6.5話
◇ ◇ ◇
ミスティアの案内でクレープ屋についたアプロ達は店内に入り、パッと目に付いたカウンター席に3人は横並びで座る、壁には似たような1枚の木の板が掲げられており、書かれていたメニュー表は多種多彩のクレープしかなく、どれにしようかと悩んでいるアプロに声をかけるミスティア。
「アプロさんこれがオススメです!! この店はジャンボとビッグのサイズが選べるんですよっ!」
「どっちもでかそう」
とりあえずミスティアのオススメを頼めば外れはないだろうと思ったアプロは言われた通りにし、クレープが出来上がる最中に先ほどの王選についてフラムに尋ねると、長い話が始まった。
「「く、国を持つことが出来る!?」」
食べ方が悪いのかクレープの具である半分にカットしたイチゴを頬につけたミスティア、それを見ながらどうやって口周りを汚さずに食べれるか手に持ったクレープをぐるぐる回し悩んでいたアプロはフラムの話に同時に食いついた。
「1つの季節が巡りまた春が来ると、全世界に存在するパーティの”王選”が終わって……一番国の貢献度が高い、エスランクパーティってのが選ばれるそうッスよ」
Sランクパーティ、聞き慣れない言葉に2人は首を傾げると「しょーがねーッスね」と言ってフラムはまた気怠そうな態度なのに親切に説明を始めた。
【Aランク】……有名なパーティになるとこのランクになり、国内最強の冒険者が所属している、ギルドからの信頼も厚く様々な情報を手に入れる事も可能。
【Bランク】……中堅パーティの証でベテラン冒険者も所属し、他の国へ行っても名を知っている者がいるのがこのランクとなる。
【Cランク】……出来たてのパーティがまず配置されるランクで、全くの無名パーティはこのランクに位置づけされる、コツコツギルドから依頼をこなして周りの知名度を上げると晴れてBランクとなる。
各パーティにおけるランクの扱いは上記の通りとなっており、Aより上となるSランクの特別報酬についてもフラムは伝える。
「伝説級とも言えるエスランクパーティになれば、何でも”秘宝”が与えられるとか……」
「秘宝?」
「自分達が望むものが手に入るらしいッス」
ある者は永遠の富を与えられると言い、ある者は自分が満足出来るほどの広大な土地を与えられると言う……何でも夢が叶うとされる秘宝にミスティアはピンと閃いた。
「アプロさんアプロさん!!」
「アプロさんクレープの食べ方を模索中」
「エースランクになって、アプロさんに孤高薬を売った商人の居場所を手に入れましょうよ!」
「孤独薬だしエスランクな、あっ……こうやって食えば中身が漏れないな」
あっさりSランクになれるだろうと考えているのかもしれないと思ったフラムは、自身の分のクレープを店主から受け取りパクリと一口食べてからもぐもぐと口を動かして話す。
「そんな簡単にいかねーッスよ……今の中央国カルロだって、じゅうなな年前にエスランクパーティになったらしいッスからね」
えーっと言ってしょんぼりしながら、口周りのクレープを指で取りパクリとつまむミスティア。
「んーっ大変そうですう……」
「ランク自体を上げればギルドから提供する情報も増えるッスから、アプロの兄貴が探してる”フードを被った謎の商人”ってのも見つかるんじゃねーッスか」
それもそうだな、とアプロはクレープを食べ終わるとふーっと満足した顔で天井を見た、その時1人の男が怒声と共に思いきりテーブルを蹴り、気弱そうな男の襟首を掴み問い詰める。
「お前、全然足りねえじゃねぇかよ!!」
「す、すいませんこれ以上は……」
なんだなんだと思って声の方を向くアプロ、怒鳴っていたのは髭を生やした中年男『ボルグ』が何やら気弱そうな男に金銭を要求していた。
「円卓の卓が無くなるほど多い騎士団入りてえんだったら! まず俺に紹介料を持ってこい!!」
ボルグが要求したのは50ペクス……ペクスとはこの世界で使える硬貨の名称で、50ともなれば15日の宿と食事をまかなうことが出来る、とうぜん冒険者を目指している者がそんな大金を用意出来る訳もなく。
「た、高すぎますよ……!!」
「うるせえ!! だったらこの話は無かった事にしてもらおうか」
「そ、そんな……!! 俺はパーティに入って、秘宝を手に入れないと……!!」
「行方不明である母親を探しているんだろ? そんなもん秘宝を使わなくても俺が答えてやろうか?」
「ほ、本当ですか!? 一体俺の母親はどこに……!!」
ボルグはあくどい笑い方をしながら膝をついて頼み込む男と同じ目線で話すが、出てきた言葉は男の心を折るほど残酷に尽きる一言だった。
「んなもん、魔物に食われて今頃動物の餌になってんだよバーーーカ!!」
「ぐあっ!!」
冷酷な言動に加え、男の頭を玉蹴りのように足で蹴り上げたボルグは、正面に倒れた男の頭にツバを吐き捨て指を差す。
「いいか、明日までに持ってこねえと団長には話を通さねえぞ」
がははと笑い、気持ちよさそうに立ち去ろうとしたボルグを許せないと思ったアプロとミスティアは黙って席を立ち、ボルグを追いかけようとしたので引き留めるフラム。
「ちょ、ちょっと何してんスか! 相手は円卓の騎士団ッスよ!?」
だから?
と言った態度の2人にフラムはきちんと説明した、街の顔とも言える彼らに手を出せば自分達のパーティに今後嫌がらせが来てもおかしくない、それでもアプロは――。
「だからあの男の悪行を見逃す、今は我慢してくれって……そうあの人にフラムは言えるか?」
と迷わず言った、あの人とは先ほどボルグにツバを吐かれた男性の事で、理屈ではなく感情で動く2人を引き留める事が出来なかったフラムは「で、でも」としか言う事しか出来なかった。
「アンタ、普段からこんな事してんのか」
「最低です! あの人に謝ってください!!」
ボルグの肩をポンッと掴みアプロは言うと、ミスティアも後ろから追撃する、ボルグは一瞬誰だと思ったが、すぐに昼の事を思い出し。
「……けっ! テメェらかよ根性なし共、上から数えて994人目となったこのボルグ様になんの用だぁ?」
「俺達が抜けたから上がっただけだろ」
「ぺっ!!」
「おっと」
アプロはボルグのツバをかわし、ミスティアの顔にベチャリとかかるとチラリと見てから視線を戻した、とりあえずここでは店に迷惑がかかると思ったアプロは、軽くデコピンをしてボルグの身体を後ろに持って行く。
「うおお!!!」
ゴロゴロと吹っ飛ばされ外の壁に激突し、一体この力はなんだと驚いた顔でアプロを見たボルグ。
「な、なんだ……お、お前……!?」
「一晩でちょっと強くなってな」
「ちょ……ちょっとどころじゃねぇだろ!?」
「どうする? あの人にごめんと謝るか、俺に殴られるかを選んでくれ」
「黙りやがれ!! ダイナマイト、ボルグパンチッ!!」
アプロの提案はボルグの自尊心を大きく傷つけ、当然謝る気もないボルグは立ち上がり、アプロの顔面目掛けてパンチを放ったが……硬い石にぶつかったような音が一度だけ鳴った。
「ぐおおおお、手が折れたあああああ!!!」
「えいっ!!」
ポコン。
殴ったボルグの手は真っ赤に腫れ、痛そうな顔で地面に蹲った姿をミスティアはポカリと杖で叩くと、ゴロゴロと左右に転がり痛がるボルグ、そんな情けない姿を見てアプロは気が済んだのか、少し怒っていたミスティアを一旦落ち着かせ店内に戻ろうとする。
「おいアンタ、もうこんな事はやめろ」
「く、くそ野郎、覚えてやがれよ!!」
収まらない怒りの感情を抱きフラフラとその場から立ち去っていくボルグ、ブツブツと文句を言いながら治療魔法をかけ、手の腫れを治している最中にドンッと誰かにぶつかってしまいギロリと睨むが。
「る……ルーヴェル副団長!!」
ぶつかったのはルーヴェルだった、その後ろにはヘランダもいて敬意を示すために頭を下げるボルグ、一体誰なのこいつと言うヘランダとは違い、すぐに同じ団員のメンバーと気付いたルーヴェルはある提案をした。
「よォボルグ……少し頼みがあるんだけどよ、アプロとミスティアって奴はどこにいるのかしらねェか?」
――。
――――。
【おまけ】
「すいません、ありがとうございます!!」
立ち上がった男はアプロ達に頭を下げてお礼を言う。
「ああ気にしないでくれ、良かったら俺達冒険者だから、母親の行方を捜そうか?」
「いえ、いいんです。冒険者になってから自分でパーティを作って探す事にしましたから」
アプロの提案を断り、何か吹っ切れた顔で男は円卓の卓が無くなるほど多い騎士団に入る事を止め、笑顔を見せながら店内を立ち去っていく、その後ろ姿を見てミスティアは。
「助けて良かったですねーアプロさん、あの人ならきっと良い冒険者になれますよお」
そうだな、と男の背中を見ながらアプロは言葉を合わせた、冒険者になってから人助けしたのは初めてだからなのか、悪くはないという気分が徐々に身体中に広がっていく。
同時に自分がなぜ冒険者を目指したのかという目標を思い出し、アプロは契約の楔によって死んでも構わないと思っていたのを撤回させ。
(頑張って良いパーティ作らないとなー)
と、頭の中で決意した……。