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白き月蝕のヴェンデッタ  作者: 烏月ハネ
抑止力の魔王篇
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Lost of A(li)ce TrueEnd

TrueEnd

エピローグ【Rebirth of A(li)ce / 連理の再誕】



そう叫んで、アリスの手を掴んだ。

その瞬間。


「aaaaAAAAAAAAAAA!!!!」


絶叫が響き渡る。

魂が砕けていくような、悍ましい叫び声に、僕は掴んだ手を離しかけ、しかし、なんとか力を込めて掴み続けた。

その後は一瞬だった。


黒炎が燃え盛り、半ばくず鉄になった鏖魔月蝕石と虚天晶を包み込む。そして、アリスを包む焔が、茨の冠とほつれたマントに変わる。


そのブレた瞳が徐々に正気を取り戻していくと同時、エミリオに対する怒りが、嫌悪が、拒絶が溢れていった。


「お前ぇぇ!裏切るのか!この私を!!もういい!知るか!潰れろ!さっさと消えろ!この役立たずが!」


焔を纏った腕が振るわれ、僕は全身を焦がしながらも、それに耐える。

ここで引いたら、ダメだ。

その一心で、足を前に踏み出す。


「アリス!僕は!君を愛してる!だから……!」


僕の叫びに、アリスの動きが一瞬だけ止まる。

その瞬間、僕は力の限り跳んだ。

伸した手が、アリスにーーーーーーー届いた。


「巫山戯るな!私を邪魔するな!うわぁあ!!」


駄々をこねる子供のように、アリスが喚く。

これも記憶の蓋が開いて、以前の幼い人格と混ざりあったからなのか。

指先が触れて、叫んだ瞬間、アリスの動きが、止まる。



ーーーーーー



私は!

私は誰だ!

私は、私は……!


 貴女はアリス、もう一人のわたし。


焔が艶々と燃え盛る楽園、その真っ只中で、私はわたしと対峙していた。


 お前は、一人目、なのか?消えたんじゃ、なかったのか……?


煌々と燃える炎に照らされたその姿は、私よりもさらに白く、そして痛々しい傷に塗れ、血を流し、けれど微笑んでいる。


 わたしは貴女。わたしの名前は……もう知ってるでしょ?


もう一人のわたしは、いたずらっぽい笑みを見せる。

そして、立ちすくむ私を抱きしめた。


 アリス、貴女はわたしを忘れないで居てくれた。

 だから、わたしはまだこうして存在するの。

 それでね、最期にお礼を言いに来たんだ。聞いてくれる?


私はそれに頷くしかできない。


 わたしは長い間にすり減りすぎたの。

 だから、もう、貴女の一部になるしかない。

 だけど、わたしの気持ちはきっと貴女に託せるよ。

 これまで、たくさんありがとうね。

 わたしの身体を生かしてくれて、精一杯生きてくれて、

 わたしは幸せだったよ。

 だから、ありがとう。


 それとね、アリス。

 わたしは、貴女にも幸せになってほしいんだ。

 それが、わたしの最期のお願い。

 エミリオは優しいよ。

 貴女をずっと大事にしてくれるよ。

 そんな人を、見てない振りしないで、向き合って。

 

そこまで告げたわたしの身体は、もう燃え尽きる寸前だった。



ーーーーーー





“これから先は、貴女の生きる時間だよ”





ーーーーーー



「ーーーーーーーーーー…………………」


全て、全て、思い出した。


無理やりこじ開けられた記憶の蓋。

そこから得た他人の記憶などではなく、自分の体験した思い出として、悲劇として、日常として、家族も、友人も、片思いだった幼馴染も、失ったモノ、ぜんぶ、ぜんぶ。


アイツが持っていた全てを、思いを、最期の願いを、私は、わたしは、受け取った。


ブレていた何かが、一つの線に収束する。


知らず、涙が溢れる。

ひとつの心に結末が訪れ、そして、それが決壊の始まりになった。実感を伴わずに蘇ったデータでさえ心に多大な衝撃を与えたのに、今回はそれ以上だ。

訳もわからず、楽しいことも、悲しいことも、辛いことも同時に押し寄せ、私はただただ無防備なまま、感情に身を任せた。


その最中、抱き寄せられ、しっかりと抱きしめられていたことが、私を私としてつなぎとめた。


どれくらいの時間が経っただろうか。


変わらずにぎゅっと抱きしめた両腕、その背中に静かに手を回す。


「ーー、ーーーーっ、、」


泣きすぎて、声は枯れてしまった。

身中のナノマシンは異能にあてられたのか、今は動かない。


「……大丈夫、僕が側にいるよ」


安心させるように、頭を撫でるその手付きは、甘く痺れる。

心地よく、沈み込むように、ずっと落ちていきそうな感覚。


あぁ。

これはかつて、味わったことのある、温かなーーーー



ーーーーーー



数分か、それとも数十分か。或いは数刻か。

ともかく、辛くも幸せな時間が経った。


アリスは慟哭の後も、その焔を絶やすことなく、しかし、僕の事を焼くことはなかった。


アリスの異能の種は花を咲かせた。


陽炎曰く、それは黒炎を司る焔精霊の一種であるらしく、アリスが変質した存在そのものを表す異能であるという。

曰く、其は陰の気の精霊、現実と虚構を行き来し、その焔は死してなお彷徨う霊を焼き、死すべき定めの生者を焼く死神。


「汝らは変質した。その身体は人のままでありながら、その魂は既に人ではない。いずれ、魂に引き寄せられて、身体も変化していくじゃろう」


満足げに僕らをみやり、それから損壊していた陰陽の魔神に手をかざす。途端、2機の魔神が燃え上がり、損壊部分が焔に癒やされていく。


「陰陽心火も汝らに合わせて書き換えておいた。さぁ、その力、地表にて存分に振るうがよいぞ」


その言葉に、僕とアリスは互いの目を見て、立ち上がる。


「魔王レギオン……私の考えていた必要悪には成りえねぇ。今なら解る、あれは怨霊だ。あれに任せちゃ、すぐに破綻する」


「彼らを利用しただけになる形で心苦しいけれど、アリスがそう望むなら、僕はそれを助けるよ。一緒に行こう」


その返事を聞くが早いか、アリスは一足飛びに鏖魔月蝕石に飛び込み、溶け込んだ。


その身体は最早人のものではない。機体外装をすり抜けたあとには焦げた衣服が燃えかすのようにこびりついていた。それも黒炎を纏う鏖魔月蝕石の立ち上がる動きに散っていく。

鏖魔月蝕石は地表に向けて飛び出し、僕も燃え盛る虚天晶へと乗り込んで追いかける。



ーーーーーー



速い。とてつもなく速い。

追いつくなど到底できやしない。

これが、僕とアリスの差だ。

圧倒的な強さとその実行力。

しかし、心はそうではない。

そんな事を考えている間もなく、アリスは地表へ、そして、同じく巨大な異能である魔王レギオンへと、その力を向ける。


機体に、そして僕ら自身に刻まれた陰陽心火の刻印は脈動を止めていない。真に繋がった感覚は、今までよりずっと強い。


僕の動きが、自然と鏖魔月蝕石の欠けた挙動を埋める。

アリスの心が、伝わる。

魔王レギオンでは、真の必要悪には足りない。だから、組み上げたプログラムである必要悪の裁定者AI“パンドラ”に、魔王軍の指揮を戻さなければならない。

アリスの平和への願いは、潰えていない。僕らは共鳴する。


レギオンも、それを感じ取ったのだろうか。

その勢いは徐々に衰えていき、最期には鏖魔月蝕石の魔剣を受けて、静かにその意志の灯りを消した。その最中、レギオン自ら光里さんの介入を力ずくで抑えていたのは、本当に驚いた。


アリスは魔王をハッキングし、プログラムを書き換えていく。


魔王レギオンだった巨体、そして鏖魔月蝕石。

二体の悪は物言わぬ巨像とかしていたが、それも数分。

プログラムを書き換え終えたアリスが離脱すると、レギオンの躯体だったEXMが瓦解し、魔王軍共々散り散りになっていく。


我に返って個々の機体に成り下がった軍勢に追撃を仕掛ける三軍共同戦線を傍目に、僕がアリスに目を向けたその時だった。


「ーーーーーーっ!」


鏖魔月蝕石にむけて、刃を突き立てる存在がいた。

ランティス・ヘルダーラント。

その凶刃が、鏖魔月蝕石に沈んでいたのだ。


……なにかスサノオも動いていた気がしたが、うん、多分気のせいだと思いたい。多分、そうだよね、そう思うことにしよう。



ーーーーーー



何故?

その疑問が浮かんだ瞬間、機体を異能の焔が包み込む。

陽炎さん?!

そして同時にコンソールに文字が浮かぶ。


『大丈夫。僕らに任せたまえ、エミリオ君』


そのまま焔が燃え盛り、僕らは消失した。

……NUMBERSベース、イマジナリ・ロストへと。


コンソールには、陽炎さんからのメッセージも飛んできていた。


人を使うなら最後まで頼るがよい、この戯け。

この計らいは、あの娘の異能開花の祝いじゃ。

ランティス殿と相談の上、お主らの立場を尊重した謀をした。

どうせお主、また強引な手段しか用意しとらんかったんじゃろ?妾は全てお見通しじゃ、馬鹿者。


最後に、よくぞ乗り越えたな。


また気軽に話しかけてこい。

よいな。


怒りつつもニヤッと笑う陽炎さんを幻視して思わず僕も笑う。


ランティスさんからもメッセージが届いていた。

どうやら、僕の用意した偽装データを元にした偽情報がばらまかれ、魔王グリムも魔王レギオンも消失し、僕らは監禁されていたことになるらしい。


これで、NUMBERSであるアリスも僕も、多少の責任を取らざるを得ないとしても、元の居場所を失わずにすむ。

世界から追われることも覚悟していたけれど、ランティスさんに助けられたみたいだ。



ーーーーーー



そして、魔王軍だったものは、アリスによって最後のピースをはめられ、必要悪として完成した。

今回の一件で最大の頭を消失したため、しばらくはハイブは眠り続け、戦場漁りとして行動することにはなるだろう。

表向きは魔王軍は消滅したことになる。

……ただ、いつの日か、レギオンが必要悪の魔王として立ち上がる時は、きっと来るだろう。


願わくば、その時には人が自身の悪性を克服出来ている事を。


そうすれば、彼らは戦わずにすむから。

そうすれば、必要悪への生贄も要らないから。

そのためには、僕はアリスと走り続けなければならない。


アリスとは、これからじっくりと向き合う必要があるだろう。

けれど、今も繋がる感覚は強いままだ

僕の想いは通じた。アリスの願いも、いずれ叶えてみせる。


「おかえり、僕の愛しい人」



TrueEnd



エピローグ【Rebirth of A(li)ce / 連理の再誕】



アリスは名前を変えて帰ってきた。その隣にはエミリオの姿があり、それまで抱えてきた焦燥も死人である自認も薄れていた。

よく言えば丸くなり、悪く言えば劣化。

これから、今までの事の責任は取っていくのだろう。

しかし、そのつがいは幸せそうに見えた。




30MMLoA

Lost of A(li)ce Fin.



ーーーーーー



後日談【アリス・エリシャ・フローレス】



アリスとエミリオの物語、そのおしまい。

その決定的な分岐点は、魔王レギオンとの決別と、その後にあった二人の会話になるだろう。


それは、アリスが過去と現在を撚り合わせ、未来を見始めた点でもあり、長く長く続く旅路の始まりでもある。

その会話は、こんな一言から始まった。


「エミリオ。私は何者だと思う?」


それは戦後処理に追われるとある日のイマジナリ・ロストにて、アリスから僕に投げかけられた言葉だった。


『ハハ……また死に損なっちまったぜ。

ホントはここに戻る予定じゃなかったんだが、な。』


NUMBERSのメンバーに向けてこぼした、言い訳のような、泣き言のようなそんな言葉に、一同から叱責されつつも、概ね肯定的に帰還を歓迎してから、アリスはどことなく居心地が悪そうだった。だから、二人きりになった時、何か言われるんじゃないかと漠然と思っていた。そして、この質問だ。


「僕にとって君は君だよ、アリス。でも、そんな答えが聞きたい訳じゃないんでしょ?」


アリスはジト目で睨むが、それも迫力に欠ける。


「私は、最大の企みに失敗した。不完全な必要悪を世界に解き放ち、いたずらに被害を増やし続ける。なぁ、私は悪か?」


「罰が欲しいのなら、世界に向けて叫んでみる?……まぁ、僕もNUMBERSもそんなことを許しはしないけど」

「……そうだろうな。だから、そうはしないさ。ただ、自分の起こした事には、やっぱ責任を取らなきゃならん、と考えてる」

アリスは小さくため息をつく。前までは考えられない光景だ。


「難しいね。それこそ旧魔王軍を狩り続けるしかないんじゃないかな?ついでに他の悪性を刈り取れば、なお良いと思うよ」



ーーーーーー



「……なぁ、なんで私なんだ?」


アリスは改まって問いかける。

「君が戦場で僕を助けてから、僕はその恩を返すために生きてきた。そうするうち、その中にあった好きの気持ちが、欠けた僕を埋めたんだ」

「……それ、例えば戦場でお前を助けたのがクラリスだったら、こうはなってなくね?」

アリスは呆れた顔をした。

「まぁ、そうかもね。でも、現実は現実でしょ?」

そして僕の答えに再び真剣な顔になり、おずおずと口を開く。


「……信じても、いいんだよな?」


当然、答えは決まっている。

「僕の魂を賭けるよ」

「私が死ぬまで、隣にいるよな?」

「その時は僕も一緒だよ」

心は、決まった。覚悟はできた。なら、あとは進むだけだよ。


「ーーーーーー私の中の一人目な、エリシャ・フローレスって名前だったんだ。エリシャは……普通の女の子だった」


アリスは儚げな視線を、虚空に向けた。


「我が事ながら、普通の女の子だったよ。平凡だった。かわいいものが好きで、幼馴染のことを意識していて、両親に可愛がられてた、どこにでもいるような女の子だ」


「それが、ある日突然、テロに巻き込まれて、奈落の底に転がり落ちていった。その後はもうボロボロさ。それこそ、私が生まれちまうほどに追い詰められ、わたしは殆ど消えた」


「私は、そんな悲劇を無くしたい。それが身に余る望みだって解ってる。今回の一件で、やっぱり独りじゃ足んねぇって実感した。でも、お前とならーーー」


アリスは、視線をまっすぐに僕に向けた。



ーーーーーー



「一緒に世界を変えていこう。少しでも、出来ることを、手の届く範囲でも、偽善でも、私はお前となら何処までも行ける」


あぁ、そんな瞳で、言葉で、心で伝えられたら。


「僕も、一緒に歩むよ」


誓いはここに。結んだら、最期まで解かない。


「………………よろしく、頼むぜ、私の片翼さん」


「僕の方こそ、改めてよろしく、アリス」


「ピルグリムもヴェンデッタももうやめだ。私はアリス・エリシャ・フローレス。本当の名前を取り戻したんなら、ちゃんとそれを道標にしねぇとな」


その笑顔を、僕は生涯忘れることはない。



後日談【アリス・エリシャ・フローレス】終



ーーーーーー




月蝕焔魔(ルクス・ホロワ)

アリスが異能によって変質した虚黒炎の精霊の名称。

死神であり、位相変遷と蝕の黒炎を司る。


瑞星天魔(ネガ・クロワ)

エミリオがアリスの異能に追随して変質した星の精霊の名称。

守護天使に類するモノだが、陰の気によって負の神格に変質している。



ーーーーーー



【無垢なる悪性(デザインドアリス)

アリスの体細胞と幻獣計画の研究成果とナノマシン、月蝕石AIである“セレネ”のコピーデータ。そこに多分な悪意と僅かな平和への願いを込めて作られたクローン強化人間群。



ーーーーーー



【欠落せし魂の軍勢(レギオン)

とある幻獣計画の被検体から産まれたがん細胞の如き存在。異能を求め、渇望し、欠けた自己を補完するために奔走したが、最期には潰えた。

その瞳には、最期に何が映っていたのだろうか。




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