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《Trip9ー①》

御無沙汰致しております。


今回も御読み頂き、ありがとうございます。

楽しんで頂けたのなら幸いです。






 魔剣騒動(笑)から数日経った昼下がり。

 何時もの日雇いの仕事を終え、ぷらぷらと歩き馴れた道を歩いとった。


 日がな一日の流れとして、何時もは公衆浴場に赴いて、汗を流して呑む体制を整える所なんやが、今日は『夜霧亭』に向かう道筋やあらへん。

 無論、風呂には入ったが………

 それだけは外されへん。

 汗臭いまんまで訪ねるんもなんやしね。


 この方向にはガルストンさんの店がある。


 特に今日の仕事について、報告しとかなあかん様な事は、今ん所は特にあらへん。

 個人的に頼みたい事があるさかいに、お店に向かっとるちゅう訳や。

 まぁ、アリフェスさんにも礼を言わなあかんしね。


 って考えたら、あっちこっちに色々心配掛けたなぁ………………


 まぁ俺が悪い訳やないんやけど、あないに早く釈放されたんは、色んな所から働きかけがあったんやろなぁ………


 こんな俺如きに、ほんま有り難い事やわ。


 何時かこの恩はぼちぼち返さなあかんなとは思うんやが、こうやって柵が増えていくんやなとも思う。

 まぁそれを嫌とも感じ取らんのやが………………


「………何処に向かってるの?」


 涼やかな声が聞こえ、それが俺に向けられたもんやと気付き、振り返ると銀色のアホ毛が揺れとった。

 ………………本人には、しばかれるさかい言わんけど。


 コッチはいつもの調子で、よっと片手を上げで挨拶するんやが、帰って来る返事はんっとだけで愛想無く、ちょと前の様子からは程遠い。

 近づいとった距離が、また少し開いた様な感じや。


 やっぱし、元気無いよなぁ………


「丁度ええわ。今からガルストンさん所に行くさかい、ちょっと付き合いぃ。」

「………………何事?」


 怪訝そうな顔をするメルリヤに、俺は会心の笑みを返す。

 あくどい笑みやと揶揄されそうやが、俺からしたら清々しい笑みを返したつもりや。


「………………悪い事、考えてそう。」


『否定できませんね。』


 ………………………………泣くぞ。



ーーー《sideーB》ーーーーーーーーーー



「で?」


 朝の日差しを集めた様な、輝かしい御尊顔を向けられ、一瞬どきりとするが、噯気にもだしたりしない。

 気を抜いてはいけない。

 にこやかな笑みは、新しい得物を見付けた悪戯っ子のそれなのだから………


「はて?何をお尋ねですかな?」


 澄ました顔で、質問に質問で返す。

 僅かに声が裏返ったが、良く我ながら惚けれたと思う。

 おそらく………この方が求めているのは、こういう距離感だと思われるから………


「私達喫緊の話題といえば、あの男の事しかなくて?」

「まぁ、そうなんですけどね………」


 彼女の表情を観察し、答え合わせが正解であった事を認識して、思わず苦笑が溢れてしまう。


「それで?彼は何と言ってきたの?」


 きらきらとした瞳を隠そうともせず、身を乗り出した彼女は話の先を促す。

 そんな態度に、込み上げる笑いを堪えながら、先程の話の中身を答えた。


「大した話ではないですよ。メルリヤを2日間借り受けたいとの依頼でした。」

「2日間?何のために?」

「何でも、野営に行きたいのだとか………」

「………………わざわざ野営をしに?何の為に?」

「かの御仁曰くですが………都会の喧騒を離れ、リフレッシュするためだそうですが。」

「………………毎夜派手に呑んで騒いでいる様な彼が?わざわざ辛い野営をしに?意味が解らないわ。」

「それには深く同意しますが………何か思惑があるのでしょうか?」


 かの御仁について疑問を返すと、その綺麗なラインの顎に指を添えて、思考の沼に御身を沈めていかれた。

 僅かに眉間が寄るが、その顔もまた美しい。


 彼女の楽しみを邪魔する事が無い様、テーブルの上に静かに()()()()()置く。

 彼女は直ぐに湯気が上がるカップを持ち上げ、香気を楽しみながら口を付けた。


「………………まぁ、メルリアの為なのは間違い無いでしょうけど。」


 紅玉の様な唇から紡がれた結論を聞き、三度苦笑を零してしまった。


 本当に仕方のない人達ですね………


 ある程度は、あの御仁の人良さにも諦めが付きましたが、メルリアにも困ったものですね。

 多感な年頃なのは解りますが、そろそろ立場と言うものを理解して頂かねば………


「………で、二人で野営とやらに赴いて、胸の内を聞こうと言うところかしら?」

「おそらく、そうなのでしょう………」


 私の返答に、彼女はなるほどと頷くと、初めて私の隣へと視線を向けた。



「………それで、トマス殿が拗ねているのですね?」

「………………別に拗ねちゃいないですがね。」


 不機嫌そうな顔を取り繕いもせず、トマス殿がずずっと茶を啜った。


「監視対象が、監視できない環境に行かれるのが、面白くないだけですよ。」


 そう宣うトマス殿を見た後、彼女と視線を合わせ、同時に軽く吹き出した。


 まったく………

 『銀鼠』の幹部ともあろう者が、この有り様では思い遣られる。

 いや………………

 これも、かの御仁の成せる業か。


 まったく………

 あの御仁にも困ったものですな。



「だけど………………大丈夫なの?」


 和やかな雰囲気の中。

 美しい人が疑問を呈す。

 確かに、警備体制としては不十分なのだが………


「まぁあの辺りは、元々トラブルが少ない地域ですし………」

「多少腑抜けてたとしても、『夜叉猫(メルリア)』が居れば問題無いでしょう。」


 トマス殿の見解に、私が補足を加えたのだが、麗しき人は御尊顔を曇らせ、呆れた様に軽く首を振る。


「………………貴方達も、随分と御気楽なものね。」


 美しき御人が身を乗り出し、深刻そうに語りだす。

 ………唇の端に笑みを堪えて………………


「男と女が二人っきりで星空の下、焚き火に照らされながら酒を呑んで語り合うのよ?間違いがあるとは考えないの?」


 一時、仰られた言葉の意味を考えながら、

トマス殿と顔を見合わせたが、一拍後にトマス殿が先に笑い出した。

 ………………勝った。


「………………ぶはっ!くっくっくっ………………ないないないっ!」


 その意見には、激しく同意する。

 流石に笑う様な真似はしないが………

 唇の端が引き攣りながら上がるのは御容赦願おう。


 そんな此方の葛藤を知る由もなく、トマス殿は高らかに笑いながら否定の声を上げる。


「なによりあの旦那は、そっちの方面じゃ笑える位の『ヘタレ』だからねぇ~(笑)。」


 先程までの不機嫌さを忘れるかの様に、身振り手振りで持論を語るトマス殿に、麗しの君が問い掛ける。


「『ヘタレ』?」

「あぁ。旦那の言う所の『意気地なし』って事ですよ。」


 なるほど。

 言いえて妙ですな。

 あの御仁は見るからに、そちら方面の心配は不要と思えてしまいます。


 朗らかに笑う男性陣に対し、複雑そうな顔をする先生が、一つ溜息を零しました。




 そういえば………………


「先生。先程、あの御仁を診察されてたいた様ですが………」

「あぁ。えぇ………………」


 そう水を向ければ、煮えきらない返答が帰ってきた。


「………………何か在りましたか?」

「………あぁ。貴方が考える様な事は何一つ無いわよ。彼は至って健康体そのものね。」


 そう力なく笑う美しき人は、微温くなった御茶で唇を潤した。

 何か在るのだろうと察した私達が、御互いに視線を遣りながら静かに次の言葉を待っていると、茶器を皿の上に戻しながら昔ね………と語りだされた。


「近頃話題に上がっている奴等の一派から、半ば強制的に依頼を受けさせられた事があってね………………」


 ………それは初耳だ。

 そんな危ない状況ならば、もっと早く我々が保護したものを………………


 私の顔から何かを察したのか、少し昔の話よと前置きされながら、実はね………と話しだされた。


「全く痕跡を残さない、確実に効く薬を求められたのよ。」


 途端、室温が下がった錯覚に囚われた。

 そんな物があるのならば暗殺が仕放題、国家転覆も容易になる。

 国家機関に知られれば、極刑は免れまい。


「その様な物を作られたのですか?」

「あら?私の腕を信じられなくて?」

「いえっ!けして、その様なつもりでは………」


 御身を案じて問うたにも拘らず、違う意味にわざと誤解された私は思わず言い募ろうとするが、先生の笑顔がそれを制する。


「まぁ………………できたのは間違い無いのだけれどね。」


 帰ってきたのは煮えきらない返答。

 美しい御尊顔が曇っておられる。


「けど………製作者にも気付けない様な薬なんて、作りたいとも思えないよ。だって、自分の『作品(子供)』が解らないって滑稽じゃない。」


 それは、意にそぐわぬ物を作らせた者に対する反骨心か。

 それとも『探求者(アルケミスト)』たる者の矜持か。


「だから左手の小指の爪に、極小さな白い星模様が浮かぶ様にしてあるの。」


 そこまで教授されて、私の出来の悪い脳でも、一つの答えが導き出された。

 それを述べるのにも抵抗があったが………


「………………………あったのですか?」

「………………あった。」


 短い遣り取りの後、喉が乾燥している事に気付き、慌てて御茶を含む。


「私が自信を持って送り出した毒薬が、彼には全く効果が無かった。勿論、彼が無事な事は喜ばしい事だけれども、それよりも、あの毒薬が効かなかったという異常性が際立ってくるのよ………………それも複数回服毒させられているにも関わらず………………毒を飲んでも死なない男って、この状況下だと色々と考えさせられるわね。」

「………………先生は、如何御考えですか?」


 聞かねばならない。

 その使命感だけで、その問いを口にした。

 ………聞いてはいけないのではないかと、疑問を抱きながら。


「そうねぇ………………………彼が『祝福されし者(ギフテッド)』以上の者である事は間違い無いわね。」

「そうだとすると、『教会(ヴァティカヌス正教)』の動きが無い事が理解できないのですが………」


 諜報機関(銀鼠)の幹部である立ち位置からか。

 それともあの御仁の親しき友としての老婆心か。

 トマス殿からも余裕が消えている。


「それは気付いていないのか………それとも別の思惑があるのか………………ねぇ、面白くなってきたわね。」


 全く面白くも無い。


 人は理解できないものに対し、拒絶するか崇めるしかないと教えられたが、それを面白がる余裕は私には無い。


 薄ら寒さを感じるのは季節柄か、それとも別の何かか。

 それなのに、私の背には冷たい汗が流れていた。



 あの御仁は何者なのだ………………





《See you next trip》

如何でしたでしょうか。


全く動きの無い、

ほぼ会話だけの回となりました。

私なりの冒険となりましたが、

何とかなった様な気がするんですが………

どんなもんですかね?


次作も努めまするので、

御読み頂けたのなら望外の喜びです。

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