《Trip4ー①》
拙い文章の羅列ですが、
御読みいただけたら幸いです。
「襲われたんだって!?旦那ぁ!」
朝っぱちから元気やなぁ………
そう思いながら、俺は柱の位置を調整した。
こんなもんかなぁ………
『あと、4cm後方が最適です。』
おぉ、さよかぁ………
有り難ぁい『知識』はんの助言に従い、柱をずずっと下げた。
ほな、この位置に固定する為の杭がいるなぁ。
購入してある資材の中で、杭用に加工してもうてあるのを取りに行く。
「なぁ、話聞いてるかい?旦那ぁ。怪我は?」
「あったら此処で、こんな事しとるかぃ!」
こいつ、こんな心配しぃやったっけ?
纏わりついて来るんで、中々にうざったい。
誰がトマスに、この前の事を喋ったんかと思たけど、情報通のコイツなら直ぐに聞き付けるんやろな。
情報源はメルリヤかなぁ?
そんな事を考えながら、杭を見つけて所定の位置に置いとく。
なんやめっさ久しぶりに、こんな作業をしてみるんけが、何気に体が覚えとるもんやな。
ほんまは図面引くとこからしたいんやけど、その辺は『知識』はんに丸投げしといた。
まぁ、時短ってやつやね。
俺がやったら、こり過ぎて時間が掛かり過ぎる。
嫌いやないねんけどね。
まぁ今回は、諸事情でちゃっちゃとやりたいから、『知識』はんに任せとく。
「で、誰に襲われたんだい?」
「知らんがな。ええから、これ押さえといてや。」
そう言ってトマスに杭を押さえさしといて、自分は木槌を握り締めた。
「えっ?えっ?これ持っとくの?」
「あぁ、しっかり押さえとけよぉっ!」
そう言うて、思いっきし木槌を振り上げた。
「ぎゃぁぁっ!冗談はやめてくれよ。」
「やっかっしいっ!ちゃんと持っとけよぉっ!」
気合と共に振り下ろした木槌は、紛う事無く杭を捉え、乾いた小気味良い音を響かせた。
続けて二・三度振り下ろし、ある程度刺さったら、トマスに手を放す様に指示して、更に深く打ち込んだ。
杭を掴んでみて、力を加えてみるが、ぐらつく様子は無さそうや。
軽い満足感を得られた所で、次の杭を打つポジションに移動する。
「本当に、襲われる覚えが無いのかい?」
「知らんがな。覚えなんぞ無いっちゃ無いけど、こんな商売しとんねんさかい、有るっちゃ有るわいな。」
別に意図して誰かを傷つけた覚えもないし、悪い事した覚えもないねんけど、どこで恨み買うとるか解らんもんやしね。
逆恨みって、どこにでも湧いて来るもんやし。
今までに、幾つか力任せに方付けてきたさかい、どっかで反感買うててもおかしない。
まだ死にた無いねんけどなぁ………
見上げた空は、どんよりと曇っとった。
間もなく、雨季に入るんやろなぁ。
それ迄には終わらさんとなぁ。
「おっ?旦那、こんな所で何してるんだい?」
「ん?誰やったっけ?」
「ははっ、覚えてないの?昨日、皆んなで呑んだじゃん。」
「おぉ、そーやったかなぁ。」
「まったく………で、何やってんだい?手伝おうか?」
「おぉ、すまんなぁ。ほな、そこ持っといてくれるか?」
腰に剣を佩いている、栗色の髪のねぇちゃんが話し掛けてきて、手伝いを申し出てきてくれた。
確かに、昨夜『夜霧亭』で呑んどった時に、いつの間にか混ざって騒いどった気はすっけど………
『ダリア・レンティス。28歳。
隣国グラドルムデン皇国の冒険者。
商隊の護衛として訪れている。』
おぉ、『冒険者』なんや。
そんな職業、この世界で初めて効いたなぁ。
ひょっとしたら、この国に『冒険者』ってシステムが無いんかも知れん。
代わりに『荒事士』ってのが有るしね。
けど………『冒険者』やったら、やっぱし冒険するんかねぇ。
『ダンジョン』なんかも、俺が聞いた事が無いんだけで、実はどっかに在るんかも知れん。
………おぉ、ロマンやぁ。
「旦那?まだ持ち続けたら良いのかい?」
「んぁ?あぁ、すまんすまん。そのまま持っといて。」
少々、夢は荒野を駆け巡っとったみたいや。
別に旅に病んどらんけど。
ちゃう意味で病んどったけどね。
などと、自虐的なネタで一人笑いながら、資材の中から荒縄を取り出す。
ねぇちゃんを縛るわけやないで。
そんな趣味ないし。
などと、誰に説明しとんのか判らんぼけを、心のなかでかましている。
あかん、なんか今日はテンションがおかしい。
色々と忙しかったんと、アリフェスさんの騒動で何やかやと悩んどったんが、久しぶりの休みの反動で、軽い『躁』状態なんかも知れん。
そんな事を考えながら、打ち込んだ杭に荒縄をきつく巻き付けて、柱を固定していく。
実は、荒縄で縛り付けるんは案外難しい。
慣れんもんがやると、必ずと言うてええ程緩んできおる。
せやから、ほんまは釘を使うんがええんやけど、この世界の釘は質が良うない上に、めっさ高価い。
まぁ確かに、一本一本手作りで鍛冶屋が作っとるんやさかい、ある程度高級品になるんはしゃーないんやろうが、あの品質であの値段なんはぼったくっとんかと思てまう。
現代日本と比べたらあかんのやろうけど、今更ながらに技術力の差に驚嘆してまうわ。
ようラノベで見かける様に、世界征服とはまでは言わんけど、一寸した技術で一財産築けるってのは納得でける話やな。
俺の好みとちゃうからせんけど。
俺は杭に足を掛け、全身の筋肉を使って麻縄を締め上げていく。
確か、『いぼ結び』やったっけ?
二本の材木を交差させる様に縄を掛け、しっかりと結束する。
「ちゃんと話を聞きなよ、旦那ぁ。」
「何不貞腐っとんねん。」
「そんな事は無いけどさぁ………」
「ええから、そこの柱を支えといてや。」
あぁと小さい声で答え、トマスが別の柱を支えてくれる。
「お前さんが心配してくれとんは解っとるよ。有り難いと思っとっる。」
「いや、それは良いんだけど………」
「そやけどな、何も判らんのに焦っても、どないもしようがあらへんやん。せやから、今はどしっと構えとくしかあらへん。」
そう言いながら、二つの柱を結束していく。
取り敢えず、一組目がでけた。
これを、後もう一組作ったら一段落かなぁ。
「それはそうだけどさ。でも備えも大切だぜ?情報収集とかさ。」
「その辺はほれ、俺の優秀な『つれ』が何とでもしてくれるがな。さぁ、次のんやるで。」
そう言って、軽く肩をぽんと叩けば、トマスは仕方ねーなぁとボヤきながらも、先程よりは機嫌が良さそうに材木を取りに行った。
その後ろ姿を見送っとると、横手から押し殺した笑いが聞こえてきた。
「くっふっふっ………男って単純だねぇ………」
「ん?何がぁ。」
ダリアさんの呟きに、思わず問いかけてまう。
その溢れ出た笑顔は、とても魅力的や。
「いや。旦那達って仲が良いよなぁって。」
「あぁ、ええ呑み仲間やよ。」
「そう言い切れる付き合いって………ちょっと羨ましいかなぁ。」
「そない思うんやったら、自分も見つけたらええねん。」
「………旦那は、なってくれないのかい?」
「俺はあかん。口説いてまう。」
俺の軽口にダリアさんは一笑すると、俺の肩をぱんと叩き、トマスの所に向かって行きはった。
残された俺は、さして痛くもない肩をさすり、苦笑いを浮かべて後を追う。
今生も、女性に縁薄いかなぁ………
心が滂沱の涙を流しているが、おっさんやからしゃーないやんと慰めとく。
「ってかさぁ、旦那ぁ。これって何を作ってるんだい?」
今更かいっ!
男の感傷を気にも止めず、お気楽に問い掛けてきたトマスに、声には出さないが突っ込んでおく。
そーいや説明しとらんかったっけ?
「あぁ、井戸の釣瓶や。」
「釣瓶って………あそこに有るじゃん。」
そう言って、不思議そうにダリアさんが指差す先には、以前から在る巻き上げ式のんや。
「あんなん、何辺も汲み上げんの大変やん。せやから、ちったぁ楽なんにすんねん。」
「へぇ………どんなのだい?」
「まぁ、仕上げを御覧じろってやつや。」
そう答えると、作業を再開する。
組み上げた物を土台として、その上に横木を渡していく。
その際、一本の材木では長さが足らず、二本を継ぎ足して荒縄で縛り上げとく。
そうすっと、腕の長さの違う天秤が出来上がる。
その長い方に釣瓶の付いた縄を縛り上げ、次に短い方の先に砂利の詰まった麻袋を括り付けようとする。
『あと、2cm前方が最適です。』
おぉ、了解。
位置を修整すると、ずれない様に細工を施した横木の先にしっかりと縛り上げる。
「旦那ぁ。この石はどうするんだい?」
「重たっ!?何てもんを持たせんのよ!」
「おぉ、この下に置いてんか。」
二人で運んて来た割と平たい丸石を、重しを付けた横木が地面に接する際の受けとする。
「うっしっ!完成やっ!」
自画自賛ながら、良く出来てると思う。
「んで、どういう仕掛けなんだい?」
ダリアさんの素朴な問い掛けに、少しだけ誇らしげに答える。
「重しの加減で、釣瓶を落す時にも力がいるけど、上げる時は随分と楽になるっちゅう奴や。」
「へぇ。いいじゃん。」
「ええ事ばっかやあらへん。こいつは場所取り過ぎおるんや。」
天秤に成っとる横木が幅取り過ぎて、本来は畑位にしか使われへん。
幸いにして、ここの裏庭は結構広いさかい、これが使えたって感じやね。
確か『撥釣瓶』やったと思う。
俺が小学生やった頃、金剛山って冬山に登らされた時に、山頂に撥釣瓶のでかいのが有ったのをよー覚えてる。
ガキの俺等には物珍しく、弄り倒して遊びまくり、引率に大目玉を食らったんは御愛嬌や。
まぁ、こんなもんやろ。
ほんまは滑車を複数使ったやつや、ギア比を利用したのを考えとってんけど、この世界の今の文明では技術的にも難しいやろうし、まだ少し早いやろうしね。
手押しポンプ、所謂ガチャポンプなんて完全にオーバーテクノロジーやろ。
別に技術革新を後押しする気もあらへんし、それで儲けるつもりもあらへんしね。
そのうち誰かが、この辺の技術を発明するやろ。
「それで、これで終わりかい?旦那ぁ。」
「それやねんけどな。トマスに連れてって欲しい所あんねん。」
そう言うて、肩を組んで歩き出す。
その時、鼻先を雨粒が叩いた。
《See you next trip》
いかがでしたでしょうか?
人生を謳歌したいおっさんですが、
農業等のスローライフには興味がありません。
街中でないと生きて行けないタイプです。
鋭意奮闘しておりますが、
己の文才の無さに愕然としております。
可能な限り次話投稿いたしたいと思っておりますので、
応援の程よろしくお願い致します。