《Trip5ー④》
御無沙汰しております。
少し遅くなりましたが、
今回も頑張って書き上げました。
読んで頂けたら幸いです。
「さぁ〜って、やるでぇっ!」
日差しも強くなり、道を歩きゃ薄っすらと汗ばむのを感じれる様になって、冷たいエールが旨く感じられる様になった頃、俺はウキウキと準備を始めた。
あぁ、暑なってきたなぁ。
現代日本におった頃は、夏ってそないに好きやなかった。
やって、ただ暑いだけで仕事の邪魔になるだけやし、マリンスポーツに興味も無かったしね。
ガキの頃なら夏休みもあったし、それなりに楽しめたんやけどね、ええ歳になってもうたら特段楽しい事もあらへん。
まぁ、ビアガーデン位かなぁ………
それもここ数年、色んな理由で行けてなかったけど。
行きとうても、やってなかったしね。
せやけど、折角この世界に来たんやさかい、ちったぁ夏も楽しまんと。
この世界でも、『夏』って言うんかは知らんけど。
『この世界では、『炎節期』呼ばれています。』
なるほどぉ………
『炎節期』かぁ。
暑いから『炎』の文字が使われとるんやろか?
ほな、他の季節ならそれっぽい字が入るんやろか?
『御想像通り、冬は『氷節期』と呼ばれております。』
やっぱし。
まぁその方が理解がしやすいわな。
なんで暑い季節が『夏』って呼ばれとるとか、全然知らんしね。
それはさておき、夏を楽しもう。
先日、ドルトン親方に頼んどったもんが、やっと出来て手元に届いた。
注文した時は親方に散々文句を言われたわ。
『いい加減に武器を作らせろ!』と。
そないに血生臭いんが好きなんかねぇ?
みんなが笑える様なもんを作る方が、よっぽどええように思えるんやがねぇ………
まぁそれでも、此方の期待と想像以上のもんを作ってくれるんが、親方のおっとこ前な所やわ。
無骨な鉄の骨組みの中に、複雑過ぎない歯車が鎮座し、無骨な回転ハンドルが命を吹き込まれるのを待っとる。
幾多の名剣よりも薄く鋭い刃が、己の仕事を全うする時を静かに待ち構えとる。
俺はそこに氷をぶち込み、ハンドルに己の力を注ぎ込むと、無機質な歯車が唸りを上げて喜び、職人気質の刃は寡黙に仕事を全うする。
しゃりしゃりしゃりしゃり………
カッコつけて言うとるけど、かき氷を作っとるだけやねんけどね。
小皿にある程度盛られた氷を軽く抑え、蜂蜜をベースとした物を回し掛け、更に氷を削っていく。
こんもりと盛られた氷の上に、牛乳を煮詰めて作った練乳を回し掛けて完成や。
早速スプーンを突っ込んで、しゃりしゃりと軽く混ぜっ返すと、少し溶け始めた氷を掬い口に放り込んだ。
………美味いっ!
世間様には、所謂『ばえ』重視の派手派手の奴も多い様やが、個人的には昔ながらの味の方が好みやな。
後輩の女子がかき氷にとち狂っとって、低体温症でフラフラになるまで食べる様な娘やってんけど、その残念娘に専門店に連れてってもうた事があんねんけどね。
確かに美味しいのんもあるんやけど、やっぱし昔から食いなれた味の方を選んでまうわ。
………これに白玉があったら言うこと無いなぁ。
おかげ参りで有名な地域には、夏場になると有名なお餅屋さんが期間限定のかき氷をやってて、それを食べとうてそこまで行った事もあったわ。
抹茶の蜜が掛かった氷に、それ様に合わせて作られた餡とお餅がええ感じで、郷愁を誘う味やった気がする。
………もう、随分と昔な気がするなぁ。
最後の方は、そんな余力も無かったしね。
あかんなぁ。
郷愁に誘われ過ぎやわ。
気を取り直してゆっくりと食べ進めとってんけど、気が付くと目の前にぽかっと開いた口が3つ並んどる。
メルリヤ、ダリア、トマスの三人が、食い入るとまではいかんけど、口を開けてかき氷を見とる。
よだれっ!
若い娘共が、なんちゅう顔しとんねん。
トマスよ。
むさいおっさんが、そこに並んどったら物悲しいで。
順番に作ったるさかいに、しゃんとしいや。
そう伝えると、再度ハンドルに手を掛け、氷を削っていく。
練乳を掛ける頃には、食い意地のはった3人が必死に順番を決めとるが、その横を完成したかき氷を持った俺は通り過ぎ、ルミルさんの元に向こうた。
「えっ?私ですか?」
後ろから聞こえるぶーぶー言う声は無視して、ルミルさんに手渡して感想を求める。
折角だからとミアを呼び、分け合って食べる姿が微笑ましい。
二人して美味しいとの感想を頂けた。
「そうでっか。ほな、売れまっか?」
「えっ?………ええ。元が氷ですから、料金設定が難しいとは思いますが………」
「そりゃ良かった。ほなら………」
第2ラウンドやな。
今日も天気だ、日差しかうざいっ!
んな事言うたら、夏に申し訳ないかも知れんけど。
せやけど、日を追うごとに強くなってく日差しに、全身に流れる汗が禁じ得ない。
体臭が気になってしゃーないわ。
若い頃ならいざ知らず、この歳になったら周りの目が気になんのよ。
今の俺の周りにゃ、なんでか若い娘が多いさかいに。
俺自身も、昔は満員電車でのポマードのおっさんの体臭に、思いっきし嘔吐きそうになったんを覚えとる。
せやさかい、己がおっさんになった時、その恐怖が思い出されるんよ。
なんせ、自分では気付かんらしいからねぇ………
どっかに○✕4ないかなぁ………
「旦那ぁっ!」
悲鳴に近いその声に、俺の意識も現実に戻って来おる。
「クソ忙しいんだから、代わっておくれよぉ(涙)。」
実際に悲鳴なんやろう。
ダリアが泣きそうな顔して、必死にハンドルを回しておる。
ここは『夜霧亭』の店前。
期間限定の、かき氷の露天販売の真っ最中や。
最初は、氷を食べるといった文化が無かったんで、遠巻きに見られるだけやってんけど、連日のこの日差しと暑さが味方して、ここ数日はそこそこの行列が出来とる。
それを捌く為に、ダリアとミアが頑張っとんねんけど、氷を削るんは体力がいるさかい、ダリアの専属となっとる。
「そない言うけど、バイト代は払とるがな。」
「ばいと?」
「………前払いで仕事の代金、大概な額支払っとるんやさかい、文句言いな。」
「割に合わねぇ〜(涙)。」
そう言う文句は、昨夜呑み食いした金額を思い返してから言え。
今夜の呑み代で雇う言うたら、あほ程呑みやがって。
そんな奴に掛ける情けはねぇな。
「けど、他の連中も呑んでたじゃんか。」
「そやけどな。けどトマスには別の用事を頼んどるし、俺は氷を作らなあかん。メルリヤは………」
そこで言葉を区切って、近くに居るメルリヤを見やった。
「使いもんになると思うか?」
一気に食べ過ぎて、頭がキーンとして悶絶しとるメルリヤを。
こいつ、初回にやらかして以降、幾度と経験しとんのに、全く学習能力があらへん。
今日も列にせっせと並び、毎回慌てて喰って悶絶しとる。
最初、取っ付きにくかった頃に比べたら可愛げが有るが、それよりも残念感の方が強いかな。
そう思て、生暖かい目で見てまう。
それにはダリアも同意見の様や。
取り敢えず、関わらんとこ。
「それにな。むさ苦しいおっさんが作るより、見目可愛らしい女子が作った方が美味そうに感じるやん。」
「可愛らしいって………」
急にモジモジしだしたダリアに、内容は兎も角という本音は言わんでおく。
実際、ミアは可愛らしいし………
言わんけど………
そう思てると、ふと近くに子供達が見つめている事に気が付いた。
表現が難しいが、決して裕福ではないと思慮される服装をした幼い子供達が、キラキラとした目でかき氷が出来上がるのを見つめている。
購入の列に並んでいない所を見るに、それなりの事情を抱えているんやろう。
「ほな、一辺代わってみ。」
そう言うと、ダリアと代わってかき氷機の前に立ち、スチの葉を手に取った。
このスチの葉ってのが実に優秀で、蓮の葉に似とんねんけど、わりかし何処でも野生しとって、1時間程乾燥させると立派に器の代用品になるっちゅう、旅人の友って感じの葉っぱやねん。
なんたってタダっ!
露天なんかで活用もされとる、即席の使い捨ての器やね。
それにしゃりしゃりと氷を盛って行き、最後に練乳を回し掛ける。
「見てみぃ。俺が作っても、こんなん売りもんにならんがな。」
少しだけ歪に作ったかき氷を手に、心持ち大きな声で、周囲に聞こえる様にダリアに告げた。
「せやさかいに、ダリアに任すわ。」
「いや、そんなに変わらない様な………」
「あっかいっ!こんなもん。」
そう言うとその場をダリアに任せ、出来上がったかき氷を手に、さっきの子供達に近づいて行った。
「すまんなぁ。売りもんにならん失敗作やねんけど、捨てるんもあれやし、貰ってくれん?」
そう言うと、一番幼い子にかき氷を手渡す。
一瞬きょとんとした顔をした後、満面の笑みでのありがとうの言葉を報酬として、両手を腰に当てているダリアん所に戻った。
「やっぱり旦那にゃ敵わないねぇ。」
「ん?なんがぁ?」
ダリアの笑い混じりのため息に、すっ惚けた答えを返しながら、油断なく周囲を見渡す。
『右斜め前方、帽子を被った男です。』
………やっぱり居ったか。
横目でその男を確認しながらも、素知らぬ素振りで周囲に大声をあげた。
「さてさて。御好評に付きまして、まもなく売り切れとさせて頂くのは心苦しくはありますが、通常営業の『夜霧亭』におきまして、さらに美味しい物を準備いたしておりますゆえ、皆様御誘い合わせの上で御来店頂きます様、伏して御願い申し上げますぅ。」
その口上に落胆する者も居れば、『夜霧亭』の営業に心馳せとるもんも居る。
その様子を眺めながら、一人の兄ちゃんに声を掛けた。
「兄ちゃんも、ぜひとも来たってや。そん時は一杯奢るさかい。」
「いや、私は………」
そう口籠りながら去ってく、帽子を被った兄ちゃんを見送りながら、物悲しさを感じとった。
一緒に呑めたら、無かった事に出来るもんを………
ーーー《sideーB》ーーーーーーーーーー
「えぇい、忌々しいっ!」
私は感情の赴くままに書類を投げ捨てた。
事務机にぶち当たったそれが、勢い余って執務室に広がって行く。
「何が『三方得』だっ!この私を謀りおってっ!」
「しかしゲルス様………現状、此方は労せずして収益を上げておりますが………」
私に付き従っておる部下が、脱いだ帽子を手に握り締め、おずおずと現状を報告してくるが、そんなものでこの怒りが収まるものではない。
「そんな事は解っておるっ!」
そう、そんな事は解っておるのだ。
我が『氷製業者組合』側からは一切損失は無く、『夜霧亭』から収益だけを巻き上げ続けている。
しかしっ!
今現在、『夜霧亭』は新しい菓子を開発し、以前よりも利益を上げている。
しかも、氷その物を使った菓子なのだ。
ならば、もっと金を巻き上げる事が出来た筈なのだ。
だが、契約書が邪魔をして来おるっ!
しかも立会人の署名入りのだっ!
そのせいで、初期取り決めの金額しか取り立てられないのだ。
まさか、奴等があれ程の大物達と繋がりが有るとは………
ゴーランドは大商会の会頭であり、この街の顔役でもある。
貴族連中との繋がりも深く、おそらく五指に入る有力者であろう。
今、彼を敵に回すのは得策ではない。
その後ろに居たガルストンも厄介な相手ではあるが、それ以上にフェルメンス神父の存在が面倒だ。
ただでさえ教会関係者の立会署名がある契約書なんぞ、拘束力が強過ぎると言うのに。
さらに孤児救済を謳い、贅沢華奢を良しとせず、清廉潔白を持って神の教えを説くと言う、教会内でも発言力があるフェルメンス神父は厄介過ぎる。
偽善者め。
所詮、この世は金次第だと言うことなど、子供でも解る理屈だと言うのに、偽善を振り翳して信仰心を煽るなど、本当の悪党ではないか。
こういう奴が上に居座っているから、教会は融通がきかないのだ。
いつか、私の力が奴を上回ったら、真っ先に排除してやる。
だが、それは今ではない。
下手に教会に歯向かえば、最悪『破門』になってしまう。
そうなれば商売が出来なくなるだけでなく、まともに生きて行く事も出来なくなる。
それだけは避けねば。
しかし、あの男に謀られたせいで、組合内での立場が悪くなってしまった。
まったくもって忌々しい。
早々に手を打たないと………
こう悩ましい時に限って、名案とは浮かびにくいものだ。
苛々だけが募り、意味もなく執務室をうろうろと歩き回り、親指の爪を噛んでしまう。
全く………あんな契約書など、初めから無ければ良いのに………
ん?
「………ふっ………ふひっ………ふひひひはははははははっ!」
腹の底から笑いが込み上げてくる。
やはり私は頭が良い。
そう、無ければ良いのだ。
その日の夜中、私は無頼の連中を手下として引き連れ、『夜霧亭』の前に立っていた。
「いいな。手筈通りにやれ。多少怪我をさせても良い。必ず契約書を探し出すのだ。」
品性のない笑いを浮かべる連中に向かって、大雑把に指示を与える。
本来ならば、私は執務室に残って、此奴等の成果を待つだけで良いのだが、此奴等の足りない頭で理解しているのかが不安であり、仕方無しに現場で指揮を取らねばならない。
どうせ此奴等に難しい指示を与えても無駄なのだ。
溜め息を一つ吐き、扉を開ける様に指示をすると、一人がするすると扉に近づき、解錠を始める。
その動きは、明らかに盗賊のそれである。
やがて、扉が開いた事を示してきたので、片手で周囲に合図を送り、一斉に扉の向こうの暗闇に殺到する。
「いらっしゃぁ〜い。」
暗闇の奥から、何処かで聞いた様な男の声が聞こえると、後ろで音を立てて勢い良く扉が閉まった。
一瞬で包まれる暗闇の中、動揺しながらも周囲を伺っていると、ふと蝋燭の明かりが灯りだした。
次々と明かりが灯りだして行き、店内を明るく照らすと、私達以外の者が大勢居る事に気付かされる。
「なっ!何だこれはっ?」
激しく動揺する私に、正面の椅子に脚を組んで座っている男が、グラスをテーブルに置いて話し掛けてきた。
「さて………最終ラウンドや。」
《See you next trip》
如何でしたでしょうか?
思い込みのないキャラが、
どう喋るのかが想像できなくて、
思わず時間がかかりました。
次回は、軽めの『ざまぁ!』回の予定です。
次回も御読み頂けますよう努めますので、
楽しんで頂けたら幸いです。




