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《Trip11ー⑦》

此度も御読み頂き有り難う御座います。


僅かでも楽しんで頂けたのなら幸いです。






「ふぅぅぅ………………」



 大きく吐いた息が白い靄を動かして、昔のCMの風の神さんのクシャミの様にくるくるとした動きを見せる。

 その動きはオモロイが、今の俺には楽しむ余裕はあらへん。


 あつぅぅぅぅ………………


 部屋中に満たされた熱い蒸気が、噴き出した汗と混じって、顎から滴り落ちて床で弾ける。

 清潔に保たれた床を含め、部屋中がタイル張りされとる此処は、すっかり顔馴染みになっとる風呂屋ん中や。


 前にも言うたと思うけど、この世界にゃ所謂銭湯が存在しおる。

 やが、残念ながら日本人の愛する湯槽は無うて、フィンランドが発症と言われとるサウナ風呂やが。


 詳しい理屈は知らんけど、何でも高音が出る魔道具の上にサウナストーンを積み上げとるらしい。

 そこに、この世界の薬草の成分が滲み出た水をぶっ掛ければ、俗に蒸し風呂と言われとるもんが出来上がるちゅう訳や。


 普通の風呂の方が好みやねんけど、コッチの世界やとあらへんし、個人でやるにゃ金が掛かり過ぎる。

 コッチも嫌いやあらへんねんけど、如何せん息苦しいんは慣れん。

 やが、向こうやとストレス発散と体を(ほぐ)して貰うんを目的に、休日に東通りの『新しい日本』とかに半日以上居ったもんや。


 今でも潰れんとやっとるんやろか………



 信じられんやろうけど………


 一昔前やと入口前のモニターに、プールに(まっぱ)で泳いどるおっさんの醜態を晒しとったんやけどなぁ………



「しっかしさぁ………………」



 暑さで思考がぼぉぉっとしだした処に、正面から声が掛けられる。

 息苦しさを緩和する為に頭から被っとったタオルを退けると、まだ汗を掻いとらんトマスがニヤけた顔で立っとった。



「さっさと釈放されて良かったね。」



 ………………………………。


 ブラブラさせんな。

 前を隠せ。


 そうは思たが文化の違いやろうさかい、眉を思いっきし顰めるだけに留め置く。


 そう………

 俺は呑み屋で暴れた罪で、さっきまでブタ箱に放り込まれとったんや。

 まぁ………酔っぱらいの喧嘩の類やさかい、一晩の勾留で釈放されてんけどね。


 やけども、決して衛生面がエエとは言えん所で寝とったんやさかい、身奇麗にしとうて風呂に来とったちゅう訳やねん。



「………………勾留もされんと、その日の内に解放されとる奴に言われても嬉しないわ。」


 お気楽な様子のトマスに嫌味を返すと、ケラケラと笑いながら隣に座って来おる。

 俺はもう一度タオルを被り直し、正面のタイル画を見詰める。

 たぶん、どっかの火山なんやろう………

 風呂屋にゃ山の絵がよう似合っとるわ。

 なんて山なんかは知らんけど。



「だって、旦那が一番大暴れしていたからね。仕方が無いんじゃない?」

「………酔うとったさかい、覚えとらんわ。」


 的確なツッコミに曖昧に答えると、トマスは軽く肩を竦め笑とった。



 そう、俺は酔うとってん。


 それはもう泥酔と言うてもエエもんやったんや。

 せやさかい、何があったんか全く覚えとらん。


 そういう事になっとんねん。


 やないとややこしい事になるさかいね。



「そういえば、エリクを襲った真犯人が白状したってさ。」


 そりゃせやろ。


 あんだけお膳立てしたったら、あのフェルナルドはんなら白状させるやろ。



 俗に言う別件逮捕っちゅうやつや。


 決して褒めれたモンやあらへん。

 せやけど、個人的にぁある程度は許容されるべきモンやと思う。

 今回みたいに、己が逃れる為にゃ他人を犠牲にする様な、クソみたいな悪党を逃さん為には特にね。



「そりゃ良かったわ。」


 取り敢えずね。


 実際に、彼奴等に依頼した奴の所までは捜査の手は伸びんやろうけど、ほんま取り敢えず直接手を下したクソ野郎は処罰されるんやから、今ん所は良しとしとこう。


 今ん所はね。



「………………狙い通りかい?」

「………酔うとったさかい、覚えとらんわ。」


 タオルで覆われた俺の表情を読もうと、トマスが覗き込んで来おったんで、掌で顔面を押さえつけて追い払った。


 普通にウザい。






ーーー《sideーB》ーーーーーーーーーー






「………………うむ。」


 今回の顛末の報告書に目を通しながら、ワインに口を付ける。


 今回だけではなく、教養の足らない無法者を使う際は、その後の事まで目を光らせておく。

 たとえ子飼いの連中でも、時には牙を剥く事もあれば、つまらない事で足が付く事も有り得る。


 その時は一刻も早く関係を断ち切る必要がある。


 あの様な者共の為に、私が大切に育てた我がグリフィス商会が傷を受ける様な事があってはならない。


 そんな事が有って良いはずがない。



「急ぎ、連中との繋がりを示すものを消し去れ。」

「承知致しました。」


 横に控える番頭に指示を与えると、手元の書類をテーブルの上に投げ渡した。


 この男も私が見出した者だ。


 父親の代からの者共は、私のやり方が気に入らなかった様なので、軒並み暇を出して退いてもらった。


 どの様な綺麗事を言っていても、所詮懐は暖かくはならない。

 ならば、儲けた者が結局正義なのだ。

 たとえ、どの様な手段を用いたとしても。


 そこを理解できない愚か者共は、挙って私を非難する。

 だが、そういう奴に限って金の力の前では容易に膝をつくものだ。

 全く持って愚かしい。


 その様な事を考えていると、気が付けば首元に巻いたスカーフを止めているカメオに触れていた。


 子供の頃からの癖だ。


 幼い頃に亡くした母の形見のこのカメオは、私にとっては御守りの様な物だ。

 それに触れながら、ゆっくりと考えを纏めて行く。

 如何にするのが、より良い結果を招くのかを………



 それにしても………


 一連の報告書の内容に思い返すと、幾度となく名も無き男が邪魔をしている。

 正確に言うならば、この男を中心としたグループなのだが………

 だが、この男が起こした行動が結びついて、結果全てが私の商売の邪魔をしている。



「件の男も目障りだな。」


 零れ出たのは正直な感想だ。

 この男が居なければ………

 この男を排除できれば………

 おそらく、これからの商売の邪魔をする者は現れまい。


 ………ならば取り除けば良い。



「それでしたら、私めに御任せ下さいませ。」

「おまえにか?」


 控えていた番頭が口を挟んだ事に不快感を覚えながらも、利する可能性を考えてみる。


 この者は、近頃頭角を表した数人居る番頭の中でも有能な類の者だ。

 確かに、私の命に忠実で、いかなる仕事も確実に熟している。


 それだけ野心が強いと言うことだろう。

 だからこそ、それを理解しておけば信用はできる。


 だが、事暗殺となると話が違う。

 この者に一任するには、リスクが大き過ぎると判断した。



「確実に仕留めたい。腕の立つ者を数人用意しろ。」


 肝心な事は自身で指揮を取る。

 これは商売の鉄則である。

 故に、件の男も難敵と判断し、私自身が陣頭を取る事を通達する。



「………………それは残念です。」


 小さな声は、おそらく番頭のものだろう。

 この者からすれば、手柄を上げる機会を奪われたのと同じ事だ。

 しかし、その様な小事など気に留めるつもりもない。

 全ては私の都合が優先されるべきなのだから。

 この者には次の機会もあるだろう。



「それでは………確実な方法で証拠を消し去りましょう。」



 だから、聞こえてきた小さな呟きも然程気にもせず、次の書類に目を通していた。



 ぴぃぃぃぃぃん………


 こんっ!

 ころころ………………



 乾いた音と共に、私の大切なカメオが机の上に落ちて転がった。

 私の御守りのカメオが………


 拾わなきゃと思った瞬間、手元の書類にワインより赤い物が広がった。

 それが、切り裂かれたスカーフの隙間を抜けて、私の喉から撒かれた物だと気付いたのは、カメオの存在を探ろうと、反射的に首元を触ろうとしたからだ。



「旦那様が御亡くなりになれば、全て問題なく解決致します。」


 揶揄する様に微かに笑いを含んだ声は、いつの間にか真後ろから聞こえてくる。


 誰の声だ?


 確かに先程まで聞こえていた番頭の声の筈なのに、全く知らない者の声に聞こえる。

 それは、押し殺されていたものから解放された、殺意とか悪意と言ったものの声なのか………

 無体な考え考えを否定できないのは、身体が震えるから。

 それが恐怖からか、血を失い続けているからかは解らないが………



「あの男を殺る権利は、何方様にも御譲りは致しません。」


 朦朧としながらも、何処かで冷静に状況を把握しようとしている頭が、更に声の質が変わった事に気が付く。


 少し高音域に………

 まるで女性の様に………


 途切れ行く意識の中で、相手の正体を知る事も出来ないままで居ると、何処かで炎が揺らめくのが見えた。

 そこで力尽きると机に突伏し、そのままズルズルと床に崩れ落ちた。

 その途中で、この部屋には無かったはずの桃色が見えた気がするが………


 途切れる前の最後の意識が、呟く声を拾った。




「………殺るのはアタイだ。」






《See you next trip》

如何でしたでしょうか。


次作も粉骨砕身務めますれば、

感想等を頂けたら望外の喜びです。 

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