表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

41/66

《Trip8ー④》

お読み頂き有難う御座います。


遅くなって申し訳ございません。


今回も楽しんで頂けたら幸いです。






ーーー《sideーB》ーーーーーーーーーー





「どういうつもりだぁっ!」


 平素から悪鬼の様だと揶揄されているらしい、彼の怒声が執務室内に轟き渡る。

 だが、常日頃は悪人共を震え上がらせているであろうその声も、この其れなりに広い室内ではあまり意味を成さない様だ。


 取り敢えず、私は何も感じない。


 私は、ため息を一つ吐きながら、書類から目を離さずに対応する。


「はぁ………………静かにしていただこうか、フェルナルド殿。」

「この状況で大人しくできる筈が無かろう。ドノバン殿」


 資金が不足している自警団の詰所とは違い、其れなりに各所に贅を凝らした執務室にて、自警団の支部長の肩書を持つ彼は、其れなりに豪奢な机を乗り越える様な勢いで詰め寄ってくるが、私は其れなりに座り心地の良い椅子の背凭れに身を預け、変わらず書類から視線を上げる事はない。


 簡潔に述べるならば、真摯に相手をする気が無いのだ。


「いや、弁えて頂こうか………こう申してはなんだが、この街の『自警団』の一支部長が、騎士団の一つである『衛兵団』の庁舎まで乗り込んで来て、好き勝手に放言できるとでも思われてるのかな?」


 毎日手入れを欠かす事がない、自慢の口元のカイゼル髭を撫で付けながら、言外に突き放す。

 たかだか自警団の一支部長ごときが、貴族であり、騎士でもある我らの行動に否を唱えるなど、庶民上がりの騎士の分際で烏滸がましい。


 身の程を弁えぬ愚かな行いではあるが、一応彼にも言い分はある様で、その行動は改められる様子がない。


「ならば再度問おうっ!我ら『自警団』が事情聴取を行っている者を、何故に『衛兵団』が横から奪われたのかっ?」


 昨晩の事件の目撃及び通報者の一人である、自称氏名不詳の男を殺人容疑で連行したのだが、どうやら自警団が事情聴取を行っている最中であった様だ。


 ………だから、何だと言うのだ。


 我々の捜査が優先されるのは当然であるのだか、この優秀だと噂される彼は理解できないのだろうか?


「これでは『他家の鍋から、スープの具を奪う。』ではないか。」

「口を慎まれよ。」

「いいや、黙らんっ!これが気高き貴族のやる事かっ!」

「無礼であろうが。」

「無礼を承知で申し上げておるっ!」

「………………では申そう。」


 いい加減うんざりして、彼に視線を向ける。

 庶民のわりに整った顔をした彼は、私の視線を受けても睨み返してくる度量がある。

 全くもって腹立たしい………


「………敢えて申すが、そなた達自警団に、あの者を処する事ができるのですかな?」


 自警団ごときでは即答できる筈も無い問い掛けに、言葉を詰まらせる彼を追い詰める様に言葉を続ける。


「良いですかな?昨晩の事件は、昨今連続している殺人事件に関するものであると当方は睨んでおる。これは早急に解決しなければならない事案であり、それにあの者が関与している疑いが僅かでも在るのならば、徹底的に調べるのが筋であろう?それを『自警団』にできますかな?」

「しかし………………あの者は目撃者であって、捕縛勾留するには嫌疑が不十分で………」


 勢いよく書類をパンと机に擲ち、相手の話しを断ち切った。


「これだから『牧羊犬(自警団)』はヌルいと………だからどうだと言うのだ。事件の解決こそが優先されるべきであろう。嫌疑が僅かでも有るならば、此方の得心が行くまで調べれば良いではないか。」

「それでは、あの者が………」

「罪人に権利一切を宣わせる必要は無い。」

「まだあの者が犯人だとも決まっておらぬのに………」

「それを見定めるのは我らだ。」


 なぜ解らぬのだろう。


 我らの捜査の邪魔をして、何の利益があると言うのだ。

 多少強引かも知れぬが、事件解決までの最短を我らは進んでいるのだ。

 それに協力する事が、庶民である者の義務であろうに………


 理解力の乏しい彼にも、いやが上にも納得できるように、解りやすい言葉を伝えてやろう………


「これ以上、此処で無駄に騒がれるのであれば、其方の騎士叙勲を陛下に推挙したレブナント辺境伯殿の手を煩わす様な事なるが………………」


 我が、この様な庶民上がりの者を相手にしてやるのも、単に辺境伯の影があるからであるが、これ以上騒ぐのであれば、辺境伯の足元を掬う材料にしてやるぞと告げてやる。

 流石に言葉に詰まる様子ではあるが、納得しきっていない様子である。


 これだから、愚民を相手にするのは嫌なのだ。


 卓上のハンドベルを鳴らし、配下の者を呼び付ける。


「ご理解いただけたのなら、御帰り頂こうか。我ら『猟犬(衛兵団)』の調べが終わり次第、『牧羊犬(自警団)』が取り調べれば良かろう。」



 配下の者に先導されて、自警団の副団長が出ていった扉を眺めていると、その扉が再度開き、我らと同じ制服を纏った者が入ってくる。

 それを一瞥すると、机に広がった書類を拾い、内容に目を通していく。


「御協力を感謝します。ドノバン殿。」


 これと言った特徴の無い、薄っぺらな笑みを貼り付けた男が恭しく頭を垂れてくるが、醸し出す空気が此方を見下している様で不快だ。


「礼は不要。本来の立ち位置を知らしめただけよ。」

「それでも、我が主は感謝されるであろう。」


 まさに『竜の覇気を借る子鬼』の所業。

 唾棄すべき者ではあるが、この者の主は大物ゆえ、取り扱いには気を付けねばなるまい。


「これを機に、我らが派閥に入られては如何かな?」

「………………我らは国家に剣を捧げた身ゆえ、御遠慮いたそう。ただ今回は、そなたの『飼い主(主殿)』に敬意を払ったまでの事よ。」


 我の侮蔑を込めた返答に、一瞬顔色を変えるが、直様また軽薄な笑みを貼り付けてくる。


「その様に、我が主に伝えましょう。」


 嫌味の応酬にも飽き飽きしたので、ふんと鼻を鳴らすと、手元の書類にサインをし、次の書類に手を伸ばす。


「何をする気なのか敢えて聞かぬが、さっさと片付けて頂きたいものだな。」

「それならば御安心頂きたい。明日の朝日が登る頃には、全ての終わっております故に。」

「それは重畳。我らを持ってしても、明日の昼には解き放たねばならないだろうからな。」


 あの様な、文字通り名も無き男の為に、我らの不当逮捕を糾弾するが如き嘆願書が各所から出されている。

 自警団は言うまでもなく、繋がりが深いと予想された商業ギルドからだけでなく、驚くべき事に辺境伯の騎士団からも届けられているのだ。


 ………どういう繋がりが在るのかは想像だに出来ぬが、長く関わるべきでは無い者である事は間違いない。

 元より、それほど容疑が深い者でもないが、眼前の者の要望で捕縛したに過ぎぬ者ゆえ、さっさと放りだしたいのが本音である。


「それはそれは………………では、念には念を重ねて、何時もより多めに盛っておく事にいたしましょう。」

「………………大丈夫なのであろうな?」


 小奴らのミスで、我の立場が危うくなるのは避けたい。


「御心配なく………一切の痕跡を残さぬ()()()()ゆえ、何処にも迷惑を掛けることは御座いませんよ。」


 変わらず薄っぺらい笑みを浮かべる男を見つめ、ならば良いと返事を返した………





ーーー《sideーA》ーーーーーーーーーー





「ここに入っていろっ!」


 おそらく看守であろう人物に、くそ偉そうに命令される。


 へいへい………

 言われる事には従いますよ。

 看守様々に逆ろうても、一個もええ事有らへんさかいね。


 言われるがままに、おそらく独房やと思われる部屋に入ると、後ろで力任せに扉が閉まる。

 それだけで、この扉が頑丈なんやと知れるわ。


 ………がちで重いんやろうなぁ………………


 無体もない事を考えながら、改めて室内を見回す。


 日本人の感覚で言うと、6畳程の空間に簡素なベットと排尿便を受けるバケツの様な物が有る。

 多分下水道なんかは設備されておらんのやろうなぁ。

 不衛生では有るが、定期的に回収されるんやろう。


 ………………まっ、こんなもんか。


 しっかし、まさか俺が収監される立場になるたぁねぇ………………


 ぎしっと大きな音を立てるベットに寝転がり、さてどうなるんかねぇっと考えてみるが、現状どうしよも無いと思い至り、考える事を放棄する。


 元の世界やったら、国選弁護士や保釈支援協会やらを利用して、一刻でも早くシャバに出る事を考えるんやろうが、この世界やと足掻く術が有らへん。

 普通なら無力感に苛まれる所やろうけど、何処か達観しとる自分が居って、成るようにしか成らんと思てまう。

 それに………………何となく、外に居る連中が何とかしてくれそうな気がする。


 後頭部に両手を回し、高い所にある吹き曝しの格子窓をから空を眺め、漠然とそんな事を考えとった。


 多分やが………………おそらく未だ、こっちの世界で絶望しとらんのやろう………


 アディショナルタイムの今生を、何時終わってもの納得でける自分もあるんやが、どっかこの世界の人達に………彼奴等に絶望しとらん俺が有るんやろうか?

 そんな事を考えると、自然と笑みが溢れる。


 あぁ………………

 俺も、未だあほやなぁ………


 くっくっくっと笑いを堪え、ベッドの上で身悶えとると、不意に腹がくぅぅ〜と鳴る。

 なんや、未だ余裕有るやんとまた笑う。


 何やかやと手続き多うて、結局この時間に成ってもうたからなぁ。


 TVなんかやと、捕まったら直様豚箱に放り込まれる描写が有るけど、それなりに権利意識が確立しとる所やと、収監時の人定質問やら所持品の記録やらで時間が掛んねん。

 俺の様な、自称記憶喪失やったら、そりゃ手間暇掛るわ。

 しかも、俺は無実やしね。

 看守さんと揉めっとええ事無いけど、調べ官とはバチバチにやり合わんと。


 こんなん言うたらあかんねんやろうけど………


 もし無実で捕まったとしたら、言いたい事は山程あるやろうし、実際言わなあかんねんけど、絶対に冷静さを保たなあかん。


 調べ官はわざとこっちを怒らせて、不用意な言葉を引き出そうとしおる。

 しょうもない事一つでも言おうもんなら、鬼の首でも取ったかの様に、其処を徹底的に啄いてきて、訂正すらさせてもらえん。

 そうなったら取調官の思うツボですわ。


 せやさかい、調べ官からどんな事言われたって、一辺ぐっと呑み込んで、自分のペースで落ち着いて言い返さんとあかんで。


 エキサイトしたもん負けですわ。


『………………お詳しいですね。』


 ん?

 そんなん、酔いどれ紳士のタシナミですわ。

 そこはサラッと流しといて。


 変なつっこみをされる心の会話を打ち切って、徐ろにベッドから立ち上がると、扉に近づくと大きな声で呼び掛けた。


「看守はぁぁぁんっ!看守はぁぁぁんっ!」


 決して扉は叩かへん。

 あんま煩したら、ご近所さんを敵に回すだけやなく、処罰されるかも知れんさかい。

 ただでさえ低過ぎる生活レベルが、更にびっくりする位に悪なってまうさかいに、決して怒られ過ぎん程度に加減しとかな。


 ほら………案の定怒り心頭の様子で、大股で近づいて来おったで。


「うるさぁいっ!静かにせんかぁっ!」

「いやぁ~、腹減りましてんwww。」

「貴様如きが、食事に有りつけると思うなよ。」

「そないいけず言わんと………腹減っとったら、喋れるもんも喋れまへんで?」


 下手に出ながらも、さらっと相手が最も嫌がる事を言うておく。

 捜査が進まん様になったら、あんたのせいやでと………


「くっ………………まもなく配給があろう。大人しく待っておれっ!」


 勝った。


 どうでもええ様な勝利に気分を良うして、ついでやさかいに尋ねてみる。



「なぁ………それに酒ついとる?」





《See you next trip》

如何でしたでしょうか。


いまいち体調が優れず、仕事で迷惑を掛ける理由にも行かず、そちらに注力した結果、執筆が大幅に遅れてしまいました。


これが言い訳だとは理解しております。

次作は早々に御届けしたいと努めますので、御待ち頂けたならば望外の喜びです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ