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《Trip5ー②》

新年一発目の投稿です。

本年もよろしくお願いいたします。


皆様にとって幸多き一年であります様に……





「それで、私の所に?」


 優しいバリトンボイスが、静かに問を投げ掛けてくる。


 ガルストンさんに相談したあと、解決の糸口を教示して頂いた俺は、彼女を尋ねる事にした。

 尋ねるっちゅうても、同じガルストンさんの屋敷の中やけど。

 って言うか、ガルストンさんに誘導された気もせんでもないが。

 そやけど、今ん所俺の知り合いで魔法を間違いなく使えるんは、アリフェスさんしか知らんのも間違いない。


 俺は再度、今までの経緯をアリフェスさんに説明すると、遮二無二助力を乞うた。

 俺のこんな白髪頭を、下げるだけで救えるもんがあるんやったら、そんなんアホほど安いもんや。


「頭を上げてくださいな。そう畏まられては、ちゃんと話すこともできませんよ。」


 優しいバリトンボイスが、俺に降り注がれる。


「貴方には随分と大きな恩がありますから、喜んでお力添えさせて頂きたいと思います。」

「ほんまでっか?恩とか貸しとかおまへんけど、ありがとうございます。」

「ええ。しかし解らないのですが、何故にそこまで為さるのですか?こう申しては何ですが、お身内でも無いのでしょう?」

「………まぁ、そうなんでっけどね………真っ当な店が理不尽に潰されて行くんは、無関係ながらも辛いんですわ。」


 昔、似たような思いをした事がある。

 そん時の理不尽は、流行病と行政やったわ。


 まぁ、ほんまやと流行病は責めようが無いんやろうが、どこぞの質の悪い国が人工的に作ったモンやとして、それが管理ミスで蔓延したんやとしたら、そんなもん到底納得できるもんやあらへん。

 それで何万、何億人の命が失われたと思てんねん。

 それでも輩な国はシラを切り、他の国も政治的な見地とかほざいて責任を追求せぇへん。

 国際的な保険組織のえらいさんなんぞは、ゴマを擦りたいんか、それとも弱みを握られとるんか知らんけど、その輩国家の対応を称賛までしとる。


 そんな腐りきった、絶望的な世界情勢は今更やねんけど、それに巻き込まれるモンはたまったもんやあらへん。


 そんな中、湧いてきおるんが人の不幸で金儲けを企むクズと、責任転嫁で誰かを攻撃して笑ろとるゲスと、無責任なデマを拡散しおる自称意識高い系のアホ共で、真っ当に生きとうモンが息苦しい思いをすんねん。


 せやのに、追い打ちを掛けるんが行政や。

 弱いもんの味方せなアカンはずの行政が、理不尽な行動制限を無保証で強要しおる。

 そりゃ人が動かんかったら、蔓延は防げるやろうよ。


 そやけど、生活はどうすんねん?

 働かんと、どっちにしても生きていかれへんねんで?


 そんなこんなでその当時、気に入っっとった店が何軒か潰れおった。

 楽しみにして店の前まで行って、閉店の張り紙見た時の遣る瀬無さって半端ないで。

 中には更地になっとった所もあって、流石にショックを暫く引きずったわ。

 あそこの爺さんと婆さん、元気にしとんやろか?


 できるもんなら、二度とあんな思いはしたないもんや。 

 

 そんな思いが強いかな。

 言えんけど。


「‥‥‥‥なるほど。貴方らしいですね。」

「アホな理由で申し訳ない。」

「いえ‥‥‥‥とても貴方らしい。」


 そう言う傾城は、菩薩の様な微笑みを讃えていたが、すぐに真剣な表情に戻った。


 ‥‥‥‥勿体ない‥‥‥‥


「問題が一つ。私が何時まで此処に居るかが解らない事です。お話によれば、恒常的に氷か必要なのでしょう?」

「そうでんなぁ。」

「ならばいっその事、貴方が魔法を覚えれば良いのでは?」


 俺がぁ?

 ひょっとして、魔法習得イベント?


「そんなん、簡単に覚えれるもんなんでっか?只のおっさんでっせ?」

「大丈夫ですよ。私が教えるのですから。」


 そうバリトンボイスが宣言すると、御茶目にウインクしてきた。


 ホンマに国が滅べるよなぁ‥‥‥‥






 さて、始まりました魔法講座。

 講師はバリトンボイスの傾国です。


「魔法と簡単に言いますが、我々が使うものは正確には魔術と言います。その違いは、魔法とはこの世界を構成する法則の一部であり、魔術とはそこから力を取り出して行使するための術式です。ですが、一般には違いを理解されていないので、一般的には一纏めに魔法と呼ばれています。」


 なるほど。

 何となくで例えるなら、湖の水を魔法とするなら、それを汲み上げた水の事を魔術って言う事やね。

 んで、一般人には違いが解らんから、両方とも水って言う様なもんなんや。


 「術式と言っても様々な考え方がありますが、要はイメージを固める為のものであって、その為の文言であったり手振り身振りであったり、はたまた魔法陣であったりします。」


 っちゅう事は、魔術ってイメージの産物なんかぁ。


「世界には力が満ちており、我々はそれを魔素と称しておりますが、その魔素にイメージを纏わせる事で形を作り、それを魔道具で方向性を付ける事で、効果を発揮させるのです。よく使われている魔道具は、この様な聖木の杖ですね。」


 ほうほう。

 水に圧力を加えて、ノズルから放水する水鉄砲みたいなもんかぁ。

 流石、教え方上手いなぁ。


 ………………ん?


 ………………ちと待て。


 俺、魔道具無いやん!


「そうでしたね。失念していました。本来なら修行の間に、自身に適正の合う魔道具を作り上げて行くのですが、これですと時間が掛かります。今回は時間が無いのですよね?」

「そうでんねや。急ぎまんねん。どないしょ‥‥‥‥」


『魔術の習得の気配を感知しました。制限解除。これより『木の棒』の《魔術誘導》を開放します。』


 ………………………………はぁ?


 なんてぇ?


 アリフェスさんから聞いた、衝撃の事実に打ちのめされとる俺に、《知識》はんの声が耳元で聞こえた。

 どゆこと?


『魔術の習得の気配を感知した事により、現在使用している《初期特典》の『木の棒』の制限が解除され、スキル《魔術誘導》が解禁となり、以降魔道具と同様以上に魔術に使用できます。』


 ………………………………はぁ?


 何それ御都合スキル?


 突っ込み処は腐る程あるけど、今はさて置き兎にも角にも魔道具の目処はたった。

 問題は、アリフェスさんに上手いこと説明できるかやけど。


 腰の後ろに差しとる木の棒を引き抜き、傾国に説明するためにそ〜っと机の上に置いた。


「これ使えまへんか?ずぅ〜っと持っとるもんで、一番(いっちゃん)馴染んどんねんけど。」

「いや申し訳ありませんが、そう言う問題では‥‥‥‥はぁ?」


 折角のべっぴんさんが、勿体ない位に慌てふためくアリフェスさん。

 結構レアかも。


「‥‥‥‥これで、問題は、無いと、思われます。」


 折角の傾国が苦悩に歪んどる。

 いやぁ、すんまへん。

 ホンマの事は言われへんしねぇ。


「色々と言いたい事は山の様に有るのですが、取り敢えず実際にやって見ましょう。」

「はぁ。せやけど確認するの忘れとってんけど、ほんまに氷を作れるもんなんでっか?」


 俺の素朴な疑問に、傾城は首を傾げて懐から細い杖を引き抜くと、その先の空中に氷塊作り出した。

 おぉ〜と驚く俺を横目に、その氷塊を杖を振って消し去ると、何時もの余裕を取り戻してはった。

 そして、今度は杖先に火の玉が現れた。


 あっつぅぅ!


「ご覧の通り、氷を作る事も可能ですが、先ずは比較的容易である火の具現化から始めましょう。」


 そう仰るアリフェス先生の指導の元、俺の魔術訓練が始まった。






 結果から言うと、芳しくはなかってん。

 そりゃそやろ。

 何度も言うけど、只のおっさんやで?

 そない簡単に、魔術なんぞ使える訳ないやん。


「どうも、意識の確立が上手く行ってない様ですね。」


 油汗かいとる俺を見て、傾国先生が吐息をつく。

 いや期待してもうてるんは有難いけど、空中に火の玉作るってどないやねん。

 幸いファンタジーには散々触れてきとるさかい、何となくイメージは出来るんやけど、リアルな所まではてんで無理。

 必死に映画やアニメ、知りうるラノベの知識まで駆使しとるんやが、どーにも上手くいかん。

 さて困った。


「では‥‥‥‥具現化は一先置いておくとして、対象の変化を試してみましょう。」


 些か疲れが伺える声で、傾国先生が水を張った桶を準備してくださった。

 出来の悪い生徒ですんまへん。


「取り急ぎ必要なのは氷との事なので、まず水を凍らせれるかを試してみましょう。」

「水をでっか?」

「そうです。」

「まぁ、それができでば御の字でっけど‥‥‥‥」


 アリフェスさんに言われるがまま、木の棒を水桶に向けて瞼を閉じてみた。


 そーいや、水って何で凍るんやったっけ?

 寒いから?

 いや、何かちゃうよなぁ。

 学校で習った気がするんやけど‥‥‥‥

 あれか?

 冷やされる事によって、H2Oの分子が運動せん様になって、分子同士が引っ付くとかいう奴やったっけ?

 そうやとすっと、分子さえ動かん様になったら氷になるんやろか?

 ほな、小さな粒が引っ付く様なイメージかいな?


「もし‥‥‥‥」


 まぁ何もない所から氷を作り出すよりも、ただ水を凍らす方がイメージしやすいわな。

 これで上手くいきゃぁええねんけどねぇ。


「もし。もう出来ていますよ。」

「………………は?」


 アリフェスさんに声を掛けられ、慌てて目を開けると、桶の中の水が見事に凍っとった。


 まじかい。

 気が付いたらいけとったわ。


「これなら大丈夫そうですね。」


 水桶に張った氷を指先でコンコンと叩き、その出来を確認しとったアリフェスさんが太鼓判を押してくれはった。


 何とかこれで問題は解決しそうや。


 他の魔術も習得したらと進められてんけど、今ん所そないに必要も感じひんし、取り敢えず今回は此処までとという事しといて、アリフェスさんに丁寧に礼を言うと部屋を後にした。



 ガルストンさんの屋敷と言うかお店を出ると、まだ日は沈みそうにもなく、日差しが少し強く感じられた。

 そーいや、そろそろ雨季も終わるんやろなぁ。

 そーなっと、ぼちぼちと暑ぅなるんやろなぁ。


 せや。

 ええ事思い付いた。

 ドルトン親方ん所、寄って帰ろ。





ーーー《sideーB》ーーーーーーーーーー





「如何でしたか?先生の目からご覧になられて。」


 かの御仁が帰ったのを確認してから、私は美しき彼の部屋を訪ねた。


「そうね。驚く事が多すぎて、何だか胸焼けがしそうだわ。」

「それ程ですか‥‥‥‥」


 いさかか疲れた様子の美しき彼の迎えに座り、話を聞く姿勢を整える。

 昔から、他人の話を聞く時の姿勢には、先生には煩かく言われたのが身に付いている。

 その様子を見て、先生はにこりと微笑んだ。


「先ず無理難題のつもりの魔道具も、あっさりと準備されてしまったわ。それも、普段振り回している木の棒よ。あんな扱いされている魔道具を、私も初めて見たわ。」

「何時も腰の後ろに差している、あの木の棒ですか?相手を殴り付けたりしている、あの?」

「ええ、あの(・・)。」


 それには私も驚いた。

 長い年月を掛け、魔術師が弟子のために作り上げるのが魔道具である。

 その貴重で繊細なものである魔道具で、あの様に剣を受けたり思い切り打ち付けたりはしない。

 元来は、先生が持つ様な細く短い杖状のものが多いのだ。


「色々な意味で、驚きが重なり過ぎますね。で、最初から持っていた様ですが、魔術師であった可能性は?」

「有り得ないわね。そうだったなら、もう少し色々と上手くやるはずよ。あれ程安易に魔道具を見せてくるのなら、彼処までできないフリをする必要も無いのだし。」

「それもそうなのですが‥‥‥‥」

「そのくせ物質の変化は、通常の倍以上に早い。あれ程早く水が凍るのを、見るのは私でも初めての事だわ。」


 なるほど‥‥‥‥

 解らない事が解った‥‥‥‥といった感じでしょうか。

 まだまだ底が知れない御仁ですな。


「やはりかの御仁は、知識系の《技能保持者(スキルホルダー)》なのでしょうか。」


 いくつか組み立てた仮説、かの御仁の正体について考察してみた結果、そう考えるのが妥当であろう。

 《技能(スキル)》自体は珍しい物ではないが、それを補助系を含めて複数保持しているとなると、それが戦闘系ではなく知識系だったとしても、稀に見る逸材と言える。

 伝え聞く所の戦闘技量を考慮してみても、かなり正鵠を射ていると思うのだが………


「なるほど。貴方の推理だとそうなるのですね。」

「先生の御考えは違うのですか?」


 聞いてはいけない。

 何処かで、そう私を諌める声がした様な気がしたが、聞けずには居れなかった。

 そんな私を見透かしたかの様に、美しき顔に意地の悪い微笑を浮かべて告げてきた。


「彼は《祝福されし者(ギフテッド)》かも知れない。」


 ………やはり聞かなければ良かった。







《See you next trip》

御読みいただきありがとうございます。

楽しんで頂けたのなら幸いです。


出来ましたら評価も御願いいたします。

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