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《Trip12ー③》

此度も御読み頂き有り難う御座います。


僅かでも楽しんで頂けたのなら幸いです。






「………………どないしてん?」



 寒晴、朝日の温もりと共に惰眠を貪りたくなる様なガタゴト揺れる馬車の上、意識を手放しかけとったけど、なんとのぉ御者台の方を見れば、やけに後ろを振り返っとるメルリヤの姿。


 脇見運転はどこの世界でも危ないんやさかいに、やめて欲しいんやがなぁ………


 そない思いながらも、俺も御者台に移って横に座る。


 なだらかな一本道。

 頭のええ馬やさかい、よっぽどの事が無いと事故る事もあらへんやろう。

 やが油断は禁物やわな。


 なんせ扱えるんはメルリヤだけや。

 俺には期待せんといて。

 現代大阪市内に住んどったこの身で、馬の扱いなんぞでける訳あらへんやん。


 横に座ってぼんやりと風景を見やる。

 街はまだ見える気配すらあらへん。

 せやさかい、ぼやぁっとしながら返答を待つ。

 急かす様なまねはせん。

 メルリヤが言いとうなるまで黙っとく。

 時間はたっぷり有るんやさかい………



「………………………………………………。」


 清々しい周囲とは裏腹に、暗い空気が蔓延しとる中、やっぱり気に掛かる様で、また後ろを振り向いた。

 やが、その視線の先には何にもあらへん。

 当たり前やけど………

 溜め息一つ、無理矢理視線を戻すと、ぽつりと呟いた。 



「………………寂しくないのかなぁ………」



 誰が?とは聞かん。

 何が?とも聞かん。


「………さぁなぁ………………」


 ただ、それだけを返す。


 メルリヤの意識が俺に向き、そん瞳の中には驚きと共に、冷たいんちゃうんといった非難が混じっとった。

 それには苦笑しか返されへん。



「………いつの間にか歳を重ねるとな………感情を表に出すんが、なんとのぉ気恥かしくなるもんなんよ。かっこ付けとんねやな………せやさかい、けっして顔に出さへんのや………そん気持ちが消え去る訳やあらへんのにな………あほやろ?せやけど、大人なんてそんなもんやねん。」


 ………そないせんと生きてかれへんねん。


 ………ほんまあほやろ?


 泣ける位に………



 メルリヤは何も言わん。

 操馬に集中しとる訳では無さそうや。

 俺が言うた事を考えてくれとんのやろか?

 せやったらええな………



「………お前(メルリヤ)は、そないに思える気持ちを大切にしいや。」


 そない言わずには居れん。

 相手の事を慮れる心。

 知人の現状を憂う心。


 それらは歳を重ねるにつれ、少しずつ失われて行ったもんやさかい。

 ………いや、すり減ったんかも知れんな。


 んな事をぼんやりと考えとったら、不意にメルリヤがこっちを向いた。



「………………寂しい?」



 ………………言葉が出てこん。


 何かを言うた方がええんは解っとっても、何でか喉が閊えるようで出てこん。

 なんで『んな事あるかい』と否定でけんのやろう………

 なんで鼻の奥がつーんってするんやろう………


 空を見上げた。

 冷たい空気で満たされた空は、何処までも高く感じる。


 数拍おいて………心に余裕が戻ってからメルリヤの頭を、これでもかって位にぐりぐりと撫でてやった。

 ハラスメントとか知らん。

 今の俺に出来ることはそんだけや。


 乱れまくった髪を直すのにぶぅたれとったが、口元は笑ろてんのが見て取れた。



 それで救われた。



 そんな気がした。






「よぉ、旦那ぁ。今帰りかい。『星誕祭』だったのに働くねぇ。」



 街に戻ると、門の所で守衛をしとる男ににこやかに話し掛けられた。


 ………呑んだ事あったっけ?


 記憶は一切無いんやが、口振りからすると俺ん事を知っとるみたいやし、どっかの酒場で会った事が有るんかも知れん。


 やが知らんっっ!!


 んな事をおくびにも出さず、大人の対応で曖昧な笑顔で手を振って応える。

 向こうも人当たりが良く、手を振り返してきおる。


 ………次会う時までに思い出しとこ。




 街は活気で溢れとった。


 こん街は、何時も活気が有るけども、何時も以上に賑やかな気がする。

 当て嵌まるんか知らんけど、正月独特の華やかさと言うか………



「………………何時もこんな感じ。人が街に溢れ出てくる。」

『星誕祭の翌日は、その反動も相まって、買い物客で溢れる事が多い様です。それを見越して、商店も活気づきます。』


 初売りバーゲンみたいなもんかいな?

 『福袋』とかやったら儲かりそうやな。


 俺は全く興味無かったんやが、知り合いにゃ『福袋』に並々ならん執念を燃やしとるのも居ったなぁ………


 んなあほな事を思いながら、大通りを馬車で行く。

 返却せなあかんからな。

 ええ加減買えやと遠回りに言われとるけど、買った所で置いとく場所があらへん。


 まぁその内考えよ。



 道すがら、あっちこっちから声が掛かる。

 すっかり『旦那』呼びが定着したなぁ。

 見れば仕事仲間が殆んどやが、どこぞの商店の奥さんらしき人や、小さな子供等からも手を振られる。


 いつの間に知り合いになったんやろ………


 何やかやと生きる事だけに頑張ってきたつもりやけど、知らん間に随分とこの街に受け入れられたもんやと感じるわぁ。

 俺の思い込みかも知れんけど………

 やが、異邦人たる俺みたいなもんでも、こん世界の一部となって来たんかも知れん。



 ………せやったら………少し嬉しいかな。



 なんや、無性に『夜霧亭』に帰りとぉなった。

 見慣れた顔を肴に、大酒呑んで笑いとぉなった。



「よっしゃっ!帰って呑むでっ!」


 おぉぉ〜という棒読みながらもやる気が籠ったメルリヤの声に合わせて、大きく馬が嘶いた。

 まさかお前(お馬様)まで呑む気ちゃうやろな?




 呑まさねぇよ?






《See you next trip》

如何でしたでしょうか。


次作も粉骨砕身務めますれば、

感想等を頂けたら望外の喜びです。 

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