《Trip13ー①》
此度も御読み頂き有り難う御座います。
僅かでも楽しんで頂けたのなら幸いです。
どないなっとんねん。
それが俺のホンネやった………
仕事始めもそこそこに、ガルストンさんから呼び出しを受け、指名依頼があったさかいに依頼主ん所に行って、内容を聞いて来いっつぅ話があった。
今までの指名依頼を鑑みると………まぁややこしい話になりそうやさかいに、あんまり関わりとうないんがホンネやが、そうそう仕事を選べる立場やなし、取り敢えず依頼主に会うてから受けるかどうか決めるっちぅ事で落ち着いた。
てな理由で、お天道さんの高い内から大人の社交場であるこの店………最近知ったんやが『銀狐館』ちゅう名前の店の1階ホールのテーブルに一人座っとる。
営業前やろうに、連絡が行っとったらしゅうて、普通に通してくれた。
何時もは煌びやかな衣装を纏っとる何時ものお姉さんも、今は極一般的な衣類を身体に付けて、俺の相手をしてくれとる。
………それでもスタイルの良さはハッキリと解るんやが。
んなお姉さんが酒を勧めてくれたけど、流石に依頼主に会うのに呑むんもなぁ………
お天道様が高い内から呑む酒は、なんや悪い事しとるみたいな後ろめたさが有って格別旨いんやが、多くはない理性を総動員して辛抱しとってん。
やが、一向に依頼主が現れん。
ビジネスの基本やさかい、相手より絶対先に着く様に調整したんやが、ちと早う来過ぎたかも知れん。
………………ほな呑んでも大丈夫か?
んな我ながらアホな考えが理性を凌駕しそうになった時、後ろから誰かが近付く気配を感じた。
振り返ると見覚えのある顔が微笑んどった。
「あんたは………………」
「御久しゅう御座います。その節は御馳走になり、ありがとう御座いました。」
商人のエルモントさん所でいざこざが在った後に、こん店で呑んでた時に見知った人や。
相変わらず同い年っぽいのに、好々爺と言うか一般人とは違う雰囲気を纏っとる御仁やな。
これを貫禄っちゅうんやろか?
「………………おや?呑んでなさらないので?」
「なんぼ俺でも、こないな仕事前の状況やったら辛抱位できますわ。」
ついさっきまで、誘惑に負けそうになっとったんは横に置いといて、偉そうに取り繕って見栄を張ってみる。
「それはそれは………ふふっ………いけませんなぁ………」
そう見透かしたかの様に笑いながら、慌てて近づいて来たお姉さんに酒を注文しはる。
………何を慌てとんねやろ?
「いやいやいや………気持ちは有り難いっちゅうか、むしろ大歓迎なんやけど………流石に仕事の話が終わってからの方がエエんやないん?」
「いえいえ………折角酒で繋がった御縁ではないですか。それにそもそも、この様に酒を嗜める店を指定致しましたのも、全てこの私めで御座います。御互いに肩肘張らずにお話をしたいと思いますし、それに………」
そこで一拍置いて………何でか少し寂しそうに微笑んだ。
「呑まずに話せぬ事も御座いますれば………」
程なくして………御互いの前には其々が望む酒のグラスが置かれた。
俺は冷えたエール。
最初の一杯目はこれに限るわ。
彼の前には琥珀色の蒸留酒。
一口目の酒としては濃い気がするが………きっとそないな気分なんやろう。
「それでは僭越ながら………御互いがぴんしゃんコロリと旅立つ時まで、変わらぬ友誼を願いまして………」
乾杯と発せられた声に合わせて、俺も乾杯と声を発してグラスをカチンと合わせる。
どうやら、前に使うたフレーズを気に入っといてくれたっぽい。
そん後は我慢しとった分ゴクゴクとエールを半分ほど呑み干す。
一応現在進行系で仕事やさかい、程々に気ぃ使こてみた。
「ふぅ………やはり、日が高い内から頂く酒は格別ですなぁ。」
おぉ。
流石に解ってらっしゃる。
いやぁ~、気ぃ合うわぁ(笑)。
そうなんよ。
なんや、世間様が働いとる時間帯に呑む行為ちゅう背徳感が、更に酒を美味く感じてまうんよねぇ。
昔、珍しく平日に休みが有った時、梅田の老舗の蕎麦屋で呑んだ時、恐ろしく優越感っちゅうのを感じて美味かったなぁ………
ビジネスマンの視線が刺さる刺さる(笑)。
あん時のビールと、蕎麦焼酎の蕎麦湯割りの味は忘れられんわ。
そういや、蕎麦食いたいなぁ………
あの柚子を練り込んだ蕎麦は絶品やったなぁ………
こん世界に来てから忘れとった味の記憶を、今更こんな形で思い出すとは………
望郷の念っちゅうよりは、ただの無い物ねだりやね。
そないな余韻に浸っとると、もう一口酒を含んだ対面の男が、居住まいを正して頭を下げてくる。
「この度は、私めの依頼を受けてくださって、誠に有難う御座います。」
「いやいや、ちょ待ってくださいよ。申し訳ないでっけど、まだ受けた訳やあらへんので。今ん所は内容も解らんさかいに、話を聞きに来たっちゅう所ですわ。」
旋毛が見える程に下げられた頭に、慌てて掌を振り否定する。
いや、折角呑んだ仲やさかいに、頼まれた依頼は受けたいたぁ思うけどもよ。
流石に、金額も記載されとらん小切手を渡す様なマネはようせんわ。
そもそも、何処のどちらさんやねん?
「おぉ。そうでした。そういえば名乗りもまだでしたな。これは失礼しました。」
そう言いながら再度居住まいを正す彼の姿に、何か得体の知れん………無理くり表現すんなら獰猛な野獣の様な迫力を感じる。
「私、ベルグ・ノスフェラトスと申します………」
ーーー《sideーB》ーーーーーーーーーー
「それ程の人物なの?」
眼前に優雅に座る美しき人が、瞳を限界まで開いて驚きを表す。
思い返せば、何時もの低く美しい声が、多少上擦って高かった様な気も致しますが………
「御存知ありませんでしたか?かなりの大物ですよ………我々とはまた違う、闇の世界の住人としてはね。」
ノスフェラトス・ファミリー。
この国最古の犯罪結社であり、その勢力図は国内外に広がっている。
その勢力が、現状までに至った原因として挙げられるのは、13代目の筆頭となったベルグの功績と考えられている。
彼は、血生臭い抗争も勿論手段として用いる事もあったが、主に政治的手腕を持って勢力を拡大させていった。
そういった事から、彼が流血沙汰を好まないという噂もあったが、本当の所は時勢に合わせたものであったのだろう。
その考えが見事にはまり、今では近隣諸国にまで勢力を伸ばし、他の有力組織との繋がりを考えると、下手な国家組織が手を出せる様な規模では無くなっている。
「そんな人物が………何故?一体何処で彼を知ったのかしら?」
優雅に組んでいた脚を解き、少し前のめりになった彼女が問い掛けてくる?
さて………
本当の事を告げたなら、彼女はどんな顔をするだろう………
「なんでも………酒の席での知り合いだそうですよ。」
「………………………………は?」
可愛らしく目を見開き言葉を失った彼女は、暫く何かを言いたげに口を開きかけていたが、やがて何かを諦めたかの様に首を振ると、ソファの背もたれに深く身を預けた。
「………何と言うか………………全てが予想の斜め上に行っていて………………なんだか目眩と頭痛がしてきたわ。」
「それはそれは………珍しいですね。リラックス効果の有る御茶と、薬を用意いたしましょうか?」
そう労る私を恨めしげに一瞥すると、蟀谷を細い指で解しながら身を起こした。
「何を他人事の様に………………御茶だけで結構よ。薬なら私の方が詳しいしね。」
そう言う彼女はニヤリと笑った。
「毒薬専門だけど。」
ーーー《sideーA》ーーーーーーーーーー
で?
実は正体がめっちゃ怖い人等のボスって事は解ったけど。
それで俺に何をさせたいねん?
三杯目の酒に口を付けながら、ぼちぼち仕事の内容を聞いていく。
ええ加減、無駄話を続けとったらべろべろになってまうわ。
そないに俺如きと呑むんが楽しいんか………なんぞ言い難い事が有るんか。
やが酔いに脳味噌を狂わされる前に、聞かなあかん事は聞いとかんとね。
安請け合いとかせん様に………
因みに、三杯目からは俺もウイスキーっぽい蒸留酒のロックや。
こっちのは向こうのと比べると、スモーキーさと円やか味が少ない気がする。
やっぱり熟成とかの技術が弱いんやろか?
この辺りを下手に突っつくと、めっちゃややこしい事になりそうやな。
黙っとこ。
「………………旦那様は、」
「やめてぇな。同年代なんやろうし、敬称略でええがな。気楽に、気らぁ〜くにね。」
やっと口を開いたかと思たら、悲壮な顔しとるさかいにちゃちゃを入れる。
んな顔されたら、続きを聞くんが怖なるがな。
それに、依頼人の方が凄い下手に出るって何か変やん。
取り敢えず職業は横にのけといて、こん人とはええ酒が呑めそうやなと思てんねん。
「………………それでは………………………旦那は『赤龍団』を存じて居られますよね?」
やっとこさ話し始めたんやが、まだどっか硬さが残っとる。
やが、それよりも話の内容が気になった。
『赤龍団』ちゅうたら年の瀬に、エルモントさん所の仕事ん時に、ヤカラ言うて来た糞ヨゴレの集団やんかいさ。
そん後色々ごたごたと有って、仲間のエリクが怪我させられたさかいに、しっかり責任を取ったってん。
なんでも、裏でコイツ等を使っとった悪徳商人は火事で亡くなったらしいが………
やが残りの連中は、今も元気に悪さ続けとるらしいけど………
それがどないしてん?
「それを潰して頂きたい。」
………………………はぁ?
《See you next trip》
如何でしたでしょうか。
次作も粉骨砕身務めますれば、
感想等を頂けたら望外の喜びです。




