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《Trip6ー⑤》

今回も御読み頂き、有難うございます。

楽しんで頂けたら幸いです。






 改めてダリアの構えを説明すっと、右肩に大剣を片手で担いだ状態で、左手と左膝を地に付けており、片膝立ててしゃがんでる様な構えや。


「なかなか面倒くさい事始めやがって………」

「へぇ………これが解るって、流石だねぇ………」


 解らいでか。


 こんなけ極端な下段に構えられたら、嫌でも狙いは解ってまうがな。

 明らかな出足狙い。

 迂闊に近づいたら、担がれた大剣が足元を薙ぎおるって寸法や。


 これを攻略するにぁ、剣の届かん遠間から攻撃出来たらエエんやろうが、残念ながら得物の長さが違い過ぎる。

 俺の木の棒やったら、間合いに入る前に両足をぶった切られてまうわ。


 ほな、どないしたらええかちゅうと、これが意外と単純やったりする。


 先ずダリアの初手、大剣による出足払いを跳んで躱す。

 んで、こっちの間合いに入ったら、大上段からの一撃を入れれたら勝ちなんやが、まぁそない甘ぁないわな。

 流石にダリアも、その辺りは織り込み済みやろ。

 今までの立合いから慮るに、ダリアの膂力やったら撃墜しに動きおるやろ。

 そないなったら、こちとら跳び上がっとるんさかいに、どないもやっても躱されへん。

 てな訳で、まぁそこで終わりやな。


 つまりこの構えは、ゴリアの糞力を前提としたモンやっちゅう事や。


 ったく、面倒くさい。


 ほな、こないな徹底的な待ちの構えやさかい、放っといたったらエエんちゃうとも思うんやが、これもそうは行かん。


 ザッザザザザッ………ザンッ!


 攻めあぐねとると思たんか、ダリアが気持ちの悪い程のスピードで、文字通り地を這う様に間合いを詰め、担いだ大剣を振り回して来おった。

 予想しとったとは言え、少し焦りながら飛び下がり剣を躱すと、さらに距離を取って右逆手に構えた。

 かなりな遠間やが、これ位が適正距離やろ。


 これも面倒くさい所で、構えが自衛隊の第一匍匐前進の形にそっくりやねん。


 知っとる人も多いたぁ思うが、自衛隊の匍匐前進にゃ第一から第五まであって、順に距離を詰める事重視から、相手に見つからん様になる事を重視する様になっとる。

 つまりダリアの構えは、めっちゃ間合いを潰して来れる形なんや。

 せやから、待ちの選択も取られへん。


「どうしたんだい、旦那ぁ。手も足も出ないってかぁ?」

「………せやなぁ………背ぇ見せて思いっきし逃げるってのもアリやろうけど………」


 そないなったら、流石にこの構えは解くやろうが、体力ゴリラのダリアが走って追い付き、こちとらの背を撫で斬りにされそうやが。


「しゃーないなぁ………」


 右逆手に握っていた木の棒をくるりと回して順手に握り直すと、ゆったりと下段に構える。

 因みに、この下段の構えってのは右足前に前後にスタンスを取って、右膝近くに右拳を置いて、切先を内に向けて構えるっちゅう、相手との距離を測る事を捨てて、攻防に重きを置いた構えや。


 つまり、腹を括ったって事や。


 一つ呼吸を置くと、地を蹴って低い姿勢で間合いに踏み込む。

 そんな俺の脳裏に、一つの言葉(歌?)が過ぎる。


 切り結ぶ

 太刀の下こそ地獄なれ

 踏みこみ見れば

 後は極楽


 武蔵とか石舟斎とか諸説有るし、色んなバージョンもある有るらしいのは兎も角、多分これが真理なんやろう。


 逃げ腰やと殺られる。

 中途半端な攻めは返される。

 死中に活を求め、その一手に全身全霊を賭ける。


 それがアカンかったらしゃーないやん。

 諦めもつくってモンやわ。


 さて、俺の一手はどーなるか?


 そんな事を考えながら距離を詰める俺に、ダリアの大剣が唸りを上げて足元を払いに来おるんで、勢いを削がない様に前へ跳んで躱す。


 前へ、前へ。


 これで、頭上から一撃喰らわせれたらええねんけど、そない甘ないわな。

 俺の動きが織り込み済みなダリアは、振り切る手前で手首を返し、左手を添える事で力の向きを変え、体を伸ばして、そのまま俺目掛けて斬り上げてきおる。


 が、俺もこれは織り込み済み。


 縮めた体勢から右足を目一杯伸ばして、ダリアの握り手を蹴り付けた。

 俺の目標は端っからこれ。

 握り手を砕く事はでけんでも、切り上げてくる事ぁでけんやろ。

 反撃の目を抑え付け、こちらの一撃を確実に決めるという完璧な一手。

 なんぼ何でも、これを防ぐ手はないやろ。


 流石に勝ったか?



 そう思った瞬間が俺にもありました(反省take2)。


「がぁァァァァァゥりゃぁァァァァァァァァァッ!」


 とても嫁入り前の娘が発したとは思えない、獣の如き咆哮が耳朶を劈くと同時に、足の裏から順次全身に驚く程の力が伝わり、俺は後方にふきとばされた。


「っがぁはっ!」


 何とかぎりぎり受け身は間に合ったものの、背中を強かに打ってしまい、肺から息が抜けてしまう。


 こんな手ってあるかいっ!

 蹴り付けとる俺を、唯の力任せで吹っ飛ばすなんて、予想を上回るゴリやんけ。

 こんな一手を誰が予想できんねん。


 慌てて体勢を立て直したい俺が、何とか膝を立てて座れた時には、既に距離を詰めたダリアが、左手一本で大剣を振り被ろうとしとる。


 追い詰められた俺は、木の棒をダリアの顔面目掛けて投げ付けた。

 怯むなり回避してくれりゃ、その隙きに間合いを開けて、体勢を整える。

 得物が無くなってまうが、後で考える。


 が、回避しおらん。


 左瞼の上辺り、丁度眉の所辺に木の棒が直撃するが、ダリアは怯むどころか瞬きすらしない。

 ただ俺を見据えて、大剣を振り下ろしてくる。


 ………あぁ、終わったか………


 この状況下やと、俺の出来る事ぁない。

 多分俺が蹴り付けた右手は使えんやろうし、左手一本で寸止めは無理やろ。


 こりゃ詰んだな。


 こんだけ実力差がある中で、よう頑張った方やとは思うけど、せっかく生き還ったのに、少し残念や。

 ちったぁこの世界にも、愛着がわいてきとってんけどなぁ………


 せやけど………


 まっ、ええか。

 其処まで悪い最後やないやろ。


 そう受け止める事にして、静かに瞼を閉じてその瞬間を受け入れた。

 多分………今なら笑って逝ける気がする。



 ………………



 ………………………………



 ………………………………………………ん?


 いくら待っても、その瞬間はやってこんかった。

 痛みも苦しみも、意識の暗転も、天国の光も地獄の炎もやってこんかった。

 聞こえてくるのは、おそらくダリアのものと思われる荒い息遣いのみ。


 不審に思て、ゆっくりと瞼を開けると、出血の為に左目を閉じたダリアが、驚愕を顔面に貼り付け、振り下ろされてた筈の大剣の鍔元当たりの刃を、動かんはずの右手で握りしめとった。

 余程強く握り締めとったんか、指の隙間から血が滴っとる。


「ちょ、お前何しとんねんっ!血ぃ出とるやないかっ!」


 慌ててダリアに駆け寄ると、俺は大剣から指を引き剥がしていく。

 強く握り締めとった影響で痺れとんのかなかなか離さんが、根気よく一本づつ引き離していくと、手の傷は然程深くないのが解った。

 本来、剣を握った位やと斬れはせんのやけど、強く握り締めせいで割けたみたいや。


 俺は手ぬぐいを取り出すと、適当な幅に切り裂き、手に巻き付けて止血する。

 続いて瞼の上の傷も確認するが、こちらも浅い様で、単に血が多く出とるだけみたい。

 この辺の怪我は、ようけ血が出るからなぁ………

 手ぬぐいの残りで傷口を押さえて止血するが、その間もダリアは呆然としとる。


「おいトマスっ!手伝ってくれっ!」

「………………そぅじゃないだろ………」


 ん?

 怪我の手当の応援をトマスにしとったら、小さく、とても小さくか細い声が聞こえてきた。

 なんやと思て振り向くと、ダリアが微かに震えとる様にも見える。


 やばっ。

 血ぃ流しすぎてやばなっとんのか?

 心配になって、俯いとるダリアの顔を覗き込んだ。

 途端、剣を手放したダリアに胸ぐらを掴まれて引き寄せられる。

 地に落ちた大剣が、鈍い音を立ておった。


「なぜっ!………なぜ逃げないんだよっ!」


 怒りも顕に、俺を睨みつけたダリアが大声を出す。

 やが、真っ直ぐ俺の目を見る瞳の奥には、微かに怯えが滲んどる。

 せやが………何気に顔が近い。


「落ち着けや。唾跳んで来んがな。」

「旦那ぁっ!」


 火に油を注いでもうたか?

 さらに激情に駆られ大声を発し、ガクガクと揺するダリアの両手を、大きく吐息を吐きながら胸元からゆっくりと外す。


「せやから落ち着けって。よー考えてみ?俺とお前との実力差で、あの状況で躱せるわけないがな。」


 そう。

 さっきも言うたが、あの瞬間に俺に出来るこたぁあらへん。

 そもそもレベル差が有りすぎるねん。

 何を期待しとんのか知らんけど、勝てる道理が………何とか出来る道理があらへんやん。


 そやけど納得でけへんのか、俺の腕にしがみついて離せへん。


「だけどっ!」

「………それにな、」


 落ち着かせるために、俺は努めて優しく言葉を紡いだ。


「お前さんやったら、それもええかなって。」

「………………っ!」


 この世界に来て半年足らず。


 ほんま、楽しかったぁ………


 一度はGAME OVERを迎えた身としては、ほんま過ぎた時間やったわ。

 ある意味のセカンドライフは、十二分に満喫でけたと思とる。

 目一杯働いたし、目一杯呑んだ。

 んで、笑えた。

 一緒に笑える仲間………絶対言わんけど、友もできた。

 メルリヤやトマス、勿論ダリアも、俺にしたら過ぎた呑み友やわ。

 それにガルストンさんやアリフェスさん、ゴーランドさんにドルトン親方、『夜霧亭』の皆さんとの出会いなんて、俺の前世を考えたら奇跡やと思う。


 これ以上望んだら、そりゃ贅沢ってもんやろ? 


 せやさかい………

 せやさかい、このまま綺麗に終わってもええかなって思えてん。


「………………馬鹿ぁっ!」


 絞る様に声を荒らげたダリアは、我慢できん様になったんか、その瞳から大粒なんを流し、膝から崩れ落ちおる。

 縋り付かれた俺には、慌てて支える事しかでけへん。

 おろおろする俺の腕をポコポコと叩きながら、大声で泣きじゃくる姿は、少し幼く見えた。


 どないせー言うねん。

 妙齢の女性に泣き縋られる経験なんて、前世を含めてある訳無いやん。

 ってか、なんで泣かれてんねん?

 こんな状況は、想定外やねんけど。


『………………本当に馬鹿ですね。』


 やかっしゃい。

 感情が無いと主張して譲らん『知識』はんに、なんでか小馬鹿にされとるんやけど。


 取り敢えず、『知識』はんの小言は置いといて、この状況をどないかせんといかん。


「………メルリヤ、居るかぁ?ちょっと頼みたい事あんねんけど………」


 ダリアから視線を外さず、周囲に声を掛ければ、やがて視界の端にメルリヤが姿を現す。


「すまんけど先に『夜霧亭』に行って、治療セット揃えて待っといて。んで、今夜はダリアの送別会すっからって、ルミルさん等によろしゅう言うといてんか。」


 ………………。


 ちゃんと言伝てを頼んだつもりやねんけど、一向にメルリヤは動いてくれへん。

 じぃっと、こっちを見とるだけや。


「ん?………どないしてん?」

「………………わかった。」


 徐ろに視線を外すと、街の方へと走り去るメルリヤ。

 ほんま、この年頃の娘はよう解らん。


『………………本当に馬鹿ですね。』


 また言いやがったなぁ。

 阿呆なんは自覚しとるけど、そない何度も言われたら、流石の俺も傷つくねんで?


『それはさて置き………』


 さて置かれたっ!?


『どうしてメルリヤが居ると解ったのですか?』


 ん?

 勘やけど?


『………………………………。』


 こんな状況やと、メルリヤが居らん方が変やなと思ただけやん。


『………マスターには、時折驚かされますね。』


 今、ため息混じらんかったか?


 まぁ、今は穿り返さんとこ。

 取り敢えず、早急に対応せなあかんのは、今のこの状況や。

 未だにダリアは声を上げて泣いとる。

 視線でトマスに助けを求めるも、ただ肩を竦めるだけ。

 ちょっと途方に暮れてまうわ。



 けどさぁ………


 殺そうとしてきた相手に泣き付かれるって、どーしたらええんやろね?






《See you next trip》

如何でしたでしょうか?


この話は、もう少しだけ続きます。

気長に御付き合い頂けたら幸いです。


また、

感想や★を頂けたら望外の喜びですが、

煽てられたら育つタイプのため、

御手柔らかに御願い申し上げます。

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