3話
意気揚々とアプロは1歩前に出て、足を大きく広げて力を入れる、そして握った拳をただ……ただ真っ直ぐに突き出すだけで。
「「うわあああああああああ!!」」
人が吹き飛ばされるほどの強い突風が巻き起こり、その場にいた者達は上空へと打ち上げられた後、蚊取り線香によって力尽きた虫のようにポタポタと落ちていく。
シーン……。
先ほどまで騒がしかった場所が一瞬で静かになり、ミスティアはその光景に言葉を失った。
「は、はわわわわっ……す、凄い力ですアプロさん!!」
「ミスティア、ようやく思い出したぞ」
腰を抜かし、驚いた顔で尻餅をつくミスティアに報告するアプロ。
「俺は昔……孤独薬というのをフードを被った謎の商人から買ったんだ」
「こ、孤独薬?」
『孤独薬』、謎の商人よりもその聞き慣れない言葉に首を傾げながら起き上がるミスティアに向けてアプロは説明を続ける。
「その効果は確か組んだ人数によって弱くなり、少なければ力が増幅していくらしいんだけど……俺が"誰とも組まず孤独で居続ける"と死ぬらしい」
「え、ええ……? し、死ぬ?」
「ああ、だから急に強くなったんだな」
自分が死ぬ事についても動じず、冷静に自分について分析をするアプロにミスティアは驚きの表情を隠せなかった、なぜアプロはこんなにも落ち着いてるのか、それは孤独薬の効果により力が満ち溢れ落ち着いているのか、それとも諦めの余裕を見せているのか……。
当の本人にしかわからないが、ミスティアは身体を左右に揺すって尋ねる。
「アプロさん! 死ぬんですよ!? なんでそんな楽観的なんですかあ!!」
アプロは左右に揺すられながら少し考えてみたが――。
「死んだら死んだでいいんじゃないか? 冒険者になったら死ぬ事なんて当たり前だろ」
と、死について深く考える事は出来なかった、この世界に生きる冒険者の大半は死についてあまり深く考えていないのだが……常に他人の事を考える優しい心を持ったミスティアは、そうですかわかりましたじゃあアプロさんそのままでいいんじゃないでしょうかと諦める事も言えず、何とかしようとすぐに医療の初級にあたる『透視魔法』を詠唱してアプロの身体を確認した。
「も、もう!! ……全てを見通し、真実を示したまえ! マグナ・サーチ!!」
杖をアプロに向かって振るうと、体の中に小さな杭のような物がセットされており、その先端が心臓に軽く触れたまま動かず、この杭は何かの合図を待っているようにも見えた。
「す、すぐに取り外さないと!!」
「いや、下手に触らない方がいいと思うぞ、えーっと契約の楔……だったかな、再び日が昇るとき、"幾多の孤独を体験した者"は滅びるだけーとかなんとか言ってたような……」
ミスティアはさーっと血の気が引いた表情を見せるが、反対にアプロは冷静な話し方を崩さず、まるで他人事かのように言う。
「いつかその商人を見つけて、治療してもらわないとな」
「いつかじゃ遅いですよ! というかど……どうしてそんな危ない薬を買って飲んだんですか!!」
「うーん、どうしてもミスティアに似たエルフの子を助けたかったんだよな」
「私に似たエルフの子?」
アプロはどうも、その子を思い出せないようでいた。
「彼女の奏でる音楽が凄く良かったんだ、えーっと、西の国で――」
2人が過去話をしている中、その話を遮るかのように先ほどアプロの拳で吹き飛ばされていた冒険者達は、一体あの力はなんなのだと不思議に思いアプロ達の周囲にゾロゾロと集まっていた。
「おい、アンタ一体何者なんだ!?」
「あの力、とんでもなかったぞ!!」
100人近くいた周囲の者達は自分達だけ助かろうと懐から一斉にカードを取り出し、まさかのアプロをパーティ登録するという行為に及んでしまう。
「あっ」
1人に近づけば近づくほど孤独薬の効果が最大限に発揮される……という事は逆に組んだ人数が増えてしまえばアプロは『最弱』となってしまい、本人が気付いた時には遅く気が付いたらアプロは神輿のように抱きかかえられ、わっせわっせと運ばれる。
「ボスは任したぜ!!」
「それみんないくぞー!! わーっしょい!! わーっしょい!!」
そのまま洞窟の入り口へと運ばれていくアプロを助ける為、必死に引きずり下ろそうとするミスティアだったが、群衆の勢いが強くそのまま外へとはじき出されてしまい、遠ざかっていくミスティアの姿に思わず叫んだアプロだったがその声は届く事はなかった。
「わーっしょい!! わーっしょい!!」
「救世主だ!! みんな道をあけろー!!」
流されるままダンジョンの入り口へと押しやられてしまい、下ろされてから冒険者達に抗議するアプロ。
「ちょ、ちょっと待てお前ら!」
「大丈夫だ安心しろ! 骨はひろっ……俺達がついている!!」
「今死ぬ前提で話してたよな」
「最悪貴方が死んだら逃げるだけよ!!」
「いや、見捨てるなよ」
「同じ冒険者だろ、ならもう俺達はもう仲間じゃないか! 仲間を信用出来ないってのか!?」
「……あのなあ」
周りの者達は親指を立てて応援する者、自分が出来ない事を押しつける為にアプロに丸投げする者など責任感が一切ない発言を繰り返され、アプロは呆れながらも1つ1つ冷静にツッコミを入れていったその時――。
ドシンッ!
……ドシンッ!
洞穴の奥から、地面が揺れるほどの音が響いた。
「どこに行くんだ、人間共よ……?」
「「で、でたあああああ!!!!」」
さっきまでアプロを担いでいた者達は一斉に悲鳴をあげ、バタバタと一目散に逃げ始める、洞窟の入り口から声をかけた大男は人間の倍ぐらいの図体をしていた。
「俺はウルバヌス、強き冒険者を求める魔物だ!!」
見た目は牛の頭、身体は大男でありいかにも人間が進化したような、人の言葉を話す『知性のある魔物』という印象をアプロは受けた。
「頑張れリーダー!!」
「頼んだぜ、リーダーッ!!」
「お、おい!!」
その大きな巨体に怯えた冒険者達は、戦う事も出来ず遠くからアプロに声援を送り続けるのみだった。
「ほう……。お前がこの冒険者達のリーダーか?」
「いや、違う」
魔物の問いに手を軽く横に振りあっさりと否定するアプロ、しかし観客達はアプロがリーダーであるかのように声援を送り続け、牛の魔物は「やはり貴様がリーダーなのか」と言って納得した。
「名も無き冒険者よ、墓に書く名前を名乗れ」
魔物と戦い、色んな世界を見る。
こういう冒険をしてみたかったアプロは。
「……俺はアプロ、楽してみんなとパーティを楽しみたい冒険者だ」
内から出てくる嬉しさを隠しきれず、思わずニヤリとした、だがすぐに今の状況は宜しくないと判断し、複数人が入ったパーティを解散させる為に懐からパーティカードを取り出そうとしたが。
「あれ? カードがないぞ!」
人混みに巻き込まれ担ぎ上げられた際に、パーティカードを紛失してしまっていた事に気付く。
キャラクター紹介 ②
『アプロ・ピアシオン』
性別:男性
種族:人間
年齢:17歳
身長:178センチ
体重:57キロ
この世界に古くからいる魔族から派生した種族人間、アプロは契約の楔によって常にパーティを組んでいないと生きられない身体になってしまったが、本人はあまり不安と思っていない。
何かを成す為の努力は基本しないが、仲間を守る為なら少しだけ頑張り、普段は感情を表に出さないが気分が高揚した時や仲間が危険に晒される場面には感情をむき出しにする一面を持つ。
ある日占ってもらった占い師によるとかなり、とにかく運が悪い、常にトラブルに巻き込まれるが本人は「楽しいなら良い」と満更でもなく思っている。
根は正直で割と思った事をハッキリ言ってしまい、人を怒らせる事もある、父は国王の防衛隊長を勤めていた、子供の頃は父と子としての関係は良好だったが、今は行き違いが重なり仲は悪く、アプロ自身が住んでいた国を離れた事もあって一切の連絡を取っていない。
魔力は人間らしく全種族の平均以下で、孤独薬の効果が発揮している時も一貫して変わらない。
フードを被る謎の商人をミスティアと共に探す為、情報を集めているが、どんな人から買ったのか全く覚えていない。