《Prologue Two》
続けての投稿です。
次回投稿は来週にはできると………
あくまで予定です。
拙い文章ですが、御読みいただけたら幸いです。
「もう一度確認しますが……あの時、貴方は死のうとしていましたね?」
男の抑揚のない、けども確信をついた言葉に、微かに息を飲み込んだ。
「本来転生や転移とは、生前の功徳や善行を賞し与えられる、言わば褒賞の様なものです。無論例外もありますが、貴方の場合はそれに該当しません。
……あの時、貴方は死ぬ意思を持ってあの繁華街に立ち、偶然に居合わせた車が暴走した事によって、少女を庇う事になり亡くなりました。
これは自殺ではないのですか?
もしそうなら、残念ですが転生はなりません。
いかがですか?」
神、もしくはその御使いとおぼしき男が、鋭い視線を俺に送ってくる。
いつの間にか瞳の色も金色に変わっており、僅かに発光している様にも見てとれる。
そこはかとなく威圧感を纏った神聖な雰囲気に、俺は改めて理解した。
あぁ、これは取り繕ったらあかんやつや。
「……どう伝えたらええ?」
「貴方の想いを、言葉で表してください。」
「……少し長いで。」
肺に溜まった空気を、感慨と共に吐き出しながら、死んどる身の上で呼吸が出来とることに、今さらながらに少し驚いた。
まぁ今はどうでもええ話やが。
「……ちゅうても、別にややこしい話やあらへん。
確かにあの時、俺は死ぬ事ばかり考えとった。
てか、心が壊れとってん。
50年も生きとったら、よう有る話や。
珍しい話やあらへん。
そこら辺に転がっとる程度のもんや……
疲れとっても頑張って。
もっと疲れても頑張って。
辛い事や悲しい事があっても頑張って。
心の支えが死んでもうても頑張って。
頑張って頑張って生き抜いて……
気が付いたら、心は壊れとった。
ほんま在り来たりな話や……
けどな、そっからはクソみたいな悪夢やった。
いっつも死ぬ事を考えとった。
仕事しとる時も、飯喰っとる時も、そこら辺歩いてる時も、誰かとくだらん馬鹿話して笑とる時も、寝てつまらん夢見とる時も、ふとした弾みでどうやったら死ねるかを考えてまう。
ほんま在り来たりなクソな話や……」
一旦言葉を区切り、上を見上げた。やっぱりただ明るく真っ白い。
目が痛くなってきおった。
「あの時も死ぬ事を考えとった。
いや、もうはっきりと覚えとらんけど、たぶん死ぬ事を考えとったと思う。
そんで車が突っ込んでくるのが見えた時、あぁこれで楽になれると思た……
けどそん時、女の子が間に入ってきおった。
後は、気が付いたら女の子を庇うとった。
この子が生きとっても、クソみたいな世の中に振り回されて、辛く苦しい思いをするだけかも知れんけど、たまに笑って、時には恋して、幸せを感じる人生が在るかも知れんて考えたら……
いや、すまん。
そりゃ後付けやな。
ちょっと、カッコつけてもうたわ。
たぶん、そこまで難しく考えとらん。
気ぃ付いたら動いとった。
ほんま無意識やわ。」
改めて男に向き合い、金色の瞳を見詰め返した。
なんか、言いたい事言うたらホッとしたわ。
思わず笑けてきてもうた。
それが自嘲かどうかは知らんけど。
「せやから、これが善行やとは思えん。
そやさかいに、やっぱりこれは無しって言われても………まぁ、しゃぁないわな。
別に恨めへんで。」
そう言って、男に判断を委ねる。
気が付けば、いつの間にか瞳は蒼色に戻っている。
「わかりました。貴方には、やはり異なる世界に行っていただきます。」
「なんや、ええんかいな?」
「結果的に一つの命を救った事には間違いありませんし、それほど悪行を重ねてきたって訳でもないでしょう?」
「……甘めやな。けど、ありがとさん。」
おそらく、この男に認めてもらえたんやろう。ここは素直に礼を言っとく。
「しかし、それほどの善行とも言えませんので、あまり特典は付けれませんよ。」
「特典?」
「ええ。まず基本として言語関係と、健康な体については調整しておきます。」
「歳はそのまんまか?」
「はい。その見た目通りの年齢です。」
けち。
まぁ、今さら若い身体を貰たって、もて余すだけやとは思うが。
「後は特別特典が一つ位ですかね。何か要望は有りますか?ある程度までなら沿えると思いますが……」
ふむ。
所謂チートに類するものだろうか?
「……三つほど確認したいんやけど。」
「なんでしょうか?」
「まず、その世界に魔法は存在すんの?」
「はい。どの程度までのものを想像されてるかはわかりませんが、魔法という概念は存在しますよ。年齢的に辛いとは思いますが、努力次第である程度は修得できるでしょう。」
……なんか、一々歳の事でいろてきとる気がするが、 とりあえず魔法を覚えれる事はわかったから良しとしといたろ。
「ほな、力だけがすべてやぁって感じの、修羅の国みたいな争いの絶えない世界とか?」
「何ですか?その武神や闘神が好みそうな、趣味の悪い世界は。まぁ争い事もない訳じゃあないですが、基本として平和な世界ですよ。」
少し憮然とした態度で答えてくる。
なるほど。
この男の態度から察するに、武神や闘神の類いを快く思っておらず、これから行く世界は、この男の管理下にあるのかも知れん。
そうなると、少々用心しとった方が良さそうやなぁ。
「ほんでその世界で、あんたは俺に何かさせたいんか?」
「特には。何かの契約に拘束する気はありません。自由に過ごしてくださって構いませんよ。」
「ほんまか?なんか隠してないか?」
「疑い深いですね。誓って嘘は申しませんよ。」
良かった。
安心したわ。
この歳になって、今さら魔王を倒せとか言われてもきついし。
けどそうなると、求めるものは一択やな。
「決まりましたか?」
「あぁ、俺は『知識』が欲しい。」
「『知識』ですか?大いなる力や魔力、又は偉大なる聖剣とかではなく?」
「そんなもん、平和な世界に邪魔なだけやんけ。俺に何させたいんねん?」
思わず、所謂『ジト目』で男を見てしまう。
「いや、そういう訳じゃないんですが。転生を希望される方が求めるものにしては、些か地味に感じまして……理由を伺ってもいいですか?」
「魔王なスライムさんに憧れて。」
「何ですか?先程から度々出てきますが、そんなスライムが居るのですか?」
「すまん。冗談や。忘れてくれ。」
男に軽く謝罪し、手刀を掲げる。
宗教や文化的に、この動作が通じるかはわからんが。
「まぁ、たいした理由やあらへん。平和な世界に行くんなら、でかすぎる力は必要あらへんし、まったく知らん所で生きてくんやったら、いろんな知識が必要になってきおる。それこそ、聞いたら何でも答えてくれる様な『知識』が。」
そう、今は何が出来るんか、何がしたいんかもわからへん。
そやから、何かをしたくなった時に必要な知識って、かなり重要やと思う。
「わかりました。では、その様に調整しておきます。」
男は静かに頷くと、ふいに何かに気が付いた様に、衣服の袖を目繰り上げて、左手首を確認した。
「……そろそろ時間ですね。」
「腕時計してへんがなっ!」
「雰囲気的な演出です。
さて、いささか長く話ましたが、今から新しい世界へと旅立っていただきます。説明不足を感じられるかも知れませんが、付属しておいた『知識』で確認してください。
あと、僅かながらの特典もサービスしておきました。」
「そぉか。なんか結果的に色々世話になったなぁ。ありがとう。」
そう言って、俺は頭を下げた。
色々あったけど、結局世話になりっぱなしやったから、礼を尽くしてもバチはあたらんやろ。
「いえ、最初はどうかと思いましたが、終わってみれば、楽しい一時でした。」
「そぉか。それやったら良かったわ。ほな、ほんまありがとうな。」
そういって、真っ白い空間に歩きだした。
そこに道が有るのを知っているかの様に。
別に過去と決別するつもりやないが、振り返らずに歩み続けた。
ーーー《side B》ーーーーーーーーーー
少しひねくれた態度の男が、静かに光の中に消え行く。
その後ろ姿を見送っていた私は、実際には吐き出すことの無い吐息を吐き出した。
「行きましたか……」
誰も居なくなった空間を見詰めていると、思わず思いが溢れだした。
「……すまんな。まだ楽にはしてやれん。お前をまだ死なすわけには……」
それは、私の願望。
いや、寧ろ欲望と言えるかも知れない。
精神体たる身としては、それは罪であり、そして毒でもある。
それでも。
それでも、これは成さねばならぬ事であった。
私は、俺の姿が消えた所に向かい、静かに、だが深く深く頭を垂れた。
「それでは、良い旅を……」
ーーー《side A》ーーーーーーーーーー
白い空間を歩ききったら、草木が膝丈まで繁る草原に立っとった。
どうやら丘のようや。
目の前では、今にも夕日が沈もうとしている。
あぁ、ここが異世界か。
確かにこの風景は大阪では見れんわな。
いや、阪南の方まで行けば見れるかも知れんが、市内で過ごした身としては、貴重な景色かも知れん。
「あぁ、ここが新しい世界か。」
改めて声に出し、実感を深める。
感慨深いが、今から生きていく身としては現実として見なければならない。
今の現状を確認していく。
「さて……」
とりあえす、今着ている服装は、いかにも異世界で着ていそうな上下に、革製のブーツ。
腰にベルトを巻いている。
ご丁寧に、衣服の色は俺の好みの黒で統一されとった。
ふと、何か違和感を感じて、腰の後ろを確認すると、ベルトに何やら木の棒が差さっていた。
なんや、これ?
『木の棒 初期特典装備 木製の棒』
いや、見たまんまやん!
8ビット時代のゲームかいな!
あいつ、これを特典でつけるって、絶対嫌がらせやろ。
まぁ、ある意味これは俺に適してるんかも知れんけど。
そやけど、絶対あいつはそこまで考えとらんやろな。
そこまで考えて、ふと冷静になって考える。
今、俺の疑問に答えたのは誰や?
『初めまして。マスターに付属された『知識』兼『案内人』です。』
おぅ!びっくりした!
急に耳元で女性の声が囁かれたんで、おもわず仰け反った。
やが、周囲を見回しても誰もおらん。
目の前には、さっきの言葉が文字として浮かんでいる。
どうやら、俺だけに見えて、俺だけに聞こえるものらしい。
なるほどねぇ。
これはやりかた次第で、かなり便利に使えそうや。
「これからよろしゅう。」
『はい。』
短めの挨拶を交わしとく。
これから世話になるんやし、挨拶しといてもええやろ。
意味があるかは知らんけど。
さて、改めて夕日を見る。
ガキの頃は夕日が好きやった事を、今更ながらに思い出す。
このまま追いかけて行ったら、ずっと夕焼けやと本気で考えとったガキの頃が、かなり気恥ずかしくもあり、少し懐かしくもある。
いつから夕焼けを見なくなったんやろ?
余裕がなかったなぁ。
こうして、ずっと夕日を見ていたい気もするが、いつまでもこうしては居られへん。
何処かに向かって歩きだそう。
そう考えた時、ちょっと茶目っ気が湧いてきて、夕日に向かって歩きだした。
せっかくなんや。今だけガキの気分に戻っても、誰にも迷惑はかけへんし、どうせ行くアテなんかもありゃせんしね。
こうして、夕日を眺めながら歩きだし、頬に当たる風に、これが死後の夢ではなく、現実であることを思い知らされる。
まぁ、どうせ一度は亡くした命や。
「生きてみるかぁ……」
大阪のおっさんの異世界生活が始まった。
《See you next trip》
御読み頂き、ありがとうございます。
次の投稿も頑張ります。
感想等を頂けたら望外の喜びですが、
当方、豆腐のメンタルですので、
御手柔らかにお願い申し上げます。