《Trip11ー⑥》
此度も御読み頂き有り難う御座います。
少し投稿が遅れました事、申し訳ありません。
僅かでも楽しんで頂けたのなら幸いです。
「………よっ。」
しゅたっと片手を上げて、何時もの様に挨拶をして来るメルリアは、まるで何事も無かったかの様や。
幸いな事に右手に握るは愛剣やなく、使い込まれた木剣やった。
それは、前に俺との模擬戦した時に、せっつかれて俺が作ったった奴や。
柄元に『洞爺湖』って焼文字入れたったさかいに間違いあらへん。
………漢字やさかいに意味は伝わっとらんやろうけどね。
『シルバーソウル』ネタは、どうやったって通じんやろうしねぇ………
いや、そないな事はどぉーでもエエねん。
「おまっ………………何で来てんっ!?」
予想外の人物の登場に、予想外に慌ててまう。
せやかて、一連の騒動にぁメルリアは絡んどらんのやさかい。
その上、メルリアは俺がここに来る事も知らんはずや。
「何?………………はみ子?」
「いや。んな訳やあらへんねんけどよ………」
昨今やと、大阪人でも使わん様な言葉を使うメルリア。
何で知っとんねん。
………………てか、絶対に俺やわな。
前にどっかで俺が言うたセリフを、きっと覚えとったんやろうな………
あかん。
パニクっとるわ。
せやなしに、何で此処に居るんかっちゅう事が問題やねん。
それを聞き出しとうて、殴りかかって来おる連中を適当に流すんやが、上手い事いかんねん。
次から次へと輩共が湧いてきおるさかい、対応に大童や。
今も無防備に向かって来やがった輩に、喉輪からの腰ベルトを掴んで吊り上げて、床に叩き付けたる。
覆面しとる『赤い処刑マシーン』、カッコ良かったなぁ………
なんや、今はどっかの市長やっとるとか聞いたけど………
んな事は置いといて………
何で次々と輩共が湧いてきおるんかと思たら、相手の得物を叩き落したメルリアが、そいつをコッチに送り付けてやがった。
………まぁメルリアの実力やと、木剣でも相手をブチ殺しかねんさかい、俺に降ってくるんはありっちゃありやねんけどよぉ………
今も俺に実情を気づかれたメルリアは、んな事を気にする様子も欠片もなく、逆にコッチにそぅれと新たに被害者を送り込んで来おる。
嬉しそうに………
仕方無しに、俺は38.4cmでも34cmでも無い、28cmの靴裏で迎え撃ち、カウンター気味に顎を捉える。
ぽぅ?
額に手を翳して、んな事言うてる場合か。
「おおぉいっ!?」
「………はみ子?」
隙を付いての俺の問い掛けにも、メルリアはさっきと同じ問い掛けで返してきおる。
「………んな事、ある訳無いやろがな。」
俺がメルリアを蔑ろする事は無い。
この世界に来てから、どんなけ世話になっとると思てんねん。
メルリアにゃ、返しきれん程の恩があるんや。
「なら文句は聞かない…………………それに………」
俺の答えを聞いたメルリアは………なんや嬉しそうや。
感情を発露するんが苦手みたいやが、近頃やっと割と読める様になってきた。
それにしても珍しく、口角がホンマ僅かに上がっとった。
その答えに満足したかの様に………
そして、新たな事実を告げる。
「私だけじゃない。」
その声を合図にした様なタイミングで、鬨の声と共に男共が雪崩込んで来おった。
よぉ見ると、何時も仕事を一緒にしおる連中が、めっちゃ笑顔で乗り込んで来とる。
目ぇ血走らせながら………
怖いってっ!
何で乱闘すんのに笑とんねん。
どんだけ血の気が多いんや。
そんな奴らが、ダサいベストを目標に手当たり次第に殴りかかっとる。
「………なっ………………お前等どないしてん。」
驚き声を失う俺を尻目に、周りの乱闘は熱を帯びて来おる。
始まってもうたら、誰も俺を気にもしとらん。
ホンマ、呆れてまうわ。
そないな俺の肩にポンと手が置かれたんで、振り返ると苦笑いを浮かべたトマスが佇んどった。
荒事が苦手なトマスが、何故にこん場に居るんか不思議に思とると、呆れた様にトマスが言いおった。
「結局さ………旦那はこういう所が水臭いんだよ。」
………んな事あるかい。
これは俺がやらなアカンかっただけの事や。
んな事に誰かを巻き込みとうは無かっただけやんか。
それがアカンかったとでも言うんかい。
「………………だからね。」
予想外の事が多すぎて、理解が追いついとらん俺に、メルリアが追撃を食らわす。
なんや………あっちこっちから声掛けられんなぁ………
「………類は友を選べない。」
その言葉に訝しむ俺に対して………妙に落ち着き払ったメルリアが、なんやろ人をアホにした様に言い放ちおる。
………………諦めたかの様に。
「みんな馬鹿ばっかし。」
溜息混じりの諦観したかの様なメルリアの呟きが、空虚に響く。
俺を責め取る言葉や無いたぁ思う。
そもそも俺が使こてた言い回しやし………
それに………メルリアの言葉のニュアンスに、どっか笑みが含まれとった様に思われたしね。
結局、増援にケンカ相手を奪われてもうて、やること無うやって佇んどると、エリク襲撃犯やと思われとる奴が、こそこそと逃げ出そうとしとるんを見つけた。
逃がすかい。
構えられた右腕は破城槌。
左で継ぎ足をして距離を潰し、右足を踏み込み足先を内側に捻る事で、捻れから生じる力を全て右腕に乗せ、そのまま相手に向かって打ち出す。
小手先のややこしい事をせずに、真っ直ぐ突き出す拳はほんの少しだけ斜め上に向かい、受けた相手の体制を崩して吹っ飛ばす。
この技の名の通りに………
何で使えるかって?
昔から練習しとったさかいにね。
「てめぇ………これが狙いか?」
拳に残った鈍い痛みを噛み締めとると、横合いから声が掛けられる。
………ホンマ、今日はよう声掛けられる日やなぁ。
振り返ると、目立つ美しい金髪よりも、逞しい胸筋が目に入る。
それだけで誰か解るっちゅうんもたいしたもんやわ。
「………よぉ、木っ端役人。ようやっとやる気になったんかいな。遅いっちゅうねん。」
「この酔っ払いがぁ………」
『騎士』フェルナルドは歯噛みするが、それ以上は言い返してこん。
らしゅうはないが、この状況がもたらすメリットを考えとるんやろう。
「………………テメェ………」
俺と美丈夫が不毛な睨み合いをしとる横から、さっきぶっ飛ばした真犯人がヨタヨタと起き上がり、何も考えとらんのか俺に向かってきおる。
そいつん事を振り返るんでもなく、指先まで美しい左腕がソイツを制する。
「んだテメェっ!邪魔するなぁっl」
あっ。
終わったな、コイツ………
その手を乱暴に振り払う脳味噌がスッカスカの輩。
それに一瞥をくれただけで、直ぐ様俺を睨みつけてくる美丈夫。
やがて根負けしたかの様に、小さい溜息と共に負け惜しみを口にしおった。
「………………今回だけは、テメェの策略に乗ってやる。」
そう告げるやいなや、腰から得物の硬鞭を引き抜くやいなや、理解力の乏しい輩を激しく打ち据えた。
白目を剥いて延びた輩を踏みしめ、自警団西方支部団長の顔に戻った美丈夫は、高らかに宣言した。
「治安維持執行妨害確認っ!全員確保ぉっ!一人も逃すなぁっ!」
「はっ!」
表に配置していたと思われる捕り方が、雷鳴の様な号令一下、店内に雪崩込んで来て、金砕棒の様な刺股で区別無くとっ捕まえて行きおる。
………いや。
こっちの仲間内に対しては、何やら穏やかに連れて行かれとう様子や。
トマスに至っては、仲良さげに談笑しながら、肩を叩きながら連行されとる。
………これを連行と言うのかは疑問やが。
まぁ、トマスがエエ様に取り計ろうてくれたんやろう。
この辺りは卒があらへん。
メルリアはちゃっちゃっと姿を消しとる。
こっちは言わずもがな。
「おい、オヤジぃ………………」
『騎士』フェルナルドが戸惑いを含んだ声を絞り出す。
んな声出さんでエエのに………
そう仕向けたんは俺なんやし。
そう思いながらも美丈夫の言葉を待っとると、己との葛藤の末に何とか絞り出しおった。
「お前を捕縛する。」
あいよ。
《See you next trip》
如何でしたでしょうか。
個人的には『ざまぁ展開』も好きなのですが、
嫌味なキャラを描くのが上手く行きません。
いずれは書きたい題材なのですが………
次作も粉骨砕身務めますれば、
感想等を頂けたら望外の喜びです。




