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《Trip8ー②》

御読み頂き有り難う御座います。

楽しんで頂けたのなら幸いです。






「たく、鬱陶しいったらないねっ!」


 ハルア婆さんの、不機嫌すぎる声がホールに響く。


 そないな事言われてもなぁ………


 そんな事を考えながら、いつもの酒を舐める様に口に含んだ。




 此処は何時もの『夜霧亭』。

 何時もの酒場で、何時もの時間。

 何時ものメンツで、何時もの酒を呑んでいる。


 同じ事しとって飽きひんか?

 そないな事を言われる事もあるけど、求めとるんがそーやないねん。


 例えば………


 一日終わっての家での食事に、飽きたりするん?

 もし、飽きたなんぞと言えるんやったら、そりゃ贅沢っちゅうもんや。

 お母ぁちゃんにしばかれんで。

 一日の終わりに求めるモンちゅうんは………上手くは言えんけど、そーゆーもんやないんやないかい?


 せやさかい、何時もの様に呑んどるんやが………なんか何時もの様な調子にならん。


 理由は解っとんねん。

 メルリヤや。


 この前から妙に元気があらへん。

 何時もの様に呑みにも来るし、振ったら話しもしおる。

 やが、何時もの調子やない。

 こっちも何とか元気付けようと、何時もよりあほな事もするんやが、いまいち力無う笑うだけや。


 そーなると、こっちも何や調子が狂てまう。

 別にメルリヤが悪いんとちゃうんやけど、こっちがそーなるんもしゃーない話やわな。


 やが、話はそれだけや済まんのが面倒臭い。

 こー言うんて伝播するんよねぇ………

 リ◯グの呪いみたいに伝播しおる。

 特に俺等みたいな悪目立ちしとる常連(自覚はある)やと、遠慮しとるんやないんやろうが、周りが空気を読んで妙な空気が流れおる。

 勿論、活気が溢れるっちゅうのとは、まるっと反対の状況や。


 そーなると………………


「売上が伸びないんだよねぇ………………」


 いつの間にか近付いてきたミアが、溜め息混じりに呟きながら、注文の催促をしてきおる。


 ………………子供のこういう姿って、独身男の夢に膝蹴りを食らわすよね。


 いや、いつの間にか商売人に目覚めてはるわ。

 さすがルミルさんの血筋や。


 んな事を考えながら、追加の酒を注文して下がらすと、入れ替わりでルミルさんが出て来はった。

 こんな時間に厨房から出て来るとは珍しい。


「お陰様で、今は注文が途切れていますから。」


 そう笑顔で切り返すルミルさんは、何時もの優しい空気を纏っているのに、なんや怖い。

 乾いた愛想笑いを返すが、心ん中は両手を上げて降参しとった。


 多分、俺等が悪いんやあらへんのやが………………

 まぁ、よぉ言い返さんけど。


 冗談ですよとにこやかに言われるが、瞳の奥を覗いてはあかん気がする。

 そこには深淵が………………


「気分転換されたら如何ですか?」


 ………………ん?


 何の提案やろかと改めて顔を見ると、慈母の如くの微笑みが視線を受け止める。


「こんな時は何時もの環境から離れて、目新しい所で楽しく過ごされると、鬱屈した雰囲気も晴れますよ。」


 そない言われて、改めてそんなもんかと考えると、なかなか悪ぅない提案かも知れん。

 ほなどーすっかとトマスと顔を見合わせとると、更にルミルさんの言葉が続いた。


「………実は、行って頂きたい店が在るのですが………………」


 聞けば、少し離れた通りに新しい店が出来て、そこそこ流行っとるらしい。

 そこで、どんな様子なんか見て来て欲しいとの事であった。


 要は偵察やな。

 流石はルミルさん。

 抜け目があらへん。


 せやけど、此方にとっても渡りに船やし、その偵察任務、喜んで行かせて頂きまひょ。


 トマスと頷きあって行動を決めると、メルリヤにも声を掛けるが、も一つ煮えきらん返事が帰ってきた。

 さて、どーすっかなぁと考えとると………


「………メルリヤには、少し早過ぎるかも知れません。」


 このルミルさんの発言は、聞き様に拠れば………いや、どない聞いても子供扱いする発言に、俺も周囲も驚いた。

 こんな事言う人やあらへんのに………………


 メルリヤ自身も、正しく意味を理解した様で、少しむくれた顔して行くと言い出した。

 そやのに、無理をしなくても………とルミルさんが更に油を注ぐもんやさかい、メルリヤも意固地になった様に、行くと語尾を強めおる。


 その様子を見て、ルミルさんは優しく微笑んではる。


 ………………なるほど。

 結局、ルミルさん(おかん)には勝てんって事やな。




 夜も更けての帰り道。


 結論から言うと、気分転換にはなった。

 メルリヤも、悩みや葛藤処や無かったやろし。

 未だに横で真っ赤な顔しとる。



 ルミルさんに教えられた店は直ぐに見つかった。


 人影の少ない通りに薄暗い灯りしか漏れとらんので、最初は見つけ難いかと思とってんけど、近付いたら溢れ出とる活気で直ぐに判った。

 入口から覗くと、暖色系の薄絹で彩られ、ホール内が赤暗く照らされており、音楽に混じって女性の嬌声が溢れとる。


 なるほどと思い至り、隣のメルリヤを見遣る。

 確かに………メルリヤにはどないやろ?

 目線が合って、キョトンとしとるが。

 まぁ、今更引き返さんやろうけど。


 ここに来て、ルミルさんの言葉の意味が解った気がする。

 此処は、所謂『大人の社交場』やな。


 意を決して足を踏み入れると、全体的に肌色っぽい、露出が多い衣服を纏った女性が出迎え、俺の手を取って席まで案内してくれ、そのまま注文を取っていった。

 直様酒が並べられると、取り敢えず乾杯をした俺の横に、さっきの女性が座り、この店の遊び方を教えてくれる。

 とても距離が近い。

 膝同士がぶつかっとる。

 顔も近く、耳に息が掛かる。

 確かに、音楽なんかの喧騒が大きく、声は聞こえにくいかも知れんけど………………


 んな様子を見て、メルリヤは真っ赤な顔して、目を白黒させとる。

 なんか言いたいんかも知らんけど、口をパクパクさせるだけや。


 やっぱし………………メルリヤにゃ早かったか。


 ウブすぎるメルリヤの反応に笑いを堪えながら、これはこれで良かったかなとも思う。

 悩みもぶっ飛ぶやろ。


 そんなウブすぎる反応が面白かったのか、お姉様方に囲まれて玩具にされるという、男性陣からしたら羨ましい状況に陥り、あたふたしているのを見て、堪えきれずに笑ってしまった。

 横でトマスも吹き出しとる。

 何時もなら、俺達に怒り出しそうなメルリヤも、流石に今はそれ処や無いらしいんで、トマスと顔を見合わせ、また笑った。


 この店は、酒と女性との触れ合いを愉しむのがコンセプトになっとる。

 勿論、それなりの対価を払えば、もっと密度の濃い触れ合いを愉しむ事も出来るんやろうが、今夜はそれはパス。

 そやなくても、酒に女性の接客と華やかな音楽とで、今宵は十二分に楽しめる。

 意外と店内が紳士的なんは、影で怖いお兄さん方が秩序を保っとるからやろう。

 逆に安心して遊べるっちゅうもんや。

 料金は結構割高やが、サービス料とかセキュリティ料とかも考えたら、まぁそんなもんかも知れん。

 安心して遊べるんやったら、それでええやんか。


 あと、ここではギャンブルも楽しめた。


 この世界は、算数の理解率が低いみたいで、計算が複雑なギャンブルが普及せぇへん様や。

 トランプなんかのカードゲームなんかは、複雑な確率計算が必要やさかい、この世界で普及しとるんを見た事あらへん。


 せやさかい、単純なゲームが受けがええ。


 びっくりしたわ。

 まさか一天地六、サイコロが存在するとは。


 元居った世界でも、古い時代から存在しとったらしいけど、まさかこっちにも在るとは思わんかったわ。

 まぁ、神事とか占術に用いられたとか聞いた事があるし、こっちでも似た様なもんなんやろう。

 ちなみに、オスメス在るらしいとは聞いとるけど、違いなんぞ全然知らん。

 表裏で合計7になる様になっとる事しか知らんわ。


 んで、やっとる博打の内容やが、胴元が振るサイコロの目を当てるっちゅう、所謂『ちょぼいち』や。

 配当は当たりゃ3倍。

 勿論ハズレりゃ没収やが、おもろいんが裏の目に賭けとったら、賭金が戻って来おる。

 どないやったって胴元が儲かるシステムやねんけど、チャラになる目があるんは気分的に楽やし、3倍はそれなりに魅力的やわ。


 博打は嫌いやないが、そこまでのめり込まれへんから、ちょこちょこ賭けて、程々に儲けた。

 コツは5の目を中心に賭ける事やね。

 んで、儲けた金を綺麗に散財して、楽しく店を後にして来てん。


「ねぇ旦那ぁ。旦那なら、もう少し稼げるんじゃないの?」


 最初からいるお姉ちゃんが、俺に品垂れかかりながら、んな事を耳元で仰るが、んな事あらへん。


「俺には博才がねぇからなぁ。何事も足るを知らねぇとね。」


 何事も程々である。

 絶対に勝てる博打なんて在らへんのやし、もし勝ち続けて、怖いお兄さん方に目ぇ付けられたら、面倒臭い事にしかならへん。

 流石に店内で金を強奪される様なマネはされんやろうけど、イカサマ仕掛けられるかも知れんし、店出た途端に刺されるかも知れん。

 程々に綺麗に遊んで帰って、誰にも悪印象与えへんのがベストやねん。


 帰り際、お姉ちゃんに少し多めにチップを渡したら、ハグして来おったんはビックリした。

 久々の柔らかい感触に、年甲斐も無くドギマギしてもうたわ。


「………いやらしい顔してる………………」


 横を歩くメルリヤが、人の顔を指摘してむくれとる。

 ………………しゃぁないがな。

 とは思うが、言うてもややこし成るだけやさかい、黙って顔を撫でて修正しとく。


 ぷりぷりと怒りながら前を行くメルリヤ。

 少し面倒臭いんやが、まぁ元気になって良かったわ。

 やっぱり元気な顔が見たいしねぇ。


「しかし………初めての割に、旦那は馴れたもんだったねぇ。」

「おぅ、前に似た様なんに行った事あるんかも知れん。記憶無いけど………」

「………………まだ言ってるよ………」


 何故かトマスが呆れとる。

 解せぬ………………


 吹く風が少し冷たくて、軽く身震いをする。

 さっきまでは、何処かに人肌の温もりが残っとった気がするが………


 見上げれば、さっきまで見えていた月は隠れ、星の瞬きも見えない。

 月に叢雲、花に風。

 ほんま、何かとままならん。

 何処か人肌恋しい季節になって、少しセンチになっとんのかなぁ………

 なんとのぉ物悲しいわ。


 『夜霧亭』で呑み直すかぁ………

 ルミルさんに報告もせなあかんしねぇ………


 んな事を、足元の小石を蹴りながら、呑気に考えとる時やった。


『物陰から此方を見ている者が2名居ます。その者らの行動から、見張られていると思慮します。』


 まじか?

 さっきの店の絡みかいな?

 んな素振りは無かってんけど。

 まさかたぁ思うけど、さっきの姉ちゃんに横恋慕しとる奴が、ややこしい事しとんちゃうやろなぁ。



「ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!」


 夜を劈く野太い悲鳴。

 おっさんかぁいっ!


 予想外の男性の悲鳴に、色々突っ込みたくなるが意識を切り替え、誰よりも早く声の下へ走り出した。


 やが、その前に立ち塞がる2つの人影。

 その手には、凶悪な白刃がギラついとった。

 あからさまな抜身の殺意が溢れとる。



 あぁ………………


 今夜も面倒臭くなりそうや………





《See you next trip》



如何でしたでしょうか?


もう長らくヤンチャな夜遊びもしてませんが、

めっきりその手のお店も減ったと聞きます。

何やかやと意見は有るとは思いますが、

私にとっては楽しい思い出なので、

お店が無くなるのは寂しい限りです。

あの頃のお姉さん方は、

今頃どうしてるんでしょう………………


次作も努めて書かして頂きますので、

御読み頂けたら望外の喜びです。

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