《Trip9ー③》
年の瀬を如何御過しでしょうか?
御忙しい日々での一時の休憩の中、
此度も楽しんで頂けたら幸いです。
「おぉっ!ええ感じやんかいさ。」
お日さんもとっぷりと沈み、月の光が山の稜線を浮き上がらせてとる。
肌寒くなっとる山の様子に、焚き火の温かみが心地ええ。
せっせと育ててきた焚き火も、今は勢いも落ち着き、ええ感じに『遠赤タイム』になっとる。
『遠赤タイム』っちゅうのは、自虐ネタが面白い某元祖キャンプ大好き芸人さんが、焚き火の勢いが落ち着いて、調理に適した状態になった事を称して言うてはった。
確かに、轟々と燃え盛る火ってキャンプらしいけど、それで焼いたり煮炊きするのには無理が有るんよねぇ………
せやさかい、程良い火加減を作るんが肝心なんやが………………
「ねぇ………………それ何?」
ん?
なんがぁ?
「それ………………火の下にある物?」
………………あぁ、焚き火台の事かい。
この世界やと、開拓時代のアメリカ映画の様に、ワイルドに火を起こして調理しとるんはカッコええけど、ほんまの所は地表を焼いてしまうさかい、自然にゃあ優しゅうないらしい。
せやさかい、元の世界やと環境保護が五月蝿ぁて、直火が禁止されとるキャンプ場が多かってん。
まぁそれも知人からの伝聞と、ネットなんかで得た知識やったりするんやが。
せやさかい、ドルトン親方に御願いして、調理しやすい焚き火台を拵えてもうてん。
けして携帯性が優れとる訳やないけど、ぐっと調理がしやすうて、網とか鉄板が置きやすいさかい、今からの調理がやりやすいねん。
「よぉぉっし!ほなやるかぁ!」
そぉ言うて、火の上に串を並べる。
今宵の肴は『焼き鳥』や。
ルミルさんに御願いして、品質から拘った鶏(前世の鶏とはちゃうやろけど………)を、部位毎に分けて串を打ち、あっさりと塩味で仕上げる。
ほんまはタレも準備したかってんけど、残念ながら醤油が見つからんかってん。
たぶん探したら見つかるんやろうけど………
なんや言うたって、この世界にゃ『極東の島国』があるさかいなぁ。
因みに、日本酒は諦めとらんで。
まぁせやさかい、今回は塩味だけの素材勝負やな。
味見もしたけど、結構鶏本来の旨味が強いさかい、塩味の方が合うてるんちゃうかな?
焚き火台にセットした網の上に、早朝から仕込んだ串を並べて、どっかの料理人の様に肘を強調した変なポーズやなしに、普通に遠間から塩を振り掛ける。
後は、焦がさん様に気ぃ付けながら、小まめに手ぇ掛けて焼いていくだけや。
「ほな、この隙に乾杯しょぉかぁ。」
「………………気楽な事を言ってるけど、外敵に備えなきゃ。」
メルリアヤの言う事は御尤も。
本来やったら野生の生きもんやら盗賊やらの襲撃に備えとかなあかんもんや。
『本来』やったらな。
やが、ここに関して言やぁ、その心配はいらんと思てる。
たぶん………………いや、絶対にゆっくりと呑ましてくれるやろう。
せやさかいに………
「心配せんでもええさかいに、楽しんだらええんよ。」
「………………その根拠が解らない。」
「まぁ、その辺の事もぼちぼち話すさかい………ほれ。」
そう言って渡したんは、なんちゃってホットワインや。
元々この世界にもホットワインは有ってんけど、たんに赤ワインを鍋で温めたもんやったりする。
それやとまぁ体は温まるけど、渋みが増す気がして、俺的には旨いとは思われへんねん。
せやさかい、難しい事はでけんけど、元の世界のレシピに近いもんを作ってみた。
鍋に入れた赤ワインに蜂蜜と生姜っぽいジンの実のスライスを加えて温め、後でオレの実とレモの実のスライスを加えてひと煮立ちさせりゃ完成で、好みで蜂蜜で味を整えてもらうちゅう、なかなかに手抜きなレシピや。
やが、そこそこ旨いもんが出来たと思う。
因みに試しに作ってみたら、ルミルさんにレシピを公開させられたが………
流石、商魂逞しいこって。
ほなっちゅうて杯を掲げて乾杯するが、メルリヤの反応は素っ気ないもんやった。
やが、一口呑んだ途端に眼がカッと開き、割と勢い良く呑んでいる。
彼女向けに、蜂蜜多めにしといたんが良かったかな?
「お代わりはちと早めに言うてや。温めなあかんさかい。」
そない声を掛けてみるが、聞こえとるんか怪しいもんやな。
ちょっと安心しながら、俺も杯を傾ける。
因みに、俺のは焼酎のお湯割り。
ゴーランドさんに無理言うて、何とかがっつり仕入れてもうてん。
………それなりに高かったけど。
そやけど、此処に来るんやったら仕入れとかんとね。
もうちょっと寒さが厳しなる様なら、流石に足が遠退くやろうから、まぁ今の内やさかいねぇ………
串の世話を焼きながら、我ながらええタイミングでメルリヤにお代わりを渡す。
それを憮然とした顔をしながらも、両手で受け取って掌を温める。
「………………………………ねぇ。」
杯に口を付ける事もなく、焚き火の向こうに座ったメルリヤは、ただその杯の水面を見つめていたが、ゆっくりと重い口を開いた。
「何も言う気はないよ。」
ひょっとしたら、誰に言うたんでもない独り言の様に、まるで何気無く呟かれた言葉は、焚き火の炎に巻き込まれて夜空へと消えてった。
メルリアの視線は、それを追う様に炎から星空へと移る。
その様子を目端に捉えながら、気の無い素振りであぁ………と返す。
「ほなら無理せんと、なぁ〜んも言わんでええやんか。こちとら言いたない事まで、無理して聞こうたぁ思とらんよ。」
「それじゃ依頼料出してまで、ここまで連れて来た意味が無いよね?その為に、こんな大袈裟な事をしてるんでしょ?」
「大袈裟かどないかは知らんけど、おっちゃんのやる事にいちいち意味なんか求めとらんわ。したい事をしとるだけやで。」
そう言って、焼き上がった串をほれと差し出す。
メルリヤは、僅かの間それを見つめとったが、観念したかの様にそれを受け取り啄む。
途端にかっっと目を見開き、あっという間にそれを喰みおった。
その様子を内心微笑ましく感じながら、んな様子を噯にも出さず、黙って次の串を差し出す。
めっさ不満そうな態度を隠す気も無い様子でそれを受け取り、黙って咀嚼を続けとる。
………暫く静かな時間が流れた。
メルリヤは黙々と酒と焼き鳥を交互に口に運び、俺はこの時間を楽しみながら、温もりを喉に流し込んどった。
俺の付いた深い吐息が、高く高く夜空に昇ってく。
………………あぁ………
何やかやとあったけど………取り敢えず、今は幸せやなぁ………
そーいや昔、幸せってなんなろと考えた事があったなぁ。
まぁ、所謂若気の至りっちぅ奴や。
病みまくって、散々世間に毒吐きながら、それでも光を見出したくて、更に病んどったっけ。
んで、悩みまくって出した結論が、この世に幸せなんて言うもんは存在せんちゅう事やった。
全ては錯覚であって、希望という名の願望が見せた錯覚やと。
な?
病んどるやろ?
やが、それでも救いを求めた結果、やっぱり幸せなんちゅうもんは夢幻やけど、もし………もしも存在するんやったら、そりゃあ一時の笑いの中に有るんやと思う。
逆に言やぁ、どないに辛ぁて苦しゅうたって、一瞬でも笑える事が出来たんなら、そこに救いが在るっちゅう事や。
その答えが、俺の願望かも知れんけど………
んな事を、酒を楽しみながらのんびり考えとると、向かえからねぇと声が掛かる。
それにだらけた返事を返すと、イメージ的には焦れた様な苛立った声が帰ってきおる。
「何がしたいの?」
「………ん?何がぁ?」
「だからぁっ!さっきの話の続きっ!」
一人悶々と考え過ぎて、思考の沼にハマっとると思われるメルリヤの、ちょっとしたヒステリーが響き渡った。
せやけど、そない言われてもなぁ………
「そない言われてもなぁ………さっきも言うたけど深い意味は無いで。久々にゆっくり呑みたいと思たさかい、メルリヤを誘おうって考えただけでなぁ?」
「なぜっ!」
「何でって………友達やん。」
そう紡いだ俺の言葉に、メルリアが言葉を失う。
「メルリヤにゃぁ迷惑かも知れんけど………色々助けてもうて、散々迷惑も掛けたたぁ思うけど、一緒に呑んで騒いでアホやって、共に笑ろうた仲やんかいさ。俺は友達やと思とんで。」
そう答えながら、新しい酒をメルリヤに手渡す。
それを受け取ると、口を付けることなく、両掌で包み込む様に持ちながら、黙り込んで水面を見詰めとる。
次の言葉が出てけぇへん。
何かを言いたいんやろうけど、上手く言葉を紡がれへんのやろう。
………悩んで悩んで悩みぬいて。
言いたい事を言えん擬かしさにのたうちながら、必死に心情を伝えようとしとる。
根っこが真面目な性格なんやろう。
せやさかい、ちゃんと言葉が出てくるまで待つ。
慌てさしたらあかん。
御互いに腹割って話そうっちゅうんやん。
ぼちぼち行こやない。
………どんぐらい経ったやろか?
何度か薪が爆ぜる音を聴いた後、あのね………って途切れ途切れに話し出した。
「おじさんがどう言う風に思ってるかは知らないけど………………………私の手は血で汚れているの。」
………やっとの思いで紡いだ言葉がこれかい。
ヘビーやのぉ………
ちゃんと受け答えしたらなあかん奴やんか。
俺は、少し力んで杯を握り締める、メルリヤの小さい手を一瞥して、何でも無い様に努めて答えを返す。
「なんがやねん。綺麗なもんやがな。」
「そんな事ないっ!」
素っ気ないとも聞こえる俺の答えに、メルリヤが一気に激情に駆られる。
それをまぁまぁ落ち着きぃや………と軽く往なし、俺の思いをちゃんと伝える。
これがいっちゃん大事や事やさかい。
「あんなぁ………………メルリヤが何を思い詰めとるんか知らんけど、おっちゃんの態度は、そもそもこれからも変わらへんで。」
「っ!………それは私の事を知らないから………………」
「知ったからちゅうてどないやねん。言いたかないけどなぁ………………おっちゃん、あほやねんで?」
「………………………………知ってる。」
「知っとるってなんやねん!てか、あっさりと肯定すんなや。失礼なやっちゃなぁ………泣くで。」
「………………………何が言いたい?」
「せやさかい、ちったぁ優しゅうせんと、涙ちょちょ切れてまうっちぅ………」
「違うっ!そうじゃなくてっ!」
………………………………はぁ………
まぁ、どないに思い悩んだんかは知らんけど、俺も随分舐められたもんやなぁ………
「よぉ考えや。今更俺がなんか知ったからちゅうて、態度変えるとでも思とんか?散々世話になっとるメルリヤを、俺が遠避けるとでも思とんか?」
ほんま舐めんなっちゅうねん。
そないに器用に生きれるんやったら、こないに病めへんっちゅうねや。
昔、医者にも言われたわ。
もっと狡く生きて良いんやと。
それがでけんから悩むんやと。
でもなぁ………
そない生きてもうたら、もう俺や無い気がすんねん。
せやさかい………
「ほんまに道を間違えたんなら、しばいてでも引っ張り戻したる………………まぁ負けるかも知れんけど。それでも………………それでも縋り付いてでも引き戻したるさかい、覚悟しときや。」
そない告げると焚き火の向こうに廻り、メルリヤの瞳を正面から見据えて、杯を握るその小さく震える手を、そっと両手の平で包み込んだ。
「………ほら見てみい………………綺麗なもんやがな。」
怒られるかなぁ………
セクハラやと言われたらどないしょ?
そない考えたけど罵声は聞こえず、やがて静かに嗚咽が響いた。
こないな時、男って弱いよなぁ………
どないしたらええか解らへん。
そない思とると嗚咽は大きくなって行き、そのまま号泣に近くなると、そのまま俺の胸に飛び込んで来た。
どないしたらええんやろ………………?
この歳になっても尚、経験値の無さが恨まれる。
ってか、慣れる様な事も無いしね。
暫くは、されるがままにしといた方が良さそうや。
『………もぅそろそろ良いかの?』
俺の肩越しに、月下美人………いや、美丈夫と言うた方が正解な様な、男前の美人さんが覗き込んだった。
それこそ、ひょこっとって感じで。
そん文字通り人間離れしたべっぴんさんは、夜の帷の中に淡い光を放ち、うっすらと向こうが透けとるにも関わらす、力強い瞳でこっちを見てはる。
突如誰かが現れたと思て、涙に濡れた頬を拭いもせんと、メルリヤが警戒態勢を取って、そのべっぴんさんとばっちり目を合わして………そして固まってもうた。
………………………しもたぁ。
………………お姫さんの事、説明しそこねた。
………………そして案の定………
メルリヤの悲鳴が響き渡った………………
《See you next trip》
如何でしたでしょうか。
今回は戦闘どころか、
殆ど動きがございません。
ワンシーンの長回しの中で、
上手く表現できたかが肝と成りました。
おそらく次作も同様と思われますので、
粉骨砕身務めますれば、
御読み頂けたなら望外の喜びです。
それでは、良い御年を御迎え下さりませ。




