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白き月蝕のヴェンデッタ  作者: 烏月ハネ
イマジナリ・ロスト
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イマジナリ・ロスト4

時間は少し遡る。

荒野を走るアイゼンペッカー、それに並走するスノウブライド。

アイゼンペッカーは平らな荒野を走るため、今はバイク型に変形し、コンテナをマウントしている。

そのため、スノウブライドがその護衛として周囲を警戒するという配置だ。

「ミカ、商業都市ヘイロンはどんなところなんだ?」

改めて、レンはミカに問いかける。

レンはまだ行ったことがないが、ミカは今まで何回もヘイロンに行っているらしく、レンにもわかりやすい答えが返ってきた。

「そうッスねぇ……すごく簡単に言えば、連合軍とスラムの街って感じッスね」

要約してその2つが残るなら、貧困層が厚く、戦火に疲弊した都市というイメージか。連合軍という言葉に棘を感じると言うことは、殊更にそれが状況を加速させたのかもしれない。

「出発前に言っていた連合の締付けが原因か?」

砂煙を巻き上げながら進む遥か向こう。

話題の都市が薄ぼんやりと小さく佇む。

その姿が、急に煤けたものに見えた気がした。

「それも原因の一つではある、が正しいッス」

ミカはトーンをひとつ落とした。

「連合軍が来る前から、ヘイロンは斜陽産業抱えてて、傾きつつあったんスよ」

ミカが言うには、ヘイロンは元々観光地だったが、目玉の文化遺産は侵略によって破壊され、都市の勢いは失われて久しいらしい。

そして、そこにテロリストと連合軍が転がり込んできたという流れだ。

「連合軍とテロリストが最後のひと押しをしたのか」

疲弊した都市を破壊したのは戦火だった。

元々侵略してきたバイロンは戦略的価値を見いださずに他の地方へ展開、さらにそれを蹂躙したテロリストと連合。

「戦争だから仕方ないって割り切るには、そこに生活する人を知りすぎちゃってるッスね」

運び屋として出入りするミカは、儚げにつぶやいた。

「……ヘイロンには思い入れがあるのか?」

思わず口をついた言葉は、思いの外ミカの内心に踏み込んだように感じた。しかし、一度飛び出た言葉は取り戻せない。

しばしの沈黙を経て、ミカは力なく笑った。

「………………珍しく質問ばかりっスね、レン」

少なくとも拒絶はされていないらしい。

「……ミカが気にしているようだったからな」

気遣ったのだと後付のように言葉を足す。


「ーーーー私情は聞かない聞かせないが主義なんスけど、レンには何か話しても良い気がしてきた」


そんなレンの言葉に、ミカは覚悟を決めたような言葉をこぼした。

そして、深呼吸を数回。それから声のトーンをいつものものに戻す。

「私が運び屋をしてる理由は、自由を求めてるからなんスよ」

主義を捨てて、ミカは己の事を話し出す。

「私、バイロン人と地球人のハーフなんです」

レンが口を挟もうと挟むまいと、きっと変わらないであろう勢いで、しかしはっきりと語る。

「母がバイロンの将校、父は地球人の整備士。二人とももう居ません。今はなし崩しでバイロン籍ですけど、私は正式な軍属じゃなく、機体を借りてる状態で、自由になるためにこの仕事をしてる」

レンは、その言葉を聞き逃さないように、耳を傾ける。

「私の目的は、借金を返し終えること、それから両親ができなかった自由を謳歌すること」

ここまで張り詰めた糸のように。

己の全てであるというように、ミカは語った。

事実、それは戦争によって生まれた混血児で、侵略の板挟みを知る者として育ったミカの要素を込めた言葉だ。

不条理を跳ね返した先の自由。

それが、ミカ・フリューゲルの目指すモノ。

「お世話になったヘイロンの人たちは捨て置けない。それを捨てて手に入れる自由は本当の自由じゃない気がするんスよ」

ミカはようやく元通りに笑った。

「さて、私がここまで話したからには、レンの事情も聞かせてもらうッスよ!」

その言葉に、レンが答えようとしたその時だった。


「待てやコラアァァァ!」


1機の真っ赤な機体が、砂埃を巻き上げながら突っ込んでくる。

既にその手にはエネルギーブレードが握られ、こちらの制止を聞きそうにない。

「ーーー仕方ない、やるぞ」

「おうさ!支援は任せるッス!」

荷物を守るため、必然的にスノウを前へ。

レンは腰のブレードを抜き放ち、正眼に構えた。

この時点で敵は目前。

速い……!


「その荷物、置いていけや!」


飛びかかる赤。

急速に迫るエネルギーブレードの刃。

速すぎてミカの支援砲撃が間に合わず、サイドステップでぎりぎり避ける。

「その筋合いは……ない!」

そのままスライドするように大きく踏み込んだ横薙ぎは、辛くもクロークを切り裂くだけに留まった。

「当たるかよっ!」

そう言って反撃に転じようとする強襲者に、ミカの放った大口径が噛み付く。

ガッガッ!

鋼を打ち据える鈍い音がするも、損傷は軽微。

あのクロークは耐物理仕様のようだ。

「ぜってー取り返してやんぜ……!」

取り返すも何も、端から依頼の品しか運んでいない。

しかし、赤い機体の主は、どうにも聞く耳がなさそうだ。

レンは仕方なく、再びブレードを正眼に構え直す。

「どうやら大人しくする気はないようだな……」

問答は無用、言い聞かせるにしても、一度制圧してからのようだ。

ここから、スノウブライドと久遠九式の斬り合いが始まる。

ブースターを瞬間的にふかして突撃をかけるスノウ。

最短距離で振るわれた袈裟斬りを、久遠九式がハウブレードで受ける。

金属が灼ける匂いが辺りに立ち込める。

バチバチと舞い踊る火花に溶接煙。

軽量級に見えてその実かなりの重さを伴うスノウの斬撃は、久遠のハウブレードを容易く弾くが、久遠九式はそれをなんとかいなして難を逃れた。

お返しとばかりに振り返って放つはボルトロア。

腰にマウントしていた射撃武器を早打ちしてみせる。

ヒュン!と風を掻き切る光弾。

エネルギー系のキャノンは一見無防備なスノウの背中に迫るが、スノウは振り返りざまにシールドをかざして受ける。

水が瞬時に蒸発するような反射音を轟かせ、弾かれたエネルギーが霧散、受けた衝撃に機体が後退するのを見越したブーストは、被弾の衝撃と相まって激しくコックピットを揺らすが、レンには関係ない。

返す刀で逆袈裟に切っ先を跳ね上げる。

天を突くかのような流麗な弧の一閃。

しかし、やや距離が足らない。

火花が散って、スウェーバックした久遠の胸部装甲に裂傷が刻まれるものの、久遠は止まらない。

下がりながらボルトロアを細かく連射、胴のあいたスノウを牽制しつつ、脚をふんばり斬りかかる。

気付いたスノウも振り上げたブレードを打ち下ろし、ハウブレードと鍔迫り合いとなる。

だが、それも長くは続かない。

一瞬の硬直を見逃さないミカの炸裂弾が、的確に久遠の脚を狙い撃ったからだ。

「ーーーー!!」

ソウジは死線をくぐってきたジャンク屋である。

従って、その炸裂弾を受けるのを良しとしなかった。

だが、鍔迫り合いで圧がかかった状態でできるのは、スノウを受け流して脚をどけることくらいだった。

結果、何が起きたか。


カッ!ドォーン!


炸裂弾が地面を抉る。

それを起点として、地面が割れた(・・・・・・)

文字通り、足場として立っていた地表面が崩れ去り、足元に大穴がぽっかりと口を開ける。

受け流されて体勢を崩したスノウ、その上にのしかかるように久遠、不意をつかれて硬直していたアイゼン。

3機は突然の事態に対応することもままならず、奈落の底に落ちていく。

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