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《Trip13ー②》

此度も御読み頂き有り難う御座います。


僅かでも楽しんで頂けたのなら幸いです。






 なんてや?



「申し上げました通り、『赤龍団』なる外道共を、徹底的に潰して頂きたい。」


 こちらの再度の問い掛けに対し、真っ直ぐこちらを見ながら答えるベルグ・ノスフェラトスと名乗った男。


 ………いや、こちらを見とる様でどこも見とらん様な瞳やわ。


 一大非合法組織の長である男は、そないな虚ろな目をしとった。


「勿論、これはそちらにとっても何れ障害と成り得る愚か者達を、憂いなく排除するといった利点も御座いますし、この報酬のみ成らず、今後私共が貴方様達の後ろ盾と成りましょう。さすれば何かと優遇される事は間違いがありませぬ………これは決して貴方様達を我々の傘下に入れようといったものではなく、ただ友好的な対等な関係と思って頂ければ宜しいかと………御信用無ければ、一筆を記しても構いませぬがいかがでしょう?」


 そう早口で捲し立てるアンダーグラウンドの大物は、何でか可哀想に見えた。

 言いたい事だけ言い切った彼は、こちらをじっと見つめとる。

 まるで何かに縋る様に………


 なんでそこまで必死なんやろう………


「あの者共は………先日貴方様達が叩いてくださった御蔭を持ちまして、かなり勢いが削がれてはおりますが、それでも周生に多大な迷惑を掛け続けております。あの下衆共が調子に乗ったままでは、虐げられて泣く者が後を立ちませぬ。一日一時でも早く奴らを取り除く事こそが、この街に暮らす者の為になるのです。彼等の為にも是非とも。」


 前のめりな彼の言葉を聞くにつれ、何でか俺ん心が乾いて行きおる。


 言いたい事は解らんや無い。

 ああいう社会のダニ共は、徹底的に叩かん限りナンボでも湧いて来おる。

 ほんま、Gみたいなモンやわ。


 やが………………



「なぁ………」


 やが納得でけん。

 でける理由があらへんがな。



「何を焦っとるん?」


 投げ掛けた言葉で世界が止まる。

 あれ程饒舌やったこん男が、消音か一時停止掛けられたみたいに静かになりおる。

 やさかいに、こっちも言いたい事を言わしてもらう。



「勘違いしてもうたら困んねんけど、俺等は反社の団体やあらへんねや。ただの労働者の互助会みたいなもんやで。」


 実際、そういった集団からヤクザに発展していった例も有るんやろうけど、俺等が目指しとんのはそこやあらへん。

 そないな成り立ちの昔気質のヤクザもんを否定する気はあらへんが、俺等は毎日真面目に仕事に勤しんで、少し不真面目に楽しゅう呑めたらエエだけ集まりやと思とる。

 そんなんに彼等の後ろ盾なんぞ、重とうて持て余してまうわ。


 それに………


「そもそもあんさん等に、俺等如きの合力なんぞ欠片もいらんやろうに。」


 これが一番の違和感や。


 話を聞く限りの彼等の組織の大きさから考えれば、そないなゴミクズ共位なら鼻息で飛ばせる位やろ。

 そないな小物の処理をわざわざ俺等の様なもんに下請けさせんでも、多分彼がちょいと匂わせれば下のもんが気ぃ利かせて、あっちゅう間に全てが片付けとるはずやんか。


 せやのに何で?


 答えは簡単。

 身内を使えん理由があるっちゅうこっちゃ。


 そん理由を聞かせてもらわんと………彼の真意を聞かせてもらわんと、微力ながらも合力でけへんやんか。



「………………………………敵いませぬなぁ。」


 やっと時間が動き出したベルグは、頬を掻きながら大きく吐息を吐いた。

 自虐的な笑みを浮かべながら………



「聞いて頂けますか?私めの業を………」




ーーー《sideーB》ーーーーーーーーーー




「娘?」

「ええ。一人娘だそうですよ………普通の町娘に言い寄られて、そのまま一時家庭を持っていた様です。その間に生まれた娘ですね。」



 ベルグ・ノスフェラトスに関する情報を提供すると、麗しき先生は予想以上に驚かれた。


「話に聞く彼が、至極普通の一般人の娘と子を成したというの!?」


 驚かれるのは無理もない。

 私もこの情報を聞いた時は、真偽を疑ったものだ。


 我々と彼が巣食う闇は違うものだが、どちらにしても日の当たる場所に出ようとは思わない。

 それだけ影が濃く映るのだから。

 己の所在が知れれば、そのまま命の危機に繋がる。

 最悪、組織にさえ深刻な傷を与えかねない。

 駆け出しのチンピラではあるまいし、危険性を十二分に理解した幹部ともあろう者が、その様な一時の感情に身を任せたというのか。


 無論、何事にも例外はあるだろう。

 しかし、子まで作すのは私には考えられない。


 言い方は悪いが、弱みを作るという事なのだから………



「………………凄いわね………」


 深い溜め息と共に驚きを吐き出す先生。

 あの切れ者の男が後先を考えなかったとは、私も本当に驚いたものだ。


「………………………違うわよ。」


 声に出してはいなかった筈だが、考えを見透かした先生が呆れる様に言い放った。

 出来の悪い生徒に言う様に………


「全てを承知した上で………彼は全てを受け入れたという事よ。」


 え?

 まさか………?


「その様な知に長けた者が、一時の感情に流される訳が無いじゃないの。全ての不安要素を理解した上でその娘を愛し、子を設けたという事よ………………なかなかに情熱的じゃない?」


 にやりと笑う、その口元に見とれながらも、まさかと反論を考える。

 何か打算的な理由があったのではないかと。


「貴方は裏を読み過ぎて、その辺りの機微に疎過ぎるのよ………………個人的には好感が持てる坊やね。」


 そう言いながら、微笑みをカップで隠す先生に見惚れながら、そんなものなのかと考える。


「で?その娘は?」

「え?………………確か名は………………」




ーーー《sideーA》ーーーーーーーーーー




「ローザと名付けました。」



 眼の前の男はめっさ苦しそうに………やけどめっちゃ愛おしそうに、娘の名を教えてくれた。


「まさか、この私が押し切られた形とは言え、この様な形で家庭を持ち、娘まで得られるとは想像だにしておりませぬ事でした。」


 それは、この男の独白なのか。

 グラスを持つ手に悲哀が滲む。

 せやのに声は柔らかく、酒を呑む口元には笑みが浮かぶ。


「しかし娘が生まれますとな………これが本当に可愛くて、可愛くて………己の立つ位置をすっかり忘れてしまう程なのですよ。」


 呑み干したグラスをとんとテーブルに置く。

 直ぐ様新しい酒が運ばれてきて、グラスが交換される。

 そん時、何時ものお姉さんが気遣わしげに男を見るが、小さく頷きを返すだけ。

 そん一連の動作で、信頼関係が見てとれる。


 こん男は慕われとるんやろう。



「小さく可愛らしい手が、私の指を掴んで離さないのでございます。この私の汚れた手のですよ………その力が思いの外強く、大層驚いたものです。」


 そん時の情景を思い浮かべとるんやろう。

 視線が左の掌に落ちる。

 そん瞳は慈愛に満ちとんのに、何でか泣いとる様にも見えてまう。


 そーいや、奥さんはどないしたんやろう?



「妻は産後の日達が悪く、長らく伏せって居ったのですが、娘が4歳の折に身罷りまして………それ以来男手一つで育てて参りましたが、いやはや難しいもので御座いますなぁ。大切に育てたつもりでしたが、すっかり道を踏み外してしまいまして。頭の痛い事で御座います………やはり母親とは偉大であると、しみじみと噛み締めておる所でございますよ。」


 グラスに付けた唇から、酒に溜め息が溶け込んで行く。


「まぁ、結局は私めが悪いのですが………」


 ………何が悪かったんやろう。

 育て方か?

 それともやくざな商売をしとる事か?

 はたまたそないな生き方しとんのに、暖かい家庭を築こうとした事か?


 ………………ん?

 流れで話を聞いとったんやが、なんで娘の話が出てくんねん?

 『赤龍団』の話やったよなぁ………


 ………………おいおいおい。


 まさかの話やないやろなぁ。


「残念ながら想像された通りでして………今では『赤龍団』の顔役にまで至っているんだとか………そのせいで組織の若い者達が気を使って、件の連中に手心を加えてしまい、この様な無様な事になってしまいました。」


 せやから俺に御鉢が回って来たって事か。

 まぁ組織のボスの愛娘が絡んどんのに、積極的にややこしい事に首突っ込みたい奴はおらんわな。

 俺個人としても関わりとぉないんやが。


「最悪な事にこの外道共は、巷に広がりつつある怪しげな薬を取り扱っているとの事です。」


 まじか。

 大切に育てた娘が、薬の売人なんぞに成り下がっとるとは、目の前の男もこないな声になろうと言うもんや。

 こない泣くのを我慢しとるみたいな………


「事ここに至りましては、最早一刻の猶予もなく、この街を………この国の人々を守る為にも、此奴等を取り除かねばなりません。ですが先程申し上げた通り、情けなくも我々では処理しきれませぬ。ですから、恥を忍んで貴方様に御願い致したのでございます。」


 それについたら良う解かる。

 薬物の蔓延なんぞ、ほんまに笑えん。


 歴史を漁ったら、薬が関わる碌でも無い事がざらざら出でくる。

 それを利用して戦争起こした国もあるし、戦中の不満を誤魔化す為に、『疲労がポンと飛ぶ』薬を普通に販売しとった国もありおる。

 (いず)れにしたって、結局の所巻き込まれて泣くんは一般市民や。


 せやさかいに、それを止めたいっちぅ気持ちは良う解かる。


 やがそうすっと、この子煩悩な男の大事な娘を吊るし上げなあかん事になってまうんやが。

 そこん所はどないすんねん?


「大切な………本当に大切な宝ではございます………………が、組織の若い者達も、全ての無辜の人々もまた、私にとっては大切なのでございます。それを守る事に私情を挟む余地はございません。」


 悲壮な覚悟が見て取れる。


 この僅かな時間で、ベルグという男が急に老け込んだ様な気がする。

 そんだけ心を痛めとるんやろう。

 出会うて間ぁ無いたぁいえ、シンパシー感じとる呑み友のんな姿は見たぁないわ。



 やが………俺にもでける事とでけん事があんねや。



 俺は目の前の酒を一気に呷ると、タンと置くと席を立って静かに告げる。


「悪いけど、こん依頼は断わるわぁ………理由を上げるなら、俺等はそもそもそんな組織やあらへんし、アイツらをこれ以上巻き込みとぉない。こん前は一人大怪我させられとるしね。やからと言うて、俺一人でどうこうでけるモンでもないやろう。」

「………………左様でございますか。残念ですが仕方ありますまい。」


 落胆した様子ではあるが、追い縋ろうとはしてこん。

 予め予想しとったのか。

 それとも彼の度量がそうさせるのか。



 やが………………



「やが………呑み友達の不良(バカ)娘の悩み位にぁ、なんぼでも合力させてもらうがな。」

「………………………………旦那ぁ。」


 入り口近くで立ち止まり、振り返らずに言葉を投げると、涙じみた絞り出した声が返ってきおる。

 振り返ったらあかん気がして、そんまま出口に向かうと、そん横で何時ものお姉さんがなんも言わずに頭を深々と下げとった。


 そない感謝される様な事やあらへん。

 俺は、俺がしたい様にしとるだけやさかい。


 まぁ、ノープランなんやが………




 さぁて、どぉ~すっかなぁ………


 大通りから見上げる空は、寒々しく澄んどった。






《See you next trip》

如何でしたでしょうか。


次作も粉骨砕身務めますれば、

感想等を頂けたら望外の喜びです。 

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