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《Trip12ー②》

此度も御読み頂き有り難う御座います。


僅かでも楽しんで頂けたのなら幸いです。






 ちゃうなぁ………


 こぅやない………………



 拳を放ち終えた姿勢を解いて、今の拳打の問題点と言うか違和感を洗い出す。


 もっとこう………


 腕を投げる様な感覚が必要とか聞くさかい、肘から先の力を抜いたら………いや、肩から先の力を抜いたらええんかなぁ?


 んな事を考えながら、幾度も同じ動きを繰り返す。



『………で?お主は何をしておるんじゃ?』


 呆れた様な声を掛けられ視線を移すと、うっすらと輝く女性が佇んどる。

 手にした青竜刀の様な得物を杖とし、もう片方の手を腰に当てて、なんとも呆れた様な顔をしてはる。


「あぁ………この打ち込みやねんけどね………」


 この俺が勝手に『姫さん』と呼んどる御方は、この手の体術にも詳しそうなんで、藁にも縋る思いで参考意見を求めてみる。


『………レイド僧兵の体術に似ておるの………』


 レイド僧兵?


『特定の神ではなく、自然界全てのものを信仰対象とした宗派の中でも、徒手空拳で武威を示す者がそう呼ばれていました。』


 なるほどねぇ………

 RPGのドルイド僧の中のモンク的なもんかいな?

 実際にはドルイドもモンクも武術とは縁遠いらしいけどね。



 ………やっぱり少◯寺かな?


 徒手空拳で戦う僧侶のイメージって言うたら、俺らの年代やったら少◯寺やわな。

 いろんな映画がやっとったし。

 若き日の李連杰の出世作やもんね。


 因みに………木◯拳は成龍の若き日の作品やね。



『彼奴らは、膝の力を抜くとか申しておったが………』


 俺がしょーもない事を考えとると、姫さんは(おとがい)に綺麗な指を添えて、遠い昔を思い返してはる。

 それこそ悠久の思い出を………………


 多分、そこら辺には触れたらアカンやろ。

 きっと姫さんは笑って許してくれるやろけど。

 せやから言うて、踏み込んだらアカン領域はあるやろ。


 粗忽もんの俺でも、それ位の気遣いぐらいはでけるわい。



 せやさかい、姫さんの呟きを参考にして、さっきの打ち込みに落とし込んでみる。


 膝かぁ………………


 おそらく、俺が思い描いとるもんとは別モンやろうけど、やっぱり脱力って大事になってくるわなぁ………


 所謂『シャ◯リー』ってやつやろか?


 現代日本人男性ならば、大半は知っとるやろう武術の極意を思い出す。

 頭で解っとっても、なかなか拭いきれん力みを一切合切捨て去るって、ほんまに出来んことやわ。

 そない考えると、所謂達人と呼ばれる人達はすげぇよな。


 嘘かホンマか知らんけど。

 かなり話が盛られとると思うし。

 『カク・シーキング』なんてそれこそマンガやし。


 取り敢えず、『踏鳴』に近い震脚は捨てきれんさかいに、他の部分での脱力を目指す。

 目標は肩までの脱力かな?



『………いや、そうでは無くてのぉ………この『星誕祭』の夜に、御主は何故に此処に居るのかと問うておるのじゃが?』


 打ち込みの練習を再開した俺に、思い出したかの様な姫さんのツッコミが入る。


 ………気付かれたか。


 俺は練習を中断すると焚き火台に近づき、新しい薪を加えて火力を調整した。




 此処は姫さんと初めて出会った場所や。

 此処で、何度目かの野宿をする為に馬車でガタゴトとやって来たんや。


 まさか俺が………しかも真冬のキャンプをする事になるたぁなぁ………

 何がオモロイねんと全否定しとったのに、人生って解らんもんやねぇ………


 んな事を考えながら、厚手の上着を羽織って火に当たる。

 新しゅう造ってもうた大き目の焚き火台からは、ばちばちといった爆ぜる薪の音がしおる。

 身体を温めるにゃこん位の火力は欲しいんやが、調理するにゃ強過ぎる。

 革手袋をはめた手で火挟みを持つと、炭になった薪を掴んで小さめの焚き火台に移す。

 その傍に簡易椅子や調理道具なんかを持ってきて、何時でもアテを作れる様に準備しとく。



「せやかてなぁ………………」


 姫さんの問い掛けに答えるべく、言葉を選ぶが溜め息が混じるんはしゃぁないと思う。

 結構あの後大変やってんから。


 性善説を体現しとると思われる『夜霧亭』からの誘いから始まり、無理筋のトマス、身重の奥さんが居るエリク、大商会の会頭であるゴーランドはん、孤児院もやってはるフェルメンス神父はん、意外な事にドルトン親方まで………

 皆一様に、『星誕祭』のお誘いをしてくれてん。


 何これモテキ到来かいなと冗談を言える様な余裕は無く、どちらさんにも散々世話になっとるこの身としては、不義理をせん様に心掛けなぁあかん。


 ………正直に言うたら、あんまり気ぃ使いたぁないしね。


 何処に御世話になっても下にも置かん様なもてなしをされるやろうし。

 放っといてくれたらエエんやが、人のエエこん人等が野放しにしてくれるたぁ思われへん。

 一番角も立たんと良さげなんはフェルメンス神父はんの孤児院やねんけど、そないな純朴な生活をしている子供等の前で、エエ大人が泥酔する姿を見せとうはないし、やからと言うて清貧な生活は息が詰まってまう。


 せやさかいに、俺には皆の誘いを断わるしか選択肢が無かってん。

 それをエエ様に誤魔化すために、こうして街から離れとるっちゅう訳や。



『ふむ………難儀な性格よのぉ、お主も。』


 薬缶に入れた前割りしとった焼酎を、調理用の焚き火に乗せて宴の準備をしだした俺に、呆れたかの様な溜息混じりの言葉が掛かる。


『素直に善意に甘えれば良いではないか。』


 それが出来たら苦労はせんねん。


 そない思いながらも、前回好評やった焼鳥と言うか串焼きの準備を始める。


『どうせお主の事ゆえ、己を卑下するが余りに、善意に塗れるのを良しとせぬかったのであろう』


 ………勝手に人の心情を吐露するんはやめてんか。


 ………まぁ、せやねんけどよぉ。


 俺は決して善人やあらへん。

 そりゃ他人様から後ろ指差される程の悪党やあらへんが、褒められる様な生き方をしてきた覚えもあらへん。

 火の粉を払うためやったけど、結構いろんな奴をシバいて来たし………なにより、今も記憶が無いとか嘘言うとるしね。

 そん全てが、俺がこん世界を生きてくためっちゅう個人的な理由や。

 いや、我儘って言うても間違うてない。


 せやのに、勝手に俺を善人扱いしやがる。

 んで、俺に優しくして来おんねん。


 ………いや、それを責めたいんやないんや。

 そんな事されたら、俺が心苦しゅうなんねん。


 それがしんどいさかいに、勘弁してほしいだけや。



『………いい加減お主も、少し位は世の中に甘えては良いのではないか。』


 いつの間にか得物を消し去った姫さんが、呆れた様に両手を腰に当てとる。

 その態度には肩を竦めるしかないが、一応反論はある。

 三つ子の魂百までやないが、今更こん性格が変わるたぁ思われへんし、変えんのも面倒くさい。

 ………変われるぐらいやったら、そもそも病んどりゃせんしね。



『まぁ、我としても良き暇潰しになる故、それ程否定するものでもないがの………酒も呑めるしな。』


 そう言いながらニヤリと笑う姫さんは、明らかにウザいドヤ顔や。

 その笑顔に溜め息を返すと、コップに温めすぎた焼酎を注いで渡す。

 それを嬉しそうに両手で受け取り、掌を温める様に呑む姫さん。

 その姿を見とると、ふと疑問が湧いて来おった。


「………………なぁ………姫さんはあっちに行かんでええんか?」


 そう言って星空を指差す。

 そちらには目も向けずに、ワインを温め始めながら。


 俺が言うた意味を正しく理解した姫さんは、含んだ酒を呑み込んで吐息を吐いた。


『………我は、今はまだこの地を離れられぬ………それは郷愁でもあり、一種の呪いでもある。』


 そう言いやった姫さんの瞳は、やっぱり此処とは違う所を見つめとる様やった。

 そんな姫さんに、腰の後ろから引き抜いた木の棒を掲げて見せる。


 前例もある。

 コイツやったら、そん呪縛からも解放してあげれるかも知れん。


『………やめておこう。未練では無いが、もう少し現世に興味があるでな。弟には叱られるじゃろうが………』


 弟が居ったんか………

 閑話休題………本人さんが望まんモンを勝手に押し付ける気も無いさかい、こん話は暫く保留や。

 何かヤバい事になるんやったら、その前に言うてくれるやろ。


 それに………………面倒くさいんがゆっくりと、顔に縦線を引いた様なツラで近づいて来るんが見えた。




「………………………………はみ子?」


 いや、そん言葉使うん止めぇや。

 いじめとるみたいやないか。

 んな訳あらへんやろが。


『いまいち意味が解らぬが………少なくとも此奴がお主を無碍に扱う訳が無かろうて。』


 やっぱり熱過ぎたんか、ふーふーと息を吹き掛けながらも、呆れた様にメルリヤに言葉を掛ける姫さん。


「………………その割には、私が解らない話で盛り上がってる。」


 拗ねきっとるメルリヤは、まだ納得しとらん。

 それは、膨らんどる頬が示しとる。

 その顔がおもろうて、苦笑が零れんのを我慢しながら、コップにオレの実のスライスと果糖を少し、あとスパイシーな香りがする葉を一枚入れておく。


 ………二人がじゃれとる姿は、虎に突っ掛かりに行きおる猫の様や。


 微笑ましい様な、せやない様な………………



『………まるで悋気の様じゃな。心配せずとも取って喰ったりせぬと言うのに………』


 ………喰うな。

 あと、あんまり弄うな。

 面倒くさいねん。


 予想を裏切らんメルリヤが、ややこしく姫さんに突っかかって行きそうになっとるさかい、作っとったホットウイスキーを手渡して気勢を削いだる。

 機先を制されたメルリヤは、不貞腐れながらもそれを呑み始め………呑み続けた。

 それを楽しそうに見ている姫さん。


 ………いつの間にか仲良うなったなぁ、こん二人。


 まぁええ事や。


 そんな様子の二人の為に、暖を取る為の焚き火台に薪を焚べると、少しだけその場を離れて、綺麗に輝き始めた星空を見上げた。



 こん世界に来てからまだ一年も経っとらんけど、何やかやとばたばたしたなぁ………

 ほんま、気ぃ付いたら今に至るって感じやわ。

 いろんな人と出会うて、いろんな人と関わって………いろんな人に世話になって、なんとか成ったって思えるわな。

 その恩は………いつか返しきれるやろか?

 多分無理やろうけど、今生はそん為だけに生きてもええんかも知れん。



 持ったままやったコップの中身を呑み干すと、薄まっとる焼酎の酒精と、ほんのりと残っとった温もりが、胃袋から身体を温めてくれる。

 溢れ出た吐息は白うなって、ゆっくりと星の間に消えてった。




 ほんま………………

 何とか今年も生ききったなぁ………








 もう少し、生きてみるか………








《See you next trip》

如何でしたでしょうか。


急激に冷え込む様になり、

体調等に御変わりはないでしょうか?

私は年末になると、

高確率で体調を崩します(笑)。

皆様はくれぐれも御自愛ください。


次作も粉骨砕身務めますれば、

感想等を頂けたら望外の喜びです。


では、良い年を御迎えくださいませ。

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