《Trip8ー③》
御読み頂き、有難う御座います。
楽しんで頂けたら、望外の喜びです。
「行ってっ!」
宵闇に紛れて、悪意を纏った白刃が迫りきおる。
その前に立ち塞がり、手持ちの剣でそれらを受け流しながら、メルリヤが視線もくれずに言い放ちおった。
その意を察し、剣閃を必死で潜り抜け、悲鳴の下へ直走る。
追い縋る凶刃には、一瞥もくれず無視しといて。
心配はせん。
メルリヤがどないとしてくれる。
振り返らんでも解かる。
トマスの姿は消えとる。
なんも言わんでも、自警団を呼びに走っとるはずや。
この辺りの連携っちゅうか、信頼関係はしっかり出来とる。
なんも心配もあらへん。
それが、なんか少し嬉しい。
ニヤける口元を意識しながら、必死のパッチで現場まで走る。
それが、俺への信頼の答え方やと思えるさかい。
僅かに走ると、薄暗い路地に出る。
月明かりの無さが、更に拍車を掛けとる。
せやが、よう目を凝らすと人影が見える。
一人は蹲り、一見意識が有らへん様にも見える。
もう一人は剣を構え、今にも突き殺そうとしとる様にも見える。
俺は走りながら、左肩から沈み込む様に前傾姿勢に成ると、右手で木の棒を逆手に握り、抜き打ち様に手首の返しを利かして投げ付けた。
狙い違わず、止めを刺そうとしとるモンの、剣を持つ手にぶち当たる。
よっしゃぁぁっ!
怯ます事に成功した木の棒は、弾かれてクルクル回転すると、駆け寄った俺の右手に収まった。
それを逆手に握ると、左手を前に突き出す様に構え、凶刃の前に立ちふさがった。
………今考える事や無いんやろうけどさ。
後先考えんと投げとるけど、毎回上手い事俺の手元に帰ってきおるよなぁ………
すっげぇ偶然やわ。
まぁそれはええんやけど。
取り敢えず、後ろで蹲っとる人物が気になって、僅かに振り返って横目で確認する。
肩口から深手を負っているらしく、周りに血の匂いが漂っとる。
『致命傷です。そう長くは保たないと思慮されます。』
………どないかならんの?
『現状、使用可能な処置方法と、この世界の医療レベルの双方を考慮しても、手の施し様がないかと………』
………………そっか。
俺は意識を切り替えて、目の前の暴漢に集中した。
何らかの正当な理由が有るんかも知れんけど、寸鉄一つ身に付けとらんモンを斬り付けるんはどないやねん。
口元を布切れで覆って面相隠しとるし、怪しさ満載やろ。
不審者認定や。
「貴様ぁっ!何者だっ!」
「通りすがりの酔っ払いじゃぼけぇっ!」
なんでこの手の悪党っちゅうんは、己のやっとる事を棚に上げて、偉そうにこっちを誰何してきおるんやろう?
見当違いな誰何の声に、烈帛の気合で返答したる。
律儀に返したる必要は無いんやろが。
なんか言い返さんと気ぃ済まんかってん。
多分、むかついとったんやろう。
この手のガキゃぁ嫌いや。
「下郎がっ!」
ほら。
くそ偉そーやろ?
何が悲しゅうて、怪しさ満載の人殺しに蔑まれなあかんねん。
「じゃかっしゃいぃぃっ!」
湧き上がる感情から怒鳴り返し、片手剣で斬り掛かって来る人殺しを迎え撃つ。
袈裟懸けに振り下ろされて来る刃を、逆手の木の棒で受け下ろし、相手の懐に入りながら左手で剣を持つ手を掴み、肘打ちする要領で木の棒で脇下を打ち据えて、そのまま左手を引っ張って相手の体勢を崩し、足元にしゃがみ込んで肩に担ぐ様にすると、木の棒で足を引っ掛けて払うと、よいしょと労働者パワーに物を言わせて、思いっきし肩車を決める。
「がはっ!」
頭は打たんかった様やが、背中から強かに打ち据えたったから、息が吐き出されて呼吸が止まっとる。
ざまぁ。
右拳を高々と掲げ、右脚をずらして体勢を崩すと、右肘………というか二の腕全体を打ち据えるイメージで、トドメとばかりに寝そべる相手の胸に叩き込む。
そもそも、俺の柄もそこそこデカいし、近頃ぁ筋肉質に成ってきたんで、前体重が乗ったそれは威力もデカい。
胸骨をいわしたかも知れん。
まぁ、同情は一切せんが………
素早く起き上がると、相手の出方を警戒するが、それ処や無いらしく藻掻き苦しんどる。
それを見て一息吐くと、そのムカつく面ぁ拝んだろうと近付いた。
『警告っ!飛矢ですっ!』
油断したっ!
慌てて身を翻すが、左肩を何かが掠める。
ピリッとした痛みが走るが、アドレナリンを頼みに無視を決め込み、そのまま転がって物陰に身を隠す。
こそっと顔を出して、狙撃手の姿を確かめようとするが、途端に矢が飛んできて、慌てて首を引っ込める。
闇夜に弓矢は厄介やなぁ。
多分屋根上からやと思うんやが、そうなるとこっちからは手が出えへん。
どうすっかなぁと考えとると、どっかから他の不審者共が現れて、藻掻いとる奴を助け起こし出した。
どんだけ仲間が居んねん。
逃がしたぁ無いさかい、追い掛けようとするんやが、当然の様に飛矢が邪魔をしおる。
その矢を切り払い、俺を庇う様に銀髪が立ち塞がった。
「ごめん。逃がした。」
「怪我無いんやったら、上等や。」
格好は悪いがメルリアに庇われながら、不審者が立ち去るのを見送った。
なんぼメルリアやっても、この状況じゃ分が悪い。
悔しがるメルリアの肩に手を置いて、自分自身も慰めるが、苛立ちは治まらん。
「次はしばく。」
奴等が消えてった闇を睨んだ。
「………………ふん。」
筋骨隆々の美丈夫が、抜身の刀身を見分しながら、面白く無さそうに鼻を鳴らす。
一夜明けた『夜霧亭』。
片付けも終わった閑散としたホールで、自警団の支部長さんがどっかと座り、念入りに『流火』の刀身を見分しとる。
その前で俺はと言うと、疲れ切った顔で座っとった。
しゃぁないやん。
この歳になったら、徹夜は辛いねん。
「血曇りは無いな。」
「せやね。」
有る理由無いやん。
ここの部屋に置きっぱやってんさかい。
支部長の『騎士』フェルナルドはんが、至極当たり前の事を言う。
昨夜の事件の当事者として、自警団詰所で事情聴取を受ける事に成ってんけど、『騎士』フェルナルドはんに剣を見せろと言われたんで、正直に今持ち歩いとらんのよと応えると、どうしても見せろと『夜霧亭』まで付いて来はってん。
まさかたぁ思うが、俺が疑われとるらしいわ………………
まぁ、好かれとらんとは思とったけどねぇ………………
この『騎士』フェルナルドはんには、『かき氷事変』の時に世話になったさかい、そないに無下にも扱いとうは無いねんけど、ありもせん事でぐだぐだと調べられるんも鬱陶しい。
そもそも『流火』は空間を切り裂くんで、血曇りが付く理由がないねん。
せやけど、この真面目な自警団の『騎士』はんにゃ解ってもらえんさかいに、この場に同席しとるちゅう仕儀ですわ。
ちなみに、メルリヤとトマスは少し離れたテーブルで、仲良く爆死しとる。
大人しく帰ったらええのに………………
皆んな、徹夜はしんどいんやさかい。
トマスは気ぃ使いぃやさかい、残ろうとするんは予想はしとったが、メルリヤも珍しく気にして残ろうとする始末。
やが、取り調べられるんは俺だけやさかい、手持ち豚さんにエサやっとって、結局意識を飛ばしたんやろう。
無理せんでええのに………………
ちょっと笑えた。
「まぁ解ってた事だが、これで捜査は出直しだな。」
「そんなん、俺が犯人な訳あらへんやん。」
「てめぇは信用できねぇからな。てめぇなら、俺の知らねぇ手も使って来るだろうし………そりゃ兎も角、可能性を潰して行くのが捜査の基本だ。」
まぁ、そりゃそ〜やが。
「で?重要参考人のてめぇは、俺にどんな情報を提供してくれんだ?」
こちらを藪睨みする筋肉マッチョの視線を受けて、せやなぁっと思い返してみる。
顔は判らん。
覆面しとったさかいね。
せやけど、奴の言動を顧みたら解かる事も有るわな。
「多分やが………………それなりに身分の高い奴やと思う。」
「………………貴族か?」
「可能性は高いと思うわ。」
あんなけ手下と言うか、下手打っとるアホを助ける連中を引き連れとるし、何より俺の事を『下郎』と蔑んだ点で、そこそこの身分やと伺い知れるわ。
俺の周りに、『下郎』なんぞと言う奴は居らんし。
「ふん………………なるほどな。そうなると面倒だな。」
「お知り合いに怪しい奴でも居りまっか?」
手の内を探ろうと、『騎士』フェルナルドにカマを掛けてみる。
「何を期待してるのかは知らねぇが、俺にその辺りの繋がりは無ぇ。俺ぁ『一代騎士』だからな。」
何やそれ?
『一代騎士とは、飛び抜けた功績があった者に授けられる、文字通り一代限りの騎士称号です。』
へぇぇ。
って事は、元は庶民やったって事かいな。
そりゃ、苦労したんやろうなぁ………
「俺の事ぁどうでも良いんだよ。問題は、貴族でもどの階級かって事で………………」
イケメンマッチョの言葉が終わる前に、『夜霧亭』のホールに物々しい連中が雪崩込んで来た。
飛び起きたメルリヤが腰の物に手を伸ばすが、俺は片手でそれを制する。
乗り込んで来た奴等の、綺麗すぎる鎧等の装備が、それなりの地位を示しとるさかい。
さて、何事やろう?
「近頃街中を騒がす氏名不詳の不心得者とは貴様であろう。我ら衛兵団が捕縛する故、神妙にいたせっ!」
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俺かいっ!?
《See you next trip》
如何でしたでしょうか?
楽しんで頂けたでしょうか?
世間様はGWとか盛り上がっとりますが、
皆様は如何御過ごしでしょうか?
大阪は思っていたより人手が無く、
相も変わらず居酒屋で執筆しとります。
皆様も、良い休日を御過ごしくださいませ。




