6話
この話だけ主人公からざまぁするパーティ側に視点が変わっています。
女性の言い分に納得のいかなかった黒髪の男は、先ほどよりも強い口調で返す。
「うるせェ! とにかく俺たちに合わせろババア!!」
怒り狂う男の髪型はライオンの立て髪のようにワイルドな見た目で、はだけた胸に付けられていた傷跡は、幾多の戦いで先頭を切って走っていたのか多く窺えた。
「嫌よ野蛮人!! アンタが合わせるか死になさい!!」
両者とも意見を曲げず、今度は紫髪の魔法使い風の女性が反発する、とんがり帽子のエナンを被ったエルフ耳と褐色肌が特徴で、両者の口論を聞きながら気まずそうに立つ数人の兵士達。
「まいったな、またいつものが始まったぞ……」
「こうなるとルーヴェル副団長もヘランダ副団長も退かないからな……」
両者とも退けない主張というものがあり、どう言えばいいのか困り果てる騎士団達を他所に、ライオン髪の男『ルーヴェル』と紫髪の褐色肌エルフ『ヘランダ』はさらにヒートアップし――。
「降り注ぐ氷の塊よ、この杖に宿れ! ブリザード・ダスト!!」
とうとう自前の武器を持ち出した喧嘩が始まってしまった、ヘランダは杖を召喚して地面に魔方陣を展開すると、そこから拳ほどの大きさを持った氷の束を不規則に放ち、ルーヴェルの身体に目掛けて飛んでくるが。
「どぉりゃあッ!!」
ルーヴェルにとって捌くのは訳なかった、厚さが充分にある鉄板のような大剣を振るい、発生した突風と共に氷柱を叩き割るように消すと、怒りの収まらない2人は再度口論を始めてしまう。
「あんた達前衛組は勝手に死ねば!?」
「その前にテメェら後衛組を切り殺してやるぜ!!」
舌を出してルーヴェルを挑発するヘランダ、その後ろにいたヘランダ派の部下達も一緒に舌を出すと。
「おい、というか回復の奴らが悪いだろ!! 死んだらどうするんだ!!」
「前衛が悪いんでしょーが!! 前を張る壁しか脳がないのに、回復役と離れてどーすんのよ!!」
こうなったら誰も止める者はおらず、ダンジョンで数100人ほどの大乱闘が始まる中、「またですか」とここまで洞窟内を歩いてきた1人の男がため息を吐き、鞘から剣を引き抜き一瞬で動作を終える……すると。
ゴロゴロゴロ……。
突風と同時に『発生していた』剣撃は勢いを止めず、波状となって洞窟の壁に激突すると、大きな音を立てて一部の岩壁が崩れた……その光景に争っていた者達は驚き、その男に注目した。
「あまりこの剣を抜かせないでくれませんかね? ただでさえ少し怒ってますので……」
ルーヴェル、ヘランダと呼ばれた2人は構えていた武器を下ろし、片膝を跪いては尊敬の態度を男に向ける、それを見て『団長』は好き勝手に跳ねていた髪を指で軽くクルクルと触り――。
「どちらが事の発端なんですか?」
手にかけていた鋭く、細長い両刃の剣を鞘にしまった、先ほどまで閉じていた目が少し開く、その動作をした途端に辺りに沈黙の空気が訪れ、それが圧倒的な威圧感へと変わっていくと誰しもが口を噤んだ……。
この国では名を知らない者はおらず、敬意を払わない者はいない、それが最強のパーティ『円卓の卓が無くなるほど多い騎士団』の騎士団長テスターの立ち位置である。
「コイツだぜ団長!!」
「アイツよ団長!!」
テスターは再び目を少し開けてから言う。
「ヘランダとルーヴェル……貴方達は残りなさい、他の者達はここで解散としましょう」
冷酷な目と屈託のないその表情にルーヴェルとヘランダを除く者達は怯えながらコクコクと頷くと、その場から1人ずつ立ち去っていくと、テスターは2人に向けて口を開く。
「生意気な冒険者が1人、いや2人ですか……。そいつらに少し教育をします」
生意気な冒険者とは誰の事かと思ったルーヴェルが尋ねる。
「なんて奴だよ団長?」
「アプロ、ミスティアと言いましたか……彼らは私の誘いを断り、敬意すら無く勝手にパーティを作ろうとしているんですよ……」
この国で円卓の騎士団の許可無しにパーティを作ろうとするのなら、まずテスターに頭を下げてから作らせてもらうのが当然である、さっきまでのにこやかな対応とはまた違い、目を細めニヤリと悪い顔を浮かべたテスターを見て、ヘランダとルーヴェルは八つ当たりをしてストレス発散が出来ると思ったのか。
「別にいいわよ団長、作戦は”いつもの”かしら?」
「人通りの少ない裏路地でボコボコにしても構わないぜ」
杖をクルリと1回転させ悪い顔をするヘランダと、大剣を地面に突き刺す指をポキポキと鳴らしてやる気満々のルーヴェルは早速テスターの話を興味津々に待つ。
「円卓の騎士団を見くびるとどうなるか教えてあげましょうか……クククッ」
【おまけ】
「ところで団長」
ヘランダは気になっている事を尋ねた。
「なんでしょうか?」
「どうして先ほどから片足を引きずってるのかしらあ?」
「そ、それはですね……」
どう言って良いのか少し悩んだテスターは。
「……強い魔物がいたんですよ」
「だ、団長がやられる事なんてあるのかよ!? 信じられねェぜ……」
驚きながら話を信じるルーヴェルに、テスターは何とも言えない顔を浮かべた。
(もうクソがついてないといいんですが……)
テスターはチラリと靴を見て動物の糞がもうついてない事を確信すると、建前上怪我をしたという事で押し通し、ヘランダに治療魔法を要求した……。