《Trip13ー③》
此度も御読み頂き有り難う御座います。
僅かでも楽しんで頂けたのなら幸いです。
「で?俺に何の様なんだ?」
眼の前に座った美丈夫が、心底うざったそうに問い掛けてくる。
ここは何時もの『夜霧亭』。
ベルグ・ノスフェラトゥと名乗った男と話したその夕刻時。
伝言を伝えたら、以外にも直に返事が返ってきて、この現状に至ったちぅこっちゃ。
眼の前にでんと座って睨みを利かすは、こなんな頃のシュワちゃんよりも男前な自警団の西方支部長はん。
時折名前を忘れそうになるが、『騎士』フェルナルドはんや。
「そないに警戒せんでも宜しいやん。先日は迷惑かけたさかいに、そん借りを返そう思たさかいに、一杯奢ろと呑みに誘たんよ。」
『借り』の部分を強調して優しゅう告げる。
ほんまは借りがあるんは相手の方や。
俺や仲間が身ぃ切ったさかいに、取り逃がしとった悪党をしょっ引く事が出来たんやさかい。
やが、それは言わんが華や。
それぞれの立場が有るさかいね。
やが、フェルナルドはんには通じたらしく、己ん立場を正しゅう理解した様で、不貞腐れながらも文句も言わずにエールを呑んどる。
乾杯をせんのは、ささやかな抵抗か。
まぁ解っとる事やさかい、今更そん態度に腹を立てる様な事は無ぇが。
俺も何時もの様に、冷えたエールをぐぐぐいっと呷る。
今日は全然働いとらんが、風呂できっちり汗を流してきたさかい、冷たいエールがめっちゃ旨い。
大きく一息付いた所で世間話から切り出してみる。
「ところで、仕事の調子はどないでっか?」
「………………聞きたい事が有るんなら、さっさと聞け。」
愛想も糞もない調子で、突き放す様に答えられた。
ほな、こっちも定型文を喋る必要もないか。
「………ほな遠慮なく……………あん後の『赤龍団』はどないでっか?」
「………………職務上の守秘義務が有るのは解って言ってんだろうなぁ。」
あえての確認をされた後、ジョッキを静かに置いて答えてくれはる。
「今の所、少しは大人しくなっているな………まぁ、あの『赤龍団』ってのは以外とデカい集団でな、その内の1つのグループが摘発されたという事だけだから、そこまでの全体へのダメージは無いだろうが、一応目立たない様に身を潜めてるってところだろう。」
そない語りながらもミアを呼んで、遠慮のぅおかわりを頼みはる。
………いつの間に空けたんやろう?
俺もついでにおかわりを頼みながら、今の話を噛み砕いて考えてみると、壊滅させれるにゃ程遠いんやろうが、警戒させれる程度にゃダメージを入れれたんやろう。
んなら、少しは役に立ったっちゅう事やさかい、頑張った甲斐があったちゅうもんやな。
僅かな達成感に身を任して呑みたいが、そないに呆け続けとる訳にもいかん。
時間は有限。
聞きたい事を聞いとかんとね。
やがどないしょ?
まさか一般人の俺が薬ん事を聞き出したら、絶対に変に勘ぐるに違い無いやろし………無難にローザって女性ん事でも聞いてみよう。
「………………てめぇ………どうしてその名が出できやがる?」
予想以上に大きいリアクションが返って来おった。
結構早いペースでエールを呷ると、ジョッキを突き出して指(ジョッキ?)差して来おって、胡散臭いもんを見るように言いはる。
「………どうせまともに答えやがらないんだろうが………その名を迂闊に口にすると、もれなく衛兵団やら自警団から目を付けられるぞ。」
ほぅ………………
ちゅう事は、やっぱり何らかの形でややこしい話に関与しとって、それを治安維持部隊が追っかけとるって話なんやろう………
今回の話の流れやと、やっぱり薬物やろな。
せやと追いかけとるんは、現代社会やとマトリかキンマか?
どの道碌でも無いんは間違い無いわ。
「今回叩いた連中とは別のグループだが………今1番暗躍している連中の中では、『コンレスピーネ』とか言う女神に擬えられて、グループ内で祭り上げられているみたいだか………テメェとどういう繋がりなんだ?」
「………………さぁ………どやろね?」
「………………………糞が。」
すっとぼける俺に毒づく美丈夫。
睨み殺さんばかりの勢いやが、悪いけど相手にしたれへん。
残念やけど、ベルグの娘は組織の中心に据えられとるみたいやな。
そん目的は持って生まれたカリスマ性か、それとも親の七光りか。
その辺りを見極めんのが重要かもね。
しかし、『コンレスピーネ』ねぇ………
『『コンレスピーネ』とは、『突き刺す者』という意味を持つ、民間信仰で語られた忘れられた女神の名です。』
そうなんや………………
元の世界やと違う意味を持つんやが………これはただの偶然なんか?
「………これ以上は問い詰めねぇが、つまらない事に首を突っ込んでると、寿命を縮める事になるぞ。」
どうでもええ事を考えとると、美丈夫が俺に小言を言いはる。
そん態度がなんか可笑しゅうて、ついイジる事を選択してまう。
「へぇ………心配してくれとんの?」
そう軽口を返す俺の言葉に、口を付けかけたジョッキを止めて、心底嫌そうな顔をしはる。
「………………好きに野垂れ死んだら良い。」
そう吐き捨てると、もう良いなとばかりに酒を一気に呷ってドンと置くと、勢い良く席を立って出口に向かう。
その背を見送りながら、ひらひらと手を降って声を掛ける。
「また呑もな。」
「………………………糞が。」
一瞬立ち止まったが、けして振り返る事ものぉ、扉の向こうへと消えて行きはった。
「旦那も怖い物知らずだねぇ………」
「なんでぇ………見掛けはあないやけどエエ奴っちゃで?愛想は悪いけど。」
離れた席で様子を伺っとったトマスが、自分のグラスを持って移って来るさかい、見上げながら答えたった。
「なにも竜の口に手を入れる様な事をしなくても………」
俺の座っとる丸テーブルの1っこ飛ばしの席に座ると、呆れた様にグラスを掲げるさかい、おぅとばかりにカチンとジョッキを合わせとく。
ぐいっと酒を呷って、溜め息混じりの吐息をつくと、自然と軽く首周りを揉んどった。
なれん駆け引き紛いの事をしたさかい、思とったより肩凝ったみたいや。
こんなん抜きで、気楽に呑みたいもんやわ。
まぁ、自分から首を突っ込んだんやさかい、そぅも言うてられんのやが………
「なぁ………」
「あぁ………今の所たいした情報は無いけど、つてに聞いてみるからちょっと待っていてくれよ。」
何をとも、何でとも聞かん。
流石やと思う。
気ぃ付いたら、此処までの関係を築けた事を喜ばしゅう感じてまうわ。
しみじみそないな事を考えとると、今更ながらに嬉しく思えてまう。
こいつと出会えて良かったわと………
絶対に口には出さんけど、そないな事を考えながら、手間を掛けるなぁ………と労っとく。
「まぁ俺も興味があるし、大した労力でも無いしね。」
そないな事もないやろうに、何でも無いかの様に振る舞うトマスは、間違いのぅ男前や。
そこには俺に対する信頼関係があるんやろう。
いや、そうやと思いたい。
んなら、俺もそれに応えなあかんやろう。
ほな頼むわと言いながら、酒を呑み干すと席を立つ。
トマスが慌てた様に、何処に行くのかと尋ねて来おるが、それには答えられん。
俺もよう知らんさかい。
やが。
『敵を知り、己を知れば、百戦危うからず』て言うやんか。
「ちょっと、顔見て来るわ。」
………………………………………………。
………………………………………………。
冷え冷えとした空気の中を、まだ灯りがようけ灯っとる通りを歩いとる。
『4つ先の交差点を左です。』
言われるがままに歩きながら、ふと上を見上げれば冴え渡った星空が広がっとる。
ふと寒さ覚え、ぶるりと1つ身震いをすると、視線を戻して歩き続ける。
これからローザって娘が居る所に乗り込んで、どないな状況なんかを見定めてこよと思っとる。
ベルグの頼みとはいえ、もしも幸せそうにしとるんやったら、俺の出る幕はないやろうしね。
なんぼ何でも、娘の幸せ潰してまで連れ返そうとは思とらん。
やが………
道を踏み外しとったら………あんまり幸せそうや無かったら、どないしても連れて帰ったらなあかんやろ。
世話焼きのおっちゃんは、なんぼ恨まれても覚悟を持って手を差し出すってもんや。
何時かは解ってもらえると信じて………
せやさかい、しっかりと現状を見定めなあかん。
多少は危ない橋を渡ろうとも………
そないな事を考えながら、なにげに横目で隣を一瞥する。
ええ加減突っ込んどくかぁ………
正直面倒くさいけど。
「………………てか、なんでメルリアが居んねん?」
「………………………………………介護?」
………………はぁぁぁぁあ?
しばくぞ、おい!
………いや、お前の方が強いけどよぉ。
何やねんそれ。
年寄り扱いすんなや。
声裏返るわ。
てか、何で疑問形やねん。
んなベタな笑いを何時覚えたんや?
横でとぼけた顔しとるメルリアに、心ん中で色々と言いたい事はあったが、あえてぐっと飲み込んだ。
理由は明白。
力関係で負けとるさかいや。
………ってのは冗談で。
いらおうとしとる奴に、わざわざ付き合うたる事もあらへんやろ。
まぁ、ちょっとした意趣返しとも言う。
それに、今はあんまし巫山戯る気にはならん。
思とったリアクションがなかったさかいに、不貞腐っとるんを横目で捉え、込み上げてきおる笑いを噛み締めやがら、さっさの問いを繰り返してみる。
「………で?ホンマの話、何でおんねん?解っとるやろうけど、今回は依頼を受け取らへんねんで。せやから、こっから先は俺の個人的な行動や。一切儲けはあらへんで。」
「………………………邪魔?」
………そんな事はねぇけどよぉ。
これから向かう先は、おそらく『赤龍団』の溜まり場の1つやろうから、揉め事になる可能性はめっちゃ高い。
そないな雑魚共相手に後れを取る様なまねは無ぇだろうが、世ん中に絶対が無いのも世の理や。
んな所に、金も出んのに突き合わされへんやろ。
急にメルリアは立ち止まると、んな事を考えとった俺の顔をじっと見つめてきた。
「………………………………なんやねん。」
「………………………私………強くなった。」
知っとる。
姫さん相手に、かなり実践的な組手を繰り返しとるらしいしの。
姫さんもこの前、うかうかしとったら一手取られるて言うてたさかい。
速さに磨きが掛かっとるらしいわ。
それを俺に伝えたいんやろか。
それに自覚も自信もあんねやろう。
「………………私がアイツら如きに………負けると思う?」
「………………………思わんなぁ………欠片も。」
それは心底思わん。
糞素人のただの暴力に、真面目に理術を学び訓練を重ねてきたモンがエエ様にヤラれるたぁ考えられん。
「………………………………ならいい。」
俺の答えに満足したかの様に、ふんすと鼻息も荒く、道も知らんのに前を歩いて行く。
頼もしい小さな背中に、なんや笑えてきた。
「………………さよけ。」
ぶっきらぼうな言葉を返したはずが、何でか楽しげになってもうたわ。
実際の話、絶対ややこしい事なるんやさかい、ちったぁ不安にも思うちゅうんもしゃぁないやろ。
せやさかいに、コイツの存在が俺ん内に安心感を与えてくれおる。
………………………小癪な。
負けじとメルリアを追い抜きながら、パシリと肩を叩いた。
「………………ほな、行くで!」
《See you next trip》
如何でしたでしょうか。
動きが少ないですねぇ………
もう少し進むと思ったんですが………
まぁ、何時もの事なんですが(笑)。
次作も粉骨砕身務めますれば、
感想等を頂けたら望外の喜びです。




