1話
ざまぁ展開は後からします。
男は楽しく過ごせる仲間達を求めていた。
冒険した思い出を振り返っては笑い、夢を語り合ったりと……。
歳をとっても人生の一部に残るようなそんな大切な仲間達、そんな『パーティ』を組みたかった男は、魔物と戦い人々を助け世界中を旅する『冒険者』となった今も求め続けていた……。
――。
――――。
「飽きた」
光が僅かに差す薄暗い森に囲まれ、長時間『998人』もの冒険者と1列になって一緒に歩く最中、大きなあくびをしてぐっと気怠そうに伸びをした男は空を見て一言愚痴をこぼした。
太陽の位置はまだまだ夕暮れには程遠く、剣も構えず両腕を頭の後ろに回して歩く男の態度からは緊張感のなさと、やる気の無さを他の冒険者達にこれでもかと見せつける。
(999人で歩くパーティなんて、他の街じゃ見た事ないから面白いパーティだと思ったんだけど……全然だめだな、死ぬほど面白くない)
頭の中でぼやくと男はパーティを抜ける事ばかりを今度は考え始めた、いつ『団長』に自身の脱退を打ち明けるか思考していると、前の方から複数人の奮起した大声があがる。
「「おおー!!」」
気合いの入った声か複数続き、魔物に向かって斬りつけているのか肉を裂いたような音が連続で響くと、今度は魔法が飛び交っているのか何か爆発したようなバンッとした音。
間違いなく前の方では冒険者達が魔物と戦っている、そう思った男は自身も魔物と戦ってみたいと足を早めようとするが。
「おい! 俺が前にいるだろ! 順番を守れよ!!」
と、戦いを望んでいるのは男だけではなく前の方で並んでいた者に手で押しのけられては奥へと引っ込んでしまう男、戦闘がしたいと強く望んだが残念ながらこのパーティは実力順に並んでおり、実力がない男はパーティの『最後尾』である。
当然この位置では魔物と戦う事が出来ず、実力、面識がない者に声をかける理由もないので。
(つまんね……)
会話もないし、ただ剣を腰に構えて林道を散歩しているだけであった。
そこへ1人の男が注意する――。
「おい……おいアプロ! お前に言ってんだよ!!」
男から見て数人ほど先を歩いていた1人の中年男が怒った様子でこちらへ向かってくると、栄養がないような疲れ果てた最後尾の『アプロ』に注意をした。
「なんだよ」
「なんだよじゃねえよ!! さっきから剣も魔法も構えないでダラダラ後ろを歩きやがってよ!! やる気あんのかテメェは!!」
大声で注意するのは不衛生極まりない髭を生やした『995人目』の中年男、ボルグ。
先ほどからアプロの見せる不真面目な態度が気に入らなかったのか、時々後ろを振り返っては不快に満ち溢れた顔でギロリと睨みつけていた。
「……なんでそんなに怒ってるんだ?」
キョトンとした顔で尋ねるアプロ、そもそも魔物と戦う前に最前線が処理してしまう現状に『剣なんて構えても意味ないだろう』と最もな理由を抱いていたアプロはどうしてかと尋ねると。
「ああ!?」
ボルグはキレた、先ほどのあくびに加え剣すら構えず散歩かのように歩く態度がずっと気に入らなかったボルグは問答無用でアプロの襟を正面で掴み、説教を垂れながら顔面にベチャベチャとツバを飛ばす。
「お前見てるとなぁ!! こっちがイライラするんだよ!!」
「ツバが」
「冒険者の自覚はあんのか!?」
「ああ、わかったあるからツバを俺の顔面に飛ばさないでくれ」
「ぺっ、歳はいくつなんだよ!?」
ツバで顔面が汚れたアプロが『17歳』と答えると、中年男はかーっと口の中でツバを溜め込んでから。
「ぺっ!!」
と、またもやアプロの顔面に吐き出しては掴んでいた手を離して軽く前へ押す。
「汚い」
「ぺっ! ぺっ!! ぺっ!! 意識が低いんだよテメェ!! いつ魔物に襲われるかわからねえんだぞ!! もっと命を賭けた冒険をしろや!!」
「後ろを歩くだけの散歩に命を賭ける意味あるのか」
「ぺっ!!」
「汚い」
疲れているのか特に言葉を強くせず、怒る気がなかった淡々とアプロは度々ツバが飛んでくる事に不満を伝えたが、ベチャベチャと塗りたくった化粧のように顔面がツバでベッタリになると、怒りの収まらない男を見てどうするべきかとひとまず考え始める。
(そもそもこのパーティは999人という大人数で歩いているから……当然最後尾にいる俺たちが魔物と戦えるはずがない)
つまり中年男ボルグが抱く不満というのは『魔物達と戦えない』、『不真面目なアプロが腹立つ』という2点にあったが……。
(単純に八つ当たりってところか)
と解釈をしたアプロは軽い同情を混ぜ、宥めるように話をした。
「あんたの気持ちはわかるけどさ、いつか魔物と戦えるんじゃないか?」
「……いつかだあ!? お前みたいなガキは今後も犬の散歩みたいに尻尾を振ってベロ出しながら歩いとけ!! 俺はちげェんだよ!!」
「ひどいワン」
「実力もねえ大した出世欲もねえ底辺共とは俺はちげェんだよ!!」
自身には夢があると言わんばかりに胸の内を熱く語るボルグに、アプロは『まあ話ぐらいは聞いてもいいか』と更にボルグに優しく接してこの場を納めようとした。
「どう違うんだワン」
「ああ? それはな、どんな時でもギロギロしながら魔物を警戒し!」
「ワン」
「いつでも剣を抜けるように姿勢を低くしてだなッ!」
「ワン」
「頭の中でシミュレーションしながら歩いてんだよクソガキがッ!!」
「それ魔物が出てこない時はただの目つきの悪いおじさんだな」
「っせえ!!」
「きたない」
ボルグはすうっと口内に溜めたいっぱいのツバをアプロの顔面に思い切りビシャリと吐き捨てると、掴んでいた手を離してシッシッと追い払う塩対応を行った。
「テメェは今すぐ消えろ! そういう志の低い奴がいても邪魔なんだよ!!」
「いや、なんでリーダーでもないアンタにそんな事を――」
アプロの言うことは最もだったが、今すぐ消えてほしいボルグはユラユラと左右に身体を揺らし始め、両手を頭の上でパン、パンとリズミカルに叩き煽り始める。
「きっ、えっろ! きっ、えっろ!!」
「うわあ……」
傍から見れば気をやっているのかと疑うほど煽り行為、その行動にアプロは引きつった顔で2、3歩ほど後ろへ下がった。
こんな大人にはならないようにしないとな、と思ったアプロはリズムを早めていくボルグの極めて不快なその踊りをじっと見ていると。
「きっえっろ! きっえっろ! ……はあっ!! はあっ!!」
「疲れるなよ」
息切れして疲れてしまったボルグに優しいツッコミをアプロは入れた。
「――いやいや、俺からしたらお前が消えてほしいけどな、ボルグ」
すると、アプロ達の前を歩いていた1人の冒険者が足を止めて一言いう、その近くにいた者達もうんうんと同調をしては。
「だよな、ただ暑苦しいしうざいよ」
「きっ、えっろ! だってよ、こうか? こうやって踊るのか?」
アプロと同じように不快な気持ちを抱いていた周りの者達はボルグを標的にし、イジメるのはよくないよなと咎めると、ボルグもまた標的を切り替えるようにギロリと鋭い眼で睨む。
「んだとお、じゃあテメェらも消えやがれ! どいつもこいつも意識が低いんだよ!! 俺みたいに魔物が出てこないようギロギロ警戒しやがれ!!」
……そう、アプロもボルグもみんな最後尾の者達は一度も戦闘に参加出来ない事に、行き場のない怒りが貯まっていたのだった。
「おーおー吠える吠える」
「ぎろぎろ、こうですかボルグさん?」
「ほっ! ほっ! ってなんだよお前のオリジナル踊りか? 格好悪すぎだろ」
既に列は崩れ、ゾロゾロと集まる冒険者達、その煽り文句が引き金となり自制の線が切れたボルグは『何故か』着ていた服を脱ぎ、上半身半裸で冒険者達に飛びかかった。
「お前らよぉーーーーーーー!!!」
「なんだ!? やるかあ!?」
それを見て周りの冒険者達も何故か一斉に上着を脱ぎ、ボルグ達に重なるように素手で飛びかかっていく。
「「うおおおおおおおお!!」」
そのまま男達は誰が敵か誰が味方かもわからないほど乱戦となり、相撲のようにがっぷり四つと組み合いを始めては誰かが投げられ、投げられた者達はまた意気揚々と立ち向かっていく。
「俺はどうしたらいいんだろうか」
既に蚊帳の外だったアプロは争い自体どうでもよく、自分がボルグの標的から外れただけで満足していたところ、そんな混沌とした状況を何とかしたいと1人の女性が空に響くほどの制止の声をあげた。
「あっ、あのー! 喧嘩は良くないですよーっ!!」
古びた剣、誰がどう見ても『ガラクタが入った大量の荷物』を背負っている1人のフードを被った女性が大声で叫んで争いを止めようと、そのまま男達の身体に掴みかかり思い切って引き剥がそうとするが。
「うるせえ邪魔だ!!」
「ふんぎゃ!!」
誰かわからない男の裏拳によってあっさりと突き飛ばされてしまい、踏みならした道から大きく外れ、ガサガサと草木にぶつかりながら土の坂を勢いよくゴロゴロと転がり落ちていく。
「ふえええええっ!!!」
何とも情けない声を響かせながら徐々に遠くなっていく女性の姿……『あのまま気絶して、夜にでもなったら大変だな』と心配したアプロは、数本の枝を掻き分けて落ちた先を見ようとする。
ドンッ。
木にぶつかった後に「ふえええええ!!」とこれまた情けない声が聞こえてきたので。
「た、助けに行くか」
仕方ないとアプロは安全を確認しながら坂をゆっくり降り、枝をかき分け倒れていた女の子の元へとたどり着くと、頭を抑えながら木の1本に座り込んでぷるぷると震えていた。
「おい、アンタ大丈夫か?」
「ふ――ふっ」
「ふ?」
「ぶええええええええええっ!!!!」
「わあうるさい」
鼓膜が破裂すると思うぐらい女性のあまりにも大きな泣き声に、素直な感想を出して耳を塞ぐアプロ、フードはパサリと取れ、人間とは違う長い耳と、男性なら心惹かれる可愛らしい顔を晒す。
「あ、エルフなんだ」
エルフ、それはアプロのような人間とは違う種族、世間一般の認識ではエルフは人間と比べて魔法に長け、寿命も人間より長く誰もが頭の良い種族である。
「ふええええええーーー!!!!」
……のはずなのだが、彼女は見るからにアホっぽい言動を繰り返していた、木に激突した事により腫れた後頭部が彼女に痛みを与え、なんとも品のない声で泣き続けるその姿に本当にエルフかとアプロは疑った。
「うおおおおおお!!」
「こんのおおおおおおおおお!!」
ガサガサ、とボルグを含めた男の冒険者達は組み合いの最中に足を滑らせたのか、全身をゴロゴロと転がせ草木を押し退けた音を放ちながらアプロの近くに落ちてくると、怒りがまだ収まらないのか立ち上がっては大声を出してまた組み合いを始めてしまう。
「うおおおおおおおおおおおお!!!」
「どりゃあああああああああああ!!!!」
「ぶええええええええん!!」
「なんかもううるさい」
アプロは非常に面倒くさそうな顔を浮かべた、争いを止めない半裸の男達数人と目の前で泣き続けるエルフの女性。
とりあえず泣き声が一番うるさいので、最優先に片付けようと思ったアプロは目の前に座り込んで女性に声をかける。
「泣くことをやめてくれないか?」
涙を拭う為に懐から1枚の布を取り出し、紳士的な対応で女性の顔の前に布を持って行くアプロだったが。
「ぶえええええええ!!!」
「ツバが……」
我を見失うほど泣き叫びながら暴れた女性の手が払うようにアプロの腕に当たり、ツバでベチャベチャに顔面が汚れてしまったので、落ちた布を拾ったアプロは自身の顔をしっかりと拭ってから、女性が落ち着いてもらうよう再度アプローチを試みる。
「おい、冷静に、落ち着け」
「ぶえええええええええ」
「頼む、俺の話をよく聞いてくれ!」
「……ふえ?」
歳はアプロと同じぐらいで、全身を覆う白い布のローブを着込み、その中に露出された脇とボディーラインがハッキリとわかる全身をまとうエッチな服を着た女性、くわえて手首には高そうな宝石のチョーカーがつけられており、何故か胸元に『バカ』と書かれた紙が貼られていた。
「なんだこれ」
「あっ……ああっ! 剥がしちゃダメですよ!」
「どうして?」
気になったアプロは女性に服についていた紙を剥がそうとしたが、冷静を取り戻した女性はすぐに取り返して胸元で大切そうに握る。
「大切な物なのか?」
アプロが尋ねると、女性はコクコクと二度うなずく。
「はい! この魔力札を貼り付けて歩くと、物凄い力を得られるって最前線の方々から教えてもらいました!!」
「じゃあアンタの背負ってる大量のガラクタが入った荷物は」
「これはガラクタじゃないです、皆さんの装備を運んでいました!!」
朽ちた剣や盾、あんなのが間違いなく戦闘で役に立つわけがないと思ったアプロは。
「どう考えても最前線の奴らから虐められてないか?」
「いじめられてないです!」
「じゃあその凄い力っての、見せてくれ」
「いいですよ……えいっ!」
泣き止んだ女性は立ち上がって服のホコリを払う動作をしてから1本の木をじーっと見ては拳を目の前に握った。
「見ててくださいね!」
「うん」
「はああああああああああっ、ミスティアパーーーーンッチ!!」
勢いの良い声と共に繰り出した普通の速度のパンチは、木にドシンッと音自体は立てたが。
「い、痛いですうううう!」
「だろうな」
勢いだけで全く威力のないパンチにやれやれとしたアプロ、『確かに紙に書いてある通りの子だ』と頭の中でつぶやき女性のおバカっぷりを感じた。
「もう一度言うけど、それ最前線の奴らにからかわれてるだけだと思うぞ」
「そ……そうなんですかあ?」
「ああ、とりあえずそれで鼻水拭け」
「でもこの紙はぁ」
「だから効果ないっての」
少し落ち着いた女性は言われた通りバカと書かれた紙でゴシゴシと涙を拭き取り鼻をかんだ、とても可愛い彼女の見た目は風が吹けば靡くほど、肩まで垂らした透き通った綠髪。
加えて綺麗なエメラルドブルーの目をパチパチとさせると、長い耳でピョコピョコと可愛く上下に動かして立ち上がったアプロに魅力的な声色で話す。
「あ、あの貴方は……?」
「俺はアプロだ、今日でこのパーティを抜けるからさ、まあなんだ……アンタが良ければ俺が作る新しいパーティに、どうだ?」
「え? パーティを抜ける? どうしてですか?」
理解出来なかった彼女はポカンと呆けた顔でアプロを見つめる。
「……このパーティにいてもやたらとうるさい奴がいるし楽しくないんだよ。冒険者ってもっとこう……魔物と戦ったりさ、みんなで笑ったりとか色んな事を共有出来ると思ったから入ったんだ、それが見てみろ」
未だにお互いを罵り合いながら、掴み合う醜い男達を指差すアプロ。
「うおおおおおおおおお、俺が最強だあああああ!!!」
「俺が魔物と戦えば最前線へ行けるんだ!! お前らが邪魔するからだな……!!」
「いやいや俺が戦闘に出れば、こんなゴミ共と一緒になんかいねえ!! さっさと抜けやがれ!!」
「お前が抜けろ!!」
「うるせえお前が抜けろ!!」
愚痴を漏らす連中の一通りの言葉を聞き、嫌気が差すアプロは再度女性の方へと向き直した。
「……あんなにも仲間同士で喧嘩してるパーティなんか嫌だろ? だから”新しいパーティ”を作る事にした」
「え、ええ!? で、でもここって、世界的に有名なパーティですよ!? もらえるお金だって悪くないですし」
「楽して暮らすのと楽しく過ごすのは違うだろ、それに金なんか関係ない、俺が重視したいのは”そこにいて楽しめるかどうか”……だから世界的に有名だろうが、魔王を倒せる実力があろうがここを抜ける」
楽しいパーティがないのなら、自分で作ればいい。
時には助け合い、時には笑い合える、そんな楽しいパーティを作る事を決意したアプロ、そんな言葉を聞いて女性の中に興味が沸く。
(……この人が作るパーティって一体どんな感じなんでしょう?)
心を動かされ、言葉に信念を持っている人だと感じた女性は、気が付けばアプロの作るパーティに入りたいと思っていた。
「あっあの、アプロさん!」
「アプロです」
「ど、どうして私なんかを誘ってくれたんですか!?」
「いやアンタ、アホっぽくてここにいても虐められそうだったから可哀想だなって」
木に手を当て、ずーんと落ち込む女性。
「……じゃあ行くわ。俺はまだ街にいるから、このパーティが嫌になったら声をかけてくれ」
と言って立ち去ろうとするアプロ、そんなアプロを見て頭で考えるより、行動を第一とする彼女は急いで追いかけては服の袖をぎゅっと掴んだ。
この人のパーティは楽しそう、この人なら列の後ろを歩く私を実力者として見てくれるかも。
女性は誰かに必要とされたかった。
誰かの為に力になれる、誰かが喜ぶ。
そんな小さな幸せを自分の幸福として考えていた彼女は――。
「あっ、あのっ! わ、私……!」
アプロを引き留める。
「いいよ」
「え?」
「いいよ」
「ま……まだ何も言ってないですう!」
掴んでいた手を離してずるりと前に転ぶ女性、それを見て笑いかけたアプロはふっと鼻息1つ鳴らし、しゃがみ込んで手を差し伸べた。
「パーティだろ? いいよ、君の名前は?」
……その手を掴んだ女性は、慌てながら名乗った。
「わ、私はミスティア、ミスティアです! よ、よろしくお願いしますっ!」
明るく元気な対応に好感を持ったアプロは、ニッコリと笑顔を作ってミスティアに向ける。
「よろしくなミスティア、これから頼りにしてるよ」
これから頼りにしてるよ。
これから頼りにしてるよ。
これからずっと頼ってもいいか。
最終的に全く違う意味での解釈違いをしたミスティアはアプロの一言に心を三度叩かれ、かあーっと顔を赤くした。
「あっ、アフロしゃんって優しいんですね!!」
「アプロな」
「アプロしゃん!!」
「はい」
「たっ、たっ、楽しいパーティになるといいですねっ!」
「そうだな」
照れ隠しするように掴んだ手をぶんぶんと上下に振るミスティア、そんなミスティアを見て『さっそく面白い人材を見つけたなあ』とアプロは思った。
「あ、カードを出してくれミスティア、パーティ登録をしよう」
顔の火照りが止まらないミスティアはぶんぶんと犬が水を払うように頭を振るってはふぇいと返事をする、その感情が『何故か』よくわからなかったアプロは、知らない人と話すのが苦手なんだと認識しただけで留めた。
「パーティカード……えーっと、うーんと……」
アプロが提示を求める『パーティカード』、それは冒険者としてギルドに認められる唯一の方法であり、これを持っていなければ各街にあるギルドから依頼を受けられず、冒険者の偽証詐欺として牢獄に入れられるケースもあるので絶対に無くしてはならない物だったが――。
「まさか、無くしたのか?」
「い、いえそんなっ!」
「無くすと大変だぞ、アレ」
「や……やばいんですかあ?」
「拷問されるかもな」
「ひえええ!!」
それを聞いたミスティアは耳をピンと立て、慌てた顔でゴソゴソと懐を漁り、姿勢を前のめりにするとわざとなのかと疑うほど白いフードをスッポリと頭に被ってしまい、おろおろと視界を探って辺りをウロウロした。
「ふええっ! 見えないですう!」
「ミスティア、右」
「えええ!? あいたーーっ!!」
「そっちは左だ」
アプロは見えないミスティアの為に声をかけたが、力及ばず木に激突してはその場に倒れるミスティア、優しく近寄ったアプロは片手でミスティアのフードを上にどかしてあげると、立ち上がってお礼を言ったミスティアはまた下を向いてウロウロと歩き回る。
「わざとやってんのかなこの子」
「ふえええええええ!」
思わずわざとかと疑ったアプロだったが彼女がアホの子だと思い出すと、今度は身体を押さえ付けてフードをどかしてあげる。
「ありがとうございますアプロしゃん!!」
「いやもうお礼を言わない方が」
「ふええええ!!」
「おー……」
ミスティアが頭を下げてお礼を言うと、再度フードが被り、またアプロがどかす。
「ありがとうござ、ふえええ!?」
「えいっ」
「ありが……ふえええ!!」
「ふんっ」
「あり――」
その様子はまるで餅つきをしているかのようだった。
「ミスティア、俺めっちゃ楽しんでるんだけどいいのかな」
「よくないですよもおおおお!!」
あははとアプロは笑い、2人が何度も繰り返しているうちにミスティアの懐から1枚のカードが落ちると、フードを外してあげたアプロはそれを指で示す。
「いま落ちたやつじゃないか?」
「あ……そうです!!」
「良かったなミスティア」
「えへへ……って子供扱いしないでください!」
「悪い悪い」
よしよしと動物のように愛らしく撫でるアプロの手を払い、ぷくっと頬を膨らませるミスティアにアプロは『小さい頃の妹によく似てるな』と思いながら微笑んだ。
「じゃあ、今のパーティを抜けるか……解散申請っと」
アプロはカードに向かって指を上下スラスラと動かしてしばらく待つと、パーティのリーダーである者から『パーティ、円卓の騎士団を抜けました』という機械のような感情のない声が一度だけ聞こえ――。
ドクンッ、パーティを抜けた途端、体の内から激しく胸をドンッと叩かれるのをアプロは感じた。
「いって……」
「ど、どうしましたアプロさん!?」
少し膝を曲げて座り込むアプロの様子を心配するように見つめるミスティア、痛みはすぐに収まり、不思議な表情でアプロは立ち上がった。
「なんだ……?」
……アプロは気付いていなかった、パーティを抜けて1人になればなるほど、誰にも負けない『最強』の力を得て、大切な何かを『失い』、自分の命すらも危うくなった事に。
アプロは、気付いていなかった。
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