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《Trip8ー①》

御読み頂き有り難う御座います。

楽しんで頂けたのなら幸いです。






ーーー《sideーB》ーーーーーーーーーー




「………………それで?」


 思わず、そう返してしまった。

 私からすれば、そうとしか言いようが無い。

 一体全体、この御仁は何を言いたいのだろう?


「せやさかい、何が理由やと思われます?」


 いくら何でも私に尋ねられても、答えれる筈が無いと思うのだが………


「誠に申し訳有りませんが、私の仕事を遮ってまで、尋ねられる事とは思えませんが?」

「そりゃ悪いと思てまっけど、ガルストンさんが一番近しいと思いまして………」

「………………放って置けば良いのでは?」

「そりゃ少し薄情でっしゃろ。」


 執務机の向こうに立つ彼は、天板に両手を付いて身を乗り出して力説する。


「メルリヤの様子が可怪しいんでっせ?」




 彼から面会を求められたのは、何時もの様に書類を片付けていた午後の事である。


 ………もうそんな時間か………


 何時もの様に、あの御仁は日雇い人夫の仕事に出ていた筈なので、それが終わったのだろう。

 時間の経過を認識すると、途端に疲労が襲ってきて、手が止まってしまう。

 深い吐息を付き、目頭を強く揉む。

 予定よりも捗っていない仕事を投げ出したくなるが、この書類の山は今日中に片付けなければならない。


 処理をしながら相手をしよう。

 あの御仁ならば、その様な些末な事等を気にしないであろう。


 そう決めると、かの御仁を通す様に店の者に指示する。


 また一人になった執務室で書類を眺めながら、あの御仁の用事を想像する。

 かの御仁からの面会の申し出とは珍しい。

 先般の教会絡みの事であろうか?

 もし何か動きが有ったのなら、些か厄介な事になるのだが………


 結局、教会の大物が出て来てまで何がしたかったのか、具体的には何も解っていない。

 何かを回収しており、それが妖魔に関する事までは解っている。

 だが、それ以上の情報の取得には踏み込めていない。

 何故に、わざわざこの御仁を巻き込んだのか?

 流石の『銀鼠』でも、現状は掴み損ねているようだ。

 まぁ不用意に手を出して、暗部の連中達が出て来ても煩わしい。

 気長に報告を待ちたい所だが………



 もし………………



 もし教会があの御仁に関与しだしたら、我々はどう対応すべきか?


 度々持ち上がる悲観的な考えが、私のペン先を止める。


 この様に不明瞭な状況下で、あれやこれやと考えるべきでは無いのだが、それでもいやが上にも考えさせられる。

 彼を差し出すべきか、それとも守るべきか。

 庇護するならば、教会勢力との対立する事になる。

 ならば戦争だ。

 それも勝ち目の無い。

 ならば差し出すか。


 ………………何を躊躇する事がある。


 一つの犠牲で多数が救われるのだ。

 何を躊躇う事がある。

 そんな事は子供でも解る話だ。

 迷わず差し出せば良い。


 だが、そこで思考が止まる。


 ………………迷う?

 私が?

 流れる血すら凍てついていると揶揄される私が?


 馬鹿馬鹿しいと一笑に付す。


 勢いでペン先からインクが溢れて、書類を大きく汚してしまった。





 私は今、かの御仁が出て行った扉を見詰めていた。

 重い溜め息を付きながら………………


「随分と深い溜め息じゃないの?」


 別の扉から入ってきた、朗らかな笑みを称えた麗しの先生に対し、肩を竦める事で答えると、御茶の準備をするべく立ち上がった。

 暫くは仕事に成りそうにないと諦めて………


「中々興味深い話だったわね。」


 ソファーに脚を組んで座った彼女の声は、揶揄するでもなく、ただ楽しそうに弾んでいる。

 状態を確認するために嗅いだ、高級な茶葉の芳醇な香りと、先生の機嫌が良さそうな声で気持ちを落ち着けると、かの御仁との対話を思い出していた。



 結局あの御仁の話は、私の想定の斜め上を行くものであった。


 覚悟を持って対応した私に、かの御仁が語ったのはメルリヤの事。

 それも、ただ落ち込んだ様子なのを心配しているらしい。


 ………………ふぅ。




「………………それで?」


 思わず、そう返してしまった。

 私からすれば、そうとしか言いようが無い。

 一体全体、この御仁は何を言いたいのだろう?


 今、御自身の命が危ういと言うのに………


 いや。

 この御仁は、己が置かれている立場を御存知無いのだ。

 知らぬがゆえに、その様な気楽な事が言えるのだ。


 先刻までの私の時間を返して頂きたい。

 一体、なんの為に懊悩していたのだろう。

 仕事の手を止めてまで………


 ………………私が悩んでいた?


 馬鹿馬鹿しい。


 有る筈の無い考えが、段々と私を苛立たせてくる。


 そんな私に、この御仁はメルリヤの悩みの理由を尋ねられる。


 いくら何でも私に尋ねられても、答えれる筈が無いと思うのだが………

 メルリヤが塞ぎ込んでると知ったのも、この御仁に聞いた今し方なのに。


 そもそも、メルリヤが悩んでいたからといって、この御仁に何か問題が有るのだろうか?

 わざわざ私を訪ねてくる程の………


「誠に申し訳有りませんが、私の仕事を遮ってまで、尋ねられる事とは思えませんが?」


 少々突き放した口調に成ってしまった。

 商人として、感情を発露させるなど恥ずべき事だと猛省はするが、撒いた水は桶には戻らない。

 目の前の御仁が恐縮しているので、今後の態度は改めよう。


 ………まぁ、初手で私を頼って来るのは間違ってはいないし。


 しかしながら、この御仁はメルリヤを少々甘やかし過ぎなのではないだろうか?


「………………放って置けば良いのでは?」


 そう答えた私に、この御仁は薄情ではないかと問うてくる。


 そうだろうか?


 彼女も歴とした荒事師であり、当商会きっての腕前でも有る。

 それ以外の理由も有るが、何一つとして彼女を子供扱いする要素を感じさせない。

 おそらくこの御仁も、それを理解していると思っていたのだが、それでも尚、彼女を非力な子供扱いする理由は何なのだろう?


 必死に生きている者がいる。

 それを侮る理由が有るのだろうか。


 もしそうなら、この御仁の考えを正さねばならないだろう。


 そう考えて言葉を尽くしたのだが、この御仁の思いの籠もった言葉に、反論の言葉を封じられた。


『確かに………子供扱いしたらあかんのやろう。ちゃんと一人前に働いとるんやさかいね。何より、そんなんを本人が求めとりゃせんし、逆に嫌悪もしおるやろう。せやさかいに、子供扱いなんぞ舐めた真似はしたらあかん。そんな事は解ってまんねん………………』


 まるで苦しんでいるかの様に、目の前の御仁は言葉を紡いで来られる。

 ………一応、此方の言いたい事は理解されている様だ。


 だが、彼の言葉はそこで終わらない。


『せやさかい言うて、それでええんでっか?』


 此方を真っ直ぐに見据えた瞳が、微かに私を怯ます。

 余りにも強く………悲しそうな目をしているから………


『大人が子供の心配せんでええんでっか?どんだけ背伸びしようとも、子供なんに変わりは有らへんでしょ。そりゃこの世間の状況からしたら、決して甘やかしたらあかんのやろうけど、実際まだまだ子供なんを否定できる理由になりまんの?』


 何故この御仁は、こんなにも悲しそうな瞳をするのだろう。

 何故この御仁の言葉は、私の………此の世界の常識すら飛び越えて、心に残るのだろう。


『んなしょうもない理由で、まるっと子供に丸投げしとんのやったら、只の大人の責任放棄の言い訳ちゃいまんの?少なぁとも、ええ大人が逃げとるだけにしか見えまへんがね。』


 そう断罪するこの御仁の声は、何故か泣いているかの如く、微かに震えている。


『まだまだ身も心も未成熟な若いもんを、鬱陶しいと思われ罵られながらも導いたるんが、我々歳喰ったもんの義務やと思うんですわ………少なぁとも、未来明るい見知った顔を、笑顔にするんに理由が要りまんのか?」


 何故か、私は言葉が出てこない。

 反論は幾らでも思い浮かべれるのに。


 そんなに甘い世界ではない。

 我々に依存させる訳にはいかない。

 彼女らを死なせるつもりか。


 言い返したい事なら、山の如く有ると言うのに。 


「まるで『魔術』の様ですね………」

「まぁ何方かと言えば、『魔法』に近いのだけれどね。」

「えっ?」


 私から零れ出た言葉に、麗しき彼女が真理を呟き、思わず驚きの声を出してしまう。


「単に真理の問題ですよ。偽りなき心の底から溢れ出た言葉は、聞く者の心に響く。それが『真なる法』であり、それが………………まぁ、そこから先の答えは、これから自身で考えなさい。」


 御茶の薫りを愉しみながら、優しき声を紡ぎ出される。


「………………先生は、何か気付いておられるのですか?」

「そうねぇ………………」


 賢人たる先生には、私には見えない何かが見えているのかも知れない。

 それを教えて貰いたいが、はたして素直に御教授願えるだろうか?


 ゆっくりとカップを回し、逡巡した後に語り出した内容は、やはり私を驚かすには十分だった。


「彼の考え方はエルフィン(我々)に近いわね。」

「まさか………あの御仁が古代神人族だと?」

「そうじゃなくて………所謂文化水準が高い種族の考え方じゃないかしら。」


 カップに紅玉如き唇を付け、微温くなった御茶で喉を潤してから、先生は静かに語り出した。


「例えば戦争やら病気なんかで、簡単に子供が死なない位の文化水準なら、次世代を大切に育むって考え方は育ちやすいわ。ただ………その水準ってのが問題ね。どれ程の文明文化を土台として、そんな考え方を持っているのか?そして、記憶喪失のフリって下手な芝居をしてまで、何をしようとしているのか?………………考えるとゾクゾクするわね。」


 虚ろげに薄く笑う彼女。

 そんな笑顔すら魅力的なのだが………


 少しも笑えませんね………


「………やはり先生は、今もあの御仁が『祝福されし者(ギフテッド)』だと御考えですか?」

「可能性の話たけどもね。けど、確率は高いと思うわよ。」


 やはり少しも笑えない。

 しかし、そう仮定するならば、不可解な点が浮かび上がる。


「そうすると、教会側の動きが理解出来ないのですが………」

「そうよねぇ………………もし仮定通りなら、直ぐに囲い込みに走りそうなものなのにねぇ。」


祝福されし者(ギフテッド)』とは、文字通り神に祝福されし者の事。

 ならば、教会側にとっては信仰に係る者でもあるのだ。

 ならば、本来丁重に保護しようとする筈なのだが………


「気付いていない………………とは考えにくいのですが………」

「楽観視は禁物ね。なにせ相手はあの教会(・・・・)なのだから。何かを企んでいると捉えておくのが、今後正解となるでしょうね。一番気を配るべきは、やはり『静かなる祈り手』かしら?」


 本当に笑えない。


 何が悲しくて、教団最凶の暗部連中と遣り合わなければならないのか?


 溜め息しか出てこない。


「………………貴方、少し楽しそうね?」


 そんな事は無い。


 彼女は何故にそんな事を言い出したのだろう。

 少し憮然としてしまう。


 まったく………………本当に笑えない。






《See you next trip》

如何でしたでしょうか?


子供が子供らしく生きれない環境って、本当に悲しいですね。

勿論文化レベルのせいも有るでしょうが、只の大人の都合ってのが大きい気がします。


少なくとも………

少なくとも、子供が銃を使わなければならないってのは、何かが間違っていると思うのですが………


私は綺麗事が好きです。

全てを諦めた現実主義より、

偽善と呼ばれた方が良いです。


今後も精進して参りますので、

また御読み頂けたら望外の喜びです。


追記で申し訳有りませんが、

誤字報告してくださった御方、

有り難う御座いました。

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