４話
どうするかなと焦るアプロ、そんな絶対絶命の中でミスティアは必死にアプロの元へ近づこうと人混みの波に逆らっていた……。
◇ ◇ ◇
「アプロさーん！！ アプロさーーーん！！」
ウルバヌスとアプロの戦い、その端で必死に手を振ったりピョンピョンとその場で跳ねて存在をアピールするミスティアだったが、その声はわーわーと盛り上がっている群衆にあっさりとかき消されてしまい、何とかアプロに気付いてもらうよう考えを巡らせる。
「ど、どうしましょう……こういう時どうしたら……」
困り果てていたミスティアに１人の小柄な女性が声をかけた。
「誰か引っこ抜いてほしいッスー」
その声は先ほどダンジョンの入り口で説明していた『フラム』である事にミスティアは気付くと、無数の枝と草むらの中からＭの字を描いた状態で足だけを晒し、パンツだけは見えないよう両手でしっかりと抑えつつ話しかける。
「引っ張ってほしいッスー」
「は、はい！ んーっ！！」
力一杯ミスティアは引っこ抜こうとするが、ガサガサと音がしたと同時に痛みが訪れ大声で悲鳴をあげるフラム。
「あいたたたたたたた！！ もっとゆっくり引っ張るッス！！」
「は、はいいっ！！ というかなんでこんなところで遊んでるんですか……」
「遊んでないッス！ 人混みに巻き込まれてここに捨てられたッス！！」
ミスティアは全身に力を入れ、なんとかフラムを引っこ抜くことに成功する、その後フラムは側に落ちていた帽子を拾い、パンパンと手で払ってからミスティアに声をかけた。
「それであの男はなんでまた１人でウルちゃんと戦ってるんスか？」
「ウルちゃん？」
「ギルドで管理してるボスッスよ」
「管理……？」
まあそれはいいッスと余計な事を口走ったと思ったフラムは話を切り替え、なぜアプロが戦いを挑まずに先ほどから逃げ回っているのかについて尋ねる。
「アプロさんはパーティに入らない方が強くなれるんです！！」
「何言ってるんスか？」
「あ、でも全く入らないとアプロさんが死んじゃうから、えーっとその……」
……ミスティアの言葉に全く理解出来ずにいるフラム、やがて考えるのが面倒くさくなったのかそれ以上の説明は要求せず黙っているとミスティアは話を続けた。
「と、とにかくこのままじゃアプロさんが魔物にやられてしまいます！ ど、どうしましょうフラムさん！？」
そう言ってミスティアは慌てながらキョロキョロと視線を動かし、その場でどうしていいのかわからないのかバタバタと動き回るのを繰り返していたのを見て、フラムはある提案をした。
「よくわかんねえッスけど、あのアプロって男は今のパーティを抜ければ強くなるんスよね？」
「そ、そうです！」
「じゃあ抜けたらいいじゃないッスか、今は２人で組んでるんスよね？ だったらサブリーダーがみすてぃーになってるはずッスよ」
フラムの言っている事を理解出来ず、ミスティアは首を傾げる。
「全然わからないですよお」
「グループで組んだパーティってのはリーダーとサブリーダーが必ず必要ッスからね、誰かを指定して決めなかった場合、最初に組んだ順番で決まるはずッス」
「ぐるーぷが……えっと、なんですか？」
「……とにかくサブリーダーから解散申請すればいいッス」
その方法ですらどうしていいのかわからないと、困り顔を浮かべるミスティアにフラムはため息を吐き、「とにかくパーティカードを出すッス」とだけ伝えた……。
――。
――――。
ミスティア達がそうこうしている間、アプロは無くした自分のカードを見つける為、視線を泳がせながら会話で戦いの時間を伸ばし続ける。
「なあ、お前だって全力の俺と戦いたいだろ？ 準備が整うまでは――」
血湧き、肉が踊る戦いが早くしたい、そう思ったウルバヌスは両手で強く握りしめ、問答無用でその斧を地面に叩き落とした。
ドオオオンッ……！！
重く、鉄の塊が激突し、こんな重たい一撃をモロに受けてしまえば肉体が再び動く事はないだろうとアプロは背筋をゾクリとさせる。
「早くやるぞ！ 冒険者よ！」
「ああ、もうやけだ！」
戦うしかない、決意したアプロは一か八か腰の剣を抜き、ウルバヌスに向かって思い切り剣を振るったが……。
フニャフニャフニャ……。
ペチン。
ゆったりとした速度で、ものすごく軽い音が１回ペチッと鳴るとウルバヌスの胸に当たる、もちろんその攻撃がウルバヌスに響く訳もなかった。
「なんだ今の攻撃は……？」
ウルバヌスは呆れた顔で言ってアプロを見る、見ていた周りの者達もあまりにも弱すぎる攻撃に引きつった顔で「本当にあの男、強いのか」とヒソヒソと話を始めていた。
アプロ自身もまた気まずそうに自分の振った剣を一度見て、ウルバヌスを見てはあははと軽く笑って誤魔化したが、すぐに目の前まで近づいてくるウルバヌスの大きな拳、その拳がアプロの身体を捕らえるとそのまま上空へと吹っ飛ばされてしまった。
ドスンッ。
「っつ！！ ……あれ？」
大きく跳ね上がり地面に頭から倒れた瞬間、とてつもない痛みが襲ってくるとアプロは確信していたのだが……ただ服が汚れただけで特に大きな怪我もしていない、これは一体どういう事なのかとアプロは思っていると。
「何やってんだコラ！！」
「パーティを組んでる俺達にダメージが来ただろうが！！」
「そうよそうよ！ ギルドに報告して金だけ受け取れば、アンタなんか用ないんだからさっさと倒して！！」
群衆の者達が激怒する、中には痛がっている素振りをする者もおり、『どうやら受けたダメージは組んだ人数によって分散する』とアプロは自身の浅い傷を見て解釈した。
「お兄ちゃん痛いよ～！！」
「うちの子供にキズを負わせるなんてとんでもないヤツだ、恥を知れ！！」
次々と自身に向けられる罵倒を無視し、アプロは『なぜ弱い自分が世界で有名なパーティに入れたのか』を考える、その答えは――。
（ダメージの分散目的で大人数にしてるのか……）
アプロの読み通り先頭を歩く実力者達のダメージを減らす為に、円卓の卓が無くなるほど多い騎士団は大人数でパーティを組んでいた、その意味を理解したアプロは、ゆっくり起き上がりウルバヌスを見て鼻で笑う。
「……絶望を悟ったか、小僧」
ウルバヌスはその意図を尋ねるが、アプロは何も言わなかった。
「アプロさ～ん！！ ふぎゅっ」
何とか円状に囲んでいた人混みをかき分け、転びながらもアプロとウルバヌスが戦っている場所へと強引に入ってきたミスティア、当然アプロはカードの有無について尋ねるが。
「ミスティア、俺のカードあったか！？」
「カード？ よくわからないですけどえっと……。一応このカードでアプロさんを脱退させる事が出来るそうですっ！」
倒れた際に吹き出てしまった鼻血を気にせず、ミスティアは嬉しそうに自身のパーティカードをぶんぶんと左右に振ってアプロに見せつける。
「え、そうなのか？ それじゃあ早く脱退を頼む！！」
「それがその……ダメなんです！」
「何がダメなんだ！？」
「えっと、その……いっぱい居て……」
「え！？ よく聞こえない！！」
同じく人混みから抜け出したフラムが、説明不足のミスティアを補うように大きな声で付け足した。
「入ったパーティメンバーが多すぎてー！！ どれがアンタかわかんねえみたいッスー！！」
「な……なんだって！？」
パーティカードを凝視していたミスティアは、複数人書かれていた文字の中の１つを指差してフラムを呼ぶ。
「フラムさんこれでしょうか……？」
「どれどれ……あーこれアッフロって名前ッス、ちょっと惜しいッスね」
「そうですかあ……」
明らかにダメそうな２人の様子に、アプロは「そろそろ死も近いな」と先ほどの笑みを消した。
キャラクター紹介 ③
『フラム・グランディア』
性別：女性ッス
種族：人間とドワーフのハーフッス
年齢：１７歳ッス
身長：でけーッス
体重：軽いッス
世界に存在する中央国『カルロ』に住むドワーフ族と人間のハーフ、基本的に面倒くさがり屋で自分が興味ある人以外は気にかけない。
ドワーフ族特有の変な語尾があり、フラムは言葉の最後に『～ッス』を付ける（ちなみに本人は気に入っているので、誰かに真似される事を嫌がる）、身長の話はタブーで中でも『チビ』は絶対に言ってはいけない。
たまに客観的に話す事があり、アプロと同じく正直に物事を言い、冷静に毒をついてしまう事があるが優しくフォローができる一面もある。
魔力も剣の実力もないがギルドに務め各パーティ管理の仕事をしている、冒険者であった父を酷く嫌っていてその理由はまだ母親にしか話した事はない。
