《trip1ー③》
おっさんの大阪弁はなおりません。
ルビを打つ予定もありません。
頑張って解読していただくか、
雰囲気で楽しんでください。
御読み頂けたら幸いです。
「あぁっ!?なめてんのか、おっさんっ!?」
眼前の槍持ち残念輩が、顎をしゃくり上げる様に恫喝してきて、右手だけで持った槍を、俺の喉元に突き出す様に掲げた。
こいつ、完全になめとんな。
普通の民間人なら、この程度でビビるんかも知れんけど、こちとら一度は死んだ身の上やし、元からいろんなモンが鈍麻しとんねん。
まぁ、なめとってくれとった方が、今からやる事がが楽になんねんけどね。
ほな、やるか。
鼻の頭を掻くそぶりを見せかけて、下から木の棒で槍を打ち払い、手首をくるりと返す要領で、輩の槍を持つ手の甲を狙い打った。
「っ痛ぅっ!」
骨をいわしたかも知れん
まぁ、自業自得やと諦めてもらおう。
思わず槍を取り落とし、庇うように引き付けた輩の右手に追い縋り、その手首を左手で掴み、そのまま捻って関節を極めると、木の棒を持った拳を添えて、体重を掛ける様にしながら上半身を捻ると、腐れ輩は一回転する様に地面に叩きつけられる。
背中から落ちたのか、肺から空気が抜ける呻き声が聞こえたが、それを無視して顔面を踏み抜いた。
尾骨と前歯が砕ける不快な音が、ブーツの裏から伝わってくる。
これで、こいつは戦闘不能やろう。
よし、次や。
周囲を確認すると、ガイが駆け寄ってきており、剣を振り被っとる。
こいつとのレベル差は、殆ど無い。
何処までコイツが、俺の事をなめ腐っとるかに期待するしかなさそうや。
取り合えず、速攻でペテンに掛けたるか。
俺は、へその前20cm位の所に木の棒を握った拳を持っていって、所謂『正眼』に近い構えを取ると、ガイを迎え撃つ準備を整える。
ガイが正面から打ち据えてくるのを、下から掬い上げる様に防御して、そのまま右に受け流し、その勢いを利用して、踏み出しているガイの右膝の横を打ち据える。
こういう箇所は、革製の防具で守られておらんし、無駄な肉なんかも無いから、こんな打撃でも有効や。
一歩下がって、次の反撃に身構えとく。
流石に呻き声はあげんものの、バランスを崩してガイが片膝を付いている。
片膝立ち?
ちゃぁーんすっ!
その膝に駈け上がり、その顔面に思いっきし膝を叩き込む。
鼻を潰すんは有効や。
頭を揺らす事が出来るし、呼吸ができなくなって動けんようになる。
若い頃、少々やんちゃしていた時の経験が役に立った。
着地を決めると、ガイの頭をサッカーボールの様に蹴り上げて、意識を刈り取る。
よし、次や。
そう思って周囲を確認するが、もう既に全てが終わっとった。
もう一人の剣を持った男は切り捨てられ、弓を持っとった男も、たった今その胸に剣を突き立てられた所やった。
弓は弦が切られとる。
たぶん短剣でも投げたんやろう。
それを恐らく、剣を突き立てとる少女が一人でやったんやと思われる。
銀髪の少女は、剣を引き抜いた時の返り血を避けると、俺に一瞥をくれてきた。
「……殺さないの?」
感情を表に出さない、静かな口調で問い掛けてくる。
「殺さなアカン理由あるか?」
「手間が減る。」
なるほど。
命の価値が低いんやったら、連れ帰る手間を考えると、始末しといた方が楽なんやろう。
納得はしたが、それを年端もいかない、元の世界ではまだ中学生位の、まだ幼さの残る美少女が言うと、やけに胸にくるもんがある。
確かに、悪党に酸素を消費する価値もないとは思う。
そやけど、今さら殺すんもなぁ……
銀髪の少女は。少し短めの剣をくるりと回して血振りして鞘に納め、取り出した布で浴びた返り血を拭き取りながら、絶対零度の眼差しを向けてくる。
「で、誰?」
まだ警戒を解いていないんやろう。
そりゃそうや。
こんな人里離れた木立の中で、しかも襲われとる真っ最中に、フラりと現れたおったおっさんなんぞ、怪しさの新春大安売りで福袋買いまくり状態やわ。
俺やったら、絶対に信用せぇへん。
そやけど、どない説明しょ?
正直に言うてみた所で、絶対に信じてもらえん自信があるわ。
さて、どーするかね?
『メルリヤ・リンドウ。戦闘レベルは24。
ガルストン商会所属の荒事士。
可愛いものが好き。』
めっちゃ強いやんっ!!
何モンなんやろ、この子?
商会所属の荒事士って?
『周旋業を取り扱う商会に所属し、その身に付けた武力を用いて、紹介された依頼をこなす者達の事です。』
なるほど。
所謂、用心棒かボディーガードって奴やな。
道理で強いはずや。
こりゃいらん手助けやったかな?
なら、余計にいらんこと言えんな。
「いや、実はなぁ……記憶が無いねん。」
「…………は?」
「いや、マジで。」
下手に嘘を並べるよりマシやろ。
小難しい小細工を並べ立てて、ボロを出して突っ込まれるよりも、シンプルにしとく方が此方も気が楽や。
「この先の草原で、気が付いたら倒れとってん。その前の記憶が一切あらへんでな。名前も解らんで困っとんねん。因みに、俺が誰か知らんか?」
「知らない。」
とりつく島もなく否定される。
まぁ、知ってたらビックリするが。
適当に騙くらかしたんやが、それでも不審者を見る目で睨んできおるが、それ以上の追求は無駄だと悟ったのやろう。
一つ、軽い溜め息を付かれた。
「……で、殺さないの?」
再度、同じ質問をされる。
これは多分、こいつ等との共謀を疑われとるんかも知れん。
「それがなぁ……恥ずかしい話、金が無いねん。」
「……?」
「記憶もない男がこれからどうなるか解らんが、先立つモンがなけりゃ生きてかれへんやろ?せやからな、コイツ等を街までつれてきゃ、少しは金になるかなぁって思うんやけど、どない思う?」
「どうだろう?……無駄手間?」
「そぉかぁ。あんまり金にならんかぁ。」
「それでしたら、私が御支払いたしますぞ。」
少女との会話に、別の男性の声が割り込んでくる。
声の方を見ると、馬車から恰幅の良い男性が降りてくる所やった。
「命を助けられたのに、礼の一つも出来ぬのは、商人としての名折れ。申し遅れました。私、宝石商を営むゴーランドと申します。此度は助けていただき、まことに有り難う御座いました。」
そう言うと、その商人の男性と、それに付き従う男性が、俺に頭を下げてくる。
「御礼と言ってはなんですが、我が商会にて御持て成しをさせて頂けまいか。それに聞けば、記憶を失くされて難儀されておるとか。それならば我らが街で過ごされる術を、取り合えず住む所と仕事を紹介いたしましょう。」
「それは有り難いんやけど……」
「なに、遠慮なさいますな。私も商人の端くれ。其なりの打算も御座います。」
そう言うと、ゴーランドと名乗る商人は、油断の成らない悪どい笑みを浮かべた。
「この者達は、『この街から逃げる』と申しました。ならば懸賞が掛かっておるかも知れません。それに、この様なならず者を紹介した商会にも、責任を取らさねばなりませぬ。亡くなった御者の遺族にも、充分な賠償金が支払われる様にせねば成らないですからな。
さらに申せば……貴方様と友誼を結んでおけば、何かと良いことがあると商人の勘が告げておりますので。」
最後は、少し茶目っ気のある笑顔で言われた。
こういう緩急の付け方が、名のある商人の資質なんやろう。
そこまで言われるならば否やは無い。
「そこまで仰って頂けるのならば、申し訳ないですが御世話になります。」
「ははは……『無刃』殿は謙虚ですな。」
そりゃまぁ、こちとらコテコテの日本人やからなぁ。
傍若無人の若い頃はともかく、ええおっさんにもなった歳なら、社会の柵に染まりきってもうて、長いもんには巻かれる位の知恵はついとるわい。
それはともかく、『無刃』って?
「申し訳ございませんが、この場限りの呼称として許して頂ければ。何せ名前も覚えておられない様子ですので。」
なるほど。
まぁ、好きに呼んでくれてええんやけど。
この世界に来る時に、名前は置いてきたつもりやし。
そやけど、少しこっぱずかしい。
出来たら、他の呼び方がええなぁ。
そんな事を考えていると、男の悲鳴があがる。
見れば、縄を手にした小間使いの男性が尻餅を付き、その向こうでガイがゆらりと立ち上がっていた。
咄嗟に木の棒を投げ付けると、それを追う様に走り出した。
予備武器と思われるナイフを持ったガイの手を、木の棒が打ち払い跳ね上がる。
そこに飛び込んだ俺が、空中で木の棒を受け止めると、その勢いのままにガイの胸、丁度鳩尾の辺りを木の棒で思いっきり突き抜いた。
派手にぶっ飛んでいったガイは、木にぶち当たると何かを吐き散らしながら崩れ落ち、流石にもう起き上がる気配もなかった。
「お見事。」
商人の、俺を称賛する声が流れた。
まぁ、全ては偶然の産物、ラッキーのてんこ盛りやねんけど、それを訂正する余裕はなかった。
こうして、俺の異世界ファーストコンタクト、避けようもないエンカウントは終わりを告げた。
自画自賛やが、無事にと言うてもええやろう。
ラッキーに助けられて乗り切った感の一日が、やっと終わったのである。
さて、明日はどうなることやら……
あぁ、しんど。
《See you next trip》
いかがでしたでしょうか?
感想等を頂けたら望外の喜びですが、
当方とうふのメンタルですので、
御手柔らかにお願い申し上げます。




