2話
タイトルの後半部分は終盤にて回収します。
◇ ◇ ◇
「ま、待ってくださいよアプロさああああん!!」
アプロは999人が所属する世界トップクラスのパーティ、『円卓の卓が入らないほど多い騎士団』を抜け、今後どうするか悩んでいたところ、ミスティアが提案する駆け出し冒険者が集うダンジョンに2人は歩を進めていた。
「ん?」
遠くからミスティアの叫び声が聞こえ、アプロは足を止めて振り返ると……軽く歩いたつもりだったが、お互いの距離は遙か遠くまで離れている事に気付くアプロ。
「ひゅーっ! ひゅーっ!」
ミスティアは今にも死にかけの顔で全力疾走し、アプロの元へとたどり着くと涼しげな顔で待つアプロを見ながら全くもう、と文句の一つでも言いたげな表情で膝を落とし、必死に呼吸を整える。
「はや、はやしぎっ……アプロさん……速すぎです!!」
「歩いただけなんだけどな」
「じゃあ歩くのが速すぎるんですよ! いーーーち、ぐらいの感覚で歩いてください!!」
「いーち」
「まだ早いです!」
「はい」
こうするんですよと言わんばかりに、ミスティアはカメが1歩踏み出すようなゆったりとした動作を伝えると、アプロはゆーっくりと1歩を踏み出し。
びゅーーーーーーん!!
遙か遠くまで行ってしまった。
「だから速いですううううう!!」
もう一度ミスティアは全力でアプロの元へと追いつくと、ぜえぜえと今度は死にかけの顔でその場に倒れ込んでしまった。
「ふひぃ、ふひぃ、ぷにぃ」
「鼻水出てるぞ」
「誰のせいですか誰の!!」
「すまん。えっと水、いるか?」
「いりますっ!!」
アプロは水筒を取り出し、大の字で倒れていたミスティアに向けて水筒を逆さまにすると、ゴクゴクゴクゴクと喉音を鳴らし、全て飲み干してしまうミスティア。
「ぷっはーっ!!」
と飲み屋の親父が酒を気持ちよく飲んだ後に言うような言葉を発し、しばらく砂漠を歩いていた者がようやく見つけたオアシスの泉に全身から飛び込んだかのように、大変スッキリとした顔をアプロに見せる。
「生き返りました!!」
「よかった」
「ところでアプロさん」
「おかわりはないぞ?」
「ち、違いますよ! 私はそんなバカじゃないです! エルフですよ! あの世間一般では頭が良いと言われるエルフっ!」
エルフが自分から頭が良いなんて言い出した話は世間一般では聞いた事ないが……とアプロは心の中でツッコミを入れた。
「というかアプロさん、どうしてそんなに強そうなのにパーティの最後尾なんかに居たんですか? それだけ足が速いのなら、すぐに最前線クラスじゃないですか」
「うーん……」
その身体能力なら、とミスティアが疑問を抱くのは当然である、少し悩んだアプロは自身の足や腕を見るが、特に筋肉が発達した様子はない。
そう思った時、アプロは先ほど起きた胸の痛みを思い出した。
「あー、さっきの胸の痛みが関係してるのかもな」
「かなり痛がってましたね……大丈夫ですう?」
「今は特に問題はないが……」
痛みがないなら問題ない、とアプロは楽観的に捉え特に気にしてない様子だった、そんなアプロとは対照的に謎の力の秘密とアプロの胸の痛みが何故起きたのかを知りたいミスティアは、納得がいかない顔つきでアプロの身体をベタベタと触る。
「ミスティア、くすぐったい」
「ふんぎゃっ!!」
アプロが軽く手で押すと、ミスティアの身体はくの字の体勢で勢い良く吹っ飛ばされ、歩いていた土の道をゴロゴロと転がっていく。
「わ、悪い……ミスティア!」
「びええええええええええええええ」
「な、泣くなよ!(お前、泣くとめちゃくちゃうるさいな!)」
一度泣き出すと鼓膜が破れるぐらい大声を出すミスティアを制止しようと、アプロはとりあえずミスティアの口を手で塞ぎ、興味をそそるワードを投げかけた。
「わかった、力については何か思い出したら真っ先にミスティアに話すから!」
「ぐすっ……ほんびょーですか?」
「本当だ、約束する」
アプロは持っていた布でミスティアの涙を拭き、『治療魔法』をかけて怪我していた箇所を治した。
治療魔法とはパーティを組んだ者同士にしか適用されず、魔法を使える冒険者以外が怪我をした場合、一般的に治す手段が魔法以外の治療道具となってしまうので、冒険者やっている者ならば必ずパーティを組んだ方が道具も使わず、かつ医療知識もいらず痛みもなく治療出来て楽なのである。
「あれ、魔力は前と変わってないんだな俺」
自分の身体がどう変わったのか、1つ1つ確認するようにアプロは試しにその辺の木に向かってパンチを繰り出してみる、すると殴られた木は蒸発するようにこの場から消し去り、発生した強烈な風によって後ろの木々が斜めに傾いてしまった。
「おーすげえ」
あわわ、と口をパクパクさせるミスティアを見るアプロ、こんなに莫大な力があるのならミスティアを抱いて目的地まで行った方が早そうだなと思い、ミスティアをひょいっと持ち上げる。
「ちょ、ちょっとアプロさん!?」
「しっかり掴まってろ」
「え……っ!!」
しっかり掴まってろ。
しっかり俺に掴まってろ。
もうお前を離さない。
ぶーっと鼻血を噴水のように出したミスティアはお姫様抱っこされたままトマトのように頬に赤みを増し、抱かれていたアプロの腕をぎゅっと掴んだ。
「はい! 旦那様!」
「旦那じゃない」
軽いツッコミを入れようと、アプロはわざと手を離してしまい、ミスティアは地面に後頭部をぶつけ悶え苦しんだ後に気絶した。
「ぷにーーーっ……」
「やば、お、おいミスティア」
ぐるぐると目を回したままのミスティアに回復魔法をかけてみたが、膨らんだタンコブのが治るだけで目が覚める様子がない、とりあえずアプロは頬を数回ペチペチと指1本で叩くが、これまた反応は返ってこないので。
「こういう時どうするんだっけか、確か”施設”で勉強してた時は……」
悩みながら座り込んだアプロはミスティアの鼻を軽く手で塞ぎ、口元へ自身の口を近づけキスをして魔力を送り込んだ、しばらくそうしていると呼吸の出来ないミスティアは『んーっ』と数回苦しそうな声を発し、ジタバタと防衛本能で暴れてから意識を取り戻した。
「……ぷはっ!! あ、アプロさんなななな何をするんですか!?」
腕を振るい指をぴっぴっと突き付けるミスティア。
「いや、俺の魔力を注ぎ込もうかなって」
「まさか、き、キスをしたんですか……?」
「ああ」
魔力供給法とは冒険者になる者達が教わる初歩の技術であり、主に体内の魔力が尽きて気絶した者に使用する、方法は口移しや自身の血液を相手に流し込む事だが、中途半端に勉強していたアプロは鼻を塞いだりと少し間違えていた。
「アプロさんのバカーーーーーーっ!!!」
パン、パン!
と、ミスティアは両の拳を握ってアプロの頬を右左と往復で殴ったが。
「あいたーーーー!!!」
まるで岩を殴ったかのような感触にミスティアの拳はぷくーっと大きく腫れてしまい、再び地面に倒れてはゴロゴロと左右に転がる。
殴られたアプロは全く痛みを感じておらず、まるで蚊が1匹チクリと刺してきたぐらいの無対応っぷりを見せ、淡々とミスティアの手に治療魔法をかけた。
――。
――――。
「もう発せられる魔力が無くなった」
「誰のせいですか誰の!!」
「悪い悪い、今度またミスティアが気絶したら、正しい魔力供給法を試してみるよ」
怪我した拳を治してもらったミスティアは、膝を畳んで座ったままの姿勢でアプロからそっぽを向く。
「……アプロさんは、異性に対する恥じらいってのがないですねっ!」
ぷんすかぷんすかと腹を立てながらも満更ではない顔をしていたミスティアは、この空気が居た堪れなかったのか再びアプロの顔付近をボカ、ボカ、ボカ、と自分が痛くならない程度の力でハンマーのように拳を打ち付けた、その後スカートの汚れを落として立ち上がるとアプロに指示をする。
「だっこは駄目ですからねアプロさん!!」
「わかった」
「歩く時はいーーーーち、ぐらいですからね!!」
「わかった」
「次遠くにびゅーって言ったら私、走らないですからね!」
「わかりました」
言われた通りカメのようにすっーと動き出すアプロ、今度は歩いてるミスティアの方が速いた事に気づくと。
「やっぱり日が暮れる」
そう思ったアプロはひょいっとまたミスティアを持ち上げた。
「あ、アプロさん! ゆっ……ゆっくりですってええええええええ!!!」
ビュュュュュューーーーン!!
もの凄い勢いで駆けていくアプロに抱かれたミスティアは、襲ってくる暴風にギャグ漫画のような面白い顔で応え、スカートは真上に上げ白いパンツを晒しながら泣き叫ぶ。
「びえええええええ――!!!」
その大きな声は森林に住んでいた全ての動物がその場から逃げ出すほどで、猛スピードで走るアプロと気絶したまま抱かれるミスティアは、ダンジョンの入り口を目指していた。
◇ ◇ ◇
……微かな太陽の光が差し込むほどの深い密林、その場所を音速機かのように駆け抜けたアプロ達の目の前に現れた光景は、何百もの人が集まれるほどの広い場所であった。
先ほどまで余計に足が取られる鬱陶しい草もなく、数々の冒険者達が踏み慣らしたのか歩きやすい乾土が1本敷かれ、奥にはダンジョンの入り口らしき洞窟の空洞がある事に気付くアプロ。
「あそこか、着いたぞミスティア」
「お、おおおおおお下ろしてくださいっ!」
気絶から目を覚ましていたミスティアは辺りを見渡すと、洞窟の辺りには数人の冒険者がいて、あいつら何してんだという目が気になったのか、この格好を少しでも多くの人に見られたくないと思ったミスティアは、少し強い口調でアプロに命令する。
「下ろしてくださいいいい!!」
「わかった」
アプロがパッと手を離すと、着地の準備が出来ていなかったミスティアはそのままの状態で落下し後頭部とお尻を地面に激しくぶつけ、ゴロゴロと左右に転がった。
「あいたーっ!! ……あ、アプロさん! ゆっくり下ろしてくださいよ!!」
「それより見てみろミスティア」
「そ、それよりって……」
ミスティアはお尻を軽く手で抑えながら立ち上がると、入り口手前に立てかけられていた看板に気になったアプロ達は近寄る。
「えーっと、冒険者の皆さん、日が暮れるまで今は入るのを待ってほしいッス……って書いてありますね?」
ミスティアがその文章を読み上げ、一体この看板に書かれた意味はなんなのだろうとアプロとミスティアは頭を傾げていると、そこへ現れたのは。
「お、冒険者の人ッスかー?」
「ふええっ!」
とつぜん後ろから女性の声が聞こえ、肩を掴まれたミスティアはピンと耳を立てる。
「よく来たッス、ここは駆け出し冒険者の集まるダンジョンッス」
仕方ないという態度と、気怠そうな声で話しながら作り笑顔をニッコリと見せる背丈の小さい女性、特徴は尖った八重歯と白い帽子を被っており、そこからはみ出た茶色の短髪が目立った。
服装は白いワンピースと胸元に大きめの赤い蝶リボンが目立たせ、両目は若干タレ目をしており、どこかの店のマスコットのような可愛さに目を奪われたミスティアは、唐突に少女に抱きつく。
「とっ……とっても可愛いですー!!」
「ちょ、ちょっとなんスか!!」
力一杯ミスティアはぎゅーっと抱きつき、何度も顔をスリスリと繰り返していると女性の反感を買ったのか、小柄な女性は手で押し退けて距離を作り、そのまま片足で思い切りミスティアを突き飛ばした。
「離せ、ッス!」
「あふっ!」
やれやれと女性は腰のベルトを締め直し、保護者に注意するようにアプロの方を見ると。
「なんなんッスかこのエルフ女!!」
「ベルト、垂れてるぞ」
「ああどもッス……で、なんなんスか!」
「ボタンも外れてる」
「身だしなみ結構気にするんスね!?」
マイペースに指摘するアプロを見て、女性は少し照れながらベルトを締め直し追求をする。
「ったく、アンタのパーティメンバーッスか?」
「ああ」
「ちゃんとしつけをしとくッス!!」
犬じゃないんだからする訳ないだろとアプロは心の中でツッコミを入れ、ミスティアの粗相に軽く謝罪をすると。
「ところで誰なんだ?」
「この国、カルロでのギルドの受付兼、案内役のフラムッス」
案内役……その言葉に疑問を持ち首を傾げるアプロ、それに対してまた尋ねると、フラムと名乗った女性は「いちいち説明しなきゃいけないんッスか」と気怠そうに言いつつも親切に説明を始めた。
「ダンジョン攻略は順番ッスからね、案内役がいないと中でギュウギュウに詰まるんッスよ」
「へえ」
「だから今日は夕方までボス攻略はできねーッス」
「ボス……っていうとそのダンジョンで魔物を率いている強い奴って事か」
「いや人材派遣で応募してきた魔物ッス、特に魔物同士の仲間意識はねぇーみたいッスよ」
「ああそう」
ボスってそんな簡単で気楽になるんだとアプロとミスティアは同時に心の中でツッコミを入れた。
「なんとか中に入れないのか?」
「今181人の冒険者が攻略してるッスからね」
「どんだけ中は広いんだ」
その人数を待つのなら確かに夕方までかかりそうだと思ったアプロは、今日はやめて街へ帰ろうかと考えていた矢先――。
「それまでフラムさんをなでなでして……」
突き飛ばされていたミスティアは手をクネクネとさせ、フラムに近寄ろうとしたがその長い耳を軽くつまみフラムから遠ざけるアプロ。
「やめとけっての」
「いた、いたたたっ、痛いですぅう!!」
「うざったいぐらい仲いいっスね、まあデートの思い出になるだろうし入ってもいいッスよ」
と、フラムは2人のイチャイチャした様子を見てカップルだと勘違いしながらこれまた気怠そうに呟いた。
「で、でででででででーとだなんてそんな!!」
「フラム、俺達はただの仲間だ」
俺達はただの仲間だ。
俺達はただの仲間だ。
俺達は普段から仲間だ。
またまた勘違いしたミスティアは頬を赤くして頭を左右にぶんぶんと振り子のように振り始め、最終的にアプロの身体にスリスリとする。
「アプロさん、私の事を仲間だと思っててくれてたんですね!!」
「ああ」
「これからじゃあ友達として一緒に冒険に行って! 一緒に楽しく夜を過ごして! なんだかんだいい雰囲気になって――」
「あまり触らないでくれ」
「ふぎゃ!!」
邪魔だと思ったアプロは軽くまた拳を振るってミスティアを吹っ飛ばしてしまう。
「びえええええええええええ!!!」
「す、すまんミスティア!!」
それを見たフラムは、心底どうでも良さそうな気持ちを抱き苦い顔をして言う。
「……腹立つくらい仲いいッスねーっ」
2人はフラムの提案によって、中から2名冒険者が出てくるのを待つ事にした……。
――。
――――。
チュン。
チュンチュン……。
先ほど駆けていた森林の入り口、その適当な1本にもたれかかり横になると、鳥の鳴き声を聴きながらゆっくりとアプロは目を閉じた……深く、深く気持ちを静めていくと近くに川があるのか、チョロチョロと水の流れる音が聞こえてくる。
「平和だーっ」
のんびりと、まったりとした時間を感じるアプロ、元々お昼時というのはアプロにとって好きな時間帯で、少し暖かくポカポカと陽気な天気を肌で感じながら流れる雲をチラリと見ては、時折吹いてくる春風を堪能する。
「アプロさんアプロさん」
そこへ両膝を曲げ、隣に座り込んできたミスティアが声をかけた、アプロはチラリとミスティアを見て再度目を閉じる。
「アプロさん今寝てる」
「冒険者さん達が出てくるまで暇ですから、お話をしましょうよお」
「目を閉じたままでいいなら」
えへへっと嬉しさを見せながら膝を畳み、ミスティアは左右に少しだけ身体を揺らしながら話を始めた。
「具体的にどういうパーティにするんですか?」
「うーん……仲良くて楽しめるパーティがいいな」
「特に実力とかは必要ないって事です?」
「ああ」
アプロは見ていなかったが、ミスティアはほっと安心する素振りをしていた。
「パーティの名前とか決まってるんですう?」
「そうだな……悠久の友とかどうだ?」
ミスティアはアプロの言葉を復唱して、その意味がわかってない素振りをするが。
「良いパーティ名ですね!!」
「そうか、今思いついたんだけどな」
「アプロさんが考えた名前なら何でもかっこいいですよ!! それにしても……冒険者ってほんと気楽でいいですよねーっ、街で働く人なんて今は少ないそうですよ?」
「そうなのか? というかそもそもこんな自由な仕事って他にないからか……」
この世界での冒険者の割合は高く、若者が就く職業の中でダントツに多い、なぜこんなにもブームになったのか。
「それは――」
ミスティアは数百年前ほど遡った話をする……。
この世界を救い人々から『王』や『救世主』と呼ばれた伝説の冒険者、『ネリス』という謎の少年が自身の旅した思い出を伝記として残したのがそもそもの始まりである、ネリスの書いた本は多くの者に愛読され、若者に多大な影響を与えていき、複数生まれたコピー本によって結末が変わっていた。
「ネリスってひゃく年前の俺と同じ人間だろ? 結末がどうであれ、今は生きてない人だよな」
「一応、本に書かれてる結末では、世界を覆う闇から守る為に自らの肉体を犠牲にしたとか……その辺の下級の魔物に食われ死亡してしまった……とか諸説あるんですよ!」
「ふーん、そういうの勉強してこなかったからなあ、俺……」
ウキウキとして話しかけてくるミスティアを寝っ転がりながら暇つぶし程度に聞くアプロ、次にミスティアが切り出す話題よりも、そういえばと中断させアプロは気になっていた事を尋ねた。
「ミスティアってさ、どうして円卓の卓が無くなるほど多い騎士団にいたんだ?」
「えーっと……社会勉強で入りました!」
「しゃかいべんきょう?」
ミスティアは屈託のない表情で答える。
「はい! お父様とお母様がせっかく外の世界に行って冒険者になるのなら、有名なパーティで安定した収入と勉強をしてこいって……こんなにあっさり入れるとは思ってなかったんですけど」
「まあ、あそこの募集緩いもんな、それで加入してたのか」
「はい! みんな仲良しで、最前線の方々もとても良い方でした!」
多分虐められてるだけだと思うんだけどなあ、とアプロは最前線の者達を知らない以上頭の中で思っておくだけに留めた。
「じゃあ俺、そろそろ寝るわ」
「えええ!! アプロさんもっとお話しましょうよお」
「ねむい、少ししたら起きる」
「アプロさんーっ」
「アプロさん睡眠の世界へ飛び立とうとしてる」
「起きてくださいよおーっ」
「いま羊が飛んでる」
ミスティアによってゆさゆさと身体を揺すられたが、軽く無視して目を閉じ続けていたアプロだったが、しばらくしてミスティアの体重を肌で感じ目を開けると。
「すーっ……すーっ……」
いやお前が先に寝るのか、とアプロは軽く頭の中でツッコミを入れつつ、自身も夢の中へとダイブした……。
――。
――――。
「「うおお!! ボスが現れたぞ!!」」
その声にパチリと目を覚ますアプロ、冒険者達の反響する声が何度も洞窟の入り口から聞こえ、激しく何かがぶつかり合う音まで聞こえてくると、居ても立っても居られなかったアプロは隣で鼻ちょうちんを出して眠っていたミスティアの提灯を剣先で割った。
「起きろミスティア、行くぞ!」
「……ふぇ?」
パチンと割れ、上半身を起こしたミスティアは目をこすると突然、地面が震えアプロ達の身体は上下に揺れ始める。
「「みんな逃げろおおおお!!」」
ほら穴の出口から100人近くの冒険者達が一斉に出てくると、入り口近くで待機していたフラムは大量の人波にあっさりと巻き込まれてしまい姿を消した。
「な、なんなんスかーーーー!!」
「はっ、はわわわわわアプロさん! こっちに向かってきますよお!!」
大勢が押し寄せる人波にどうして良いのかと慌てふためくミスティアだったが――。
「一体どんなボスが出てくるんだろうなー」
心配するミスティアとは裏腹に、どんな敵が出てくるのかとアプロは期待に満ち溢れた表情で洞窟の入り口を見ていた。