《Trip10ー④》
此度も御読み頂き有り難う御座います。
僅かでも楽しんで頂けたのなら幸いです。
「旦那ぁ………」
メルリヤが暗がりを物ともせず、此方に向かって駆けて来おる。
それを見たトマスが、俺に小さく声を掛けてきおった。
それに対して、あぁと小さく返しただけやった。
………まぁ聞かんでも解っとるんやが。
親切な『知識』はんが教えてくれとる。
こんな夜中に、此方に駆けて来る人影は4つ。
ほんま、怪しい事此の上無い。
やっと来おったみたいやな………………
あれから更に5日が経った。
ウィレムは寝食を惜しむ様に、今は製作に取り掛かっとる。
根を詰めたら体調が心配やが、締め切りが在るさかいにしゃぁないんかも知れん。
まぁドルトン親方が手配してくれた差し入れも有るし、職人が一人だけ手元の手伝いに来てくれとるさかいに、ある程度は大丈夫やろう。
それに………今、あの集中を切らしたらアカンのやと思う。
あの青年の頭の中には、今は完成形が画かれとるんやろう。
それに向かって、鬼気迫る勢いで振るう鎚を変な所で止めてもうたら、その完成形は消えてまうかも知れん。
その上………あないに楽しそうに鎚を振るわれたら、なんや此方が気が引けてまうわ。
多分あんな顔が出来るんが、エエ芸術家に成れる条件なんかもね。
知らんけど。
けど、凄い作品がでけるんは間違い無いわ。
それだけは確信が持てた。
今俺は、途轍もない瞬間に立ち会うてんかも知れん………
………………その邪魔はさせれんなぁ。
「せやからお呼びや無いんやさかい、お引き取り願おうか?」
メルリヤが俺に並び立って暫くすると、程なくして人相の悪い連中が飛び出して来たんで、ええタイミングでソイツらに声を掛けた。
「なんだテメェらはっ!?」
………ほんまコイツらは、どいつもこいつもおんなじ様なリアクションしやがって。
この手の小悪党にゃ、リアクションの雛形でも在るんやろか?
「ブッ細工な面でアホ面しやがって。己等如き三下にどぉーこぉー言われる筋合いは無いんや。んな事やからモテへんねん。」
「なっ………んだとテメェっ!」
気の短いアホが勢い込んで剣を抜く。
はい、悪人確定ぇ。
これで心置き無くしばき回せるっちゅう訳やな。
こっちの世界で其処まで気にせんでもええんやろけど、やっぱり手順は大事にせなあかんのやと思う。
命の価値がだだ下がりしとんのやから………
俺の横のメルリヤも剣を抜き放つ。
ポジションは俺の横。
ほんまは挟み撃ちもできたんやが、殲滅戦やなしに防衛戦やさかい、今回はこんでええんや。
ここを抜かれて、ウィレムん所に行かれたら俺等の負け。
ここを守り切ったら俺等の勝ち。
実にシンプルや。
『知識』はんからの情報で居らんのは解かっとるが、一応伏兵にも気ぃ配らなあかんしね。
メルリヤに遅れる事数拍、俺も腰の後ろから木の棒を引き抜いた。
今回も『流火』はお留守番。
街中で振り回す予定やったし、刃傷沙汰にまで持ってかすつもりも無かったさかいね。
せやさかい、何時もの様に木の棒を防御に適した中段に構えた。
「ほう………………貴様が噂に聞く『不殺』か。」
どないな噂なんやろう?
俺の動きを見た不審者の中の一人が、徐ろにんな事を言い出した。
腕がマンガの様に太い。
いや腕だけやのうて、全体的にガチマッチョな感じやわ。
せやのに均整が取れた感じがすんのは、見事に逆三角を形成しとるせいなんか。
オ◯バかっ!?
突っ込み処満載の体型だけや無く、噂の内容も気になるんやが、とても大人しく話してくれるたぁ思われん。
「つまらん仕事だと思ってたが………少しは面白くなったじゃないか。」
そう言いながら、俺に向かって一歩踏み出して来る。
すると、メルリヤが俺を庇う様に前に出て来るが、その隙を突く様に残りの3人が回り込もうとすんので、結局元に戻る羽目になる。
「そっちはお前等に任すぞ………俺はコイツを殺る!」
そっちを一瞥もせず、更にこっちに一歩踏み出すオ◯バモドキから、物凄いプレッシャーを感じる。
これが殺気か………?
「カッコ悪いさかい、あんま言いたぁないねんけどよ………………メルリヤの方が俺より強いで?」
「ふんっ………………女子供を叩き斬る気にならん。」
………………………其処だけは評価したろ。
「それに………お前のその得物が気に入らん。命の遣り取りをする気が無い者が、俺の前に立ち塞がる事がな。」
………………知らんがな。
それについたぁ俺も色々言いたいわい。
散々荒事は嫌やと言うとんのに、気ぃ付いたらややこしい事に巻き込まれとる。
周りに血の気の多い連中が多いんも有るんやろうけど、こっちが気付かん内にややこい事に巻き込んどる、ガルストンさんに是非とも文句を言って貰いたい。
俺も困っとんねん。
世話にはなっとるさかい、こっちも言いたぁないねんけどよ。
でもまぁ………………
偉そぅに………………
人殺しがそんなに偉いんか。
ちょっとおっちゃんムカついてきたで。
力こそパワーとか考えとる脳みそまで筋肉のボケに、色々と教えたらなアカンなぁ。
………やれるモンやったらやけどね。
そないな事を考えながら俺も前に出る。
必然、迎え討つ形になるわな。
「はっ………良い度胸だ。」
そう言いながら、オ◯バモドキが腰の得物を抜き放つ。
いや………抜くと言うよりは、得物を包んどった皮布を取り払っただけの、異質な得物が解き放たれた。
それは両手持ちの剣。
やが、刃渡りは其処まで長ぁない。
普通の剣より、ちょい長い程度や。
せやのに、刃の厚みが尋常や無い。
斧………いや鉞より分厚い位や。
イメージとしたら、FFの7な主人公が振っとった剣に似とるか。
こんなんを、ガチで振るうアホが居るたぁ思わんかったわ。
「旦那ぁっ!そいつは『壊刃』だぁっ!」
悲痛なトマスの警告の叫びが響く。
なんや、まだ行っとらへんのかいな………
トマスにぁ、さっさと自警団に駆け込んでもらう予定やったんやが。
どうもこっちが気になって、予定通りに動いとらんみたいや。
てか、なんやねん。
知っとる体で言うてくんなや。
「はぁぁっ?なんやねん、怪人って?………なんやオノレ、実は『二十◯相』かいっ!?それとも『ショ◯カーの』かいっ!?」
そう言い放ちながら、筋肉ダルマを睨みつける。
半分挑発で、半分は本気で興味本位や。
二つ名の成り立ちが解らんさかい。
「………くっくっくっ……………この豪剣を見ても、そこまで戯けれるとはな。」
そう宣う筋肉ダルマは、分厚い鉈剣を片手で打ち払い、街路樹を叩き斬りおった。
「我が豪剣の錆にしてくれるわ。」
「喧しいわぼけ。剣に錆浮かしとるんやったら、完全に三流やんけ。それに、反撃してこんモンに打ち込んで、なにドヤ顔しとんねん。恥ずかしないんかダボが。」
税金で賄われとんのか、個人が大切に育てとったんか知らんけど、それを叩き折って偉そうにしとんのがムカついてきた。
ビッ◯モーターかっ!?
「五月蝿いっ!そこまでこの『壊刃』ゲドン様を虚仮にするとは………………」
「アマ◯ンかいっ!」
未だに偉そうにくっちゃべっとる肉ダルマの名乗りを遮って、思わず突っ込んでもうたわ。
一号二号さんやのうて、ジャングルの奥地から来はった、ワイルドな五号さんの敵やないかい。
………………いや、マンさんを数えたら六号か?
まぁ、今はどっちでもエエんやが………………
「それやったら怪人やのうて、『獣人』やないかいっ!『モグ◯獣人』連れてこんかいボケぇっ!」
身勝手な突っ込みなんは解っとぉが、その世代を生きた身としては言わずには居れん。
やが、結果的にええ挑発になった様や。
「てめぇぇっ!ぶっ殺してやるっ!」
「やかましいんじゃボケぇっ!不様な猫被りが剥げ取るんじゃカスっ!そもそも何をカッコ付けとんねん、所詮やられ役の分際で。こんな夜更けに御近所迷惑なんじゃタコっ!オノレじゃ役不足やさかい、十面鬼でも連れてこんかいダボがっ!」
立て板に水な流れで煽り散らすと、我慢ならんといった様子で肉ダルマが切り込んできた。
「ミンチになりやがれっ!」
やなこった。
片手で振り下ろされる剣は鋭いが、あの重量から考えたらって事で、この俺でも十分に回避できるモンや。
やが、超重量の剣が石畳を砕いて跳ね上がると、その勢いを使こうて両手持ちに切り替えられた剣閃が、掬い上げる様に俺を追い駆けて来おった。
まずぅっ!
轟音を掻き鳴らす様な錯覚を伴う剣閃は、躱す俺よりも早い。
これは避けきれん。
慌てて木の棒の両端を握って、しゃぁ無しに腹を括って豪剣を受け止める。
両腕に笑えん位の衝撃が響き、そこそこ背丈のある俺の足裏が宙に浮き、そこそこの距離を吹っ飛ばされ、工房の入り口に叩き付けられた。
なんとか踏ん張って転けるんは避けたけど、両腕が痺れて使いもんにならん。
痛みを伴う痺れをひた隠しながら、唯一の得物の木の棒を確認する。
笑えんわぁ………
傷一つ付いとらんやん。
震える指先で表面を確かめるが、毛程の傷も付いとらん。
なんやねん、こいつ………
相変わらず出鱈目やな………
んな事を考えながらぐっぱぐっぱと繰り返してから右手に握り直し、左脚を軽く引いて正眼に構えた。
「………………てめぇ………あれを受け切るたぁ、なんだソレは?」
知らんがな。
てか、俺が知りたいわ。
軽く飛び下がって、少しは勢いを殺せたんはあるやろうが、達人やあるまいし、其処までの衝撃は吸収できとらんのは、俺の両手の痛みが証明しとる。
やけど、律儀に答えたる義理は無いさかいに、ニヤリと笑って返したるだけにしとく。
………勿論、痩せ我慢で痛みを堪えとるんやが。
さぁ、俺の番やな。
ゆっくりと呼吸を整え、大きく息を吐いた後、静かにゲドンに告げたった。
「受けぇよ?死ぬさかい………」
答えは聞いたらん。
何ぬかしとんねんとでも言いたげな筋肉ダルマは放っといて、俺は素早く左脚を引き付け、継ぎ足をすると大きく踏み込んで正面に打ち込んだ。
ばあぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!
踏み込んだ右足の裏から、大きな音が鳴り響いた………
『踏鳴』と言う………
近代剣道に於いては、『気剣体一致』という考え方がある。
気迫や気合なんかの精神作用と、刃筋正しく打突する事と、体捌きとの一致を目的にし、そうしてやっと有効打と判定される。
その一致させる術として、力強く踏み出す事でタイミングを合わせるのが在る。
それが『踏鳴』と呼ばれるもんや。
ほな、剣術でそれをやるとどうなるか?
もとより最高の一打を繰り出すのが目的なんやさかい、強烈な一撃が生まれるんは想像に易いわな。
古武道とか拳法の『震脚』の考えに近いんかも知れん。
まぁあれは、体重や重心の移動とかの考えもあるやろうが………
………で、や。
それを、このクソ硬い木の棒でやるとどないなるか?
きんっっ!
その厳つい見た目とは裏腹に、高く乾いた音を立てて、俺の一撃を受けた筋肉ダルマの分厚い剣が、受けた根元から真っ二つに折れる。
「ぐぁぁぁっ!」
その衝撃は折れた剣だけに留まらず、それを支える手首にまで及んだみたいや。
思わず剣を取り落としおった。
………ええカッコして、片手で受けるからや。
同情の余地無し。
精々苦しめ。
「くっ………………くそがっ!」
そう言うが早いが、そのクソデカい身を翻して、脇目も振らず逃げ出す筋肉ダルマ。
おいおい………………
得物を手放してもうた上に、利き腕を痛めたんやさかい、勝ち目が無いから逃げ出すってのは正解やと思うけどよ。
それやったら仲間を放っといたるなや。
うろ来とるやないか。
見事にキョドりながら逃げて行く他の連中の背中に、メルリヤが綺麗な飛び蹴りをかまし、華麗に吹っ飛ばしとる。
「深追いせんでエエぞ。逃げたいんやったら逃がしたり。」
「………………………………ん。」
少し不満そうにメルリヤが答えて、それでもゆっくりと剣を納める。
やが、さっきも言うたがこれは防衛戦。
下手に追い掛けて行って、その隙にここを襲われたんなら元も子もあらへん。
せやから、今夜はこれで御終い。
守れたんやったら、そんでエエんや。
俺が大きく深く付いた安堵の吐息は、一時だけ白くなり、夜風に静かに淡く溶けて行った。
《See you next trip》
如何でしたでしょうか。
悪癖だとは思うのですが、戦闘シーンになるとあーだこーだと考えてしまい、中々進みません。
おそらく詰め込みすぎなんだとは思うのですが、今更ながら表現って難しいですね。
どなたか、良い方法を御存知でしたら、是非とも御教授くださいませ。
m(_ _;)m
次作も粉骨砕身務めますれば、
感想等を頂けたら望外の喜びです。




