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《Trip8ー⑦》

此度も御読み頂き有り難う御座います。


僅かでも楽しんで頂けたのなら幸いです。






『………発芽の条件を、ひとつクリアしました………』




 ん?

 何ぞ言うた?


『いえ………………現状、周囲の状況は優勢で、まもなく制圧できると思われます。』


 あっそぉ。

 何ぞ不確定要素ある?


『特には………………ここの戦闘以外には有り得ません。』


 ………そりゃ、俺は強くは無いさかいなぁ。


 せやけど、改めて指摘されると、なんやちょっとショックやわ。

 まぁ、せっかくみんな協力してくれた上に、首魁の相手まで任せてくれたんさかい、ちったぁかっこつけなあかんわな。


 そないな事を考えながら、手の内の獲物をくるりと回す。




「下賤の者如きが、我が眼前にて能書きを並べるなぁっ!」


 目の前の若造が、激昂しながら距離を詰め、斬り付けてきおる。

 

 ………………この程度のやり取りでこの反応て、近頃の若いもんはキレやすいたぁ、よぉ言うたもんやなぁ………


『………………………………………………。』


 いや、突っ込んでぇや。


 それは生前の話とごっちゃになってまっせってとか、それは老害も変わらないのでは?とか、突っ込み待ちやねんけど。


『マスターとの距離感は、これ位で良いのかなと思慮しています。』


 ………………………………。


 まぁ、それはそれでええねんけど………………


 せやけど、なんか寂しいやんかいさ。

 放置プレイは好きやないんやけど。


『今はその様な些末な事よりも、眼前に迫った現象に対応なさるべきかと。』


 それはせやねんけどね。


 そう心の会話を切り上げて、迫る若造に意識を向ける。




 切り下ろされる刃に対し、敢えて前に踏み込む。


 前にも言うたが、こんな時やぁ引いたらあかん。

 怖ぁても前に出な。


 右逆手に握りしめた木の棒で、相手の剣を打ち払う。

 まるでМ◯−07Bの加熱剣を、腕ごと切り払うR◯−78−2の如く………


 ………例がマニアックかいな?


 俺等の世代やと、こない言われたら砂漠の名シーンが思い浮かぶんやが。


 やが、それよりも更に左を一歩踏み込んで、左掌底を捻り込む様に胸に叩き込む。

 その動きは、近代格闘技の動きと言うより、中国拳法や古流武術の動きに近い。

 前に踏み込む力と、腰を落として重心を移動させる事とで生じる力を左腕に移し、更に捻り込むことで浸透力を増す。

 日雇いで鍛えたパワーだけや無く、技術で破壊力を増やすっつぅ訳や。


 まぁ、見様見真似やけんどね。



 こいつが肋骨を痛めとるのは知っとる。

 やって、俺がやったんやさかい。

 敢えて狙っとるんや。

 弱い所を狙うんは定石やさかいね。


 案の定、左手で胸を庇う若造が二三歩後退る。

 それを見据えて、右足を軸に回転し、飛び後ろ蹴りを放つ。

 敢えて庇っている胸を狙って踵で蹴りつけ、派手に吹っ飛ばしたる。


 いやぁ~。

 虎覆面、格好良かったなぁ………

 青のタイツ姿で、コーナーポストにすっくと立つ姿は、今でもはっきり覚えとる。

 世代的に初代の全盛期で、みんなテレビに齧り付いて、この蹴りを密かに練習したもんや。

 近頃のプロレスでも、やる人居るんかいな?

 ………もう、その答えは解らんけど。



「がっはぁぁっ!」


 剣を手放し、仰向けにひっくり返って痛みをのたうち回る若造に、油断せんとゆっくりと歩み寄る。

 苦痛に歪む若造の顔は、傲慢さに酷く醜く歪んどるが、それを除きゃぁそれなりに幼くも見える。


 こんなガキが人殺しに興じとるたぁ、なんぞ理由があるんやろか?

 しかも、それなりに裕福な地位にある家のボンボンがやが?


 まぁ、今更関係の無い話やが………



「ぶっ………………無礼者がぁっ!伯爵家たる我に、この様な………この様な暴虐非道が許されると思うてかっ!」


 ………知らんがな。


 てか、この状況でまだそないな戯言言いおるか?

 事ここに至っては、思とるさかいにやっとんやがな。


 ………危機管理能力が乏しいなぁ………


 甘やかされとったんやろなぁ………


 そんな感想が過るが、それで同情したる気にはならへん。



 こいつは、何とかっちゅう貴族の四男坊(ボンボン)らしい。

 そこそこ偉いさん所らしいけど、詳しくは聞いとらん。

 聞いたってしゃぁないし。

 こいつをしばくんは決定事項やったさかい………


 あん時の人殺しの正体は直ぐに知れてん。

 『知識』はんが教えてくれたさかい。

 あの騒動の後、獄に繋がれとる間に試しに聞いてみたら、あっさりと答えおった。

 流石は『知識』はん。

 何でも知ってはるわぁ………


『恐れ入ります。』


 ………まぁ、俺に教えてええ情報かどうかは、取捨選択されとぉやろうけど。

 わりかし何やかやと、秘密主義な所も多いさかいなぁ。

 今回のは、教えても問題ないか、さっさと解決して欲しい案件なんやったろうう。


『………………………………。』


 ………まぁええわ。

 これ以上問い質しても、教えてくれるたぁ思わんし。



 取り敢えず、相手の正体が解ってもうたら、後は話が早い。


 トマスに頼んで動向を探ってもらい、行動を把握したらええ日を選び、呑み仲間ん力を借りて襲撃し、相手の防御力を削いでもらう。

 んで、本命をしばいたるちゅう寸法や。


 狩る側やと思とる奴を、ある日突然逆にこっちが狩ったるねん。

 おもろいやろ?

 因果応報や。



 ………てな訳で。


「狩られる側の気分はどないや?」


 何とか起き上がり、蹲る若造(ボンボン)にゆっくりと近づく。

 勿論、油断はせえへん。

 この世界、何があるか解らんさかいなぁ。


「がぁぁっ………がぁぁっ………この愚民がぁ。この様な事が許されると思うなよ。」


 そっくりそのまま返したろ。


 おそらく肋骨をきっちりやったっぽい、痛みを堪える吐息を付きながら、気丈にも此方を睨みつけてきおる。

 そんな馬鹿の肩付近を蹴り上げて、引っ繰り返したる。


 無様に転がる若造を見据え、努めて冷静に言い放つ。


「喧しぃ。人殺し風情が偉そうにすんなや。」


 この若造は人殺しや。

 この間の一件だけやあらへん。

 ちょいと調べたら、おんなじ様な事件が幾つもあった。

 殺されたもんは、一様に寸鉄一つ持たんもん。

 中には女子供も含まれとった。

 そないな胸糞悪いクズが、生まれながらの権力を傘に来て、偉そうに宣いよる。


「何故に我が責められねば成らぬのだっ!所詮愚民如きには、我が大義には気付けぬかっ!」


 唾棄する程に腐りきった若造が、歪んだ訳知り顔で偉そうに言う。


「これより我は、この国の貴族の義務として騎士団に入り、国防の礎と成らねばならぬ。だが、其処に案山子は要らぬ。知識だけでは無く、力が無ければ意味を成さぬのだ。それ故、我は戦う術を身に着けなければならぬ。」


 ほう………

 盗人にも三分の理とは言うたもんや。

 それなりに、一応まともな事を言いおる。

 やが、それとこれとがどない関係すんねん?


「解らぬか?所詮は大道すら気付かぬ愚民よな。」


 若者独特の傲慢な顔をした若造が、小馬鹿にした様に笑いおる。

 いや、実際に馬鹿にしとるんやろうが………


「簡単な事よ。如何に美辞麗句を並べ立てようとも、剣とは所詮他を害する道具。人殺しの道具よ。そしてその技とは、如何に効率よくそれを使うかに尽きるのだ。」


 おいおい、まさか………………


「ならばその技を磨く為に、木剣なんぞを降っていてもなんの役にも立つまい。実際に剣を握り、人を斬り付けてみて、初めて技の真髄に近づけると言うものよ。」


 ………………………………本気(まぢ)かい。


 言葉を失う俺を余所目に、暗く狂気に歪んだ笑みを浮かべた若造は、自信に満ち溢れた声高らかに宣いおる。

 

「これより、この国の為に輝かしき功績を残すこの我が………貴人であるこの我が、ただの民草を斬り捨てたとて、何の問題がある?何の罪があると言うのだ?馬鹿馬鹿しい………その身を持って我ら貴人の糧となり、延いては国防の糧と成れるのだ。逆に卑しき者共には、その身に余る栄誉であろうが。その様な真理にも気付かぬ愚か者が、傲慢にも我を責め、この身を傷付けるとは、この国賊めがっ!」


 ………………………………はぁぁ。


 肺の中の空気を、溜息で全て絞り出す。

 仄暗い怒りを吐き出す様に………


「………お前。命を何やと思てんねん。」

「命?命だと?ハッ!愚かな事を申すな。我等貴人の崇高なる使命の前に、たかが民草如きの一束が、同じ秤に乗れると思うてかっ!身の程を弁えよっ!」




「もぉええ。お前は喋んな。」




 無造作に、得物(木の棒)横一文字に振るう。

 それは狙い違わずに若造の顎に当たり、甚大なダメージを与えた。

 多分砕けたやろうし、外れとるかも知れん。

 せやけど、可愛そうだとか遣り過ぎたとか、そんな感情が一切起きひん。


 あがあがと煩い腐れに、喉に片手突き放ち、止めを刺す。

 喉を潰したし、これで声を出す事もでけんで静かになるやろう。

 ついでに気絶もしてもうたが………


 

 国政ってレベルでガチで考えたら、そりゃ全ての国民を虐げへん政はでけへんのやろう。

 せやけど、民に向き合おうとせん為政者に、国に、何の価値が有んねん。


 そんなん、一回転覆したらええねん。


 ………………前世でも、そんな腐った政治家ようけ居ったなぁ………


 太古の皇族を見習え。

 『民』とは『大御宝』らしいで。



 やが、今回の話はそれとは別や。

 権力を勘違いした、ただの人殺しやさかい。


 上級国民とかの話は前世でも有ったけど、決して許されると思うなよ。

 人殺しは人殺し。

 必ず罰せられるべきや。



「………………旦那ぁ。大丈夫かい?」


 心配気に声を掛けて来るトマス。

 なにを気ぃ付けとんねん?


「たまに旦那は、声掛けづらい雰囲気出すんだから。」


 そぉかぁ?

 何時もと変わらんつもりやねんけど………


「ほんと、怖いんだから勘弁して欲しいよ。」


 こんな可愛らしいオッチャン捕まえて、怖いて何やねん。


「………何時もの調子に戻って良かったよ………んで、どうするんだい?こいつら。」


 そう言うと、トマスは後ろを振り返る。

 つられてそちらを見ると、メルリヤ達の手によって、この腐れの家臣共が縛られていっとる所やった。


 こいつらの罪も重い。

 ほんまやと諌めなあかん立場のくせに、唯々諾々と主に従い、悪事を手助けしとったんやさかい。


 ………………同罪やな。


 これから先に、おんなじ様な腐れが湧いてこん様に、こいつらはきっちり償ってもらおう。


 俺は清々しい笑みを浮かべ、高らかに宣言した。



「よし。晒そう。」

「………………笑顔が怖いよ。」






《See you next trip》

如何でしたでしょうか。


物語を作る立場としては、

この様な胸糞悪い者を描かねばならぬのは、

ある種宿命と言えるかも知れませんが、

どうしても心情に寄り添えません。

克服しなければ………とは思うのですが、

頭が凝り固まったおっさんには、

中々にハードルが高いですね。


次回作も努めますので、

御読み頂けたら望外の喜びです。


追記にて申し訳ありませんが、

誤字報告して頂いた御方、

真に有り難う御座います。

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