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《Trip11ー①》

此度も御読み頂き有り難う御座います。


僅かでも楽しんで頂けたのなら幸いです。






「ケンカだぁぁぁっ!」




 ………………知らんがな。




 何時もと変わらない、日常と成りつつある日雇い労働。

 変わった事と言えば、季節が移ろいだ事位か。

 感覚的に言うたら、前の世界で年の瀬に近い感じやな。

 せやから雪でも降ってもおかし無いほど冷えとる。

 俺も厚手の服を揃えた位やさかい。

 ほんま、それ位しか変わり映えのせん日常や。


 やが、それが結構重要な事やったりすんねん。



 解っとると思うけど、俺等の様な労働者の仕事の内容は、基本的に肉体労働がメインや。

 身体を使やぁ、必然的に体温が上がり汗をかく。

 この季節やと、身体から湯気が上がっとるモンも大勢おったりする。


 そりゃもぉほっとほっとや。


 ………………今どき、このギャグ知っとるモンも少ないやろうなぁ………


 閑話休題(そりゃぁ置いといて)、汗かくさかいに薄着では居るんやけども、ちょっとした合間に身体が冷えるさかい、体調を崩しかねへんのがこの時期やねん。


 せやさかいに、ちょっとした合間にはとんと(焚き火)に当たって、身体を冷やさん様にせなあかんねん。


 てな訳で、今は今日の雇い手が用意してくれた、ドラム缶の様な器具に廃材をぶち込んだだけのとんとに、肩に簡易な防寒衣を羽織りながら当たって、絶賛休憩中や。


「ったぁぁ。今日は一段と冷えんなぁ。」

「旦那ぁ。薬草茶飲むかい?」


 どないしても、とんとに当たっとらん所が冷えていくんで、背中で当たっていた俺は冷えていく顔を擦りながら、

どない仕様もない事をボヤいとると、横から別の火に掛けていたヤカンを持ち上げながら、トマスが問い掛けて来た。


 この薬草茶ってやつ、辛い訳やあらへんねんけど、身体を内側から温めてくれるちゅう効果のある優れもんや。


「………いや、やめとくわ。あんまり水気を取ったら、()()()だけやさかいな。」

「ははっ。若くないからねぇwww。」

「………………お前、一回ちゃんとシバクぞ。」


 そんな何時ものやり取りを楽しんどる時やった。



「ケンカだぁぁぁっ!」



 ………………知らんがな。



 日雇い労働者って、なんでか知らんけど血の気が多いモンが多いさかい、ちょっとした事でいざこざに成りやすいもんや。


 やが、それをお祭り騒ぎの様に楽しむ趣味はあらへんし、できる事なら関わりとうあらへん。

 面倒くさいのは御免やし、人様の仲裁に立てる程にできた人間やあらへんさかいね。


「………珍しいね。近頃は俺等の集まりで揉め事なんて無かったのに………………」


 トマスは、騒ぎの声が上がった方を向きながら、そんな感想を述べている。

 俺はそちらを一瞥もする事無く、向き直って炎を見つめていた。


 確かに………

 幾つかの雇い主さん等が俺を名指ししてくれて、損得勘定も込みやろうけど、俺を慕う連中が集まって舎を作り出してから、こないな馬鹿騒ぎは無かった様な気がする。


 それでも俺が禁止しとる訳やあるまいし、そうやとしても止めれるモンでもあらへんしね。

 ほっといてもええんちゃう?


 そんな風に考えとってん。

 そん時は………………



「旦那ぁっ!大変だぁっ!」



 そう叫びながら此方に駆け込んで来たのは、俺等の舎を纏めとるモンの一人のエリクって奴やった。


「エルモントさん所に殴り込みだぁっ!」


 ………………………は?


 エルモントさんってのは、今回の雇い主の商会の代表や。

 穀物を主に扱うとる商会で、何を気に入ったんか知らんけど、よく俺等の舎を纏めて雇ってくれとるええ人やと思てたんけど………


 カチコミされる位に揉めとったんやろか?


 今一ピンと来とらん俺に、トマスが重大な事を告げてきた。


「………下手したら、給金出ないんじゃぁ………………」


 ………………えらいこっちゃやがなっ!


 慌てて俺は、エリクの案内で騒ぎの下に走っていった。




「おらおらおらぁぁっ!見せもんじゃねぇぞぉっ!」

「いやいやぁ。見てもらった方が良いんじゃねぇかぁ………見せしめの為にもよぉ。」

「ははっ!違ぇねぇやっ!」


 下卑た笑いが広がるが、その中でも積み荷を蹴り崩し、従業員に暴行を加える手を休めない。

 血反吐を吐いた従業員が転がり、追撃の蹴りが被害者を追い立て、新たな被害者を求めて棍棒が振るわれる。


「やめてくれぇ。いったい何だっていうんだぁ。」


 泣き叫ぶエルモントさん。

 そこそこエエ歳した大人のンな姿も、脳細胞の一欠片すら畜生レベルに成り下がっとる連中にしたら、格好の笑いのネタになっとる。


 一頻り笑い飛ばしとった揃いのベスト着た輩共は、終いにはエルモントさんを突き飛ばしおった。


「知らねぇなぁ………………まぁ俺等には関係ねぇ事なんだが………グリフィスさんところの話を断ると、碌な事にぁならねぇってこったなぁ………」


 おそらくリーダー格と思われる奴が、跪くエルモントさんの髪を掴み、顔を上げさせると偉そうに宣いおった。


 おそらくやが………商売上の申し入れを断ったエルモントさん所に、金でも握らされたやくざモンが嫌がらせに来たって構図やろうな。


 ………………しょぉぉもな。



「てめぇらもっ!よぉ〜く考えとくこったぁっ!」


 リーダー格の男が周りの労働者に向かって吠えあげる。

 周囲の輩共も、手に持つ棍棒を誇示しながら、威嚇のつもりなのか、おらぁぁっと無駄にでかい声を上げとる。


「この先、このまんまじゃ食って行けなくなるんだから、ちったぁ頭を使いやがれっ!」



 ………………詳しい事情は解らんが………………………



 こいつらが俺の仕事の邪魔をしとんのだけは、呆れる程によぉぉぉ解った。



 はぁぁぁぁぁぁ………………



 俺は盛大に溜息を吐くと、立ち尽くす労働者を掻き分けて、崩された穀物の袋に近づくと、パンパンと叩いて汚れを払ってから肩に担いだ。

 そのまま運んで行こうとしたんやが、行く手を輩共に塞がれた。


「てめぇぇっ!何してやがるっ!」

「見て解らんか?仕事の続きをしとんのやがな。」


 俺に向かって無駄に凄んでくる(アホ)に、努めて冷静に教えてやった。

 やが、それが知能指数が壊滅的な輩にはお気に召さなかったらしく、ツバを飛ばす勢いで、数少ないボキャブラリーで文句を言ってきおる。


「舐めてんのかてめぇぇっ!仕事は終わりなんだよぉっ!それを下ろしやがれっ!」

「………唾飛ばさんでも言えば解るわい。汚ねぇなぁ………下ろしたらええねんな?」


 下ろせ下ろせと煩いさかい、ほれと担いでいた荷物をそいつに渡したった。

 途端に足腰がふらつき、その荷に潰される輩が地面にひっくり返る。


「おいおい………ちったぁ足腰鍛えた方がええんちゃうかぁ?そないなへっぴり腰やと迫力ないでぇ。女にモテんし………」


 そう俺が言い放つと、周囲から小さく笑いが起きる。

 俺もはんと鼻で笑ってると、残りの輩共に囲まれていった。


『敵対勢力は8名です。』


 明らかに喧嘩腰の輩共を一瞥し、片足を引いて体を整える。


「ずいぶんと舐めたまねしてくれるじゃねぇかぁ………てめぇ一人で、この人数差をどうにかできるとでも思ってやがるのかぁ。」

「………………さぁ、どやろね?」


 リーダー格の輩が偉そうに宣うのを、適当にあしらってたら、潰されとった輩が助け出されて、こっちに突っ掛かって来ようとするんで、そっちに向かって体勢を整えたら、ビクッとして下がりやがった。


 まぁ、この程度の相手位なら何とか成りそうな気もするけど、正直面倒くさいなぁ………


 せやさかい………………



「旦那ぁっ!」


 人垣から声があがる。

 あの声は多分エリクやろう。

 それに続いて、同じ様な声があちこちで上がる。

 予想通りとはいえ、安堵すると同時に嬉しくもあるわ。


 暴力に屈しない民意が声を上げるんには………


「己等の方こそ舐めとんちゃうかぁ?荷袋一つまともに担げん様な奴等如きが、俺等をどうこうでけるとでも思とったんかい。周りをよぉ見て、戦力差を数えれんのやったら………………」


 そこまで言うと一旦区切り、両手をぱっと広げて見せつけたった。


「指貸したろかぁ?」

「てめぇぇっ!」


 俺のやっすい挑発に、脊髄反射で突っ掛かって来ようとする輩を、他のモンが押し留めながらじりじりと下がっていく。

 それに反比例するかの様に、20を超えそうな労働者達が、腕捲くりをする勢いで詰めて行きおる。


 ホンマに血の気が多い連中やわ。


 ………………まぁ、人の事ぁ言えんけど。



「てめぇらぁ………………何をしてるか、解ってんだろうなぁっ!」

「はっ!………………己等こそ、このまんま五体満足に帰れるたぁ思とらんやろなぁ。」


 この期に及んでも、まだ懲りずに能書きを垂れてくる相手に、きっちりと脅しを返しといたる。

 ここまでやらかしといて、次が有るとか考えとんのは、闇バイトしといて被害者ヅラしとる奴等並に甘い考えやろ。


 労働者に取り囲まれ、逃げ道をなくした輩共が、一塊になって周囲を睨んどる。

 まさに八方塞がりな構図やわ。


 ………………潮時やろな。



「………まぁ………………弱いもんイジメもいややさかい………俺等の邪魔せん様に、とっとと帰り。」


 俺が言い放った擁護の意見に、旦那ぁと真意を質す声がアチコチから上がるが、それを片手を上げて制した。


「俺等は仕事しに来とんねん………暴れに来とんやないやろうが………さっさと仕事終わらせて、銭もろたら風呂で汗でも流して、んで待っとるモンがおらん寂しい奴は、酒場に繰り出して一杯引っ掛けるんやろが?それ以上にやりたい事が在るんか?………無いんやったら、さっさと片付けんぞてめぇらっ!」


 直様おぅっ!と声が上がり、三々五々と皆仕事に戻って行く。

 取り残された感に包まれた輩共が、呆然と立ち尽くしたまんまなんで、しゃーないんで声を掛けたる。


「………………ほら。そないな所にぼさっと立っとったら邪魔やろが。とっとと()に。」


 俺がそう促すと、弾けた様に出口へと殺到しおる輩共。

 やが、出口近くでリーダー格が立ち止まり、振り向きざまに捨て台詞を吐きおった。


「………………覚えてろよ。」



 ………………はぁぁ。

 コイツ、まだ解っとろんなぁ………


「勘違いすんなや。」


 そいつに近づいて行って、胸に指を突き付けたった。

 これから言う言葉を刻み込む様に。


「お前の方こそしっかりと覚えとけよ。次や………もし、次に俺の周りにちょっかい出してみぃ………殺してくださいと俺に泣いて縋り付く位に、骨身に染みる程に後悔さしたるさかいに。」


 相手の目をしっかりと睨みながら、一言一句確実に伝わる様に、指を突き付けるタイミングに合わせながら、確実に言いたい事を伝える。

 本気やぞと解らす為に………


 此方の意図が伝わったんか、リーダー格が青い顔して慌てて出てく。


「旦那ぁ………洒落にならない位の怖い顔してるよ。」


 ………やかましわい。


 トマスも何故か青い顔をしながら、ちゃちゃを入れてきおる。

 まぁ、毒気も抜けてもうたし、どうでもエエねんけどよ。



 しかしまぁ………………



 また面倒な事になりそうやなぁ………………






《See you next trip》

如何でしたでしょうか。


今回は少し早めに投稿できました。


次作も粉骨砕身務めますれば、

感想等を頂けたら望外の喜びです。 

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