもらうヒモ生活には少しばかり憧れもあるが、なんや窮屈そうやし、現実的にそんな都合のええ事があるわけやない。

 せやさかい、ゴーランドさんにお願いして、仕事を斡旋してくれる伝を紹介してもろてん。

 それがメリルヤが所属しているガルストン商会って訳や。


「それでは、荒事士で登録されると言うことで宜しいですね?」

「いや、出来るんやったら、それ以外でお願いしたいんやけど。」

「……どうゆう事でしょう?」


 ガルストンさんが怪訝な顔を向けてくる。

 当たり前の答えが否定された様な顔や。


「まず理由を話す前に、俺は敬語や礼儀をよう知らんさかいに、失礼を働くかも知れんけど、御容赦して頂きたい。」

「結構です。」


 商人の顔になったガルストンさんが、居住まいを正して俺の目を見据えてくる。


「そない大層な話や無いねんけど、まぁ恥を忍んで申し上げると、荒事が苦手やねん。」

「御冗談でしょう?暴漢と化した護衛を殺傷する事なく無力化し、斡旋した商会に多大な賠償金を支払わせる事になった、その元となったお方の言葉とも思えませんが。」

「そないなことに成っとんかいな!?」


 それには少し驚いた。

 亡くなりはった御者さんの御遺族に、ちゃんとした保証をするとは聞いとったけど、どうも結構な大事になってるっぽい。

 被害者御遺族に保証がある事はええ事やと思うけど、ゴーランドさんが主導でやった事やさかいに、俺の手柄みたいに言われるのは御免被りたいねんけどねぇ。


「ええ。貴方の業績は、この業界では既に知れわたっておりますよ。」

「それは、勘弁してほしいなぁ……」

「その様な事を成せる方が、何故荒事を避けたいと仰られるか?」


 ガルストンさんの理詰めの問いかけに、俺は溜め息を付くしかなかった。


「そやかてなぁ、俺は記憶が無いねんで?」

「それは、先程お伺いいたしましたが?」

「せやさかいに、戦い方も覚えとらんのですわ。」


 俺の言葉に、ガルストンさんは息を飲んだ。


「今回の事も、たまたま体が動いただけで、次も同じ様に動けるって保証は、これっぽっちも有りゃしません。せやさかいに、出来るだけ危ない橋は渡りとうはないんです。仕事で迷惑かけとうないし、これでもまだ命は惜しいんですわ。」


 俺は偽りなく、正直に答えた。

 やって、今回戦闘に使こたんは元々知っとった護身術に、偶然使えたプロレス技やで。

 そうそう『シャ○ニング・○ィザード』が決まる場面が有るとは思われへん。

 仕事以外やと引き込もっとった一時期、海外の派手なプロレスにはまってもうて、ケーブルTVで見まくっとって、その流れで日本のプロレスも少しはかじった。

 海外のは派手やけども大味で、逆に日本のプロレスは技がしっかりとしているなぁって思う。

 まぁ俺ごときが語る事でもないが。

 ただ両方に共通する事は『お約束』が存在し、受ける側にも準備があってこそ、初めて成立すると思われる技が多い。

 まぁ『肉体美を追求した芸術的ショー』であることは否めんやろ。

 そやから実戦で、どこまで通用するかは未知数やね。


 ……まぁ、機会があったら使いたいけど。

 やってロマンやしっ!


「そんな訳で、揉め事大前提のお仕事には、ご期待に添えるか判らへん。そやからそれ以外でお願いしたい。」


 そう言って、軽く頭を下げた俺に対し、ガルストンさんは得心したように頷いた。


「なるほど、仰りたいことは理解いたしました。かといえ、貴殿程の御方に他の肉体労働者と同じ様な仕事をしていただく訳にも参りません。失礼ながら御年齢的にも御辛いと思われますし。」

「いや、いきなりはきついと思うけど、どんな仕事でも頑張んで。」


 そない働けん程のオッサンに見えんのかなぁ。

 まぁ、この世界的な年寄りの基準がどんなもんか知らんけど。

 オッサンなんは認めるが、まだまだ働けると思うんやけどなぁ……


「判りました。では貴方様には荒事に成りにくそうな仕事を優先的に回す事とし、無ければ肉体労働も視野に入れるという事でいかかでしょう?」


 なんか、どうしても荒事から逃れられん様な気がするが、それ以上言うても贅沢かも知れん。


「判りました。それでお願いしますわ。」


 再び頭を下げる俺に、ガルストンさんは笑い掛けてきた。


「思っていた以上に謙虚な御方ですな。もう少し自己の力を主張されるかと想像しておりましたが。」

「身の丈の程を知っとるだけですわ。」

「いやいや、なにやら実力を御隠しになりたいのかと邪推してしまいますなぁ。」

「そない言われても困んねんけど。」


 そう俺も笑い返した。

 そやけど、心の中では冷や汗もんや。

 がちで、実力もクソも無いねんけど。

 この油断の成らん男は、なにやら怪しんどるんみたいや。

 気ぃつけよ。


「それでは、明朝また御越しください。仕事を見繕っておきますので。メルリヤさんは、少し残って仕事の報告を。」


 ガルストンさんのその言葉で、それまで座る事なく、俺の後ろで佇んでいたメルリヤを振り返った。


「表で待ってて。終わったらすぐ行く。」


 少女の相も変わらん淡々とした言葉に頷くと、ガルストンさんに挨拶して部屋を後にした。




ーーー《sideーB》ーーーーーーーーーー




「で、どう思う?」


 私が連れてきた男が部屋を出て暫くした後、雰囲気をガラリと変えたガルストンが、趣味である紅茶の準備をいそいそとしながら、やっと座る事のできた私に問いかけてきた。


「なにが?」

「決まっているだろう。さっきの男の事だよ。」

「……おじさん。」

「そうじゃないだろう?」


 紅茶の入ったビルセンの磁器を私の前に置きながら、自分の分のカップを持ってガルストンも向かえに座った。


「他国のスパイである可能性は?」

「ない。」

「ほぅ。メルリヤがそこまで言いきるとは。根拠を伺っても?」

「バカすぎる。」


 そう、あのおじさんはバカすぎる。

 怪しいと言えば、お釣りが出る程怪し過ぎるのだが、身構えているのが馬鹿馬鹿しくなる程、考え無しと思える行動を取っている。


「それだけでは確証に乏しいでしょう?そういう芝居をしているだけかも知れませんし。」

「そういう風に見えた?」

「……残念ながら見えませんねぇ。」


 溜め息混じりに答えたガルストンは、薫りを楽しむ様にして、紅茶を口に含んだ。

 せっかくなので、私も一口頂く。


 うん、美味しい。


「暴漢化した連中を利用し、潜入しようとしたとは考えられませんか?」

「共謀していたのなら、奴らを生かしておく方が危険。偶発的に利用したとするなら、余りにも都合が良過ぎる。」

「なるほど。」


 そう。

 彼奴らを生かしておく理由など、欠片もない。

 そもそも寸鉄も帯びずに、ふらふらとしているなんて信じられない。

 よほど己の腕に自信があるのか、それとも殺す事に忌避感があるのか。

 または、本当にただのバカか?

 どちらにしても、スパイとしては致命的で成立しない。


「しかし……。」

「うん。隠し事が在るのは間違いない。」


 記憶喪失なんて都合の良い話、信じられる訳がない。

 それに未知の武術を使った。

 理屈の判らない投げ技は勿論、体を掛け上る蹴り技など、噂に聞いた事すらない。

 怪しい所を数え上げればキリがないが、それに対して身構えているのが馬鹿馬鹿しくなる程、実直な行動を取ってくる。


 悪い奴ではないと思う。


 ただ問い詰めても素直に答えるとも思えないし、暫くは様子見になるだろう。


「仕方ありませんな。では、宜しくお願いしますよ。」

「何故私が?」

「適任でしょう?」


 不本意だが、あの男を監視するには私が適任なのは間違いがない。

 惚けた笑みを浮かべるガルストンを一睨みし、紅茶を飲み干して席を立った。




 ガルストンの店を出ると、通りの向かい側で男は屈んでおり、野良猫と戯れていた。


「何している?」

「おぉ。人懐っこくてよ。可愛いもんや。」


 男は、答えに成っていない答えを返してきた。


 確かに可愛いけど。


 こんな男を警戒しなければならない自分が、非常に馬鹿馬鹿しい。


「行く。今日中にこの街を一通り案内する。」

「あぁ。すまんな。」

 

 猫に別れを告げた男は、埃を払う様に立ち上がると、ポケットから小さな包みを出してきた。

 それを私に渡してくるので、不審に思いながらも中身を確認すると、思わず身を固くしてしまった。

 それは先程私が見ていた、露店商にならんでいたペンダントだったのだ。


「まぁ、御近づきの印ちゅうか、案内の手数料やとでも思といて。安もんで悪いけど。」


 三日月に猫にが座っている意匠の小さなペンダントは、とても可愛らしく、私が一目で気に入った物だ。


「私には似合わない。」

「そんなことないと思うねんけどねぇ。まぁ気に入らんかったら、誰かにあげて。只の気持ちやしね。」

「わかった。」


 再び包み直すとポケットに入れ、踵を返すと歩きだした。

 少し慌てた様子で、男が追ってくるのが判るが、待ってあげない。



 まぁ、悪い奴ではないと思う。




《See you next trip》

いかがでしたでしょうか?


これで一話が終わりました。

なんとか書ききったって感じです。

次の話も粉骨砕身努力します。


感想等を頂けたら望外の喜びですが、

当方とうふのメンタルですので、

御手柔らかにお願い申し上げます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ