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《Trip6ー④》

御読み頂き、有難うございます。

今回も楽しんで頂けたら幸いです。






「いくぜぇぇぇっ!」


 裂帛の気合と共に、一気に間合いを詰めたダリアの振り上げられた大剣が、唸りを上げて振り下ろされてくる。


 怖い。


 この世界に来てから、此処までの恐怖を感じるのは初めてかも知れん。

 此処まで実力差の有る上位のもんとは、命のやり取りはしてこんかったさかい。


 命のやり取り?

 そう。

 これは命懸けの勝負なんや。

 己の命をBETして、分の悪すぎる賭けに身を晒しとる。

 そんなアホが今の俺や。


 そやけどな、そう簡単に負けたるかい。

 足掻いて足掻いて、見っともないぐらいに足掻き捲って、爪痕位派手に残したる。


 そない考えると、頭の芯が冷えてきおる。

 そーなると、相手の剣筋が見えてきおるもんや。


 俺は右片手正眼の構えから右足を引くと、左手を木の棒の先に添えてダリアの剣を待ち受け、受けると同時に右肘を畳む事で右に流し、一連の動作で生じた捻れを利用して、ダリアの右胸を目掛けて右片手突きを放つ。

 慌てたダリアは右手を剣から離し、身を捻って逃れようとしおる。


 それが罠。


 俺の突きがダリアの脇を抜けるのは織り込み済み。

 俺は引いた右足を蹴り込む事で、ダリアの右に移動すると脇を抜けた棒先を左手で握り、ダリアの右肩から先の関節を捻り上げて行く。


 やが、もう少しで極まる寸前で脳裏に閃くもんがあったんで、右手を放して飛び下がる。

 その空間を凶悪な風が通り過ぎた。

 俺が居った空間を、ダリアの大剣が薙いで行ったんや。

 右腕を犠牲にする覚悟で………


 俺は左逆手に構えながら、もう数歩距離を取る。


「っはっはぁぁ!やっぱ面白いねぇ、旦那はぁっ!」


 凶悪な光を称えた目を爛々とさせながら、少しはダメージが入ったと思われる右肩を回し、獰猛な笑みを浮かべるダリア。

 ………むしろいっちゃってる?


 一個もおもろあるかぁいっ!


 トゥーハンドソードかツヴァイヘンダーか知らんけど、糞でかい大剣を左手一本で振り回しやがって。

 どんなけゴリラやねん。

 この世界にゴリラが居るんか知らんけど。


『この世界では、魔巨賢猿(ラージイビルエイプ)がそれに該当すると思われます。』


 魔巨賢猿って………長いなぁ。


『略して巨猿で宜しいかと。』


 さよか。


 油断なく左逆手に構えながら、急いで呼吸を整えてく。

 一連の攻防で一気に汗が吹き出しとるが、取り敢えず今は放っとく。

 目の離せる相手やない。


「決まったと思てんけどなぁ。」

「ちょっと焦ったけど、これ位で終わらせたら勿体ないじゃん。」


 ちょっと焦った程度かぁいっ!

 結構な必勝パターンやってんけどなぁ。

 楽しそうに笑うダリアには呆れるしかないわ。


「まさかあの体勢から、その糞でかい大剣を振ってくるたぁ………」


 左足を引くと右半身と構え、左手の得物をダリアの視線から隠す。

 背筋を伸ばし、右手を正面に向けて軽く伸ばすと、手の甲をダリアに向けてゆったりと構える。


「巨猿並やな。」

「うら若き女性に対して、失礼過ぎるでしょっ!」

「ムキになんなや。自覚が有るんやと思われんで。」

「何をぉぉぉっ!」


 明白な挑発に、がっつり乗っかって来るダリア。

 ほな、追い打ち掛けとこか。


「そない怒りなや………」


 冷静さを欠いたら、実力出されへんで。

 まぁ、それが狙いやねんけど。

 止めに突き出した右手の指先で、ちょいちょいと弄とく。


「『剣聖』(w)?」


 ダーツの時にトマスにいじくられてたワードを、笑い混じりに放り込んどくのを忘れない。

 ダリアも忘れて無かったみたいで、みるみる顔が真っ赤に染まって行きおる。

 漫画やったら、頭から湯気が上がるエフェクトが掛かりそうや。

 眦が面白い程釣り上がっとるのが見える。

 それこそ嫁入り前の娘がしてええ顔やないやろ。


 今にも突っ掛かって来そうな勢いやが、後ろ手に隠してある獲物が気に成っとんのか、じりじりと間合いを詰めて来おる。


「なんや。けぇへんのか?」

「旦那の技は魚の干物みたいだからねぇ。ゆっくり噛み締めなきゃ。」


 干物って………

 そないな例えされたんは初めてやな。


「そやかて、噛まな始まらんで?」

「そぉだねぇ………っ!」


 ノーモーションから一気に踏み込んて来、袈裟懸けに振り下ろしてくるのを見据える。


 罠やと理解しとっても突っ込んでくる勇気は認めたるが、社会一般的にゃ無謀と言うんやで。


 はたまた匹夫の勇か?

 この世界やと言わんやろうが。


 やが、先ずは距離を潰す。


 継脚と言う剣道の歩法の後、左足を思いっきし踏み込むことで、ダリアの動線を狂わせ、予想を裏切ったる。

 待ちやと思てたやろ?

 その一瞬の隙きを狙う。


 一連の動きで生じた体の捻れをつこて、左腕を思いっきし振り出す。

 ダリアもそれを予想しとったんやろう。

 やとしても、そっから糞でかい剣の軌道を無理くり変えて、そっから迎撃しようと動くやなんて、どんな膂力やねん。


 ………これからゴリアって呼んだろか。


 そやけど、これもフェイク。


 大きく外側を振り抜いた左手に木の棒は握られておらず、迎え撃ったゴリアの大剣は空かされる。


 ざまぁ。


 反動で後ろに回した右手で、ベルトに挿しといた木の棒を逆手で握り、大剣の柄を目掛けて振り抜く。

 ダリアの視線は、俺の左手に向いとるさかい、これは躱せんやろ。

 狙いは利き手、多分右手やと思うけど、その親指にヒットすりゃ上出来かな?


 流石にそれは高望みし過ぎやったけど、左手を柄から外させ、大きく外に剣を反らせる事には成功する。


 続いて、新たに生まれた体の捻りに加えて、体を小さくしながら右足を引き付け、左足で大地を蹴り上げる事で捻りを開放し、爆発的な推進力をダイレクトに叩き付ける要領で、右肩でダリアの鳩尾を突き上げる。


 人間の体を押すときゃ、地面に平行に押したって踏ん張られるが、斜め下から突き上げられたら体が游ぎ、吹き飛ばす事が容易くなっとる。

 これを理と言うらしい。

 知らんけど………


 せやけど、それが功を奏して次の一撃への布石となる。


 伸びて開ききった己の体に、両手を振り回す事で回転力を生み出し、右足を軸に体を回しながら体重を移動させ、その勢いを載せて左回し蹴りを放つ。

 密かに練習を続けとったこのコンボを、体勢が崩れきったダリアに躱す術はねぇはずや。


 獲った。



 そう思った瞬間が俺にもありました(反省)。


 その瞬間、筋肉んな中山くんがよくやるポーズみたいな形で左腕が割り込み、俺の蹴りをガードしおった。

 渾身の蹴りやさかい、流石に体は後ろに吹っ飛んだんやが、ざざざっと脚を踏ん張って体勢を崩さんでやがんの。


 やぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?

 まぢかい?


「っかはぁぁ!」


 肺に溜まっとった息を吐き出して、ダリアは姿勢を整える。


 かはぁ〜やあるかいっ!

 なに人の必勝コンボを、軽く受け切ってくれとんねん。

 変位な抜刀『霞斬っちゃう?』を参考にして、割りかしガチで組み上げた技やのに、そんな一言で終わらすなや。

 どんだけ形稽古したと思てんねん。


 形稽古を否定する人も多いみたいやが、以外と重要やと俺は思とる。

 無論実戦形式の稽古も大事やが、打ち込み中に次の流れを体に染み込ませとく形稽古も重要やと思てんねん。

 まぁこの辺は指導者の考え方にも依るんやろうが。


 閑話休題、瞳に剣呑な光を宿したダリアが、またも凶暴な笑いを浮かべて、呼吸を整えとる。


「ははぁっ………ははぁっ………ほんと、面白いねぇ………」

「俺はいっこもおもろないんやけど。」

「旦那も今ので決まるとは思ってないでしょ?」


 いや、がっつり思とってんけど。


「次はどんなのを魅せてくれるんだい?」

「もうネタ切れやねんけど」

「またまたぁ………其の手には乗らないよ?」


 いや、まじやねんけど(涙)。


 俺は手の中で木の棒を回し、右逆手から右正眼に構えを移す。

 ほんまにもうネタ切れなんやが、どうも許してくれそうな雰囲気やあらへんなぁ………


「だけど、後攻めばっかりだね。」

「攻めんのんが苦手やねん。」

「あはは………そうは見えないけどねぇ。」

「歳喰ったら臆病になんねん。」

「だから彼女ができないんだよ(笑)。」

「喧しゃい!」


 空気が弛緩するのは否めないが、打ち込むすきが無いんやからしゃーないわな。

 向こうも息を整えたいんやろうけど、こっちもそりゃ同じやさかい。


「こんなおっさんの事ぁ放っといてんか。」

「そこそこ人気も有るんだけどなぁ………そこが良いんだけど………」

「なんてぇぇ?」

「何でもないよぉぉっだ!」


 ダリアは構えを解き、右片手で大剣を肩に担ぐ。


「そー言うそっちはどないやねん?」

「は?」

「何時まで男っ気無しで居る気やねん。オカンも心配しとるやろ?」

「母様は関係ないだろっ!」

「何時まで理想を引きずっとんねん。白馬の王子様なんぞ居るわけ無いやろが。」

「いいじゃんか。夢見てたって………」

「えっ………まぢで言うてる?」

「煩ぁぁぁぁいっ!」


 ダリアがさっきまでの余裕をかなぐり捨てて、涙目でやーやー言うとる。

 勿論、これを狙って弄ろとるんやで。

 決して趣味や無い事を言うとくわ。

 力量で負けとるんやさかい、精神性位は優位に立っとかんとね。

 決して趣味や無いで。


「そぉかぁぁ………未だに白馬の王子様を夢見とるって、ダリアも可愛い所有ってんなぁ………」

「うう煩いぃぃっ!いいじゃんか。アタイがどんな夢見てたって。」

「いや、ええんやよ?ただダリアも可愛い乙女やねんなぁって(w)。」

「だぁぁぁぁっ!(怒)」

「せやけどどーすんねん?」

「何がだよ?」

「トマスん事やんけ。」

「はぁぁぁっ?」

「えっ?お前ら出来とるんやろ?」

「「はぁぁぁぁぁっ!?」」


 見学しとったトマスと仲良く、ハモル様に声が響いた。


「ちっちょっ!どうしたらそう言う話になるんだよ!?」

「旦那ぁっ!勘弁しておくれよ。どーなったらそんな話に成るんだよ。」

「えっ?お前等妙に仲ええやん?」


 ぷちっ。


「どうしてそんな話に成るのかなぁ?旦那ぁ。」

「そーかぁ?どう贔屓目に見たって、白馬の王子様にゃ見えんけど、割りかしお似合いやとって………ん?」

「なにげに酷い事言って………ん?」


 なんか変な音せんかったか?


 と思てダリアを見ると、見た事が無い位の暗いオーラを纏っとる。


 やば。

 やりすぎたか?


「ふ………ふふふ………解ったよ。旦那はアタイの本気を見たいんだね?」


 いや、結構です。


 出来れば、この場を無難に乗り過ごしたいだけやねんけど。

 なんや、それも無理な話っぽそうやなぁ。


「旦那には色々と見せてもらったからねぇ………アタイも取って置きを見せてアゲルヨ♡」


 いや、ほんまに結構です。


 心底そう思とる俺を無視して、ダリアは体勢をゆっくりと低くして行き、大剣を右肩に担いだまま、左手と左膝を地に付けおった。

 その低い体勢のまま、俺を見上げながらニヤリと不敵に笑いおる。



 これはガチでヤバいな………






《See you next trip》

如何でしたでしょうか?


もっとあっさり終わる予定でしたが、

気がつけば次話もバトルの続きです。


バトルは文字が勝手に弾んで楽しいんですが、

動きに不自然さが無い様に気を使います。


今後も精進してまいりますので、

応援の程宜しくお願い申し上げます。

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