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《Trip3ー⑤》

拙い文章の羅列ですが、

御読みいただけたら幸いです。




 気が重いなぁ………


 今日も今日とて、ガルストンさんの店までの道程をぽてぽてと歩いて行く。

 もうなんか、この道を歩く事は日々の日課みたいや。

 前にも言うたかも知れんけど、この世界に来てからというもの、己に課してる教訓がある。

 『働かざる者食うべからず』や。

 例え懐に余裕が有ろうとも、働ける限りは働きぬいて、気持ちよぉお酒を頂く様にしとる。

 それに、この前の話によりゃぁ、もうじき雨季が来おるらしい。

 そうなったら、リアルに『晴耕雨読』や。


 そういや、そんな名前の酒あったなぁ………


 もぅ呑む機会がのうなった、和風な酒に想いを逃避させて、見たぁない現実から目ぇ背けとったけど、気が付きゃガルストンさんの店の前まで来とった。


 はぁぁぁぁぁぁぁぁ………………


 心の底からの息を吐き出すと、腹をくくって木戸を潜り、馴染みとなった従業員に声を掛けた。




「やぁ。やっと来られましたね。」


 毎度何時もの応接室に、俯いとるまま通された俺に、優しいバリトンボイスが降り注いだ。


「は?」


 自分で言うのもなんなんやが、余りにも間抜け過ぎる声を発して、条件反射で顔を上げた。


「アリフェスさん!?」

「はい。」


 そこには、昨夜そのままに別れた傾城が、ソファーに優雅に座って微笑んどった。


「何しとるんですか?こんな所で………」

「こんな所で申し訳ありませんね。」

「ぅおぅっっ!」


 急に、まったく意識していなかった横手から、不意に声を掛けられて跳び上がってもうた。

 見れば、ガルストンさんが半眼で、嫌味な笑みを浮かべてとる。


「いやいやいやっ、そんなつもりやなしに………言葉のアヤと言うか何と言うか、その場の勢いと言うか、まぁそれも変なんやが、あれがこれして何してるって感じでして………」


 ふふっ。


 なんでそないに慌てなあかんのか知らんけど、泡食ってジタバタと悶とると、優しげな笑いが降りて来おった。


「本当に面白い人ですね。」


 そりゃ根っからの大阪人やさかいに。

 昔っから『笑われる人になるな。笑わせる人になれ。』と叩き込まれてる身としては、おそらく褒め言葉なんやろう。

 こんな自分で周囲が楽しい雰囲気になって貰えんなら、なんぼでも足掻きまっせ。


 せやけど、べっぴんさんの笑顔の破壊力って、半端ないなぁ。

 城や国が傾くってのも頷けるわぁ。

 そら貢ぎもんする、あほな偉いさんも出てくるわな。

 俺に財力無くて良かったわぁ。

 言うてて虚しいけど………


「あら、ごめんなさい。笑ったりして。」

「全然構いまへんで。お陰さんでええもん見せてもらいましたし。」


 ほんま、元気そうで良かった。


「んで、話しを戻すんでっけど、なんで此処に居られるんでっか?」

「だって、受け取らずに帰るんですもの。」


 そう言って、アリフェスさんは小さな袋をテーブルに置いた。

 その音から、中身がこの世界の硬貨である事が窺い知れた。


「せやかて、依頼は達成しとりませんやん。」

「それでも、貴方は私を救ってくれたでしょう?」


 向かいに座った俺に、アリフェスさんは小さく微笑む。


「貴方は本気で心配してくれた。貴方は本気で寄り添ってくれた。本当に久しぶりに、正面から答えてくれる人に出会えました………ありがとう。」


 そう言って、頭を深く下げた。


「貴方が採って来てくれた薬草の御蔭で、随分と気分も楽になりました。だから、お礼をさせてください。」

「そんなんよろしいよ。ただのお節介やねんから。そんなんより、役に立ったんなら良かったですわ。」

「そう言わずに受け取ってください。じゃないと気が済みません。」

「そやかて、達成しとらんのは事実やし。決まり事は決まり事ですわ。」


 そない言うて、固辞する。

 そんなんで銭貰ても、なんか後味悪いし。


「この御仁も、意外と頑固ですからな。この場は宜しいんじゃないですかな?またの機会も有るでしょうし。」


 そう言って、ガルストンさんが助け船を出してくれた。

 有り難い。


「ですが、報奨金は受け取って頂きますよ。」

「報奨金?」

「ええ。その様な危険な植物が群生しているなら、早急に排除しなければ成りません。ですから、その様な物を発見し、報告して来た者には報奨金が支払われます。」


 そりゃ道理やな。

 下手すりゃ街が吹っ飛ぶような物騒なもん、ここの偉いさんがほっとくとも思われへん。

 己の首を締める様なもん、そりゃ排除するシステムを構築しとるわな。


「周辺の地図を準備させて居ります。そちらで群生地を示してください。こちらで報告しておきましょう。お嫌いでしょう?その様な面倒な事。」

「そりゃ有り難い。」

「報奨金が出ましたら、後程宿の方にお届け致しましょう。」

「何から何まですんまへんなぁ。」


 まぁ、お役所仕事に付き合わされるなんて、くそ面倒なんは勘弁してもらいたいし、別にそんな金もいらんねんけど。

 この街の人等からしたら、さっさと片付いた方がええやろから、その辺の事はお任せしとこう。


 そやけど、アリフェスさんはどーすんやろ?

 また森に帰りはるんやろか?


「私は暫く此方でお世話になる事になりました。昨日の様な事もありますし、あの辺りも少し物騒に成りましたからね。」

「そうでっか。そりゃ宜しおました。」

「………また、話し相手になって貰えますか?」

「それは喜んで。」


 再会の約束をして、ガルストンさんに促されながら部屋を後にした。




ーーー《sideーB》ーーーーーーーーーー




「面白いのを飼っているのね。」


 彼が部屋から立ち去った後、ソファーに座る彼が口を開いた。


「今までの連中と、随分と毛色が違う様だけど。」

「まぁ、私も苦労させられているんですけどね。」


 思わず苦笑を浮かべた私は、何時もの様に御茶の準備を始めた。

 今日は何時もの物より、少し良い茶葉にするとしましょう。

 戸棚の奥に隠して置いた、金属製の茶筒に取り出して、何時もは使わない茶器を準備した。


「何者なの?」

「さぁ?………何者なのでしょうね。」


 彼の前のテーブルの上に、高価なビルセンの磁器を置いて、向かえのソファーに腰掛けた。


「それ、本気で言っているの?貴方達が、何も掴んでないとでも?」

「恥ずかしい話なのですがねぇ。」

「まさか………『銀鼠』は?彼等も何も?」

「そこまで貴方を驚かせれるとは、思いも寄りませんでしたが。」


 零れ出る溜め息と共に、苦笑を御茶で飲み込んだ。

 やはり、この御茶は香りが素晴らしいですね。


「一応、記憶を失くされてると申されてますが。」

「それを鵜呑みにしているとでも?」

「まさか。」


 誰が、そんな話を信じるだろうか。

 彼の行動を見ていれば、信じれるはずがない。

 以前、本当に記憶を失くした者と話す機会が有ったが、須らく記憶を失くした者達は、基本的にオドオドとしていた。

 己のバックボーンが無くなり、総ての自信が無くなる事からそうなると、目の前の彼から教えてもらった。

 しかし、おの御方の行動からは、怯えの様な感情は微塵も感じられない。

 あの御方は、間違いなく嘘を言っている。


 それに、今回の事で言うならば、彼には薬草学の知識がある。

 記憶を失った者の中には、ある程度知識が残っている者も居るそうだが、ここまで高度で専門的な知識が偶然残っているとすれば、ご都合主義も甚だしい。

 高度な知識を持った者が、記憶喪失のふりをしていると断じた方が自然であろう。


 しかしながら、今重要視しなければ成らないのはその事ではない。


「まぁ、その事は今は置いておくとして………確認なのですが、我々の庇護下に入りたいと言う事で宜しいでしょうか?」

「………ええ。宜しくお願いするわ。」

「ならば、今回の背後関係の話を、詳しく話して頂けるという事で宜しいでしょうか?」


 かの御仁は、どうやら勘違いをしていたらしいが、今回の騒動の大元は面前の美しき彼ではなく、他に首謀者が居り、その者が非常に危険な薬を作らせようとしていたのだ。


「ただし、接触して来たのは代理人だけだったから、詳しい情報は期待しないで頂戴よ。」

「『先生』ともあろう人が、そんな迂闊な対応をする訳がないでしょう?」

「………久しぶりね。貴方にそう呼ばれるのも。」


 私が若かりし頃、この美しき彼に師事していた時期がある。

 彼の下で学んでいた頃は、私にとっては良き青春の思い出でもあり、今となっては得難いものでもある。

 それなりに年を重ねた私とは違い、彼は若く美しいままであるが。


「まぁ確かに、ある程度の事は掴んではいるし………私の周囲に刺客を放つ様な奴に、義理を通す必要も無いしね。」

「という事は、昨夜の襲撃は………」

「間違いなく、奴の手の者でしょうね。」


 ふむ。

 となると、此処も多少危険かも知れませんね。

 相手の手の内も判りませんし、警戒レベルを上げる様に指示して置きましょう。

 ともかく、陰で蠢く虫螻の如くの奴らの、悪事の証拠は掴めそうですね。


「話を戻すけど、本当に彼の情報を掴んでいないの?」

「貴方が、それ程に気に掛けるとは思っていませんでしたが。」


 確かに、不思議な雰囲気を纏った御仁だとは思いますが、ただ底抜けに明るい御年配だとも思えるのですが………

 この様に思えてしまうのは、僅かに嫉妬が混じっていそうで、己に嫌悪感を抱いてしまい不愉快です。


「その反応を見るに、彼の異常性に気付いてないのね。」

「?………どういう事でしょう?」


 彼の口調か不穏な響きを含み、私を強制的に冷静にさせる。


「彼は『エルフィン語』を話せる。」

「………………は?」


 意味が解らない。


「彼は私が呟いた『エルフィン語』、貴方達が言う『古代神人語』を理解し、返答を同じく『エルフィン語』で返して来た。つまり、現代ではほぼ理解されない言語を、日常会話レベルで使えるって事よ。」


 その言葉に驚愕した。

 それを事実として受け止めきれなかった。

 ひょっとして、とんでもない人物と関わっているのだろうか。

 理解できない者への不気味さが、汗となって背に流れた。




《See you next trip》

楽しんで頂けましたでしょうか?


いつの時代も、我々一市民が預かり知らない所で、

色んな物事が進んで行くものです。

今回の場合、知らず識らずにその中心に、

おっさんが居座り続けております。

これから、如何様に巻き込まれていくのでしょう。


話は変わって申し訳ありませんが、

ストックが枯渇してしまいました。

なので、毎週更新はできなくなりますが、

可能な限り、早めに次話を御届けしたいと努力いたします。

応援の程、何卒宜しく御願い申し上げます。

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