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《Trip12ー①》

此度も御読み頂き有り難う御座います。


僅かでも楽しんで頂けたのなら幸いです。






 なんそれ?


 それが正直な感想やった。




「ところでさ………………旦那は『星誕祭』はどうするんだい?」


 蒸し風呂を出て、水を被っていた俺にトマスが問い掛けてきおる。


 こん世界やと水風呂は無い様で、瓶に汲み置かれとった水を桶で被る。

 まぁ、循環させる方法がないと衛生的にも問題が有るやろうし、それだけの水を汲むにゃ労力が半端ねぇやろうしねぇ。


 濡れたタオルを絞って身体の水気を拭うと、セケの葉の粉末と粗めのタオルを店員から受け取り、洗い場に向かう。

 セケの葉の粉末ってのは、こちらの世界では一般的な洗粉の様なもんであって、タオルや髪の毛に付けて擦ると、結構泡立って石鹸の代わりになりおる。

 使用時はミントの様な清涼感の有る匂いと、洗い後はスッキリとした感覚がありおるんでまぁまぁ気に入っとる。


 それを付けて髪をわしわしと洗とると、トマスが同じ問い掛けを繰り返してきおる。


 知らんがな。

 何やねん、『せいたんさい』って?

 推しも居らんのに、グッズでも身に付けなあかんのか?


『この世界の暦における年末年始を、宗教的な意味合いを与えられて、家庭内で行われる行事の事です。』


 なるほどねぇ………

 大晦日と正月の様なもんなんやね。


 やが、それと俺とが何関係あんねん?


 頭と身体とを洗い終えると、手ぇ上げて店員を呼んで首に掛けとった木札を渡す。

 すると目の前の盥に湯を張ってくれんので、それを手桶で掬って頭から被る。

 掌で顔を拭って視界を確保すると、隣で同じ様に体を流しとるトマスに何がやと質問する。


 俺は記憶がないんやからね。

 キャラ設定は守らんといけんのよ。


 『知識』はんから得た情報とほぼ一緒の事を教えてくれたが、そこから更に尋ねた理由と言うか補足説明があった。

 ………得てして、こういう補足の方が重要やったりする。


 曰く、みんな家庭に引っ込むさかいに、仕事はほぼ無い。

 故に、飲食店も軒並み閉まっとる。

 更に、『夜霧亭』も毎年休業しとるらしい。



 ………………………………おふ。


 そいつは困った。


 困ったが………………


 ………………そこまで困らんかな?



 幸いな事に日々そこそこの稼ぎがあって、毎夜バカ騒ぎで散財しとっても、多少は蓄えが残っとる。

 せやさかい、数日位引き籠っといても問題あらへん。

 酒と肴を買い貯めしといたらエエんやろうし。


 問題は『夜霧亭』かなぁ………?


 宿まで閉まるんかは解らんけど、トマスの口振りやったら可能性は高そうや。

 頼んだら置いといて貰えるかも知れんけど、あんまり迷惑掛けとうないしなぁ。


 逆にお前はどーすんねんと聞いてみたら、今の彼女ん所に転がり込むらしい。


 なんこのリア充野郎?

 爆散さして塩まいたろか?


 んなコッチの思惑も気にせんと、一緒にどうだいって尋ねてきおる。

 いや、気まず過ぎるやろが。


 俺の事を気遣ってくれとるんは解るけど、流石にそれは無いわな。

 見も知らん女性さん家に行くんもアレやけど、ラブラブな所にお邪魔虫すんのは針の筵やがな。

 勘弁して欲しいわ。



 髪もしっかりと乾かして、湯冷めせんように厚着して表に出ると、町中が何ぞ騒がしい。

 血相を変えて走ってく一団が居れば、それを横目にヒソヒソと噂話に花を咲かせとる連中も居る。

 何ぞあったんやろかと思とったら、トマスが直に話を聞いて来おった。


「どうやら火事みたいだね。ちょっと様子を見てくるから、旦那は先に行っててください。」


 そう言い残すと、さっさと人混みに消えて行きおるトマス。

 野次馬になる趣味も無いし、折角ええ感じに乾いとる喉にさっさと美酒を流し込みたい。


 どうせ呑む店は解っとるやろうさかい、気にせんと『夜霧亭』に向かった。




「あっ!帰ってきた。」


 人の顔を見るなり、奥のキッチンに駆け込んでくミア。


 何やねん?


 頭に疑問符を浮かべながらも、上着と手荷物を置きに行こうと階段に足を掛けた。

 そこへ、声を掛けてきたんが『夜霧亭』の主であるルミルさんやった。


「ちょっと、後で御時間頂けるかしら?」


 そない言われたさかい、取り敢えず着替えて来まっさと答えて部屋に戻った。


 何の話やろう………

 まぁ、タイムリーに考えるんなら『星誕祭』の話なんやろうけど………


 ………………………………。


 追い出されんのかなぁ………。


 まぁ、勝手にアレコレ考えてもしゃぁないし、そん時はそん時や。

 そない腹を括ると、サッサと着替えて降りて行った。




「星誕祭って御存知かしら?」


 まだ客足が伸びとらん時間帯、俺の座った何時ものテーブルの向かえに、座ったルミルさんが第一声がこれやった。

 恐らく俺が記憶が無い(設定や)さかい、こちらを気遣いながらの切り出しなんやろう。

 一応、さっきトマスに説明してもろた事を伝えると、『夜霧亭』も酒場も宿も閉めるとの事を伝えられた。


 ………これは出てって欲しいって話の流れやんな。


 そないな風に勘繰って、急いで身の振り方を考え始めた俺を嘲笑うかの様に、実に意外な方に話が流れ始めた。


「良かったら、私たちと一緒にお祝いしない?」


 ………………………………………は?


「折角の御縁で私達の所に長々と逗留して頂いて居るんだし、特に御予定が無いんだったら御一緒しませんか?ミアも喜ぶし………。」

「っ!お母さんっ!」


 慌てたミアが走り寄って、ルミルさんの腕をぽかぽか叩いている。

 それを微笑みながら受けとるルミルはん。

 その様子を静かに笑いながら受け入れとるハルア婆さん。



 なんこれ。


 泣けるんやか。



 行き場の無い俺ん事を気遣っての事やろう。

 それも仕方のうやなくて、気のエエ人等のホンマモンの御節介。

 めっさ温かい空間に戸惑ってまう。

 そないな空気が似合わんのやさかい。


 そこそこエエ歳になって、急激に緩なった眼に涙が溜まる。

 それをばれん様に誤魔化しながら、取り敢えず笑みを振りまいとく。



 めっさぎこちなく………



 自分でも解る位硬い表情をしながら、何とかそん場を取り繕う。

 こん人等に………こないな善良な人等に負担を掛けとうないさかいに。


 エエ人等過ぎるさかい………

 俺に、そないな資格もあらへんさかい………


 せやさかいに、現状の答えを避けとる俺が居る。


 いや、避ける方法を探しとる。




 ………さて、どーすっかなぁ………………






《See you next trip》

如何でしたでしょうか。


次作も粉骨砕身務めますれば、

感想等を頂けたら望外の喜びです。 

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